CASE NO.0 【RPG・チュートリアルクエスト 初心者さんでも簡単に作れる! RPGゲーム!】2
一分、まにあわなんだ……。
山の頂上に座って目の前に広がる黒い空間をぼおっと眺める。同じように真っ暗でどこまでも広がっているその見た目から夜空のようにも見えるが、こんな墨を流し込んだように星も何もない空間は見たことがない。
いったいこれは何だ? 確認のため現在可能な限り物理的にも【技術:魔法・魔術】的にも考えられることは試してみたんだが。
物を放り込んでもダメ。そのまま飲み込まれてどこかに消えた。
魔術を叩き込んでも何の反応もなし。揺らぎ一つしない。
各種観測用の【技術:魔法・魔術】もてんでダメ。俺は他のことにはあんまり自信がないんだが、人より少しばかりいろんな【技術:魔法・魔術】が使えるから観測や解析なんかにはそれなりに自信があったんだけれど、てんでダメだった。
その結果、この先には何もない。本当の意味で何もない、虚無が広がっていると判断せざる得なかった。
ということはこの先なんてものはなく、どうやら王様とやらがいっていた魔王とやらはいないらしいと判断せざるを得ない。
結論が出たのはいいがずっと真っ暗な空間をずっと眺めていたせいで気分が落ち込んできたので、代わりに後ろに振り向いて作り物の空を眺める。作り物の空だが、それでもずいぶんとましだ。何も映さない深淵なんてそう長くのぞき込むもんじゃない。喰われそうになる。
そうしてこの【領域】における今までの出来事を振り返ってみた。
まず侵入して【領域:名称未設定】が【分類:遊戯型】に属する【領域:コンピューターゲーム】であることに気づいた。
次に街に入り、決まったことしか言わない人間もどきたちを見、言われるがまま王様とやらに会うと同じように『山の向こうにいる魔王を倒して来い』といわれたわけだ。
ここまではある意味で普通。ルールを順守する【分類:遊戯型】の特徴そのものだ。
問題は次、王様に攻撃を叩き込んだときに問題点の二つだ。
一つは、おそらく俺のあの攻撃という行動はルール違反になるはずだ。それが【干渉】されなかったのはおかしい。普通なら俺は攻撃ができなかったはずである。
二つめは、あの程度の攻撃で【領域】そのものが揺らいだこと。自慢じゃないが俺の戦闘能力はそれほど高いもんじゃない。あんなもんじゃ【チィス】クラスの【領域】にうろついてる獣も殺せるかどうか。【領域】とは世界の残滓そのもの。よく【領域】は巨大な生物に、俺たちのような【職業:探索者】をはじめとした諸人類種の侵入者はそれにたかる目に見えないほど小さな虫に例えられる。
つまりあの程度の攻撃で【領域】そのものが揺らぐなんて本来ありえない。ぴくりともしないはずなのだ。
そして山の向こうにいるはずの魔王がいるはずの空間がこのありさまである。つまりこの【領域】は、この世界は根本的にきちんとしていないというわけだ。
そういったことをつらつら考えながら、振り返ってもう一度ちらりと何もない空間を見る。考えられる答えはただ一つ。もし俺の考え通りなら脱出は問題なくなる。ただ……そうだとすると少しだけ気が重い。
そこまで思考がすすんだところで、山のふもとから気配を感じた。……動くものが二人? 少なくても【存在:ゴブリン?】ではない。
即座に膝立ちで【装備:MKA-44・アサルトライフル】を構える。引き金に指をかけそのままの姿勢で、
【イセリアン式魔術:下位身体能力部分強化・視力】
を発動。
俺の両目が猛禽類のそれと等しくなり、相手の姿をまるで目の前で見ているかのように映し出す。そのひげ、【種族:アリエスタン人】特有の短躯、見慣れたぶっちょうずら、間違いない。ホッと息をついた。
一応そのままの態勢で相手が近づいてくるのを待ち、あちらが声の届く距離まで近づいたところで声をかけた。
「生きてたらしいな、ひげ親父!」
「だぁれがひげ親父だ! お前こそ何しとる、『魔導士』とこの末っ子! いつまでもおっかねぇもんの先っぽ向けてんじゃねぇ! 飯食わさねぇぞ!」
「口がへらねぇ……。これなら偽物の心配はなさそうだな、ひげ親父」
「だから誰がひげ親父だ! このクソガキぃ!」
そうガミガミと声をあげる短躯の【種族:アリエスタン人】の姿に、これで今回の仕事の半分は終わったと胸をなでおろし、引き金から指を外す。
どうやら何とかおねえさんにいい報告ができそうだ。
気が向いたら感想よろしくお願いしま~す。