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師匠は自称一般市民  作者: 猫宮蒼
二 続・弟子の章

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24/93

届けられた物資と捕獲された師匠



 事態は何気に深刻になりつつあるような気がするというのに、相変わらず僕の周囲はそんな気配さえ微塵も感じさせてくれません。

 頼むから、もう少しだけ緊迫感とかそういったものを出して下さい……



 僕の見立てでは三日くらいは大丈夫かなぁと思っていたシチューは、僅か一日でなくなりました。

 原因? もちろん師匠とその知り合いの白い魔族に決まってますとも。主に後者。

 レオンが使い魔を出したとはいえ、呼び出そうとしている相手が今どこにいるのかわからない以上、すぐに来るという保証も何もない。

 食料持参で、と師匠が伝えるように言っていたとしても、すぐに来ない以上はどのみち買出しに行かなければならないわけで。

 あの白いの連れて魔女がやってくるまで後数日はあると言っても、本当にその言葉が事実かどうかもわからない以上、用心して買出しに行かなきゃなーと思っていたというのにですよ?


 恐ろしい事に僕の代わりに師匠が買出しに出かけました。

 師匠曰くすぐ戻って来る、だそうですが……



「…………兄弟子殿」

「いやうん、疑うのはもう今までの流れから無理もないというか何というか」


 しんと静まり返った室内で、僕たちの声は必要以上に大きく聞こえた。

 ちなみに今現在、レオンは既にこの場にはいない。

 何やら調べものをしなきゃいけないとかで、昨日シチューを散々食べ尽くした後さっさと戻って行った。

 早朝に師匠が買出しに行ってくると言い残してしまったので、ここにいるのは僕とメトセラだけだ。


 昨日のうちに片付けやら修理やら、大体の作業は終わらせてしまっていたので、今日は特にやる事もなく。とりあえず二人でキッチンの掃除をしているのだが。


 メトセラも師匠の所に来てから一年ちょっとが経っているせいか、色々と思う所があるのだろう。

 師匠が買出しに出かけて即僕が思い浮かべた展開を、メトセラも今更のように頭に思い浮かべたらしい。

 即ち、買出しに行くフリして一人とんずら。


 師匠が出かける直前にそれとなく問い質してみたら、俺って信用ねーなーHAHAHAとか言ってましたけどね。当然の事だと思うんですよ。っていうか、今までの行動をこの機会に振り返ってみて下さい師匠。そしたら信用ないのもわかると思うんですよ流石に。



「……兄弟子殿、最悪の事態として、ですよ? お師匠がこのまま戻らなかったとして――」

「その時はレオンの使い魔に食料調達してもらうしかないだろうね。調理は僕が請け負うとして」


 今まで身の回りの世話をしていたであろうレオンの『ドール』は既にいないし。新しく造るにしても、恐らく今はそんな時間もないのだろう。使い魔がいる状態のレオンなら、食料くらいは調達できるだろうけど、あのレオンだ。自分で料理などできはしないだろう。

 とりあえずレオンがいる状態なら、僕たちも便乗して食料くらいはどうにかなる。それ以外は全くアテにならないが。


「……私はその場の勢いというか、あの時は余裕もなかったというかで弟子入りしましたけど、兄弟子殿はどうしてあの人の弟子に?」

 ただ師匠を待つだけ、という状況を少しくらいはどうにかしようと思ったのか。メトセラが思い出したかのように話を振ってくる。


「それを言うなら、魔女と少なからず関わりがある時点でメトセラが師匠の所から去らなかったのはどうして?」

「私は自分から弟子入りした身ですからね。破門されたならともかく、自分から弟子入り志願してお師匠からお前にもう何も教える事はないとか言われたわけでもありませんし」


 それは以前メトセラが師匠に対して言った言葉だった。あの時と全く同じ答え。それはつまり、あの時も今もその場を凌ぐ為の方便などではなく、心底そう思って言っているのだろう。


