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師匠は自称一般市民  作者: 猫宮蒼
二 続・弟子の章

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消えた宝珠と今日のご飯



 僕が事情を知ったのは後はコトコト煮込むだけ、という、要するにほぼ全ての調理過程を終えてからだった。

 ちなみにクッキーが乗っていたはずの皿は、当然の如く何も乗ってはいなかった。

 師匠が僕に話してくれた内容よりも、むしろ調理途中でお茶の催促だのお菓子の追加だの言いつけられなかった事の方が凄いと思ってしまったのは秘密だ。



「えぇと……師匠? 僕が調理してる間に聞こえてきた会話内容と今話してくれた内容がこれっぽっちもかすってさえいないような気がするんですが」

「気のせいだ」


 クッキーを静かに奪い合いながらも、師匠とレオンの会話は続いていた。

 料理をしているとはいえ、ほぼ同じ室内。しっかりはっきりとまではいかないけれど、それでも所々、話は聞こえてきていたのだ。


 資料がどうだとか、実験がどうだとか。対策だとか、当時の対応だとか。


 会話に口を挟めるような状況でもなかったし、僕はそれら聞こえてきた単語を適当に繋ぎ合わせて脳内で、てっきりレオンと同じような知り合いからの手紙でも来たのかと自己完結さえしていたというのに。

 師匠の口から出てきた単語は、ちょっと忘れ去りたい人物の名だった。



 ――魔女ヴァレリア。



 正直僕自身はあの人とマトモに関わっていない。けれど、聞いた話だけでも充分物騒な人物である事は理解できるし、それに何より目の前にはあの魔女の犠牲者というか被害者とも言えるメトセラがいる。

 メトセラも、魔女の名を耳にした瞬間表面には出さないようにしてはいたが、動揺していた……ように僕には見えた。

 レオンの城で魔女と果たしたくもない再会をする羽目になった時は、半分諦めも入っていたかもしれないが一応戦う覚悟は決めていたように思う。けれどあれから半年。

 いつか再び遭遇する事になるかもしれないというのは、師匠から聞かされていたとはいえ彼女自身、もう少し先の話だと思いたい部分もあっただろう。

 それを考えると、思ったよりは早かったのかもしれない。


「えーと……大丈夫なんですか?」

 また以前のように大量のモンスター引き連れてやって来られると、もうどうしようもない気がするんですが。あのゴーレムを頼りにするにも、ゴーレム内部からこっちに来た時の移送方陣はとっくに破棄しているし、あれがあった大陸とここは別の大陸のようだし。っていうか今更な疑問なんだけど、師匠は一人でどうやってあのゴーレムに侵入したんだろうか。……それを聞いた所で既にどうでもいい事だが。


 いくらそれなりに造りが頑丈な建物とはいえ、洞窟の奥、袋の鼠も同然な場所なので、逃げ場はない。

 そんな所に以前のような大群が押し寄せてくれば……正直あまり考えたくない展開だった。



「ん? あぁ、微妙」

「いや、さらっと言ってますけどそれ何気に絶望的じゃないですか」


 軽く言ったら軽く受け流してくれると思ったら大きな間違いですよ。


「落ち着け。確かにあいつから手紙が来たとはいっても、これ単なる予告状みたいなもんだしそう慌てる事もないだろ」

「予告状って……怪盗じゃないんですから」

 怪盗ならわからなくもないが、あれは魔女だ。予告状を出す意味がわからない。


「……果たし状、の間違いではないのですか?」

 ほら、メトセラだってあまりの事に思わず突っ込んだじゃないか。


「や、予告状。あいつの狙いはあくまでも宝珠であって、俺らの命はそのついでくらいだろ」

「……宝珠、ですか」


 確かに、ヴァレリアが退散する時に何かそんな事を言っていたのは覚えているが……

「あの、師匠。その宝珠ってのが魔女から見てそれなりの価値を持つであろう事はまぁ、何となく想像できるんですが」

「そうだなぁ、すんごい価値があるぞー」


 いや、そこで明るく言われても困るんですが。


「……そんな物、今まで僕一度も見た事ないんですが」


 大体、師匠がそれを持っているとしても、部屋の片付けなどは全て僕の仕事だった。となると、貴重品として大事に保管しとけとか師匠なら言い出しそうなものだけど、そんな事を一度たりとも言われた覚えがない。肌身離さず持っているとも思えないし。


