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***  作者: 葛西 三四郎
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入社試験を終えると直ぐに連絡が来た。

合格の通知を受け、出社日時が伝えられた。異論がなかったので、それを承諾する。


試験を受けた日のことを思い返す。

人生について書いたあの作文を頭に浮かべた。-



-何時から私は自分が、おかしな人間だと感じ始めただろう。

女にも酒にもギャンブルにも疎かった。おまけに煙草も吸わない。

しかし、それらに手を出さなかった訳ではなかった。興味は人並みにあったので、一通り試してはみた。だが、どれもこれもに最初の一歩で躓いた。

酒はそもそも味が嫌いなだけだが、ギャンブル関してはビギナーズラックがなかった。ほんの一瞬で消えた五千円と、やかまし過ぎる店内の音と煙草の不愉快な臭いの思い出だけが残ってしまった。

煙草も嫌いだった。小さい頃から狭い家の中を満たしていた、あの煙は大人になっても不快な象徴のままだった。吸ってもみたが、やはり印象通りだった。

「いつも何してるの?」

そう聞かれると困ってしまう。

散歩と読書。本当のところ、こればかりだが、そんな風に素直には答えられない。あまりにも青年らしくなさ過ぎる。いつだって青年らしい青年だったことはないのだが、人前では一応、普通を装っていたので、こういうところで一々ボロが出る。

私に他人を突っぱねるエネルギーがあれば済んだことかもしれないが、恥ずかしいことに私は人間に恐怖しながらも、人間に愛されたいという感情を捨てられないのだった。


「人間失格」

かの有名な小説が浮かぶ。

しかし、主人公が自分自身に重なることはなかった。私の眼に葉蔵は美し過ぎた。私が葉蔵で在れるはずがない。彼のように人から愛されることもなければ、悩みの為に命を投げ出すような真似もできはしないだろう。

それでも何故か、この小説の事を不思議と時折思い出す。

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