「でもメトセラ? 君、魔力とか全然ないし魔術の知識を教えた所で実践できるわけでもないし、その理屈でいくとこの先一生師匠の弟子のままだよ?」


 いや、僕も人の事とやかく言える程の魔力は持ってませんが。


「それは兄弟子殿も似たようなものでしょう」

「うんわかってる」


 メトセラもそれは理解しているようだ。あっさりと返されるその言葉に、僕の方も素直に頷く。まさかそこで素直に肯定されるとは思っていなかったのか、メトセラは僅かに目を見開いた。


「では何故? 余計に兄弟子殿が弟子入りした理由がわかりません」

「僕もにわからない。物心ついた頃には既に師匠といたからね」

 流石に生まれた直後からの全てを覚えているわけではないけれど、子供の頃の記憶で思い出せる一番最初の部分には既に師匠がいたような気がする。

「まぁ他に行くアテもないからね。一人で生きていけるようにも到底思えないし、あと数年は師匠の所にいるんじゃないかなぁ……」

 流石に師匠の老後の面倒まで見るつもりはない。というか、その頃まで独り立ちもできないとかちょっとそれは……ってなる。

 僕の言葉にどこか納得のいかないような顔をしていたメトセラだったが、だからといってこれ以上口を出すべきではないとも思ったのだろう。それ以上深くは突っ込んでこなかった。


 ……さて、ある程度時間を潰してみたものの、本当に師匠は戻って来るんだろうか……?

 などと、何度目かの疑惑に駆られたその時だった。

 扉が何かに体当たりされたかのような勢いで開く。敵襲か!? と思って警戒だけはして、そちらへと顔を向けると、そこにはへとへとになり果てたレオンの使い魔たちがいた。

 集団で、何やら大きな包みを抱えている。

 巨大な風呂敷を床に置くと、パタリパタリと次々に使い魔は倒れる。……え、何コレ。


「……どうします? 兄弟子殿」

「どう、って……中確認してみるしかないんじゃない?」

 使い魔たちを踏まないように注意して、風呂敷を開ける。


 ――持参するのが面倒なので先にこやつらに持たせておく。


 たった一言。そう記された紙が、ぎっしりと詰め込まれた食料の隙間から出てきた。


「お師匠が買出しに行った意味がなくなりましたね……」

「そうだねー。後は師匠がきちんと戻ってくれれば問題ないんだけどねー」


 それ以前に文脈から察するに、恐らくウィンディなんだろうけど……この人一体何日分の食料を送り込んできたんだろう……

 入口を塞ぐようにして置かれたそれを、僕はどうしたものかと悩みつつ見つめるだけだった。


 ……いや、流石に見ているだけで何もかもが解決するわけじゃない。片付けないと。

 とはいうものの、このままだと使い魔たちを踏んでしまいかねないのでそっと両手で掬い上げるように違う場所へと避けていく。

 レオンなら扱いが雑でも気にならないけど、流石に使い魔たちは重労働で疲れ果てている状態だ。流石にそこで乱暴な扱いをするのは心が痛む。なにせ僕もまた師匠にこき使われる身の上なので。


 そうこうしているうちに、通路の奥から声が聞こえてきた。

 言い争うというよりは、一方的に弁解しているような――


 これは……どうやら誰かが師匠を連れてやって来たらしい。



「えーと……おかえりなさい、師匠?」

 首根っこを引きずるようにされていた師匠に向けて、どう声をかけるべきか悩んだ末に出た言葉は、当たり障りのないものだった。ずるずると引きずられていた師匠の手には、荷物らしい物は何一つとしてない。


「なぁおい、ちょっとお前からもこいつに何とか言ってくれ。俺が何言っても聞きやしねぇ」


 どこまでも冷ややかな視線でもって師匠を見下ろしている――首根っこから手を全く離そうとしないカインに師匠が視線を向ける。


「えーと……カイン? 一体何がどうなってこうなったわけ?」

「捕獲しておいた」


 僕の質問に返ってきた答えはあまりにも簡潔すぎた。



 ……あぁ、うん!!


