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師匠は自称一般市民  作者: 猫宮蒼
二 続・弟子の章

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運任せの作戦と、ちょっとした祈り



 乱雑に積み上げられた大小さまざまな箱。それらは紙製であったり木製であったり、はたまた材質が不明な代物であったり……中身が激しく気になるところだが、今はそんな事をしている場合ではない。

 箱以外にも何やら得体のしれない物がそこかしこに転がっている。

 時間に余裕があったなら、色々と見てみる分にはもしかしたら楽しいのかもしれない。楽しいかどうかはさておき暇は潰れただろう。


 しかし完全に追い詰められたも同然な僕たちにとってそれらは、ただひたすらに邪魔なだけだった……



「お遊びはそろそろ御終いにしましょうか」

 部屋に足を踏み入れるなりヴァレリアはそう言い放つ。薄暗い室内とはいえ、この部屋の先に繋がる場所が無い事を瞬時に悟ったのだろう。足下に転がっていた棒状の何かを拾い上げると、彼女は更に近くに置かれていた大きな箱を手にした棒で払うようにして――ドアの正面へと移動させた。


 この部屋に入って早々にその箱にぶつかったからこそわかるが、あの箱結構重量あったと思うんだけど……魔女が極端に怪力なのか、それともあれも何かの魔術の応用とかで移動させたのか……

 どちらにしろ、自分一人だけで動かせるようなものではない。この部屋から出るには、まずあの箱をどかさないといけないわけか……それはつまり、ヴァレリアの攻撃を掻い潜って、二人であの箱を動かすか、もしくはヴァレリアをどうにかしてから動かすか……どちらにしろ無理がある。



「……メトセラ、ちょっといいかな?」

 ヴァレリアに聞こえないような小声で呼びかける。目の前には、魔女。彼女の聴力がいかほどなのか……それはわからないが、こちらに打てる手を全て読まれてしまっては意味がない。

 メトセラはちらりと僕を一瞥すると、こくりと小さく頷いた。そして僕たちのすぐ近くにあった積み上げられた箱を、鎌で横薙ぎにする。重さも無視して積み上げたであろうそれは、あっさりと崩れ落ち騒音を立てた。

 ろくに掃除もされていない室内に、埃が舞う。


「くっ……けほっ!?」

 箱が落ちるまではともかく、まさかここまで大量の埃が舞うなんて事は予想できなかったのだろう。咳込む音が耳に届いた。その隙に僕たちはとにかく距離を取り、魔女の目の前から姿を消した。追い詰められて逃げ場を失ったという点を除けば、ここは身を隠すにはうってつけだ。


 箱の中に何が入っていたのかまでは確認できなかったが、何かがゴロゴロと転がる音、がしゃんぱりんと何かが割れる音など、中々に騒々しい。今なら魔女に僕たちの会話を全て聞き取られるという事もないだろう。作戦と呼べるものでもないそれを、僕はメトセラに耳打ちする。



「…不確定要素に頼りすぎではありませんか……?」

「運を味方にでもつけないと僕たちだけじゃどうにもできないだろ?」

「……確かに……わかりました。兄弟子殿がそう仰るならば、試してみる価値はあるかもしれませんね。やりましょう」

「……これはあくまで大体の流れであって、必ずそうしなきゃいけないって程のものでもないから、無理とか無茶はしないでね」

「大丈夫です。兄弟子殿こそ、その言葉そのままお返ししますよ」


 諦めた、というよりはお互い覚悟を決めての笑みを浮かべる。それからお互いに拳を軽くぶつけ――メトセラは僕に、僕はメトセラに背を向けて駆け出した。



「二手に分かれたからどうだというの?」


 埃が舞い上がる中、薄暗い室内だというのにそれでも僕たちの影を視界に捉えたのだろう。その程度の的ならば問題ないとでも言うように、魔女が氷の礫を出現させる。当たれば痛いで済むかもしれないが、万一刺さればかなり痛そうな代物だ。


 全ての術が効かない、というのであれば僕も無条件に突っ込んでいけるんだけど……流石に万が一の事を考えると無鉄砲に突撃、なんて真似はできない。そこらに転がっていたよくわからない道具を適当に拾い集め、とりあえずそれらを氷の礫目掛けて投げつける。いくつかは命中し、そのまま氷漬けになるとごとりと音をたてて床へと落下した。


 ……さて。メトセラは確実に上手くやってくれるだろうから、問題は僕、か……


 野盗盗賊を目の前にして師匠に置いてけぼり喰らった方が遥かに楽な状況だなぁ、とか考えるあたり、僕も大概毒されてきたような気がする。

 正直ギャンブルはあまり得意じゃない。大抵相手が僕とは比べ物にならない性質の悪い連中ばっかりだからだとも言えるが、それでも苦手なものは苦手だ。

 ……まぁ、師匠相手にやったポーカーとか、カイン相手にやったコイントスとかそういうのと比べるなよと突っ込まれるかもしれないが、苦手ったら苦手だ。


 正直メトセラに言ってみた作戦とも呼べない作戦だって、「上手く行けばいいな♪」くらいの代物で。これが失敗したら、まず間違いなく僕たちはここで終了する。何って人生が。


