5月13日
5月13日
北鏡高校の2年5組教室にて
「なー陽、隆太課題やって来た??」
「あたりまえでしょー」
「課題…?…はっ…!」
「陽マジ頼む!うつさせて!」
一際目立つギラギラとした金髪でガタイのいい
言うなれば…そう…まさにゴリラ…ゴリラのような見た目をした、泉田勇気が、百人いれば全員が有無を言わず美しいと言うほどの美少年、黒月陽とまさに陰を表すようなオーラをしたポッチャリ少年、林隆太と話していた。
彼らはそれぞれ個性豊かな趣味を持っていて、クラスの友人からはオタク3人組と呼ばれていた。
「もー課題くらい自分でやりなよー、ひとつ貸しね」
黒月は本日提出の課題を泉田に差し出した
「さんきゅー!」
「やばいよ…俺もやってないよ…どうしよ…だめだ…死ぬわ…」
林はその場に蹲り、ぼそぼそと呟いている。
「そんな落ち込むなら勇気といっしょにうつしたらいーじゃんかー」
「…神か…!」
3人はいつも通り談笑していた
そしていつも通り授業が始まった。
昼休み
授業にひと段落がつき落ち着いた生徒達は昼食をとったり、昼休みでさえ勉強をしたりするものもいた…
しかし突然
「あー…えますか…あー…これうるさくて聞こえてない…」
放送がなりはじめる。
「なんかなってね?」
泉田がスピーカーの方へ近づく
「あー…放送ちゃんと聞けよガキ共ぉおおおおお!」
突然のスピーカーからの絶叫に校内が静まる
「聞いてますー?聞いてますかねー??はーいじゃあHJくん任せたねー。」
恐らく女性である声がそういうと、また別の人間が話し始めた。
「えー北鏡高校生のみなさん、本日からあなた方は特別な人間となりました。」
「な…放送なにいってんの?中二病?キモくね??」
5組の1人が発言する
「5組高橋くん、放送は最後まで聞いてください」
「は…!?どっから見てんだよ監視カメラとかあんの??笑なんで全員黙って聞いてんだよ!放送部か知んねぇけど!キモイ放送すんじゃねーよ!笑」
高橋と呼ばれた少年がそう発言すると周りの人もきもいだとかいい笑ったりし始めた。
すると放送の声の主がまた変わった
「キモイキモイうるさいわー!丁度いいわ、みんなが真剣に話を聞くように見せしめにしてあげる!」
「あ?だから監視カメラとかで人のことみてんじゃ…ねぇ?」
突然高橋の体は大きく歪み
「ありぇ…?なんでみんな逆さ…」
ぐちゃり
その四肢が体全てが張り裂けたように見えた。
「ひぃっ!」悲鳴が上がる
しかし誰もがみたそのグロテスクな光景は一瞬の間に元に戻った
「え、俺今死んだ…え…無理無理無理無理なんなんだよ、ひぃいいいい!!!!」
高橋はその場に倒れた。
「な、なに今の!?」
「いや…!」
「みんな見たよね!?」
「でも高橋何ともなってないぞ!?」
「ねー人の話をちゃんと聞かないとー次は元に戻さないぞー!!分かったら一回座れやー!!!!」
再び静まりみな放送の指示通りに動いた。
「はい交代」
「あ、ああ」
「えー…少し驚かせてしまってすまない、決して君たちに無駄に危害を加えたいわけじゃない。君たちは特別な人間だから。端的に説明しよう、君たちは主人公になれる人間だ。アニメやマンガは好きか??あのような人生を送りたくないか?超絶美少女の幼なじみと恋をしたり、突然世界を救うヒーローになったり…そんな物語の中心、主人公に君たちはなれるんだよ。」
未だ教室は静まり返っている。
「君たちが主人公となれるよう特別な力を配布させていただいた、それは君が一番欲しいと思っている力もしくは君に関わりのある力だ。是非活用して頂きたい。
