表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
師匠は自称一般市民  作者: 猫宮蒼
一 弟子の章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/93

覚悟を決めた者と、やっぱり巻き込まれる者



 最初は一体何が起きたのか、全くわかっていなかった。

 メトセラが僕を呼ぶ声。

 その後の僕がとった行動は、正直よく覚えていない。


 視界に映ったのはコウモリだった。

 初めにこの城に入る前に見た、普通のコウモリではなく銀色に輝く明らかに普通じゃないコウモリ。

 そしてそのコウモリから発せられる青白い光。それが直線状に僕に伸びて――


 何となく嫌な予感がして、隣にいたメトセラを咄嗟に突き飛ばしていた。覚えていたのはそこまでだ。


「兄弟子殿ッ!?」


 突然の事に尻餅をつくしかなかったメトセラの焦ったような声。銀色のコウモリから放たれた光はその時には既に僕に命中していた。それが何らかの魔術である、というのは僕にも理解できた。

 この城にいるコウモリは全部レオンの配下だとばかり思っていただけに、わけがわからなかった。ただその魔術らしきものが攻撃系のものだというのはしっかりと把握できていたんだけれども……


 こんな所で僕死んじゃうのかぁ……

 あまり痛いのは嫌だなぁ……


 そんな事を考えていたはずだ。


「兄弟子……殿?」


 しかしどこか呆然としたようなメトセラの声で我に返る。

 僕の視界に映っているのは、先程僕に向けて攻撃を仕掛けてきたであろう銀色のコウモリだが、既に片羽がちぎれ床に落ち、ぴくりとも動かない。


「え……?」


 意味が分からなかった。とりあえず周囲を見回してみると、先程まで言い合いをしていたカインとクライヴは他にも同じようなコウモリがこの部屋に入り込んでいたらしく、言い合いながらも刀を抜いてそれらを始末していた。あわよくば邪魔者もついでに消そうという意思を感じる。やだ、物騒。


 レオンの所にもそのコウモリは攻撃を仕掛けていたらしい。しかし自らの羽で叩き落とし、踏みつけている。まるで害虫にでもするような動作に、思わず引いた。虫と違ってコウモリとか踏みつけたら足の裏からくる感触凄くない……? 正直大きな虫とかも潰すのに抵抗あるんだけど……


「だ、大丈夫ですか兄弟子殿!?」


 無表情でコウモリを踏みつけ仕留めるレオンを、メトセラも見てしまったのだろう。何か見ちゃ駄目なものを見た、みたいな表情で慌てて視線を逸らしてこっちに問いかけてきた。


「大丈夫、って言われれば大丈夫なんだけど。一体何があったのかわかんないんだよね」


 確かに僕はあの光を喰らったはずだ。しかしどこを見てもそんな痕跡はない。むしろ僕に攻撃を仕掛けてきたコウモリが動かなくなっているという部分に一体何があったのかと説明を求めるようにメトセラを見る。


「私もよくわからないのですが……私には兄弟子殿があの光を跳ね返したように見えました。……違うんですか?」

「って言われても。魔術を素手で跳ね返すとかそんな常人離れした技、僕ができるわけないし。

 魔術の制御に失敗したんじゃないかな。それで自滅したとか。そう考えた方が妥当な気がする」


 そもそも、だ。そんな魔術を跳ね返すだなんて凄い芸当ができるなら、時たま師匠が放つ魔術だって跳ね返せているはずなんだ。

 こっちは一体何度とばっちりを喰らった事か。

 師匠ったらそういう部分だけはやたらと魔術の使い方巧いんだよな……


「――で、一体どういう事かね? レオン」


 刀の汚れを落とすように振り払い、クライヴが訊ねる。嫌な音と共に中身の潰れたコウモリが見えたのだろう。クライヴの表情が露骨に歪んだ。


「ボクに聞かれても困りますよー。これボクの使い魔じゃありませんもん」

「……自分の使い魔以外が平気で入り込んでる事が異常事態だろうが」


 カインの突っ込みに、もっともだと頷く。


「時期的に考えて、ヴァレリアかなと思わないでもないんですけどー、あの人の使い魔にコウモリなんていなかったはずですしー。あとこういう事してきそうなのはー、んーと……」


 首を傾げて考え込むレオンに、おいおい勘弁してくれよと内心で思いばれないように溜息を吐く。

 いや、それ以前にパッと見人畜無害そうに見えるレオンは、実際の所どんだけ敵を作っているんだと。いくら無害そうに見えても魔族という点で敵というものはいくらでもいるのかもしれないけど……まさかこっちに騎士団の討伐隊とかやって来たりしないよね……?


