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英雄の果て  作者: シクル


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第六話「お前の答えを」

 ローンシア王国から呪われた少女、ユーカ・ライオネルを連れてレント・ローが脱走してから数日。ローンシアは、第二王子であるラルフ・クレイン・ローンシア主導で二人の捜索を行っていた。

 徒歩での脱走だったため、ラルフは二人がまだ国外へは逃げ切れていないと判断し、近隣の町や村を中心に、いくつかの部隊に分かれて捜索を行ったが、未だに二人は発見されていない。

「……薄闇の森、か」

 もしユーカが町や村、人のいる場所に潜伏しているのなら何らかの形で魔物騒動が起きているのではないかと考えていたが、調べてもそう言った話は出て来ない。ユーカを外に連れ出して、他人と接触せずにすむように気をつけながら旅をすることは難しい。人里にいないのであれば、この辺りでは薄闇の森が最も潜伏先として適している、とラルフは考えた。

 レント程の戦力があれば、襲いかかってくる魔物を退けることは容易い。彼にとって薄闇の森はそれ程危険な場所ではなかった。

「殿下、薄闇の森へ向かうおつもりですか」

「……そのつもりだ」

 ラルフが馬の上で地図を見ながら考え込んでいると、真後ろにいた部下の兵士が声をかけてくる。

「でしたら、殿下は城へお戻りください。後の捜索は我々が行います」

「心配はいらない。むしろ僕がいなければ、レントが暴れ出した時に誰が相手をするというんだ?」

 ラルフの言葉に、部下は口ごもる。そもそもラルフですら、本気になったレントにはかなわない。ここにいる全員でかかれば幾らかチャンスはあるかどうか……そのくらいの実力差を、ラルフはつい先日突きつけられた。

「陛下から直々に、殿下を危険にさらすなと言いつけられております」

「父上か……。そんなことだろうと思ったが……」

 国王は今回の捜索にラルフが参加することに、ギリギリまで反対していた。しかしそれでもラルフがこの捜索で指揮を取らせてもらえたのは、レントを除けば国内で最も実力のある剣士だったこと、そして最もレントと親しい友人であったためだ。

 しかし問題はレントよりもユーカにある。仮にレントとユーカを見つけたとしても、無事にユーカを城まで連れて帰る手段が現状ラルフ達にはない。一応ラルフがレントを説得し、その場でユーカを殺す手はずだが、レントが納得するとは到底思えない。ラルフを含む全員が、力づくでもユーカを殺さなければならないと覚悟していた。

「僕がレント程強くないとしても、そこらの魔物に遅れを取ることはない」

「しかし……」

「それともお前達は魔物から僕を守れないとでも言いたいのか? がっかりだな、僕は選りすぐりの精鋭を連れてきたつもりだったんだが……」

「い、いえ、そういうわけでは……」

「お前達の実力はよくわかっている。薄闇の森の魔物程度からなら、僕を守るくらい大したことではないハズだ」

 ラルフのそんな言葉に、後ろの部下だけでなく聞いていた他の部下の士気も上がる。隊長であり、守るべき主君であるラルフからこのように言われれば兵士冥利に尽きるというものだ。

「……ですが、レント・ローが魔物と化していた場合、本当に我々の手に負えるのでしょうか……」

「それは……」

 レントには魔物の魔力が効かない。そのため、レントはユーカの呪いを受けずに人間のまま逃走出来ている可能性が高い。レント程の人間が魔物と化して暴れれば、それなりに被害も大きくなる。ここに至るまで近隣で派手な魔物騒ぎの話を聞かなかったことから、恐らくレントは魔物化していないだろう、という仮説をラルフは立てている。

 しかしもし、レントが魔物になっていたら……?

