推測からなんとなく嫌な予感がする会話と、目をそらしたい現実
普段から現実逃避している身としては今のこの状況も勿論軽やかに逃避したくてたまらないのですが。
状況が斜め上すぎてどこに逃避するべきかもままなりません……!
誰でもいいからドッキリって書いた看板持って突入してきてくれないかな……そんな事を考えるので精一杯でした。
少なくとも、僕の耳が腐ってるとか、脳みそが既に腐敗しきっているとかじゃなければ、間違いなくカノンは僕に対してこう言った。
――『王子』と。
ねぇよ。
これが師匠なら迷わず即答しているところだろう。
実際僕もそう思っている。
仮に僕のような王子がいたとしよう。
……庶民派ってレベルじゃないぞ。やっぱ何かの間違いじゃないかな!?
早々に想像できるレベルを超えた。無い。無いわ。庶民が想像する王子像からことごとくかけ離れすぎてるもの。アットホームとかって単語で片付けるにしても限度ってものがあるくらいだよね。
カノンが跪いた事で、彼女によって遮られていたメトセラの姿が見える。
僕がメトセラの立場でも、そういう表情を浮かべるであろうと思うような顔をしていた。
いやいやいや、意味わかんないから。という意味を込めて顔のあたりで手をパタパタと高速で振って否定してみる。
こういうのは本人に聞くべきなんだろうけど、いきなりの展開をもたらしてくれた相手がマトモな答えを返してくれるとは思えない。彼女以外に事情を知っていそうな魔女ウィンディへと僕は視線を向けた。
先程から微妙に僕を憐れむようにして見ていた魔女は、ある程度の事態を把握しているのだろう。
もう一体どこ見てるんですかと問いたくなるくらいに遠い目をして、口許のあたりに引きつった笑みを浮かべている。
「えぇと……どういう事、なんですか?」
それでも恐らくではあるが、ウィンディはカノンよりかは話が通じそうだ。口調が見た目に伴ってない部分を除けば、外見もあの魔女ヴァレリアよりかは余程マトモに見えるし。
「何も、聞かされていないのか?」
「何もも何も、現状把握でさえ一杯一杯なんですけど」
実際僕の言葉を聞いて納得したのだろう。ウィンディはまじまじと数秒間僕を見つめ……そして何やら自己完結したのか何度か頷いて、
「ならば我から話す事ではない」
あっさりばっさりと切り捨ててくれました。……って、ちょっと!?
「カノン、こやつはまだ何も知らぬようじゃ。残念じゃったのぅ」
そうして清々しいまでの笑顔でもって、跪いたままのカノンへと言葉を放つ。
「そんな!! 何という事だ……何も、何も知らされていないと!?」
いきなりこの世の終わりを知らされたかのような表情で、カノン。
救いを求めるような視線を向けられたが、知らないものは知らん。むしろこっちが説明してほしいくらいだ。
「く……っ、どういうことだ。ちゃんとした説明はするという話だったはずだぞ!?」
「さぁてのぅ。大方時期をみて話そうとしているうちに面倒になったとか、コロリと忘れているかのどちらかじゃろう」
「はぁ!? ……にゃろう……」
そのまま呪詛の言葉でも言い出しそうなくらいに、低い声。一体誰に向けての怒りなのかはわからないが、とりあえずその矛先がこちらへ向かってくる事は今のところ無さそうだ。まぁ、ちょっと怒りに任せて拳を床に打ち付けたりはしてるけど。
「あまり無駄に時間を費やす気はないので、単刀直入に聞くが」
ずいっと僕を庇うように、メトセラが割って入る。
「結局貴様ら、何をしに来た?」
「おぉそうじゃった。とりあえず『今の』この城の主に用があるのだが、案内を頼めるだろうか?」
……あれ? 何かちょっと前にも同じような事やった気がするんだけど。
僕たちの業務に城案内とかってあったっけ?