 心当たりが多いのか少ないのかよくわからない反応で考え込んでいるレオンを、とりあえず見守る。もしコウモリを送り付けてきた相手がとんでもなく厄介な相手とかだと、使い魔経由でこっちの位置を探ったりするくらいはできそうなんだよね……そうなるといつまでもここにいる、っていうのも危険かもしれないな。

 すぐにでもこの部屋から逃げ出せるように、メトセラの手を掴んで入口付近へと移動した――まさにその時だった。


 ギィッと軋んだ音を立てて、ドアが開く。反射的にそちらに視線を向けて、危うく悲鳴を上げそうになった。

 そこにいたのは人間……普通の状態ならば僕はそう思っていたことだろう。しかしそれが人でない事は一目瞭然だった。

 姿だけは確かに人の形をしている。けれど今、ドアを開けてやってきたソレは、頭の半分程が無残に破壊されていた。その他の部分も細かなヒビが入り、動くたびにギシギシという音を立てている。

 人間であるならそもそも即死レベルの状態だが、それは血を流す事もなくぎこちなくではあるが動いていて……一体どんなホラーだと叫びたくなる。


「申シ訳ゴざいまセんマスター……不意ノ奇襲にテ……ワタシを含ムどーるハ全テ……」


 キィキィと耳障りな音ではあるが、それが紡いだ言葉でこれがレオンの『ドール』なのだと理解する。


「全て!? 全滅って事ですかー!? 一体何がやって来たっていうんです!?」


 驚きのあまり羽をばさりと空打ちしつつも問いかける。一応僕たちよりも大切にしていたであろう『ドール』がいきなり全部破壊されました、なんていう報告を受けて流石のレオンも冷静でいられるわけもなく。

 悲鳴じみた声のレオンに、しかし『ドール』は報告の為にここまでやって来るだけで限界だったのだろう。

 ギ、ギギ……とわかりやすいくらいの音を立てて『ドール』は主の前に跪こうとしていた。


「テキは……魔女ヴァレリ……あ……」


 そこまで言うのが本当に限界だったのだろう。体勢さえ維持できなくなり、倒れ込む直前に、

「ギィッ!!」

 開いたままのドアからいきなり入り込んできたゴブリンの体当たりを喰らい、パキンと澄んだ音を立てて『ドール』は崩れ去ってしまった。

 ぱらぱらと砂のような物と陶器の破片のような物とが混ざり合ったような物が床に広がる。


 唐突に部屋に突入してきたゴブリンは一匹だけだった。それはあっという間にカインが斬り捨ててしまったため、既に事切れている。

 何が何だかよくわからないけれど、再び部屋に何かが突入してこないように僕はそっとドアを閉めた。ついでにドアが開いても死角になるような位置をメトセラと共に陣取る。


「使い魔が増えた……いやそれよりも魔物まで使役して……?

 ふ……ふふふ……上等じゃないですか。城の一角壊された程度なら可愛いものだし笑って済ませてあげましたけど、使い魔だけなら飽き足らずモンスターまで送り込んでくるなんて、ねぇ?

 いいですよ、わかりましたよ。こうなったら迷わずぶ っ 潰 し て あげましょうか、ねぇ? 皆さん?」


 大切に、大切にしていた『ドール』が全て破壊されたと知らされたからだろう。レオンの怒りはわからないでもない。壊れたらまた作ればいいじゃないとか簡単に言えるものでもないのだろう。例え作るのが簡単な物であっても壊していい理由にもならないけれど。

 それにさっきのドールは喋っていた。レオンの事だ、きっと作った時に外見に合わせた性格とかそういうのもこだわっていたのかもしれない。そうなれば、同じように作り上げた『ドール』は前と同じように見えてきっと全く同じものにはならないはずだ。

 だからこそ大切にしていたのだろう。

 黒いオーラのようなものさえ見えるような、けれども表面上は満面の笑みを浮かべているレオンを見て普段温厚な人が怒ると怖いというのを実感する。


 一体どうしてこんな事に……なんて現状を嘆く暇もなく、ちょっと前まではどうにか適当にのらりくらりとやり過ごすつもりだったのかもしれない城の持ち主の怒りに火がついたようで、完全に全面戦争モードに突入したようです。

