二話
コモンは目を開ける、まず確認することは時間だった。起きてすぐ覚醒するのは眠りが浅かったからだろうか。時間を確認すると六時より少し早い五時五十八分だった。
まだ起きるには二分早かったか。すぐ隣の部屋で寝ているシュートもまだ夢の世界を漂っているだろう。教師だって、サラリーマン、アナウンサーだってみんな今の時間は寝ているだろう。そういう決まりだから。朝起きる時間と夜寝る時間は特に子供のころから決められていることなのだ。
この習慣は五歳から始まりそれから死ぬまで続くことだ。病気の人間はまた別の生活リズムで動いていくことになるが、この学園で暮らす人間には最も関係のないことだ。この学園においての入学条件とは、健康であること以外はなく普通の他の学園であっても健康以外の入学条件は設定されていないのだ。
ある資本主義社会が崩壊して久しいぐらいの今の社会においては昔の社会主義を究極に達成したものと言えるだろう。
この学園を卒業すれば生徒は社会人として外へ出ていく。昔は給料というお金で社会は回っていたようだが今は違う。
そもそもお金という概念が廃止されて何十年、何百年とたっている。金という存在しているようで、存在していないものに価値を見出していた時代にある女性が異議を唱えた。その女性はマザーと呼ばれ、彼女に賛同した人間でつくった今の国が僕たちの先祖だ。それは他国からは受け入れられず、僕たちの先祖は段々と孤立していき気が付けば、実質鎖国状態となっていた。そこから少しずつきちんとした国として機能させていって、今の社会ができた。僕らはこの国を作った彼ら、彼女ら、そしてマザーに敬意を示して今の社会をマザー制度と呼んでいる。マザーは死んでしまったが、ある天才科学者がマザーの思考、記憶をトレースすることに成功したのだという。彼女は今も社会の中枢として、世界の統制をおこなっている。
無機質なアラームの音が部屋中に鳴り響いた。隣の部屋でももちろん。一分一秒の狂いもなく。それを三秒後に止める、それは訓練されたことだ、五歳から十一年続けていることを今更間違えはしない。
脳内のマイクロチップが起動する。脳内に、マザーの声がする。女の人の声で抑揚もなく喜びの声でもなくただ体調とスケジュールを告げてくる。
「起動、六時起床。血圧106、65。脈拍62。体温36.2。意識レベル清明。バイタルサイン安定です。今日の予定は…」
そんな世界を人々は受け入れその中で生きている。
「おはよう。」
「おはよう。」
今まで何十回と繰り返してきた挨拶をルームメイトに行う。シュートはいつでも眠そうにだるそうにあくびをしながら挨拶をしてくる。コモンはシュートともに部屋に備え付けられたクローゼットに向かいその中の支給された制服を取り出し、右手からワイシャツを着て、スラックスも右足から着た。そして鏡で変なところがないか確認したあとシュートも着替え終わったかを確認し、いつも通り部屋から出た後に食堂い向かう。
「オハヨウゴザイマス!オハヨウゴザイマス!」
食堂に向かえば、朝にはふさわしくない無機質で元気なアンドロイドが大きな声であいさつをしながら生徒たちに食事を配っている。それをもって、1-22-3と記された自分の席に着いた。プレートに固形の機能食が三種と三個ほどのサプリメントそしてペットボトルに入った水。いつもと変わらない風景だ。スプーンで機能食を掬い口へ運ぶ。ふとシュートが口を開いた。
「今日は何処のクラスだっけ、」
「確か三組かな。明日は俺らのクラス」
シュートが言っているのは、かつてのカースト制度をマネするダーティ―クラスのことだろう。歴史を繰り返さないための教育の一環だった。クラスメイト十五人に対してそれぞれの役割が与えられそれを演じる日。それは一週間に一度の頻度で行われており今日は三組の番だった。それは食堂を出た後、荷物を持って教室についた後にスタートする。とても憂鬱な時間だった。