「……その時はレント諸共殺すしかない」

 なるべく避けたかったが、あり得ない話ではない。もし本当にそうなっていた場合、魔物化したレントを殺せるのかどうか、戦力的な意味で不安ではあったが。


 そのまま、ラルフ達は薄闇の森へ進路を取る。そして入り口に差し掛かった所で、高速で飛来する細長い何かを、ラルフは見た。

「――――何だ!?」

 早すぎるのか、ラルフ以外は全員気付いてもいない。ラルフはすぐに剣の柄に手をかけたが、その何かは凄まじい速度でラルフへ飛びつき、首筋に張り付く。

「これは……ッ!」

 その何かが真っ黒な蛇だと気付いた時には既に、鋭い牙がラルフの首筋へ突き刺さっていた。

「がッ……!」

 そこから一気に全身に毒が回ったのか、ラルフは痺れて身動き一つ取れなくなる。

「殿下ッ!」

 部下の眼の前で馬の上から滑り落ち、ラルフは地面でもがき苦しむ。そして呻き声を上げるために大きく開かれた口の中に、黒い蛇は滑るように入り込んでいく。

「殿下!」

 兵士の一人がすぐに馬から降りて駆け寄り、ラルフを抱き起こす。すると、ラルフは勢いよく目を見開いて兵士を見た。

「殿下! ご無事ですか!?」

 ラルフは、兵士の言葉には答えない。目をギョロギョロと動かして兵士を見つめるばかりで、どこか気味が悪い。そんなラルフの様子に兵士が困惑していると、不意にラルフは兵士の頬に右手で触れる。

「……殿下……?」

 そしてそっと顔を近づけると、どこかうっとりとした表情で兵士を見つめた。

「い、一体何を……!?」

 そして次の瞬間、鋭く長い牙が兵士の視界を覆う。

「えっ――――」

 ラルフの鋭い牙が、兵士の顔面に突き刺さる。そしてあろうことかラルフは、そのまま兵士の顔面を食い千切ったのだ。

「う、うわあああああああああ!?」

 顔面から大量の鮮血を撒き散らしながらその場へ倒れる兵士を見て、周囲の兵士達が騒ぎ立てる。ラルフは口元の血を拭ってから、両手を広げてニヤリと笑みを浮かべる。

「あは……っ」

 毒々しい笑みがこぼれると同時に、ラルフの両手の平から細長い蛇が姿を表す。それらは逃げようとする兵士達へ次々に噛みつき、猛毒を身体へ流し込んでいく。

 そして瞬く間に、そこには兵士達の死体だけが残る。ラルフは足元に転がる死体をゆっくりと眺め回した後、ケタケタと甲高い笑い声を上げ始める。そしてそのままどこかへ立ち去ろうとしたが、不意に頭を抱えて膝から崩れ落ちた。

「……っ……つ……!」

 しばらくラルフはその場で呻いていたが、やがてふらふらと薄闇の森の方へと歩いて行った。




 ラナとミザを埋葬した後、レントはリタの家から少し離れた場所でリタと二人で会っていた。ユーカを外で待たせていると先程のように魔物と遭遇する可能性がある、しかしだからと言ってリタへ近づけるわけにもいかず、最終的にユーカをリタの家で待機させてレントとリタは外で話をする、という形になった。

「……そうか、埋葬してくれたのだね……」

 事の顛末を聞き終え、リタは少し安堵したかのように嘆息する。

「……リタ、その……」

 その続きがうまく紡げず、レントは口ごもる。謝りたいとは思ったが、どう謝れば良いのかわからない。謝ったところでもう、ラナはどうにもならなかった。そんなレントの思いを察してか、リタはかぶりを振って見せた。

