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師匠は自称一般市民  作者: 猫宮蒼
二 続・弟子の章

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勇者と魔王と魔王の残骸



 いくらなんでも長生きすぎやしませんか師匠、というような発言に対する師匠の返答は別に長すぎて聞くのが面倒だったというわけでもなく、至ってシンプルなものだった。

 だがしかし、魔王だからってどういう意味ですか師匠。



 まだ素直に実は魔族でしたと言われた方がマシだったかもしれない。というかいっそ冗談であってくれないものだろうか。

 内心でそんな事を思う。しかし師匠の目を見る限り冗談ではないのだろう。


「……これ聞かないと話進まないような気がするから聞くぞ? つまり、どういう事じゃ?」


 こめかみの辺りを押さえながら問いかけたのはウィンディだ。口から魂でも吐き出すんじゃないかとさえ思う勢いで、溜息を吐く。



「魔王アイオンが宝珠に封印される際、アイオンは当然無抵抗でいるわけがなかった。その結果、封印は成功したものの、勇者一行の一人にある呪いがかかった。ここはさっき宝珠がどうこう言う辺りで話したよな?」

「えぇ、言われてみればそうでしたね」

 その呪いが一体どういうものなのか、までは師匠は言ってなかったけど。



「まぁあれだ。シリアス展開は俺の柄じゃないんでサクッと話すが。

 ――勇者シオンは俺だ」


 ピッと親指を自分に向けて言い放つ師匠に、はぁ!? と声を出したのはその場にいた魔族達だった。ウィンディは何かを言うのも面倒になってきたのか、ただ師匠に視線を向けていた。

 僕とメトセラは一瞬何を言われたのか理解できずにそれぞれ「……え?」と声を出すだけで精一杯だった。


「いやーまいったぜ、封印成功したまではよかったんだけどなー。その直後にかかった呪いがこれまた不老不死の呪いだったらしくてさー。それだけならまだしも宝珠に僅かに残ってた魔力と封印されたアイオンの魔力がおかしな変化しちまったみたいで。

 何故か俺にその魔力が流れ込んできましたはっはー。魔王の魔力全部俺に移動。挙句不老不死。

 おかげで俺故郷に帰れなくなったわけよ。帰ったら確実に次の戦場に単身突っ込まされるか下手したらその場で処刑だぜ? 死なないけど」


「…………」


 何かを言おうにも、何を言っていいのかわからない。ただただ呆然と師匠を眺めている僕含む数名の視線など気にも留めていないのだろう。


「ま、不老不死つってもな、最初は不死だけだと思ってたんだよ。魔王城の中で色々あって死ねなかったからな。不老だって事に気付いたのはそれから数年後の話なんだが。魔王の魔力も継承しちまったようなもんだし、流石に俺戻れないよなーって話になって結局あいつらだけ帰る事になったんだよな。

 で、その時に色々話し合って結果が例の御伽噺だ。実際の所、あいつらはとうの昔に死んで、死んだ事になってる俺がこうして生きてるわけだが」


 さらりと、まるで今日の天気でも話題に出すかのような軽さ。

 しかし師匠は師匠で今まで相当溜め込んでいたのだろう。流石にこんな話、気軽に口に出せるわけもない。下手に漏れたら新たな魔王誕生とか世界規模でのニュースになるだろうし、そうなればいくら師匠が自分で自分は無害だと叫んだ所で討伐隊の一つや二つは編制されるだろう。



「……ちょっと待って下さい、ヴァレリアは……? あの人はこの事実知ってたりするんですか?」

「何でそういう理論に飛ぶのかを聞きたい。こんな物騒なカミングアウトしたのこれが初なんだが」


 師匠の言葉に、まぁそりゃカミングアウトするにしたって限度ってものがあるよなと思う。

 流石にこれは僕の思い過ごしだったようだ。そうだよね、ヴァレリアがこの事実を知っているなら、とうの昔に世界中に情報を流して今頃師匠の元には魔王退治に訪れる自称勇者の群れとか押し寄せてきても不思議じゃない。


「えぇと……いえ、僕の思い過ごしだったようです。ただ、師匠が騎士団に目をつけられてるって部分が引っ掛かったので」

「あぁ、それ。一応しばらくは俺も身を隠して生活してたんだがな?

 ほら、途中から不老っつー事実に気付いたもんだからちょっぴり自暴自棄になって色々とやんちゃな事やらかしたんだよ。目ぇつけられたのはそれが原因」


 既に崩壊したレオンの城(ただし中古物件である)も色々とやんちゃやらかした際の代物なのだろうか……と思わずどうでもいい部分に思いを馳せてしまったが、この際それは心底どうでもいい。

 まるで今日の天気の話題でも口にするかのような軽さであっさりと言われると、それはそれで困るのだが。



「ついでに突っ込まれる前に言うけどな? 何度も言うが、魔王が封印された宝珠は既に使っちまってもう無い。魔王の残骸的なものしかなくてもあれは使い果たした。手元には影も形も残ってねぇよ」


 恐らく突っ込もうとしていたのだろう。ウィンディが口を中途半端に開けた状態で固まる。


「何に使ったかってのも聞くんだろうな。当然ながら」

 気を取り直して言葉を紡ごうとした魔女の先手を打つように、師匠は更に続けた。それによってどこか納得のいかない表情を浮かべるウィンディだったが、師匠は気にも留めない。



「宝珠のなれの果て、魔王の残骸がどこにあるかと問われるのならば――」


 そのまま、師匠は僕を指差した。

 最初、僕にはその意味がわからなかった。理解するよりも先に、告げられる言葉。


「馬鹿弟子が、それに該当する」



 何が何だか意味がわからない。

 今現在の僕の心情は、まさにこの一言に尽きるのだった。


 魔王の残骸が僕に該当する?

