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師匠は自称一般市民  作者: 猫宮蒼
三 大体師匠の章

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一時の避難とちょっとした修行



 悲鳴が遠くで聞こえたような気がする。

 そう思ったものの、まぁそう大した出来事じゃないだろうと思い放置したのがほんの数秒前。

 悲鳴と言うか単なる叫びが尾を引くようにしながらも、こちらに近付いてきたのを感じて。

 溜息を一つこぼし、それから今更唱えるまでもない詠唱を開始した。



「ちょ、師匠ぉぉぉぉぉおおおお!!」

 バターンとドアを全力で開け放ち、情けない声を上げる馬鹿弟子に俺がした事といえば当然のように先程まで唱えていた術を発動させるという事だった。初級とはいえ、そこそこ重い一撃を喰らい背後の壁に吹っ飛ぶ。

「いきなり何するんですか師匠!?」

 しかし相手も慣れたもの。ほとんど間を置かず立ち上がって抗議の声をあげる。

「やかましいぞこの馬鹿」

「うっわ、とうとう弟子って単語さえ切り捨てましたね!? っていうか、誰のせいですか誰の!!」

「何があったか知らんが、何で既に俺が元凶みたいな扱いになってんだ?」

「実際師匠のせいでしょうがぁぁあああ!!」

 ぜぇぜぇと肩で息をしているのは、ここまで全力疾走してきたからなのか、それとも――いや、何も言うまい。


「大体、掃除しろって所まではいいですよもう。慣れましたから。けどですね、ガーゴイルがいるなんて一言も聞いてませんよ!? 危うく死ぬかと思ったじゃないですか!!」

「あれ? 言わなかったか?」

「聞いてません」

「や、言ったはずだぞ? 気を付けろよって」

「そんだけでガーゴイルがいるとかわかるわけないでしょう!!」


 だんだんと床を踏み鳴らさんばかりの勢いで叫ぶ弟子に、思わず生温い眼差しを向ける。

 さぁ何か弁明するならしてみろと言わんばかりに睨み上げてくる弟子に、俺は盛大な溜息をこぼしてみせた。


「あのなぁ、ここどこだと思ってんだ? 魔王城なんだからガーゴイルの一つや百いたって不思議じゃないだろう」



 ――次の住居を見つけるまで、という条件で一時的にウィンディの元に身を寄せていたのが少し前の話。しかし魔女ヴァレリアが討伐されたというニュースのせいか、人の立ち寄らないような場所は一度徹底的に洗い調べるべきだとかでそこかしこに探索隊が派遣された事もあり、適度に人里から離れた静かな場所、というのが見つからず。

 やむなく魔王城に転がり込んだのが、数日前。


 いくら結界を張って他者の侵入を防いでいたとはいえ、数十年どころか百年以上放置していた建物の埃まみれっぷりは、凄まじいものだった。

 まぁ、馬鹿弟子の基礎体力の向上を願って、城全体を掃除せよという指令を出したわけなのだが。

 こいつは何かあると度々悲鳴を上げては逃げ込んでくる。今のようにやれガーゴイルが出ただの、壁からゴーストがすり抜けてきただの。魔王城なんだからその程度で驚くような事ではないだろうとその都度言っているような気がする。

 つうか、だ。ゴーストにしろガーゴイルにしろ、別に襲い掛かってきたわけでもないんだから放置しとけばいいじゃねぇか。


「大丈夫ですよ王子。先程のガーゴイルは私がきっちり黙らせておきましたから」


 右の拳を左の掌に押し付けて、いい笑顔で告げるカノンに無言で親指を立てるメトセラ。

 何だ、お前らあれか。倒したのか。結構いたような気がするガーゴイル全部。


 そうそう、何でカノンがここにいるかってのは、単純にウィンディの隠れ家も危険かもしれないっつーわけでウィンディ共々しばらくここに身を隠すって事になったからに他ならないのだが。

 あぁ、あとレオンも。レオンはまぁ仕方ないと思うんだがな?

 実際以前の棲家は俺が壊したようなもんだし。遺跡も壊したし。


 ついでと言わんばかりに便乗してきたカインとクライヴは謎だが。

 今の所我々にとって一番安全なのは人が踏み入る事のないここだと思うよ? とそれはそれは清々しい笑顔でもってクライヴが言ってのけてたしな。建物自体は無駄に広いから、大所帯になろうと問題はないからいいんだが。どうせ面倒見るの俺じゃないし。


「泣き言はもう終わりか? だったらとっとと掃除に戻れ馬鹿弟子」

 一通り文句を言ってスッキリしたのだろう頃合いを見計らって、告げる。

 まだ何やら言い足りない様子ではあったが、これ以上ここで粘っても無駄だと悟ったのだろう。あんまり粘ってもまた魔術喰らうだけだしな。

 くるりと踵を返す馬鹿弟子の後をついていくカノンに対して「あまり甘やかすなよ」とだけ言って。


「あぁ、メトセラ。お前は少しここに残れ」


 同じく馬鹿弟子の後をついて行こうとするもう一人の弟子を呼び止めた。



 そういやいつだったか。結構前に不思議に思って聞いた事がある。

 お前何であいつに懐いてんだ? と――


 メトセラが弟子にしてほしいと言って転がり込んできた時。

 正直パッと見た段階で魔力なんぞこれっぽっちも持ってないみたいだし、多分、じゃなくて確実に一生かかっても初歩中の初歩ともいえる魔術だって習得できそうもないから断ろうと思ったんだが。