「君のせいじゃないのは少し考えればわかる。謝りたい気持ちはわかるけど、謝られると君を責めてしまいそうだ。よしてくれ」

「……ああ」

「まだ気持ちの整理がつかないんだ。整理し始めると泣いてしまって話にならないから、明日まで私の心は散らかしたままにしておくよ」

 そう言って少しおどけるように笑った後、リタはふと真剣な眼差しでレントを見つめる。

「それで君は……魔物化したんだね?」

 問い詰めるようなリタの言葉に、レントは小さく頷く。

 レント自身記憶は曖昧で、怒り狂っていたせいもあってミザと戦っていた間のことはうまく思い出せない。ただ途中から身体のコントロールがほとんど効かなくなって、頭が真っ白になったことだけはハッキリとわかる。それらとユーカの話を照らし合わせた結果、レントは自分が一時的に魔物化していたことを自覚するに至った。

「そうか……でも君は今、こうして人の形を保っている。恐らくまだ完全ではないのだろう……ユーカ氏の受けた呪いによる魔物化は個人差があるそうだしね」

 一息ついて、リタはレントの返答を待たずに語を継ぐ。

「さっき話せなかった私の仮説……君が魔物化したことで確信に至ったよ」

「……そういや聞けてなかったな……なんだよ、仮説って」

「何故君が魔力を無効化してしまうのか、何故君がユーカ氏の呪いによる魔物化が大きく遅れているのか……何故君が、魔物センサーに反応してしまったのか……」

 数々の疑問を列挙してから、リタは少し勿体ぶってその答えを出す。

「君は魔力を弾いているわけでも、まして消しているわけでもない。君は恐らく……魔力を吸収している」

「吸……収……?」

「何故かはわからないけど、君には魔力を吸収して溜める巨大な桶のようなものがあるのかも知れない。君は今までずっと魔力を溜め込み続けていたんじゃないかな。そしてそれが今……オーバーフローを始めている」

 魔力のオーバーフロー。リタの例え通りレントを巨大な桶とするなら、今まで吸収した魔力が溢れ始めているという話だ。

 これまでの旅の中で、レントは幾度となく魔物と戦い、彼らの魔力による攻撃を受けた。それらは全てレントの前では無へ還ったかのように見えたが実際はそうではなく、その全てがレントの中に吸収されていたのだ。あくまでリタの仮説ではあるが、筋が通っている。

 ユーカの呪いはレントに効かないのではない。ユーカの呪いを、魔力を、レントは吸収し続けていたのだ。既にリタの家に来た時点でオーバーフローは始まっており、そのせいで魔物センサーはレントを魔物として感知したのだ。

「……じゃあ、俺は……」

 このまま、魔物に。

 言葉の続きを察したリタは、小さく頷いて見せる。

「今人の形を保っていられるということは、これ以上ユーカ氏の呪いを吸わなければ一応人の姿のままでいられるかも知れない」

「でも、それじゃユーカは……!」

「そうだね。助けられない。君ですら呪いを受けてしまう以上、もう彼女を救う方法はないと言っても良い。あったとしても、彼女が一人で見つけ出すしかない」

「そん、な……」

 諦めないと、救うと誓った。彼女の生きたいという願いを叶えると。根拠があったわけではなかった。それでも何か方法があるハズだと、諦めなければ道はあるハズだと信じていた。だが呪いは、魔王は、それさえも嘲笑う。諦めずに道を探すというのなら、探すことすら出来ないようレントをも呪ってやろうと。

 魔物化した後、レントが正気を保っていられる保証は全くない。ミザとの戦いの中、正気を失っていたのが証拠だ。レント自身が壊れてしまえば、一体誰がユーカと共に道を探すと言うのだろう。

「……私の本音を言わせてほしい。君はもう、彼女のことは諦めてくれ……。英雄で、恩人で、私の友人がこのまま魔物になってしまうのは耐えられない。例えそれが興味深い事象であったとしても……私は友人が魔物になるのを喜べる程研究者には徹し切れない。その証拠に私は……魔物になるラナを見る時、本当に恐ろしかったんだ……」

 リタの言葉が次第に震え始め、彼女はうつむいた。人間の魔物化、転生者と魔物の真実、あの時起こった、ミザの話したことは魔物の研究者にとってはどれも興味深い、研究意欲を掻き立てられてもおかしくないようなことばかりだ。けれどその時、リタはただ怯えていた。リタ・イーストンは研究者である以前にただの少女で、人間だった。

