一致しない人物像と消えた宝珠
何だかここにきて知らなくていいような事ばかり暴露されてるような気がするのは気のせいじゃないよね? まさかこれ以上他にも何か驚愕の新事実とかそういうの出てきたりしない? そろそろ僕話についていけるか不安になってきたんだけど。
恐らく自らの記憶の中の祖母と、今しがた聞いた暴君とやらの情報が全く一致しないのだろう。何やら小声でツッコミなのか否定なのかわからない何かを高速で呟くクライヴの様子から、何となくそう思う。カインは完全に固まったままぴくりとも動かない。
師匠じゃないからやらないだろうけれど、面倒になったからと言ってこれでこの二人が離脱する事はできなくなっただろう。
元々ヴァレリアと決着をつけるつもりではあったようだし、ある意味ほんの僅かばかりの逃げ場さえ失っただけ、と言ってしまえばそれまでだが。
……そう考えると、故郷を滅ぼされはしたけどそれ以上の運命背負わされなかった僕はある意味で幸運なんだろう。そう思いたい。国の復興? そんな事まで僕の手には負えないよ。
「そうそう、そのポチなんですが。本来、というか今ボクが作ってる『ドール』と違って何せプロトタイプですからね。本来のコア――人で言うなら心臓の役割を持つ機関が当然存在するんですけれど、どうもそのコアがポチには三つあるらしいんですよー」
何やら精神的な意味でトドメを刺されたような気がする兄弟の事はこれ以上気にする必要もないと踏んだのか、レオンが何事もなかったかのように言う。
……正直少しくらいフォローした方がいいんじゃないかなあと思わないでもないんだけど。
「どれか一つ破壊したくらいで完全停止するとは思えませんが、何らかの機能低下くらいは見込めるはずです。……問題は、三つあるそのコアがポチの体内のどこに設置されているかわからないって部分なんですが」
「色々と終わってんな」
「そうなんですよねー、まぁ人の形してるだけあって、本来心臓がある部分に一つくらいは埋め込まれてるでしょうけどー。設計図見る限り、再生機能とかも備わってるみたいですし長期戦はおススメできませんねー」
「耐久性もかなりありそうだしな。常に一撃必殺クラスの攻撃を叩き込んでいかないとすぐにこっちが追い詰められかねないって事か……」
「ヴァレリアもいるとなると、迂闊に接近もできないでしょうねー」
「となるとまずは分断させる必要があるってわけか……」
「遠隔操作ができないので、今のマスター登録されてるであろうヴァレリアが離れる事によって暴走する恐れも充分ありすぎますけどね」
「つーか、冷静に考えて分断できたとして、こっちも戦力二分化されるって事だよな……ヴァレリアはどうにかできてもその、ポチをどうにかできると思えないのが痛いな……」
「いやあの師匠、そこでおもむろに完全戦力外の僕を見て言わないでくれませんか? 見るならもっとこう……そこで完全に固まってるカインとか、突っ伏したまま微動だにしないカノンとかいるでしょう。ねぇ」
ようやく少しはマトモな会話繰り広げてくれてると思ったらこれだよ。いや、僕の発言も大概だとは思ってるけど。しかし戦力的な意味では間違ってないと思いたい。
「……気休め程度にしかならないだろうが……どうせ奴らがここに来るというのであれば、罠の一つでも設置した方が建設的かもしれませんね」
「そう思って買出しに行く前に幾つか仕掛けようとしたら縄で縛り上げられたんだけどな?」
「それはお師匠の普段の行動と言動の賜物でしょう」
メトセラの提案は、少なくともマシな発言に聞こえた。しかしすぐさま師匠が返した言葉に、あぁ、やっぱ罠とか仕掛けた所で相手が引っ掛かるとか思えないなぁと思い直す。
掌を返すのが早いと言われたとしても、否定はしない。
罠も効率的に仕掛ければそれなりの成果を上げてくれるんだろうとは思うんだけどねー。
どっちかというとこっちがうっかり引っ掛かりかねないしなぁ。
……これだけの人数がいて、事態が何一つ進展できてないってのもどうなんだろうか。
戦ってる最中だというならともかく、まだヴァレリアが襲撃さえしてきていないのに既にこっちは数名、軽く心に傷を負ってるみたいだし。
だというのに師匠の態度はまだ余裕ありそう、っていうのがなんだかなぁ。
……大丈夫、なんだよね?
