三話
ホログラムにより映し出されたスクリーンを横目に、コモンとシュートは教室へ向かっていた。相変わらず子供のころから見ていた表情と一寸も変わらないまま、にこやかな笑顔で生徒たちへ挨拶をしている。
「みなさん、おはようございます。今日は28度、湿度は50%、快適な気温ですが風邪には気をつけてくださいね。みなさん、おはようございます。今の時刻は七時四十七分です。」
いつも通りの光景に、大した感情は湧きあがらず、いつも通りに通り過ぎていく。シュートはいつでも楽しそうに笑っていて、楽しそうに話題を振ってくる。同じプログラムを受けてここまで来たのに、自分とシュートの違いは何だろうとコモンは考える。大きな違いは間違いなく前世があるかないかだろうが、もっと大きな違いはあるのだろう。心理学の専門家ではない自分には分からなかった。それに普段の性格に大きな違いはあっても、大切な時の決断力だったり価値観だったりはかなり近いところにあるので、一緒にいて楽であることは確かだった。
「お前さ、ここ卒業したらどうする?」
この学園を卒業した後は初めて僕らに選択権というものが与えられる。上級学校に入学するのだ。マザーが指定した上級学校の中で適正があると判断された学部、または職業から好きなものを選び社会人として旅立っていくのだ。僕らはこの社会に生まれついた時から、全ての安定を約束されている。かつて無職という言葉が存在したという話を授業で聞いた時はゾッとした。僕らは生まれた時代が違えば、きっとそうなっていた同期はいただろうし、自分だってそうなっていただろう。リストラされるかも、就職できないかも、そんな悩みなんて不毛だし考える事すら億劫なものだ。ゾッとしたと同時にこの時代に生まれてよかったと心の底から安堵したものだ。
「ああ、どうしようかな。迷ってる」
「俺もなんだよなー」
「これで一生どんな仕事していくかは決まるからな。適正はどうだったんだっけシュート」
「Sが出たのはアナウンサーで、Aはカウンセラーとか、看護師とか」
「Sが出たなら上々だろ。シュートは見た目がいいからな、清潔感がある。そこまで人に好印象を与えるのってなかなか難しいことだぞ」
シュートは誇らしげに、鼻の下を擦る。その姿もやる人が違えばいら立ちを覚えることもあるだろうが、シュートがやると仕方がないやつめと笑えるのはやはり見た目からだろう。
「そんな事いって、コモンはどうだったんだよ。どうせお前のことだから警察官、とか防衛省とか、裁判官とかそういうやつだろ? 」
「ご名答、良く当てたな。残念ながら防衛省ははずれだが、警察と裁判官は正解だ」
「やっぱり。だと思ったんだ。それにコモンに絶対向いてるし。」
「そうか? 」
「そうだよ。お前がしっかり見張っててくれるなら、マザーも安心だろ。」
「そう言ってもらえて光栄だよ。」
コモンは適正のSという最上位の判定を受けながらも実は不安な気持ちもあったのだ。シュートの言葉に少し背中を押された気分になった。まだ、上級学校を選択する時期ではないが、少しの安堵感をコモンは覚えた。