与太話だと思っていた真実と、明かされた事実
まるで今日の天気の話題でも出すように、うっかりしていれば簡単に聞き流してしまいそうなくらいあっさりと。
今まで僕自身知る事もなければ知ろうとも思わなかった事実が明かされる。
……師匠、それはいくらなんでも唐突すぎやしませんか?
――神殿国家エルヴァレスタ。十五年前、謎の崩壊を遂げた国。
師匠によれば僕はそこの出身らしい。
……っていうか、生まれた矢先に国滅ぶとか、生まれた早々僕の運勢は最悪だったようだ。生きてる事がある意味幸運かどうかは別として。
神殿国家と名がついている通り、エルヴァレスタは国そのものが巨大な神殿で構成されていたらしい。とは言え、一つの宗教で統一されているわけでもなく、割と無節操だったようだが。
治安も比較的良く、人間以外の種族も多く住んでいたらしい。
宗教国家とはまた微妙に違うらしいけれど、いやそれどんな国なの? まぁ平和ならそれで……と思わなくもないけれど。
とはいえこれが、僕が知るエルヴァレスタの情報である。師匠の持ってた本で得た知識しかないとも言える。
表面上は、平和な国だったと言えよう。十五年前までは。
エルヴァレスタの最期は、十五年前のある日、唐突に訪れる。
モンスターによる侵略。これだけならば別段不可解な点は何一つとしてない。時として人間の住処を襲うモンスターは決して少なくないからだ。
けれど、侵略者たちはその国に住まう住人たちを徹底的に排除した後で、自爆した。圧倒的な力で制圧したというのにも関わらず、侵略者たちの最期は、国と共に滅びたのだ。
後日、近隣諸国が調査に訪れたらしいが、当時生き残りはいないと判断され、滅びた理由もよくわからないと言われている。侵略者の目的も不明のままだった、というか、一体何が侵略してきたのかさえ調査に来た人間には理解できなかったらしい。
栄華を極めた国が、ある日唐突に滅びる。
それは過去何度かあった話で、この国の一件もそういう事にされたようだ。
世界規模での大事件など、そう簡単に起こるものでもない。そういう意味で僕が知る世界的な事件と言えば、これが一番新しいものになるのだろう。
その国が、僕の故郷なのだと師匠は言う。
……って言われてもなー。今初めて知りましたよそれ、くらいの認識しか抱けないんですが。
「……え、そうなると僕当時の生き残りですか? そんな部分でレアっぽさを出されても困るんですけど。
というか、生き残りとはいっても僕その時多分生まれたばかりですよね。当時の生き残りの話を、とか言われても何一つネタなんて出やしないんですが」
思わずそう口にしていた。
「んなこたわかってる。でだ、ついでに言っとくけど馬鹿弟子、お前な、実はその神殿国家エルヴァレスタの第一王子だったりする」
「……え?」
その瞬間、確かに時が凍った気がした。
「…………いやまさか、いくらなんでもそれには騙されませんよ?」
思わず思考を停止しかけた脳が再び起動して出てきた言葉は、随分と乾き切っていた。しかしふと思い立って視線をカノンへと動かすと、カノンは大きく、それこそ「うん、うん」と言いたげに頷いている。
いや確かにカノンは初対面の時から僕の事何故か王子と呼んでたけれど。
「カノンの冗談に師匠まで付き合う必要はないと思います」
「嘘じゃねぇよ」
一体どういう風の吹き回しかと思ったが、残念な事に師匠の目は本気だった。性質が悪いと思う。
「神殿国家エルヴァレスタの王族は代々生まれつき青い髪と目を持って生まれてくる。外から嫁いできた相手の髪や目の色関係なしにな。しかも生まれてくるのは確実に野郎だ。ついでに、エルヴァレスタの王族以外で青い髪を持って生まれてきた人間は今まで一人も存在しない」
「何ですかその無茶苦茶な遺伝子。てか本当にそれ遺伝ですか? 呪いとかじゃなくて?」
……だからカノンにその髪と目の色は生まれつきかと聞かれたわけか……っていうか、何かおかしな儀式でも仕出かして悪魔に魂売った人とかいそうなくらい異常な生い立ちだと思います。髪と目の色はともかくとして、必ず生まれてくるのが男児だけってのはどうなんだろう。ていうか実際怪しげな儀式の一つや二つしたんじゃないだろうか。本気で。
「で、唐突にこんな話をしたのはだ。十五年前にその国滅ぼしたのが、さっき言ってたポチコピーの群れだからだ」
「それって……」
「国を滅ぼしたのは、ヴァレリアって事だな」
今の今まで、ヴァレリアと僕に関連なんて一切ないと思っていたのにまさか僕にまで関りあったんですか……そう思うと、ちょっとどころじゃなく頭抱えて蹲りたくなった。
因果というべきか、縁というべきか。
どっちにしろロクなもんじゃないと思う事実が明かされたのは、ついさっきの話。
