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師匠は自称一般市民  作者: 猫宮蒼
一 弟子の章

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18/93

後始末と、重要文化財



 ゴーレムの口から勢いよく射出されてった師匠は、間抜けにもそのまま森へと落下――する事もなく、空中で止まった。

 ……正直師匠がそういう空中に留まるような魔術とか扱えると思っていなかった僕は、これやっぱり師匠とよく似た偽物なんじゃないかとさえ思い始めたわけなんだけど。

 こんな事考えていたのがバレたら恐ろしいので、口には出しませんが。



「ようやく出てきたわねぇ……てっきり怖くて逃げだしたものだとばかり思っていたのだけど」

「ハッ、怖くて? 既にてめぇのご自慢のペット共もいないってぇのに何を怖がるってんだか」


 パラソルが風に吹かれないように微妙にバランス調整しつつも、ヴァレリアは師匠を睨みつけていた。対する師匠は挑発するかのようにやれやれとばかりに肩を竦めてみせる。


「相変わらずね、ムカつくわ」

「あぁそうかい。それじゃあこれ以上関わる時間を長引かせないようにさっさと終わらせようじゃねぇか」


 その言葉が終わる直前、師匠は指を軽く弾いた。パチンッと小さく響いたその音が合図であったかのように。


 ゴーレムが動き回ったのが原因で倒れていた木々、鋭く尖った幹がヴァレリア目掛けて一斉に飛んでゆく。一歩間違えば串刺しになりかねないそれを、ヴァレリアは舌打ち一つしてかろうじて避ける。しかし完全に避けるのは無理だったようで、やたらと値段の張りそうな服に傷がついた。

 それでも、直接的なダメージはなかったのだろう。すぐさま体勢を立て直して師匠を見据えようとした……のだが。


 その時既に師匠はそこにはいなかった。

 ヴァレリアに視線を向けて師匠の方を見ていなかった僕は、最初師匠がどこにいるのかわからなかった。


 師匠は、あの攻撃と同時に動いていたのだろう。ヴァレリアが下から飛んでくるへし折られた木々を躱している間に、ヴァレリアの頭上へと移動していたらしい。一通り避けて、反撃に出ようとしていたヴァレリアだったが、パラソルが邪魔をして師匠に気付くのが僅かに遅れる。


 けれど、師匠にとってはその一瞬で充分だったようだ。


 パラソルが可笑しな方向に折れ曲がる。


「しま……っ!?」


 パラソルが壊れたせいで、風に煽られてバランスを崩したヴァレリアの目の前に、師匠が迫る。

 魔術師を名乗る師匠は、魔術らしきものは使わずに見事な後ろ回し蹴りをお見舞いしていた。


「……魔術の制御相変わらずソレに頼ってんのかよ。前にもそれで痛い目にあったってーのに」

「う……うるさいうるさいッ!! 余計なお世話よッ!!」


 地面に落下する事はなかったけれど、かなりギリギリな部分で体勢を立て直したヴァレリアに師匠が呆れたように言い放つ。折れたパラソルをそれでも手放す事なく持ち直したヴァレリアが言い返すも、既に負け惜しみにしか聞こえないそれに、師匠は鼻で嗤ってみせた。



「……兄弟子殿」

「何、メトセラ」


 なんとなく、メトセラの言いたい事はわかっている。


「師匠はああも強かっただろうか?」

「多分よく似た別人なんだよきっと」


 これが聞こえていたなら、師匠に現実逃避は大概にしろと突っ込まれていたことだろう。

 いつぞや街道で盗賊に襲われた時に、僕を置いて一人スタコラと逃げた師匠とは別人すぎるのだから言われても仕方のない事だとは思うけど。

 その時はまだメトセラが来る前だったし、あの時は僕も死に物狂いで逃げたから無事だったけど……魔女と対等に渡り合えるならそもそも盗賊相手に逃げなくても良かっただろうに。


 などと思いを馳せている間に、ヴァレリアと師匠の言い合いは妙な方向へとヒートアップしていたようだったのだが、師匠が思い出したように告げた言葉にヴァレリアの表情が変わる。


「あー……そういやお前が一般人装って騎士団に通報してくれたおかげであの家出ざるを得なくなったわけだが。

 あいつらにこっちも匿名装ってお前の今のアジトの場所ぽろっと言っちゃった、てへっ☆」


 コツンと自分の拳を頭にぶつける仕草でもって言っていたが、正直師匠がそんな事をやっても可愛くない。


「な……なんですってぇ!?」

「つーわけで今頃本格的に討伐隊とか組まれたりして挙句そこに置いてるだろうお前の宝物とやらも押収されるかもしれねーなぁ?

 いいのか、こんな所で油売ってて」


 ヴァレリアの宝物とやらが何かはわからないが、それでも彼女にとっては重要な物である事は確かだ。みるみる青ざめて口をパクパクとさせ、まるで酸欠に陥った金魚のようだったが、


「お……お、覚えてなさいっ!! いずれはアンタの持つ宝珠も頂くんだから!!」

「めんどくせぇなぁ……」

「ついでに今度こそはぎゃふんと言わせてやるんだからッ!!」

「あーはいはいギャフンギャフン」


 あしらうような師匠の態度に、青ざめていた顔が怒りで紅潮していく。勢い任せに何かの魔術を発動させたようだったが、それはあっさりと躱された。ゴーレムにそれが命中したが、大したダメージにはならなかったらしい。


 空間を転移するという事まではできなかったのか、ヴァレリアはそのまま師匠に背中を向けてブラックドラゴンに乗ってやって来た道を、折れたパラソルがこれ以上壊れないように大事そうに抱えて去ってゆく。