「半端な研究者ですまない……今はしばらく……魔物のことは考えたくないんだ……。悔しいけれど、それが正直な気持ちなんだ……」

「リタ……」

「レント……頼むから君は魔物にならないでくれ……」

 レントの服の裾を握りしめて、リタは懇願する。だがレントはそれに、頷くことも首を左右に振ることも出来ずに黙り込む。

 そのまましばらく時間が過ぎてから、やがてリタはどこか諦めたように笑みを浮かべて見せた。

「……君は、そういう奴だったね。だから、英雄だったんだね」

「……ごめん」

「そうだね。その謝罪はきちんと受け取っておこう。反省したまえよ」

 どこか泣き出しそうな笑顔でそう言ってから、リタはわざとらしくため息を吐いた。





 リタと話し終えた後、レントはユーカと共にリタの家を出る。これからどこへ行けば良いのか、何の展望もなかったが、これ以上リタに迷惑をかけるわけにもいかない。今夜も野宿だろう。

 リタの家を離れた後、しばらく互いに会話はなかった。レントは何かずっと考え込んでいる様子だったし、ユーカも浮かない顔をしたままレントに声をかけようとはしなかった。

 日が完全に落ち切る前に何とか川辺に辿り着き、今夜はそこで野宿をすることに決める。ユーカはやっと身体が洗えることを喜んではいたが、はしゃぐような気分には一切なれなかった。

「……はぁ」

 川で水を浴びながら、ユーカは深く溜息を吐く。この数日の間に色々なことが起き過ぎて、中々整理出来ない。レントにもリタにも申し訳ない気持ちでいっぱいだったし、ラナのことを思い出すと今でも吐きそうになる。自分のせいで人が魔物になる光景は、何度見たって慣れるものではない。

 そして何より、レントが魔物化した。

 あれからそのことについてはレントもユーカも触れなかったが、ユーカはずっとそのことばかり気にかけていた。レントには効かないと思っていた呪いは、着実にレントの身体を蝕んでいたのだ。今もこうして一緒にいてはくれるが、このままではレントは魔物になってしまう。そのことを考えれば、もうレントとは一緒にいない方が良い。

「やっぱり……ローンシアに戻って……」

 戻って、処刑されるべきだ。その方が良い。もう取り返しのつかない過ちを犯してしまった。もう償いようもないし、償うために生きるだなんて綺麗事が通用するような身体でもない。生きれば生きた分だけ誰かを傷つけ、蝕む……そういう身体だ。

 身体を拭いて服を着直して、ユーカはなるべく音を立てないようにここから去ることを決める。

 レントと離れることも、全部諦めてしまうことも、胸が締め付けられるような思いだったが、これ以上誰かが犠牲になるのは見たくない。何より、このままレントが完全に魔物になってしまうのは耐えられなかった。