 思わずメトセラに視線を送る。

 どうやら彼女も見た事がないのだろう。

 知りませんよと言いたげに首を横に振る。


 ……何て言うか、師匠の事だから生活に困ってとっくの昔に売り払ったとかそういうオチじゃないでしょうね……


 僕の考えていることが、顔にでも出ていたのだろう。

 師匠はさらりと告げてきた。


「ま、宝珠なんてもんは既にないんだけどな?」



 あぁやっぱり……まためんどくさそうな展開になるんだろうなと思うと、無意識のうちに溜息が出た。


 宝珠というのが師匠曰くすんごい価値があったとしても、僕にはそれがどれだけ凄いものなのかはわからない。だからこそ、師匠がそんなものはもう無いと言ったとしても「あぁそうですか」としか言いようがない。

 メトセラも僕と同じ反応――要するにどうでもよさげな感じである。


 けれど、そうやって受け流す事のできない人物がこの場に、たった一人だけ存在した。



「はぁ!?」


 ガタンと椅子を蹴るようにして立ち上がったのは、レオンだった。

 目を見開き、師匠を凝視している。


 レオンがそこまで驚くような事なのかと内心驚きながらも、何をどう言えばいいのかわからずに師匠とレオンを交互に見やる。まさかレオンがそんなリアクションに出るとは思っていなかったのか、師匠も僅かに驚いたようだ。きょとんとしながら立ち上がったレオンを見ている。


「な、な、な……無いって、一体どういう事ですかー!?」


 テーブルを挟んでいるというのにそれを乗り越えてきかねない勢いで詰め寄ろうとするレオンに、師匠は相変わらずきょとんとしたままだ。

 いやそれ以前に、テーブルの上に片方とはいえ膝を乗せないで下さい。


「あれ? 言ってなかったっけ?」

「聞いてません、聞いてませんよ!?」


 首がすっ飛びそうな勢いで横に振られる。勢いが良すぎて、首を振るたびに髪の毛がばっさばっさと音を立てる。


「ふーん」


 いや、ふーんじゃないですよ師匠。何さらっと流してるんですか。あぁほら、レオンも今の師匠の態度にカチンときたっぽいですよ?


「一体全体何でですかー!?」

「何でも何も、使ったら無くなるだろ普通」


 いやそうかもしれませんけど。あまりにも師匠とレオンの態度の温度差がありすぎて、僕とメトセラは困惑するしかない。


「使ったら、って跡形もなくなってるとか有り得ませんからっ!」


 ヴァレリアの発言やレオンの様子から察してみるに、その宝珠が魔導的に見て価値があるであろう事は確かっぽい。

 そしてその宝珠というのは、恐らく多量の魔力が込められているとか、何らかの――それこそ儀式に必要な物なのかもしれない。というか、それくらいしか僕には思い浮かばない。

 そして、その宝珠は恐らく使用したくらいじゃ魔力が消費されたとしても、宝珠そのものが消滅する事もない……と。


 コップに入った水を飲んで水がなくなったとしても、コップそのものが無くなるわけではない、といったような感じだろうか。

「一体何に……!!」

「ところで馬鹿弟子、とりあえずシチューそろそろ食えんだろ?」

「え? あ、はい……一応」


 唐突に話を逸らす師匠に、巻き添えだけはごめんだと思いつつも頷く。


「で? レオン、お前も当然食ってくよな?」


 話を強引に逸らされているのは、レオンにだってわかっている。素直にそこで引き下がるつもりはなかったのだろう。尚も何かを言い募ろうとする前に、文字通り餌を目の前にぶら下げられたレオンは口をぱくぱくとさせ、結局釈然としないながらも諦めたのだろう。

 満面の笑みを浮かべて脅していると言っても過言ではない師匠に対していただきますと、それはもう苦々しげに答えたのだった。



 ……本当だったら夕飯用なんだけどなぁ……まぁいいか。

 とりあえず今日の分だけでも何とかなればいい……のか?

 買出しは明日、という事になったけど、そもそもあのヴァレリアが予告状を出すだけに留めたのは、後日しっかりと『準備』をしてやって来るためだろう。

 その後日が、明日でないとも限らない。


 ……レオンがここに来た時点で、全力で買出しに行っていた方が良かったのかもしれない。



 とはいえ、今更そんな事を考えた所で時間が巻き戻るわけでもない。早々に諦めて、僕は人数分のシチューを用意した。直後にやって来る来客の事など、当然気付くはずもないまま。

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