CASE NO.0 【RPG・チュートリアルクエスト 初心者さんでも簡単に作れる! RPGゲーム!】3
「んで、その隣の奴は誰だ?」
ひげ親父の無事を確認した俺は、そこでようやくひげ親父と一緒にやってきた男に目を向けた。年のころは俺と同じくらいだろうか、背はそれほど高くなく、髪はぼさぼさ。うっすらとだがひげも生えており、格好もスラムの浮浪者と変わらない。にへらと愛想笑いをしながら手に持っている錆が浮いて切れ味の悪そうな鉄製の【装備:鉈】だけがこいつの全財産だろうか。
「わかってんだろ? ほれ、坊主挨拶しろ」
「は、はひぃ。お、おれぁ、あの、その……」
たどたどしく話す男の姿に思わず口元に笑みが浮かぶ。
間違いなく俺とひげ親父より先にこの【領域】に侵入した駆け出し探索者のうちの一人だ。
【場所:スラム】出身者か、いや十中八九【職業:戦士】、【蔑称:働き蟻】崩れの駆け出し【職業:探索者】だろう。
【職業:戦士】はこの世界で最も多い諸人類種の生業だ。文字通りその身と命を武器として【領域】の【悪意】に立ち向かう戦士はこの世界の花形であり、英雄であり、人類の形をした兵器そのものである。
但しその大多数、いやごく一部の本物の【職業:戦士】以外は、俺たち【職業:探索者】が探索し、ある程度のめどがついた後の【領域】からあまたの資源を持ち帰る運び手が主な役割であり、多くの人間は彼らのことを蔑んで【蔑称:働き蟻】などと呼ぶ。
彼らは生まれも自由がなく、育ちも自由がなく、そして生き方の自由もない。ただひたすら毎日【領域】へと向かい、資源を担いでそれを持ち出し、味の薄い飯を食い、泥のように眠る。それが嫌なら強くなるしかない。そうして【蔑称:働き蟻】の中から、ほんの少しだけ【職業:戦士】は生まれるのだ。
そして戦うことにも、ただ毎日命がけで働き続けることからも逃げ出した奴らがこうやって素人以下の【職業:探索者】になる。
逃げ出した先に【拠点:楽園の地ラディウエス】のスラムへとたどり着き、そこでも居場所も食うものもなく、一攫千金、一発逆転を口にして知識も実力も経験もコネも何にも持たずに、無謀にも【領域】へと飛びこんでいく素人以下の【職業:探索者】のなんと多いことか。
そうしてはかなく死んでいく。同情すらされない。力がないこと、愚かであること、運がないこと。この世界ではそれらはすべて罪であり、人の命ほど軽いものはないのだから。
ちょっと前におねえさんに暴力を振るおうとしていた奴らだってそうだ。あいつらはおそらく運よく最初の探索で生き残った幸運な奴らで、いくばくかの人生で初めて自由になる金をもって気が大きくなり、バカをやって俺に蹴りを入れられたのだ。
まぁ、誰もが通る道である。偉そうに色々考えているが所詮同じ穴のむじなで、俺も、バカをやってたやつらも、無謀にも現役復帰したひげ親父も、ここにいるこいつも何も大して変わんねぇと思わず苦笑いを浮かべながら、相変わらずにへらと愛想笑いをする男に声をかけた。
「よぉ、俺らより先にここに入ってた三人のうちの一人だな? よく生きてたな。大したもんだ! よくやった!」
そういって大声で褒める。ぽかんとした顔をして「えっ」だとか「あ、あの」だとかいっているがかまうものか。そのまま抱き着いてバンバンと背中をたたいてもう一度褒める。
「おう、俺が言ったとおりだったろう。このクソガキのいうとおりだ坊主! おめえよく生きてたなぁ! 偉いぞ! たいしたもんだぁ!」
そういってひげ親父も大声で褒め始めた。俺に負けないほど大きな声で。
だからこそ生きていたことを喜ぶのだ。安い命だから目いっぱい生きてそして命を拾ったら大声で生きていると叫ぶのが俺たちにできる全部なのだ。お師匠がいっていた。人生は生きてるだけで丸儲け。だからこいつは丸儲けだ。
やがて手に持っていた【装備:鉈】が手から落ちる。そのままうずくまっておいおい泣く男の背中をなでるひげ親父を見ながら、今回これだけでも俺がここに来た意味はあったと思えた。
そう思いながら帰り支度をはじめる。暗い気持ちはどこかに消えていた。
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