正直な所何もかも見なかった事にして逃げ出してしまえば楽なんじゃないかなって思ったりもしたんだ。
ただ漠然とそんな事を考えて、けれどそれは何の解決にもなってないってのもわかってはいる。
でも、そんな事すらできないという部分を、僕は忘れていただけだった。
「――ポチが厄介だというのはわかった。して、肝心のヴァレリアの狙いは今何処に?」
今の今までカノンをいじる以外にほとんど発言しなかったウィンディが、どこか呆れたように口を開く。
「……狙い?」
何かを誤魔化すようにやや引きつった笑みを浮かべて、師匠。
視線を移動させると、納得のいかないような眼差しをレオンが師匠に向けているのが見えた。
……狙い。
その言葉に、うっかり忘れかけていたヴァレリアの狙いであろう物を思い出す。
宝珠。確かあの魔女の狙いはそれだ。以前確かにそう口にしていたし、間違いはない。
師匠が所持していると思われる宝珠。ヴァレリアの狙い。
師匠がそれを持っているからこそ、今回の襲撃に繋がるのだろう。
つまりは、師匠がそれを持っていると思われている以上、逃げた所でヴァレリアはきっと諦めず追ってくるに違いない。
あれ? でも。
確か師匠は宝珠は既にないと言っていたような気がする。それに関してはレオンが酷く取り乱していたからこそ、僕も記憶に残っている。というか、それはつい最近の話だ。結局どうして無くなったのか、または何に使ったのかがわからないままという部分もあって、レオンは未だに納得していないらしい。それは今まさに師匠に向けている視線からして一目瞭然だ。
「そう。奴の目当てのブツじゃよ。奴の事、わざわざお主の命のみを狙ってくるとか有り得ぬからな。となると、当然奴の狙っている物もあるのじゃろ?」
ウィンディは、以前ヴァレリアが捨てゼリフのように言い残した宝珠の事は綺麗に忘れているのか、それとも些細な事すぎて覚えていないのか、とにかくその態度から知らないようだった。
「ヴァレリアの狙いはあの宝珠ですよー。ただ、今は既にもう無いらしいんですけどねー?」
師匠が何か――それこそ話を無理矢理別の方向へ逸らす前に、レオンがさっくりと真実を打ち明ける。
宝珠、という単語を何度か反芻して、ウィンディはようやく思い至ったらしい。表情が僅かに強張る。
ちょっぴり遠い精神世界に旅立ちかけていたカインとクライヴも、その言葉に強制的に現実へと帰還したようだ。
ガタンッと椅子を蹴って立ち上がり。
「何だって!?」
「何じゃと!?」
その動作はほぼ同時だったと思う。ただ一人、カノンだけが立ち上がらなかった。宝珠とやらがどんな物なのか、もしくは宝珠そのものに興味がなくてどうでもいいだけなのか、それは僕にもわからない。単純に立ち上がるだけの気力もないだけというオチも有り得るが。
「無いってどういう事だよおい!?」
「宝珠、というのは紛れもなく例のアレだろう? それが無い、という言葉だけでは正直理解できないな。どういう事か説明してもらおうか?」
「……のぅ、ゲイルや。ただでさえヴァレリアがポチとやらを連れてここへやって来るという厄介でしかない出来事を目の前に、更に厄介な事を引き起こそうというのではあるまいな?」
今にも師匠の目の前に詰め寄りかねない三人に、だがしかし師匠は普段と全く変わらない態度のままだった。その神経は時々尊敬しちゃいますよ、正直。見習いたいとは思わないけど。
「無いっつー事実に変わりはねぇよ。レオンにも言ったが、使っちまって俺の手元にはもう無い」
「愚か者!! そのような言葉だけでハイそうですか、などと納得できるわけがなかろう!!」
即座に魔女の叱責が返ってくる。レオンの時もそうだったが、その宝珠とやら、余程凄い代物らしい。むしろそんな凄い物、どうして師匠の手元に置いてあったのかが僕には疑問でならないが。
だってあの師匠だよ? 大事な物を保管させる相手を間違えていると思うんだけど。
「……ところで、結局その宝珠は一体どういう重要性を秘めているんですか?」
「そういやレオンの時もいつの間にか誤魔化してましたよね、師匠」
メトセラの言葉に、数日前のレオンと師匠の宝珠についてのやり取りを思い返す。
僕やメトセラはその時その宝珠について特に知りたいと思っていたわけでもないし、結局レオンもシチューに釣られて場の状況に流されていたような気がするので、その宝珠というのがとりあえず凄い物、くらいの認識しかできていなかった。
魔女ヴァレリアが狙い、その存在の消失にレオンだけではなく他の魔族やら魔女までもが宝珠の行方を問い質すのだ。さぞかしとんでもない代物なのだろう。
……何か別の意味で嫌な予感がするんだけど。
「どういうも何も、あれはとんでもなく貴重な代物だよ。何せ、あの魔王アイオンの所持していたと言われる使い方次第では最悪の魔導兵器にもなりかねない代物なのだからね」
何も知らない僕たちを憐れむように、溜息混じりにクライヴが答えた。
「それってものすっごく……いわくつきとか言っちゃうような代物なんじゃないですか……?」
「そうだね。だからこそ、悪意ある存在の手に渡れば恐ろしい事になる」
……ちょっと師匠、そこで腕組んで足をテーブルの上に乗せてふんぞり返ってる場合じゃないと思うんですが。っていうか、今この場で師匠が誰かによって全力で殴られても師匠文句言える状況じゃないとさえ思うんですけど。
えーと、これってもしかしなくても、事態が余計ややこしくなる前振りとかいうやつですかね、師匠。




