episode 0 chapter 6 。【領域:名称未設定・分類番号15910509】改め……
とりあえず土曜の段階ではここまで。
――抜けるような青空とおだやかな風が心地よい日に。【領域:名称未設定・分類番号15910509】上空にて。
海に浮かぶクラゲのような姿をした神使様の引く船の甲板から、俺は今から降りようとしている【領域】を見下した。サイズは外周を歩いて俺の足ならおよそ半日程度、ごく小規模サイズの浮遊島である。
そしてウティスから引き出した情報通り、外からの見かけで【領域】は広葉樹の森に間違いない様だ。むき出しの円錐状の岩の大陸の上に、こんもりとした森が生えている。お師匠はああいう外見の浮遊島を見つけると決まって『ブロッコリーだ! 空飛ぶブロッコリーだぞ、ユディ!』と阿呆みたいに喜んでいたが、【物体:ブロッコリー】は俺にとって今でも森みたい見えるであろう正体不明の何かである。つまりどんな世界に属していた【領域】かはわからないが、割とどこにでも浮いているありふれた外見の浮遊島ともいえる。
今までこの【領域】に一時探索に向かって、帰ってこなかった【職業:探索者】はギルドが把握している数で娘を溺愛するひげ親父を含めて四人。この数字はけっこう微妙で、大体十人未帰還で危険性が高いと判断され、塩漬け案件となることが多いので、ウティスとしてもひげ親父が元六級ということを踏まえてここをすすめたのだろう。三人突っ込んで未帰還とか普通で、基本最初の数人は使えない、もしくは生きているだけで資源の無駄になるような屑を放り込むのが原理原則であり四人目くらいからが本格的な探索のはじまりといえるのだから。
神使様にお願いして岸壁につけていただき、船から飛び出して草が生い茂る地面に飛び乗り、【領域】の外延部に着陸する。
そこには外から持ち込まれた資材で建てられたテントがあった。型式の古さや使い込まれよく手入れの行き届いたその様子から間違いなくひげ親父のものだろう。つまりここに入ったのは確定である。
――人間、人間。必要二ナレバ呼ビナサイ。私はイツデモカケツケル。
「ありがとうございます、神使様」
神使様の御声が頭の中に響いたので、お返事をし膝まづいて感謝をささげる。そうして島から離れていく神使様を見送ってから俺はまるまると膨れ上がったリュックの中身を取り出して、最低限のベースキャンプを整えた。武器弾薬のチェック、装備のチェック、携帯食料のチェック、他やるべきことをひとつづつ確かめ、最後に持ってきた固く焼いたパンを食いちぎって腹に収め、塩味のきいた干し肉をかじり、沸かしたお茶をゆっくりと一杯飲んでから立ち上がった。
さぁて、『オニガデルカジャガデルカ』だな。
行ってみますか、いつも通り。
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こんにちわようこそ、はじまりの街へ。王様が待っているわ。さぁ、王様のところへ早く早く。
やぁ、よくぞ来た勇者よ、さぁ今からあの山の向こうにいる魔王を倒しに行くのだ。
やぁ勇者よ。装備はちゃんと【そうび】したかい? ちゃんと武器や防具は【そうび】しないと持っているだけじゃだめだからね。
やぁ勇者さん、ここは宿屋です。お泊まりになりますか、一泊【10ジュエル】になりますがお泊りに、、、なり…………。
…………
……よくやった勇者ヨ、ヨクゾ、、、、、マオ、、、、ウヲタ、、、、オシ、、、、タ……。
……。
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何だ? この【領域】は。
とっさに、
【イセリアン式魔術:下位対抗魔術】
【アイオリン精霊加護術:邪を払う光の粒子】
を発動。それから周りを観察する。おかしい。【領域】なんてものは、総じてすべておかしなものだが、この【領域】はひと目でおかしい。
何故なら妙に全てが凸凹している。目にうつる全てがだ。
足元を見てみると地面に生えている草は小さなブロック状の何かが寄り集まって草の形をとっているし、やっぱり何だか凸凹している。遠くに見える山、目の前にいきなり現れた街、それどころか空に浮かぶ雲さえも同じように凸凹しているように見えるのだ。
一応確認のために、
【イセリアン式魔術:下位身体能力部分強化・視力】
を発動しもう一度詳しく見てみると、空に浮かぶ雲も間違いなく足元の草と同じようにブロック状の何かの集合体だった。
続いて自分にできることを確認する。各種【技術:魔法・魔術】が使用可能かどうか、装備に何か不備が出ていないかなど、ひとつづつ確認していくが現状これといって変化がない、ように思える。
これは実にまずい。普通【領域】はそれぞれにその【領域】ごとのルール、これを【制約】というが、俺のような侵入者に一種の制限をかけてくるのだ。
例えば鉄と機械が支配する【領域】においては、法則が異なる【技術:魔法・魔術】などの効きが極端に悪くなる。逆に魔法・魔術が飛び交う【領域】においてはその逆で通信機などの便利な機械の使用はかなりの制限がかかる。一概に全ての【領域】がそうだとは言わないが、【制約】は少なくても7割以上の【領域】で見られる現象である。
では今回のように、それがない場合はラッキー♪ で済ませればいいかというとそうでもない。むしろめんどくさいことのほうが多い。そう思い左手に持っていた【装備:総ディンガウム鋼製スコップ】を地面に突き刺そうとして、
――地面は攻撃できません。
頭に謎の音声が流れた。間違いなく人間の声じゃない。機械で合成した平面的な音声としての声。
やっべぇ。思わず冷や汗が出た。そりゃあもうドバドバ出た。足元の草や空に浮かぶ雲を見た時からもしかしたらそうじゃないかと思ってたんだが、ある意味ラッキーだけど、ある意味ほとんど最悪じゃねえか。ひげ親父、引き悪すぎだろう。そりゃ一か月たっても帰ってこないはずだよ。こんなレアな【領域】、今まで確認された数億を超える【領域】の中でも俺が知ってる限りでたった百例弱、実際に侵入するのは俺でさえ別のとこにお師匠に修業時代に放り込まれて以来二回目だわ。
間違いない、この【領域:名称未設定】は【分類:遊戯型】に属する【領域:コンピューターゲーム】だ。
念のために回れ右して外に脱出しようとするも……、やっぱり見えない壁に阻まれて鼻をぶつけた。いてぇよ。そして出れず。
そうだよな! 条件満たすまで出れないよな! このタイプの【領域】はよぉ!
CASE NO.0
【RPG・チュートリアルクエスト 初心者さんでも簡単に作れる! RPGゲーム!】
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【分類:遊戯型】とは。
【分類:遊戯型】とは、神がその世界を自ら、もしくは他の神々と楽しむ為の遊技場として作りそして捨てた世界を我らが神が拾い上げたもので、確認例こそ少ないもののそのバリエーションは非常に多岐にわたる。そしてこの【領域】の【制約】はそのバリエーションごとに実に多彩であり、とても一言では説明できない。
但し、我々が目的とする資源確保のためという意味では間違いなく最悪の【領域】である。
この世界から我々は何も得られない。否、この世界のものを糧に変えることができるのは【種族:ディ・エラ・エスカッラ・クシャー情報生命体】のような、この世界を情報として分解できる特殊な諸人類種のみであり、我々のような有機生命体には何の価値もないのだから。
【文書:探索者育成用教科書5-293】より抜粋
未来の自分へ。
がんばれ、負けんな、力の限りいきてやれ。ってジャパニーズサラリーマンな部長がいってた。
あ、感想できたらよろしくです。