嘘だと思うのであればそれでいい。その時点で君は主人公候補から外れるのだから。あと定期的に主人公を決める助けになるようゲームを開催する。絶対に参加してくれたまえ。では長々と失礼した。」
放送が終わり皆はお互いに顔を合わせた。
「なんなの…今の…」
「わけわかんないよ」
ざわざわとする。
生徒が困惑に苛まれる中、昼休みの終わりを告げるチャイムがなった
「ほら何騒いでんだーお前ら授業するぞー」
担任の山先生が何事も無かったように現れる
「先生!今の放送なんですか??!」
「放送…?そんなもんなってなかったぞ?」
「えっ…」
その後誰に聞いてもその放送は生徒の耳にしか入っていない様だった。
あの後高橋は保健室に運び込まれ何事も無かったかのように昼休みは終わり授業が始まった。
「なあなあ、陽。さっきのあれなんだと思う?」
先生に気づかれないようこっそりと黒月に泉田は話しかけた。
「ん~…そんなの僕に聞かれてもわかんないよぉ…」
「だよなぁ…」
「でも確かに高橋くんがぐちゃぐちゃに…うぅっ…なったと思ったんだけどな…」
黒月は先程の光景を思い返してえづく。
「おーい授業中だぞ、ちゃんと聞かないなら出てけ~」
話しているのに気づいた山が2人を睨む。
「あ、さーせん」
「はーい先生…ごめんなさぁい…」
一方その頃保健室には先程失神した高橋を含む2人の生徒が眠っていた
高橋は、いだい…いだいよぉ…とうなされていた。
「はぁ…一体何があったんだ〜?高橋ぃ〜?」
保険医の村雨出雲は頭を抱えていた。
「しかもこの様子だし…はぁ…なにがあったか起きて俺に教えて欲しいなぁ…」
「センセイ、独り言が大きいです、あたし頭が痛いの。そんな喋られると頭に響くわ」
ひとつのベットから黒髪の少女が顔を覗かせながら言う
「あぁ、××ちゃんごめんね…!考え事は口に出したくなっちゃってね」
「お願いします。あたし…今ほんとに頭が痛いんです…」
黒髪の少女が起き上がってくる
「う、うん…××ちゃん…ごめんね??寝てていいんだよ??」
少女は村雨の目の前にあった椅子に座る
「いえ…眠れそうだったのにセンセイのせいで目が覚めました。
それになんだか色々と吐き出したくなりましたの」
「大丈夫?…エチケット袋いるかい?」
黒い袋を素早く構える村雨
「…そういう意味じゃありませんわ。保健室の先生は心の診察もしてくださるのでしょう?」
ため息をつき村雨を見つめた
「あ、そういうことか。どうしたの?」
「センセイは、好きってどういうことだと思います?」
「う〜ん、なに?恋煩い???」
「まぁ…そんなところですわ。」
村雨は青春だねぇ…と呟いた。
「好きだから付き合いたい、一緒にいたいという人もいれば、
その人が幸せであればそれでいいという人もいますわ。なにが正解なのでしょう?」
「ん〜それは人それぞれなんじゃないかな。正解なんてないよ」
そういって、立ち上がった村雨は給湯器の電源を入れ、お白湯をマグカップに入れ少女に「お白湯ってなにもないように感じるけど体にめちゃくちゃいいんだよ、落ち着くし。どうぞ」と差し出した。
ありがとうございますと受け取った少女は不思議そうな顔で村雨を見つめる。
「正解なんてない…本当にそうでしょうか?」
「どうしてそう思うんだい?」
「本当に好きなら…なんてしない!みたいな決まり文句よくききますわ」
少女はいじけたような顔をしている
「うーん…たしかにそういうことを言う人は確かに一定数以上いるね。