 どうしても名残惜しくて足がうまく動いてくれなかったが、それでも何とか一歩踏み出す。そのまま強引に駆け出そうと思ったが、視界が潤んで前がよく見えなかった。

「どこに行くんだ」

 そうして立ち止まったユーカを、後ろから呼び止めたのはレントだった。振り向きそうになるのを何とかこらえて、ユーカは背を向けたまま口を開く。

「水浴び、見てたんだ……えっち」

「ば、違ェよ! 川から上がる音が聞こえたから、そろそろかなって……!」

「じゃあ、着替えるとこ、見るつもりだったんだ」

「お前な……!」

 このまま茶化して誤魔化してしまいたかったのに、どうしてもユーカの声は震えてしまう。それに気付いたのか、レントはゆっくりとユーカへ歩み寄ってくる。

「……来ないで」

「何でだ」

「わからないの? このままだと、あなた――――」

 言いかけるユーカの言葉を、遮るように後ろから強く手が回される。思わず振り向こうとすると、すぐ耳元でレントの吐息を感じた。

「俺は絶対に諦めない。必ず方法はある」

「……ないわよ。あなたこのままじゃ、私を助けるどころじゃない……!」

「やってみなきゃわからねえ!」

「やってからじゃ遅いことだってあるのよ!」

「やらなきゃ何も始まらねえ!」

「もう終わってるの!」

「勝手に終わるなよ!」

 抱き締める手は更に強く、もがく身体は次第に弱く。

 耳元で叫ばれた言葉が、じんとユーカの身体に染み渡る。それでも無理だ、終わっている、どうしようもない、そんな気持ちを拭い去ることは出来なかった。

「まだ、俺達は始まったばかりだろ」

「え……?」

「終われない、終わらせたくない、このまま諦めるなんて俺が出来ない」

 戸惑って薄く開いたままの唇に、熱い唇が重なる。驚いて抵抗しようとしたユーカの手は、やがてゆっくりとレントの肩に回される。

「……いつから?」

 僅かに唇を離し、吐息がかかるような距離感のまま、ユーカが問うた。

「きっと、初めて会った時からずっと」

「どうして……?」

「わかんねえ。理由が必要だとも思わねえ。ただ、綺麗で、儚くて、ずっとその手を取りたかった。いつの間にかそんなことばっか考えてた、俺」

「そっ……か」

 嬉しいような恥ずかしいような、上気していく顔を見られたくなくて顔を背けても、レントはその顔を覗き込む。

「でも、だからこそ私は……レントにはこれ以上傷ついて欲しくない。このまま私といれば、レントは全部なくしてしまう」

「俺がそれを……わかってないって、思うか?」

 全部なくしたって構わない。他にはもう、何もいらない。そんな言葉を、レントはその瞳だけで語っていた。

「まだ会ってから、一週間も経ってないのよ。そんな相手のために……」

「お前の答えを聞かせてくれないか」

 ユーカの言葉を遮って、レントは真っ直ぐな視線を向ける。もう目をそらせなくて、ユーカは観念してレントを真っ直ぐに見つめる。

 出会ってからまだ日は浅い。けれど、レントと過ごしたこの数日間はもう、幽閉された日々も魔王を目指して旅した日々も、この世界に来る前に過ごした日々も塗り替えてしまっていた。

 それだけ、その手が嬉しかったから。

 何もかも諦めてうつむいていたユーカに差し伸べられた手が、何より温かかったから。

「私の、答え……」

 レントはただ、ユーカを見つめたまま待ち続ける。肩に回していた手をそっと離して、レントの頬に触れる。

 これはきっと間違っている。

 救われるべきではない。救われるハズもない。

 きっとこの先には喪失しかない。レントから離れるべきだと、頭ではわかっていた。

「私、は……」

 それでもユーカは、自分の気持ちが止められなかった。全てを捨ててでも求めてくれたレントに、答えたかった。

 ユーカの方から重ねたその唇が、ユーカの答えだった。

 例えこの選択が喪失と絶望に満ちているとしても。

「あなたのせいで、間違えた。この答えはきっと間違ってる、正解じゃない」

「そうかよ」

 そう言って薄く笑って、レントはもう一度強くユーカを抱き締める。

「だったら俺が、それを正解に変える。何も間違ってなかったって、笑わせてやる」

 出来るわけない。そんな言葉をユーカは飲み込んで、ただレントに身体を預けた。

 このまま時間が止まれば良い。そんな願いを否定するかのように、夜は更け、月は雲に隠れていく。風が僅かに川面をゆらし、せせらぎが時を刻んだ。

 無情に刻まれていく時だからこそ、今この一瞬を。少しでもこの瞬間を鮮明に残すために、ユーカもレントも互いを見つめ続けた。

 そんな時間を、一人の足音が壊す。

 気がついた二人がすぐに足音の方へ目を向けると、そこには二人の見知った顔があった。

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