「師匠」

「……何だ?」


 にっこりと微笑む僕に、師匠は一体何を思ったのか。僅かばかり表情を引きつらせた。


「日頃の行いってやっぱり大事ですよね」

「あぁあぁ、何かそう言うんだろうなーとか思ったよ。予感的中だなちくしょうめ!!」

「で、カインはレオンの使い魔の呼び出しに応じて来たの? それともたまたま通りかかっただけ?」


 覚えてろこの馬鹿弟子ー!! とか叫ぶ師匠は無視して、僕はカインに問いかける。

 見たところ、カインの手にあるのは師匠だけで食料らしきものはない。いや、使い魔から食料持参でと言われたとしても、カインが素直に応じるかどうかは別の話なんだけど。


「使い魔からの連絡なら聞いた。で、食料入手して立ち寄ろうとした矢先に遭遇したから捕獲した」

「何ていうか……その光景が見てもいないのに浮かぶよ……」

 カインは師匠が食料の買出しに行く所だったなんて知らないだろうし、その状況で僕がカインの立場なら僕も食料は後回しにして師匠を捕獲するだろう。カインの判断は間違っていないと思う、うん。


「師匠、食料の買出しなんてそもそも普段からやらないような事自分から進んでやろうとするからですよ……」

 人間やり慣れない事はするものではない。何かが間違っているような気もするが。


「……買出し?」

 その単語に、カインも眉を顰めた。ほらやっぱりおかしいとか思われてますよ。怪訝な表情されてますよ師匠!!

「だーかーらー、何度もそう言っただろうが!!」

 師匠もここに連行される直前まで、一応話し合いで解決しようとは試みていたらしい。しかしカインの視線はどこまでも冷ややかだった。


「そうは言っても、逆方向にいてそれは説得力がないと思うぞ」

 だから捕獲したんだし、と呆れたように呟きが漏れる。


「逆、方向……?」

 その単語を思わず僕も口にして。師匠の顔色がさっと変わる。

「師匠、まさか迷子になりましたとか言ったりしませんよね?」

「や、あの、それはだな……」

「兄弟子殿、これを」


 何やら弁解しようとしていた師匠だったが、生憎聞くつもりはない。これっぽっちもない。

 メトセラがタイミングを見計らったように差し出してきた物を、僕は遠慮する事なく受け取った。


「カイン、とりあえずこれで師匠縛り上げておいて」


 荷造りに使うには少々ごつすぎる感が否めない太い縄。メトセラがこれをどこから持ってきたのかは謎だが、この際出所は気にしない事にする。


「あぁ、わかった」

「って、こらちょっとマテ! お前らもうちょっと人の話に耳を傾けろ!!」

 ぎゃーぎゃーと喚く師匠の言葉に耳を傾けて、出来事を有耶無耶にされた事が過去一体何度あっただろうか。記憶力と学習能力がかろうじて残っているなら、今ここでかつての過ちを繰り返すなどという愚行をやらかすわけがないというのに師匠は未だ何かを言い募ろうとしている。


「あ、兄弟子殿、それからこれも」


 メトセラが洗ったばかりのハンカチを差し出す。あぁうん、そうだよね。

「って、おいぃぃぃぃぃいいい!! お前らどんだけ厳重なんだよ!?」

 師匠だけ縛り上げてもうっかり縄抜けとかされかねないので、椅子とセットで縛り上げるカイン。関節外して脱出などという事もできそうにない縛り方に、師匠が全力でツッコミを入れた。

「カイン、あとコレ」

 メトセラから渡されたハンカチを渡すと、カインは何の躊躇もなくそれを師匠の口に突っ込んだ。


「静かになりましたね」

 にこやかにそれを言っちゃうメトセラに少々薄ら寒いものを感じはしたが、静かになったのは事実なので反論はない。

 よし、これで魔術使って暴れるなんていう事態も回避できたぞ。


 何事もなかったかのように、使い魔が持ってきた食料の片付けに戻る。メトセラも手伝ってくれてるしこの分ならすぐに片付くだろう。

 カインは念の為にだろうか師匠を見張っててくれるみたいだし。



 ……さて。これで後は他の人たちがやって来るのを待つだけ、か。

 何やらまたも魔女がやって来るっていうのに、今からこれじゃ先が思いやられるよ……

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