「いいの? レオン」

「え? あぁ、いいんですよー。こっちものんびりしてられないでしょうし」


 レオンの言っている意味がよくわからなかったが、何事もなかったかのように戻って来た師匠の一言で何となく理解したような気になる。


「じゃ、さっさとずらかるぞ!!」

 あぁ、ここで素直に一件落着ってわけにはいかないんですね……

 メトセラもそこら辺は何となく悟ったのだろう。どこか遠い目で明後日の方角を眺めていた。


 ずらかるとかさっさと片付けるとか、あまりにも普段の師匠の言動すぎて特に深くは考えてなかったんだ。だってあまりにもいつも通りすぎたものだから。

 けれど、どうやら事態は微妙に僕の予想を超えて面倒そうな気配を放っていた。



 ゴーレムの中に戻って来た師匠は、そのまま当たり前のように制御パネルの前に立った。スクリーンに表示される何かの文字をざっと眺め、小さく頷く。


「ギリギリ……か? 悪いがお前ら、もうしばらく魔力の供給頼んだ」


 振り返りもせずに言い放つと、師匠はそのまま幾つかのパネルを同時に押した。


「あぁ、多少揺れるかもしれんから、気を付けろよ」


 その言葉が終わる前に、ゴーレムが大きく跳躍した。勢いの割に室内は多少揺れただけで済んだけれど、何の対応もできていなかった僕とメトセラが床に倒れ込む。


「そういう事はもっと早くに言って下さい師匠!!」


 危うく鎌を手放しそうになったメトセラが慌てて鎌を持ち直し、バランスを崩したメトセラを支えるようにして下敷きになった僕が叫ぶ。


「それ以前に、お師匠。一体どこへ行くつもりなのですか?」


 僕の上から速やかに避けて、メトセラが問いかける。言われるままに魔力を提供していたカインたちにもその疑問はあるのだろう。表情を見る限り、さっさと説明しやがれと今にも言い出しそうだ。


「とりあえずこれを元あった場所に戻す」

「元あった場所……ですか」

 そういや師匠はこんな大きなゴーレムを、一体どこから持ってきたのだろうか。まさか一から創り上げたというわけでもなさそうだし。


「あぁ、隣の大陸な」


 さらりと言った師匠の言葉に、数名固まるのが見えた。


「おい、ゲイル、まさかまさかとは思っていたが……」

「元あった場所に戻すとして、その後どうするつもりなのかね?」

「貴様ァア、これ以上厄介事を増やしてどうするつもりだ!?」


「あぁ、やっぱり……そうですよねー、そうでしたよねー」


 一人、何かを納得したようにレオンが呟く。

 隣の大陸……と言われても僕にはすぐわからなかったが、少し考えて思い当たった事があった。まさか……と思いつつ、僕はその一つの可能性を口にしていた。


「鬼神兵……?」

「はい馬鹿弟子大正解」


 はなまるだぞぅ、とか無駄に爽やかな笑顔で言う師匠に、僕はガクリと膝をついた。あぁ、それはこの人たちのリアクションも無理ないなと思いながら。



 ――鬼神兵。

 既に今は存在しないとある国の、古代兵器として伝えられている代物だ。

 昔はもっと沢山あったようなのだが、半ば風化し、幾つかは学者たちの研究対象とされ、幾つかは部品らしきものを盗まれ。

 唯一他の鬼神兵とは違う、プロトタイプなのかそれともただ一つの完成品なのかはわからないが、たった一体だけがその国があったとされる砂漠のど真ん中に安置されていたわけなのだが。

 というか、その一体だけは結界らしき物の中にあったため手が出せなかったというだけの事なんだけど。


 旧文明の技術を用いられているかもしれない、などとも言われている、誰一人マトモに触れる事もできない、過去の遺産。

 どのみち結界があるから、そこらの窃盗団だの盗賊だのにおいそれと手出しできるわけもないと思っている節はあるが、それでも厳重な警備が敷かれているはずだ。


 誰一人触れる事のない、古代兵器。




 そのはずなんだけどなー。今現在僕らがこうして中にいたり、挙句師匠が動かしちゃってるなー。

 この事実ってある意味ひっじょ~にマズイんじゃないかなー。

 っていうか、そもそも誰も触れる事のできない古代兵器の動かし方を知ってる師匠がおかしいとも思うんだけど、これを管理している国も、今頃は大騒ぎだろう。というか、既に捜索部隊の一つくらいは編成されててもおかしくないんじゃないかな。むしろゴーレムから出てきた瞬間を万一見られたりしたら、僕たち窃盗団扱いされるんじゃないかな。それ以前に操作方法とか何故知ってるとか尋問されかねない。

 堂々と外を歩けなくなるような事態だけは勘弁してほしいところだ。


 僕の内心の不安を察する事もなく、師匠はゴーレムを操作している。

 空中二段ジャンプ~とか言いながら、空を飛び跳ねるようにして移動しているため、地面に何らかの損傷は与えてないけど……もしかしなくても、隣の大陸からずっとこうやって移動してきたんだろうか……?



「師匠、水を差すようですけど、いいですか?」

「あ? 何だ馬鹿弟子」


 その馬鹿弟子っていうのをどうにかして欲しいけど、言った所で聞き入れてはくれないのだろう。むしろ今それを言い合うつもりはない。問題なのは……


「これから、どうするつもりなんですか?」

 僕にしては珍しく、現実逃避をする事もなく真正面から現実を見据えた質問だった。


 HAHAHAとかやたらとエセくさい笑い声を、師匠はあげただけだったけど。



 ……もしかしなくても、何も考えてないとか言いませんよね、師匠……?

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