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***  作者: 葛西 三四郎
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我我の行為を決するものは善でもなければ悪でもない。唯我我の好悪である。或いは我我の快不快である。そうとしかわたしには考えられない。


侏儒の言葉/芥川 龍之介



世の中を覆うシステムにはシステムエンジニアが存在しない。誰かが作ったものではないんだよ。独裁者はいない。ただいつの間にかできあがったんだ。


モダンタイムス/伊坂 幸太郎



「本当に大丈夫ですか?」紹介状を書き渋る男は繰り返し私にそう尋ねた。私はそれに「何の抵抗もありません」とだけ答え、簡単な手続きを済ませた。-



二ヶ月前に仕事を辞めた。辞めてから一ヶ月は何もする気が起きず、ほとんど引きこもりの様な生活をしていた。

前の仕事で借りていた社宅を出ることになった時、どうしても実家に帰りたくなかった私は、同じタイミングで仕事を辞めようとしていた友人にルームシェアをしないかと話を持ちかけた。

幸い友人もそれを心良く了承してくれ、引越しは話を持ちかけてから一月とたたず完了した。

部屋をはじめて見た時、間取りが互いの部屋を完全に分ける様な形をしていたのでプライバシーでストレスを感じることは少ない様に思えた。実際、今までほとんどそこにストレスを感じたことはない。そのことで話したことが無いので相手がどう感じているかはわからないが、あくまで私個人としては一人暮らしの頃とほとんど心境の変化はなかった。


引越しが済んでからもまだ、しばらくは会社に籍を置かなければならなかったのは中小企業に有り勝ちな人員不足のために諸々の引き継ぎがスムーズに行かず、他の支店からの人事異動も簡単には進まなかったためだった。

まま辞めようと決めた理由も大方この人員不足にあるのだが、世間から見てそれがどの程度酷いものであったのかは、わからない。

この会社にしか勤めたことのなかった私は他の会社の待遇を話しでしか聞いたことがなかった。

人の話しなんて全てが嘘ではないにしても、全部が全部本当でもないのだから、あまりあてにはできないが、それでも自分の待遇が良くないことは話の内容から容易に感じとれた。だからと言って辞めるのもどうかとは思うが。


辞めたあと何かあてがある訳でもなく、また現職中に平行して就職活動をする訳でもなく、「どうにかなるさ」と思った訳でもないままに、自分が決定を下したその日に辞表を書き、次の日の朝一番に即刻提出した。

その時の所長の顔を今でもはっきりと覚えている。

驚きとも悲しみとも言えない表情で私を見て、理由は聞かないまま「考え直してくれないか」と言う所長に対し、私は「決めた事なので」と言うことしか出来なかった。

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