でもそれはあくまでその人の思う好きの範疇だよ。好きだから他の人との幸せを願う、好きだからその人のために可愛くなって付き合おうとする、好きだからただただ見てる、好きだから束縛する…好きからつながる行動なんて十人十色なんだから。自分ならしないってだけのことを、他人に押し付けるのは俺は違うと思うなぁ。何かあったの?俺みたいのでよかったら聞くよ〜?」
少女に微笑みかけ、問いかける村雨
少女は考えるような表情をしてから口を開いた
「センセイに言うようなことじゃないのかもしれませんのですけど。あたしとても好いている方がいるの。」いいねぇ…ほんと青春じゃ〜ん…とにこにこする村雨
「はぁ…それでですね、あたしは好きなお人とはずっと一緒にいたいって思うのですけれど…。友人と話していたらその友人が『えぇ〜?ずっとぴったりいるのぉ?離れてても一緒にいると思えるのが好きじゃないのぉ』って…」
悲しそうな顔をしながら完璧に友人のモノマネをこなす少女
「ん〜その喋り方は陽だな?笑」
そうですわ、と呟き立ち上がってウロウロし始めた。
「それは陽の思う好きでしょ?それに陽のことならどうせその後、まぁ人それぞれだよねぇみたいなこと言ってたんじゃないの?」
ぱっと村雨を見る少女の顔はまさにその通りという表情をしていた。
「一部分だけピックアップして悩んじゃうのはよくないことだぞ。人それぞれなんだから」
「そうですわね…」
村雨は立ち上がって少女に近づくと少女の肩にポンと手を置いた
「君が好きな人と一緒に居たいと思うならずっと一緒にいればいい。それが君の『好き』なんだろう?」
「そうですわね…そう…その通りですわ…」とその場で立ち止まる
「なんだか、頭が痛いのもスッキリしましたわ。まだ授業始まってすぐですし…行きますわ…ありがとうございました…失礼します。」少女は優しく微笑み保健室から出ていった。
「ふ〜ん…また一人の悩める少女を救っちゃったなぁ」
そう呟く村雨の背後にはいつのまにか起き上がって居た高橋がいた
「おわっ!高橋おきたならいってくれよ…!」
「ずいぶん前から起きてました…」
ふらふらとした足取りで歩く高橋
「ふらふらじゃないか、ほらそこに座りな」
「いや…いい…戻ります…」
そのまま保健室を出て行こうとする高橋
「いや、待ってくれよ高橋。せめて何があったかだけ話していかない??」
「…です」
ボソッと呟く
「ん?」
「俺は!今すグ!出て行くンです!!!」
高橋は突然大きな声で叫び村雨を置いてあったマグカップで殴った。
村雨は咄嗟のことで受け身も取れず、床に頭を打ち付けその場に倒れこむ。
頭からは血が流れている
「た…かはし…??」
「センセイ…ありがとう…?」
村雨の頭を踏みつけ、そのまま蹴り飛ばそうとした時
「何ですか!保健室で騒いで…!?ちょ…なにしとるん!!!!」
一人の女生徒が保健室のドアを開け入ってきた
女生徒は高橋を突き飛ばし、村雨に駆け寄ると「だれか来てください!!先生が!!!」と叫んだ
何だ何だと近くにいた生徒や教師が集まり、その光景を見て少し固まりはしたが高橋を複数人で取り押さえる。
「何があった右近!」
教師の一人が女生徒に呼びかけた
「わかりません…けど高橋くんが村雨先生の頭を踏みつけていて…!!」
右近と呼ばれた女生徒は焦りながら答えた
「おまえ…!高橋!!何がしたいんだ!!」
高橋はぼーっと上を見つめると、あぁ…?と言った
「た。高橋くん」
あまりに無抵抗なので押さえつけていた人々が高橋からどく
「俺…高橋???たか…?わかんない…わかんないよぉおおおお!!!!!俺…だれなんだよおおおお!!」その場に倒れこんだ高橋の絶叫が学校中に響き渡った
村雨と高橋はそのまま救急車で運ばれ、そのニュースは瞬く間に学校内に広まった。