要するに、僕の生まれ故郷を滅ぼしちゃったりするくらい凄いのかあの白いの……しかもヴァレリアが今度やって来る時に連れてくるであろうそれは、オリジナル。
とりあえず、とんでもなく凄そうだというのは理解できた。
「ちょっとした疑問なのだが。兄弟子殿の事を王子と呼んでいるということはカノンはその国の関係者なのですか?」
「貴様に気安く呼ばれたくはないのだが。……当時私はエルヴァレスタで騎士団長をやっていた」
メトセラの言葉に一瞬だけ剣呑な空気が流れたが、そこに噛みついても仕方ないと判断したらしいカノンはあっさりと答える。
「生き残りは二人だけ、か」
「……何が言いたい?」
「いや、騎士団長と言うからには当然襲撃の際、護衛的な立場にいたはず。にも関わらず、今の今まで兄弟子殿の前に姿を現さなかったという部分が気になってな」
「最初は前線に立って迎撃していたのだが。まぁ撤退する際、追手を引き受けてその結果瀕死になって――そこをウィンディに救われた」
「あれ? って事は、僕を連れて逃げた人が他にもいたって事ですよね?」
救われたと言ってもまさか気が付いたら性転換してるとか思ってもいなかったがな……!! と、今からでも血の涙を流しそうな勢いで言うカノンを軽く無視して、疑問の声を上げる。
「仕方なかろう、発見した時はほとんど肉片じゃったのだから。集めるのだけで一苦労だったのだぞ? それを修復してかろうじて人の形になっただけでも感謝して欲しいものじゃ」
心底から嘆きの声をあげるカノンだったが、ウィンディは特に何かを気にした風もなく言い放つ。
「救ってもらった事については感謝している……だがしかし……ッ!!」
「なんじゃ、修復にちぃとばかし時間がかかった事に文句でもあるのかえ? 何、魔族にとっての十年なぞ大したものでもなかろう。リハビリがてら我の手伝いをしたとはいえ、五年程度扱き使われたくらいでグダグダ抜かすわけではあるまいな?」
にっこりと微笑むウィンディに、もしかして面倒な相手に助けられたんじゃなかろうかと内心で思う。いや、相手は魔女だし、そういう意味では厄介なのだが。
何か色々と葛藤しているカノンを見ていると少々気の毒な気はしたが、下手に声をかけても事態は悪化するだけだろう。
早急に判断を下すと、僕は師匠の言葉を待った。
「……ま、俺が発見した時には事切れてたけどな」
「そう、ですか……」
いやまぁ、薄々そんな気はしてたけど。
お互いに言い合いをしていたカノンとウィンディの方も、あっさりと終着を迎えそうだ。
言葉に詰まったカノンが頭を抱えるように突っ伏すのが視界に入る。
「ま、安心しろ。ヴァレリアの狙いはあの国にあった魔術的な道具とかそこら辺だろうしな。お前の命は狙ってないだろうよ。少なくとも今の所はな」
「はぁ……」
それは安心していいのかどうなのか、微妙なんですけれど。
とはいえ、狙いが僕にないのは事実だろう。もしヴァレリアの狙いがエルヴァレスタの人間を根絶やしに、とかいうのであるならば、以前レオンの城で遭遇した最初の段階でさっくり攻撃されていたことだろうし。……あの時は再会したメトセラにしか目が向いていなかっただけとかじゃなければ。
「お師匠、今の所、というのは?」
冷めた眼差しでカノンを眺めていたメトセラが、首を傾げる。
「あの国で目当ての物が見つけられていなかったなら、最悪馬鹿弟子が持ってると思い込んで仕掛けてくる可能性がある、ってくらいだな。とはいえ、あの場所でコピー自爆させてるくらいだ。目当ての物は入手したとみていい」
……欲しい物を奪う、というだけならまだしも、そのために国一つ滅ぼすとか魔女はそこらの強盗よりも性質が悪いなおい。
というか、さっきまでのカノンの反応からすると当時はあの白いのがヴァレリアの手先であるという事も不明だったらしいし。簡単に自分の尻尾を出さない辺りは流石と言うべきだろうか?
今回もきっとオリジナルを矢面に立たせて自分は極力安全な位置にいるんだろう。そんな気がする。
どうでもいいけど、カノンが騎士団長を務めてたって言われても全く想像がつかないんだ。いや、当時は男性の姿だったみたいだから、今の姿とは違うってのも頭ではわかってるんだけど、何と言うかそれでも想像ができない。
未だに突っ伏して嘆きの声をあげているカノンを見ていると、どう頑張っても想像できないんだ。
そして、そんなカノンに対していい加減鬱陶しくなってきたのか、カインが踵落としを喰らわせるのが見えた。あまりの痛さに声にならない悲鳴を上げているようだけど、カインはそれをちらりと一瞥しただけだった。
……正直このメンバーで本当に何とかなるんだろうか……?
数の上では有利なんだろうけど、不安がこれっぽっちも拭い切れないんだよね。