 何か事情があるみたいだったし、まぁこいつの気の済むまでは付き合ってやろうかと、本当にちょっとした気まぐれで弟子入りを許可した。時間だけなら無駄に余ってたしな。使える下僕が一人増えたくらいの認識で。


 弟子入りして半年経ってからだっただろうか。

 常に何かを警戒しているようなメトセラだったが、馬鹿弟子に対してはそういった気配もなく。

 小娘に付き纏われても嬉しくも何ともないが、師匠と兄弟子に対する扱いの違いにふと気になってその疑問を口にした。馬鹿弟子が買い物に行っている時に。


 詳しい事情は言えないが、とある魔女から逃げてきた。というような話をちょっとだけ聞いたような気がする。まぁ今思えばそれがヴァレリアだったわけだが。

 それから、詳しい事情もいわずに弟子にしてほしいと転がり込んできた、明らかに怪しい自分を受け入れてくれた事に対する感謝の言葉。怪しいと思っていたのは事実だから否定はしなかった。向こうもそれを薄々察していたのだろう。だからこそ、お互い微妙に警戒しあっていたと言える。

 しかし馬鹿弟子はそんな事など気付いてさえいなかったのだろう。鈍いというか何というか……

 馬鹿弟子に懐いた原因を聞いた時は、思わず鼻で笑うところだった。


 転がり込んで間もなくの頃。

 未だ警戒していた時に、何でもあの馬鹿弟子がホットミルクを淹れてくれたそうだ。蜂蜜入りで。



 それが原因とはいえ、アイオンと対峙した時のセリフはどうかと思ったがな。お前はたかが甘ったるいミルク如きでそこまでの覚悟ができたのかと。

 まぁ、あの馬鹿にはそれくらいの阿保が似合いだとは思ったがな。



「――で、師匠。今度は一体何ですか? 正直まだ掃除終わってないんですけど」

 ある意味俺の気まぐれで唐突に呼び出された馬鹿弟子は、ハタキ片手にげんなりとした表情を浮かべる。

 既に掃除の終了して埃っぽくもない部屋、というのはまだ数える程度しかない。

 だからこそ、人が集まる場所も限られてくる。呼んでもいないのにレオンやらウィンディやらカインやらクライヴがいるのは、今更だと言える。


「あぁ、これは割と重要かもしれない話なんだが」

 そう前置いて先を続ける。

「今後のお前の修行方針について今のうちに話しておこうかと思ってな」


「――修行、ですか……?」

 まるっきり予想外の言葉だったのだろう。

「あぁ、また何かの拍子でアイオンが出てくる可能性がないわけでもないからな。今のうちに対策を練っておくくらいはするだろ」

「……えぇと、言ってる意味はわからないでもないんですけど。それで修行、ですか?」

「まぁお前が馬鹿みたいに高位魔術をポンポン喰らって魔力吸収しなけりゃそれに越した事はないんだけどな?」


 とりあえずヴァレリアのようにしつこく襲撃を仕掛けてくる相手がいる、という心当たりはないがどこで何が起こるかわからない。備えは必要だろう。毎度アイオンが出てきた時に俺がどうにかできる保証もないし。


「修行ったってな……具体的にどうするつもりなんだ?」

 眉間のあたりに皺を寄せて、カインが何とも怪訝なものを見るような目を向ける。

 魔王の事も宝珠の事も馬鹿弟子の出自の事も、既に知られた事だ。隠された事実を隠したままで説明する必要もないため、言葉を選ぶ必要もない。


「大した事じゃない。元々馬鹿弟子は神聖国家の王族だ。本来使えるはずの魔力を引き出しかつ自力で扱えるようになれば、わざわざ相手の魔術吸収なんぞしなくとも自力で相殺できる。となると、吸収した魔力が宝珠に蓄えられる事もなくアイオンの出てくる幕はない。だろ?」


「あの、でも僕初級魔術さえ使えないくらいに魔力低いんですけど」

「いや、っていうか、お前の魔力は現在宝珠が暴走しないように制御する方に自動的にまわってて、魔術に使う余裕がないってだけなんだが」


 その言葉に、馬鹿弟子はぽかんと口を開けてこちらを見る。ははは、何と言う間抜け面。


「ま、安心しろ。いざとなった時のサポート役としてメトセラとも話をつけてある。最終的な目標は魔王を片手で捻る事ができる程度の実力だ」

「いやそれ流石に無理」

 即答で否定が入ったが、あえて無視。

「そういうわけだから、暇人共も手伝えよ。どうせヒマだろ?」

「ちょ、師匠、聞いてますか!? 最終的って、最初はどこら辺から始めるつもりなんですか?」

「ま、死なない程度に頑張れ。シオン」


 名を呼ぶと、余計に間抜けなツラになる。まぁ、普段あんまり呼ばれ慣れてないからな。俺のせいだが。


 これ以上馬鹿弟子が何かを騒ぎ出す前に、早々に準備に取り掛かる。



 ――かくして、俺達の馬鹿弟子強化計画は実行されたのである……!

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