 ポチと魔女を引き離せとか、時間稼げとか言うだけ言って師匠は一体どこで何してるんだろうなぁ……



 ぶっちゃけると僕の役目は囮だった。

 そりゃそうだ。そもそも僕に攻撃手段なんてものはない。そこらに落ちてる得体の知れない道具の中にもしかしたらそれなりに使える物があるかもしれないが、いくら目が慣れてきたとはいえ、室内が暗い事に変わりはない。そこで直接武器にできそうな物が発見できるならまだしも、謎の薬品とかそんなもの見つけたとして、まずラベルに書かれた文字までは読む事ができないだろう。


 ……暗さと、そして恐らくここがレオンの研究所区画であるという事を考えれば、もしかしたら発見した道具に記されている文字が古代文字である可能性もあるからだ。

 運がいいと言えるのかは謎だが、先程割れたであろう何かに毒性のある液体とかが入ってなかった事には素直に感謝するべきだろう。


 とにかく僕はあえて魔女の視界の隅に入るようにして、魔術の狙いをこちらに定めるように……いや、魔術じゃなくてもとにかくこちらに注意を引き付けなければいけない。

 メトセラが今どこにいるのか……少なくとも僕が見渡した限りではわからないので、上手い具合にひっそりと隠れて、攻撃の機会を窺っているのだろう。


 囮、とはいえ魔女もそう簡単に僕に向けて魔術を放つような真似はしてこないようだった。

 ……そりゃそうか。無効化だけならまだしも、さっきは一度、そっくりそのまま反射までしてきたのだから。

 下手に大きな威力の術を放って、それがそっくりそのまま返ってきたらと思えば、そう簡単に魔術を発動させる事もできなくなるか。


 ヴァレリアも僕が囮である事は薄々どころかしっかり勘付いているのだろう。油断なく、視線を周囲へと向けている。

 ……あぁ、うん。ここから僕が突撃するとか微塵も思ってなさそうだなぁ。仮に僕が正面から突っ込んでいっても、あっさりと返り討ちにあう光景が簡単に想像できるのが悲しい。

 けれど、だからといってこのままここで突っ立っているわけにもいかない。足下に転がっていた片手に収まるような小さな箱を軽く蹴飛ばして、僕はヴァレリアの方へ駆けだした。

 跳ね上がるようにして飛んだ小箱を、魔女に気付かれないよう上手い具合にキャッチする。


「見くびられたものね……貴方程度、魔術などなくたって敵じゃなくてよ」

 手にしていた棒――これはある程度近付いてわかったが、杖だった。魔術を使うための媒介ではなく、ごく普通のお年寄りが使うような杖。

 しかし使う相手によっては充分な凶器になり得るそれを、真正面から喰らうつもりはない。だって痛いのイヤだし。


 肩、というより胸に向けて繰り出された突き。乱雑な室内で足下に不安はあったが、無理矢理重心を横にずらし、それを躱す。倒れそうになりながら、手にしていた小箱を魔女目掛けて投げつけた。杖で咄嗟に撃ち落とそうとしたが、一瞬早く箱が魔女の顔面に命中した。

 当たったとはいえ、大きさと重さからマトモなダメージになどなってはいないだろう。


 けれど、それでも。


 ふわり、と風が舞う。ヴァレリアを中心として、多量の魔力が放出されたためだ。


 雑魚としてしか見ていなかった僕ごときに、顔を傷つけられた、というのはさぞプライドを傷つけられた事だろう。その結果として、あっさりと逆上したヴァレリアは僕めがけて術を放った。


 一発二発なら、どうにか躱す事もできただろう。けれど怒り任せに術を唱えては即ぶっ放すという状況では、流石に避けようもない。距離も近いし。

 願わくば、これらが全部僕にとって無効化できる代物だといいなぁ……と何に対してかわからない願いをかける。



 ――願いが叶ったかと問われれば、まぁ大体叶ったのだろう。

 結果として数発、僕にしっかり命中してそれなりに痛い目をみたが、五体満足で生きている。大半は無効化。三発程反射、その他効果有りとなったが、まぁ大体法則がわかったような気がする。魔女も僕にある程度通用する術がある、という事に気付いたのだろう。ただ、どの術が効果があったのかまでは怒りに任せすぎたせいでわかっていないようだったが。

 反射した術を相殺しようとして、一つだけし損ねた自らの術を喰らい、彼女自身も傷を負ったためだろう。手にしていた杖が、からんと乾いた音を立てて落ちる。犠牲が利き腕だけで済んだのは、魔女にとって良いのか悪いのかはわからない。


 ……威力こそなかったとはいえ、それでも数発喰らった僕は軽くだが吹っ飛んでいた。そのおかげで現在距離は開いている。

 そして、すぐ近くの床には箱から転がり出たのだろう。


 ……何故か、タバスコがあった。



 ……僕が考えていたのはとても作戦とはいえないようなものだったけれど。

 師匠の真似をして突ける隙を全て突けば、いけるような気がしてきた。

 問題は、僕がどこまで師匠の真似をできるかという部分だ。


 ……師匠、今だけ、今だけせめて師匠の卑怯っぷりとか卑劣っぷりとかそこら辺をちょっとだけでいいので、僕に分けて下さい……!

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