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***  作者: 葛西 三四郎
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静かな部屋にエアコンの音だけが響いている。大きな机と椅子が4つあるが、人間は私一人だけだった。窓のある部屋に通された私は椅子に座り、机に置かれた作文用紙と向かい合っている。冬の午前の空は晴れており、窓からは日が差し込んでいるはずだが、まるでそれが感じられない。いつだって明る過ぎる蛍光灯の下にいる私達に、そんな事を実感出来る機会はそう多くはないのだろう。

-人生について-

そう大きくプリントされた紙が表紙となっており、その後ろに1枚400字の作文用紙が2枚付属されている。このテーマで800字が入社試験となるらしい。



-「本当に大丈夫ですか?」

転職活動を行う為にハローワークを利用した私は、求人の紹介状を書いてもらうために窓口に来ていた。その時に対応してくれた男性係員がしきりに私にそう問いかけてきた。

「張り込みとか尾行もあるみたいなんですけど…」

親切そうな男の人で私が内容も分からないまま、この求人をここに持ってきてしまったのでは無いかと、しきりに心配している様子だった。実際、私は深く内容も把握しないまま窓口に求人を持ってきていた。

私が注意していたのは、勤務地や休日の日数、給与などの待遇に関する事だけだった。はっきり言って業種などどうでもよかった。やりたい仕事など無かったし、あったとしても都合良く求人に出ているはずが無い、とたかを括ってもいた。それにやりたい事を仕事にしたって仕事は仕事だ。辛い事は必ずあるし、辛いからこそ仕事になっているのだ、とさえ思っていた。

だから業種にはこだわらず、待遇の面だけを重視していた。そこで同じミスを繰り返すのだけは、どうしても避けたかった。

「何の抵抗もありません」

私は男性係員にそう告げた。実際に大した心配は感じなかった。


先刻、辞めてきた仕事は肉体労働に2tトラック運転手、それに商社の営業マンの仕事を足した様な業務に加え、”いつでも、どこでも全力で商品をお届けします”との文言から、時間の制約から完全に解き放たれた過酷な労働環境が展開されていた。そこから考えれば、大抵の仕事に対しては耐性が出来上がっている様な気がしていた。少なくとも尾行や張り込みを毛嫌いする様な心境にはならなかった。

「…そうですか。わかりました、では紹介状の方を書きますので少々お待ちください。」

係員は背中を向けて諸々の作業に取り掛かった。手際よく進められる、その仕事を私はただ、ぼんやりと眺めていた。

一通りを終え、係員はまた私に向き直った。

「一応なんですが…」

少しの間を置いて係員が言う。

「探偵という、解釈でよろしいですかね?」


何故だか少しだけ、背中がざわめいた様な気がした。



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