いや、そういうポジションじゃなかったはずだ。というか、ここまで来るのだって割とやっとだったんだけど……さっきと違うのは今は敵がうようよいる事だろうか。
……まぁ、案内してる相手からしたら、その敵でさえ大した脅威じゃなさそうなんだけどさ。
「――久方振りじゃのう、レオン。とりあえず客に対して茶の一つでも淹れたらどうじゃ? というかむしろ食事よこせ。さもないと色々と保障はできぬぞ」
最後の方、挨拶通り越して脅迫してる気がするんだけど……きっと気にしちゃ駄目なやつだ。
事実言われた側であるレオンも、全く気にしている様子がない。
「おや、本当に久しぶりですねー。ウィンディ。生憎お茶なんて高級な代物ないんで水で我慢して下さいねー」
「いい度胸じゃのう。そやつが持っておる鍋を奪ったって構わぬのだが?」
「あれはボクがリクエストした物なんで、ダメです」
お互いにこやかに微笑んではいるが、目だけは笑っていない。特にレオンの目が今までにないくらいにマジだった。食べ物が絡んでいるからだろうか。
とりあえず簡単に現状を述べるのならば。
城内に敵がうようよいます。
まだヴァレリアはこの城に戻っては来ていないようです。
カインとクライヴは城内の敵を駆逐して回っているようです。
レオンは城の一室にて、使い魔駆使して連絡とったりしてる、所謂司令官的な事をやっているみたいです。
といったところだろうか。まぁ、レオンまで城の中動き回られたら、僕たち案内なんてとてもじゃないけどできないし。
多めに作っておいたおにぎりと鍋を、レオンの目の前のテーブルに置く。
目の前に置かれたおにぎりを無造作に二つ掴むと、レオンはそれを使い魔のコウモリに持たせた。重量オーバーなのか、ふらふらとしながらも使い魔はどこかへと飛んで行った。恐らくはカインとクライヴの所へ向かったのだろう。
一応それを確認してから、レオンは適当におにぎりを掴み、ついでに鍋の蓋を取った。
「どうしても食べたいっていうなら、ここに来た用件をさっくり話しちゃって下さいねー」
「え? レオンが呼んだんじゃないの?」
「いいえ?」
「ここにそのうちヴァレリアがやって来るのであろう? 我はそう聞いたからこそ来たのだが」
手近な椅子に腰をかけ、ウィンディがそう告げる。
「聞いた……って」
「まだあやつは来ておらぬのか?」
どうにも噛み合っていないような会話。あれ? 確かウィンディってこの城の主に呼ばれてやって来たとか言ってなかったっけ?
「…………来るも何も、とんずらかましていませんけどー」
僕としては釈然としないが、それでもレオンには一応理解できているらしい。溜息混じりにそう答え、おにぎりを口にする。
とりあえず僕たちも今のうちに少し食べておいた方がいいのかもしれない。そう判断して、僕は自分のおにぎりとメトセラの分を確保した。
「ウィンディ、今なにかとんずらとかいう言葉が聞こえたが、ホンット~にあいつは信用できるのか?」
心底疑わしげな眼差しでもって、カノン。あいつというのが誰の事を指しているのか、正直気付きたくはないが……先程のとんずらという言葉も合わせて考えると僕の予想は間違ってはいないのだろう。
いやしかし、それが事実だとするならばこの城の前の持ち主というのも……いや、ない。それはない。きっと僕の知らない誰かの話に違いない。
「なんじゃカノン、そなたまだそのような事を言っておるのか? 確かにあやつは言動に疑わしい所が五万とあるが、その程度の事など瑣末な事よ。今はそうでも最終的にはここへ来るであろう」
「いやだから、その普段の言動が今こうして不信感を植え付けてるって所に気付いてくれないか……聞いた話だけじゃ到底信用なんぞできんだろーが。大体王子にだってまだ何も話していないようだし」
そう言ってカノンはちらりとこちらへ視線を向ける。えーと、どう考えても人違いな気がしないでもないんですが。きっと僕とよく似た誰かと間違えてますよ、それ。
そう言いたいが何故だろう、聞き入れてくれない気しかしない。
「その件に関してもそう気にする事でもなかろう。どのみち我らが来てしまった以上、奴が説明せざるを得ない状況になってしまったのじゃからな」
ウィンディの視線がテーブル上を彷徨う。既にちゃっかりとおにぎり片手に頬張っていたので、恐らく目当ての物はお茶だろうと思い、淹れて渡す。
「あぁ、すまぬ。…………あやつが育てたとは思えぬ程気が利くのぅ。いや、あやつの面倒を見ていたからこそ、か?」
にこりと微笑まれたけれど、その言葉にどう返せばいいのやら。僕は苦笑を浮かべるだけに留めておいた。ここで下手な事を言って、後日当人の耳にでも入ったら僕の身が危ない。
うん、正直あんまり信じたくないんだけど、ウィンディが言ってるあやつってどう考えてもお師匠……だよねぇ……?