 一体何を言ってるんですか師匠……?



 僕自身の生い立ちからあの白い――ポチの生誕秘話(と言っていいものかどうか)、更には師匠のとんでもカミングアウトともうそろそろ自分でも話についていけなくなってきてる所に、更なる爆弾を投下してどうすると突っ込むべきなのだろう。今までの流れからするときっと。


 というか、僕に関わる話題はもう終わったものだとばかり思っていたというのに。何というフェイント。


 色々と、とにかく突っ込むべきなのだろう。師匠に対する僕の正しい対応として。

 しかしそれを実行する事はなかった。


「――どういう意味だ?」


 僕が問いかけるより先に、今の今まで突っ伏したまま話だけはとりあえず聞いていますよ、みたいな状態だったカノンが師匠を問い詰める。いや、問い詰めるなんて生易しいものではない。

 テーブルの上を移動して、師匠の眼前に拳を突きつけている。拳には手甲らしきものが装着されており、恐らくそれに内蔵されていたのだろう針のような物が突き出ていた。

 眼前に突きつけられた鋭い針。しかし師匠がそれに動じた様子はない。


「いいか正直に答えろよ? 貴様、王子に何をしでかした? えぇ?」


 一文字一文字を区切るように強調して、ただでさえ剣呑な気配が漂っているというのに更に声にドスをきかせたものだから、見てるこっちとしてはすんごくハラハラするんだけど。

「何をも何もないだろう。最初に言ったと思うが」

 ハラハラしてるのは恐らく師匠とカノン以外の存在なのだろう。もしかしたら僕だけかもしれないけど。

 目の前にいつプスリといくかもわからない突起物があるというのに、師匠は至って平然としたままだ。


「神殿国家エルヴァレスタが滅んだ後の話はお前もさっき聞いてただろうが。で、俺その時確かに言ったと思うんだがついさっきの事さえ忘れるような残念な脳みそしか持ち合わせてないのか?」


 心の奥底から可哀想な生物を見るような眼差しでもって言うものだから、カノンの神経を逆撫でしないわけがない。明らかな殺気が向けられる。


「俺が馬鹿弟子発見した時には既に事切れてたって言っただろーが」

「それは……王子を連れて逃げていた従者の話では……?」

「俺がハッキリとそう言ったか?」


 言われて思い返してみる。

 ……確かに師匠は誰が、とは言ってなかった気がする。


 確か、カノン以外に僕を連れて逃げた従者の事を聞いた時師匠は、俺が発見した時には既に事切れていたとか言っていた。けれど、誰が、とは言っていない。僕たちが勝手にその従者が死んだものだと思っていただけだ。

 しかし実際は従者だけではなく――僕も、死んでいた……?


 いやいやいや、死んでたとかないだろ流石に。そしたら今ここにいる僕は一体何だという話になってしまう。


「もう少し詳しく話そうか。俺が最初に発見したのは、恐らくその従者の方だ。そいつは完全に死んでいた。少し離れた場所にバスケットが置かれてたよ。赤ん坊の入った……な。正確には置かれていたというよりは、転んだか何かした拍子に、といった感じだろう」


 視線が定まらないのか、煩わしげにカノンの手をどける。何度か目を瞬かせ、師匠は当時を思い返すように言葉を紡いだ。


「で、その時本気で魔王の残骸入りの宝珠をどうにかしようと思ってたからな。宝珠に多少の魔力注いでちょっとした実験のつもりだったんだ。上手くいけば長年使える下僕が手に入るかと思って」

「師匠、ちょっと本気で歯ぁ食い縛りましょうか」

「王子自ら手を下す必要はありません。ここは私が」


「あんまり人里うろうろできない俺にとっては扱使えるパシリって重要なんだぞ?」

「人助けの動機が不純すぎますよ師匠。あぁもう、どうして僕は師匠に弟子入りしちゃったんだろうとか思ってましたけど、謎が解けましたよ。別に好き好んで弟子入りしたわけじゃなかったんですね」

 あぁもう、そりゃあ物心ついた頃には師匠と一緒だったわけだよ。


「だ、大体、そんな事するならわざわざ僕じゃなくてその……僕を連れていた従者? そっちにした方が良かったんじゃないですか?」

 赤ん坊を一から育てる手間を考えるのなら、余計に。


「お前は本当に馬鹿だな。死ぬ直前までの記憶が恐らく残ってるであろう大人を仮に生き返らせたとして、だ。そいつが素直に俺に従うと思うか?」

「……あ」


「さて。話を戻すが、そういうわけだから宝珠は既に存在しない。仮に馬鹿弟子を殺して体内にあるであろうそれを取り出したとして魔王の残骸が何かの役に立てるとは到底思えないしな。

 だからこそ、俺たちが取るべき手段はヴァレリアとポチを倒すしかないってわけだ」



 ……結論は、最初から変わっていなかった。

 そこに辿り着くまでがやたらと長かったけど。


 けれど、倒すって、そんな簡単に実行できるものなのだろうか?

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