 とはいっても戦力は相変わらずなんだけどね。


 恐らくヴァレリアはまず最初にワイバーンで奇襲を仕掛けつつも、この城の住人でもあるレオンと『ドール』たちの目を引き付けるつもりだったのだろう。

 しかし突入した場所には既にこの城の主であるレオンと、ついでに魔剣を持つカインもいた。更にオマケとしてメトセラと――僕も。


 彼女はどうやらかつてレオンにとある魔導技術の結晶とも言われている秘宝とやらを奪われた事で敵対しているらしいが、レオン曰くあれは引き受けた仕事の報酬だったらしい。

 そこら辺はさておき、魔女自ら注意を引き付けている間に別ルートから侵入させた使い魔や、自らの下僕としていたモンスターを送り込んだのだろう。

 森周辺にいるであろう守護獣とやらはどうしたと思わず突っ込んだのだが、侵入者の数が多すぎて対処しきれなかったのだろう、というのがレオンの返答だった。


 いや、そもそもカインと一緒だった時にも遭遇してないし、姿も遠目で見かけるような事なかったからな。守護獣が実は守護するつもりないなんてオチかもしれない。それっぽい鳴き声は聞いた気がするけど、あれが本当にそうであるかはわからないからね。

 クライヴもまたそのようなものを見たり遭遇したりはしていないのだろう。見ると首をそっと横に振られた。


 時間差によって城に侵入させた使い魔たちに秘宝を探し出させるか、もしくは魔女から逃げ出す可能性もあったレオンの行方を捜させるつもりだったのだろう。

 これがいきなり現れた銀色のコウモリやらさっきのゴブリンなのだろう。

 もっともいつの間に使い魔を増やしたのかとか魔物を使役するとか今までそんなのなかっただろうという部分もあるのだけれど、それは今までやらなかっただけかもしれないし、最近新たにできるようになっただけかもしれない。


 ――とりあえず以上がレオンの推測なわけなんだけど、概ねそんなような気がする。

 ついでに使い魔やらモンスターは恐らくまだまだいるはずだという、僕からしたら不吉で物騒極まりない予想もレオンは立ててくれた。うわー、そこは外れてほしいけど当たってるんだろうなー。やだなー。


「ボクはね、優しくありませんから。こうなったら徹底抗戦です。この際痛手を負うのも覚悟の上ですよ、えぇ。

 ……当然協力してくれますよね? カイン、クライヴ。っていうかむしろクライヴはそのためにここに来たようなものなんでしょう?」


 二人の方を向いてにこりと笑うレオンではあるが、正直僕、生まれて初めてだったよ。こんな恐ろしい笑顔見たの。実際向けられた二人も微妙にではあるがその表情は引きつっている。

 師匠がロクでもない事頼む時の笑顔も大概だけど、あっちはある程度慣れがあるからなー、うん。


「まぁ、我々も狙われているようなものだからね。いっそここで倒してしまった方が後々の為にもなるだろうさ」

 かろうじて返事ができたのはクライヴだけのようだった。カインはというと、僅かに視線を逸らしつつ小さく頷いただけに終わる。


「あぁそうそう。当然お弟子さんたちにも協力してもらいますよ? 拒否権? あると思いますか?」


 いきなり盾にでもなれとか言わないだけマシだけど、もしかしたら盾になった方がマシな目に遭うかもしれないな……

 とりあえずメトセラに関してはある程度配慮して欲しい所なんだけど……


 言わずともそこら辺は僕の表情から察してくれたのだろう。普段は一切そんな気遣いとか気配りとか発揮してくれた試しがないというのに、だ。


「大丈夫ですよ。前線で戦うのはこちらの二人に任せますから。お弟子さんたちにしていただきたいのはもっと簡単な事です」

「簡単な事、ですか……」


 そう言ってるけど、でも危険なんでしょう?


「というかですね、お弟子さんにしかできない事です」

「あの、何ていうかいきなり難易度跳ね上がった気がするんですが」

「大丈夫ですよ。ちょっとだけ待ってて下さい。今必要な物取りに行ってきますから」


 そう言うとレオンはおもむろに室内にあった燭台の一つを横に倒す。そして現れる隠し通路。

 この程度じゃもう驚かないぞ。なんてったって城だし。隠し通路の一つや二つあって当然だと思うんだ、城。

 それよりも、隠し通路の先がどこに繋がってるかはわからないけど、この隠し通路とかにはヴァレリアの送り込んだモンスターとかの心配はないんだろうか。レオンは無防備に行っちゃったけど。


 いや、それ以前にだ。

 せめて先に何をさせるつもりなのか言ってから行ってほしかったな。

 待ってる間が限りなく不安でしかない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