怖いと逃げたくなるのって当たり前だよね
不細工なおっさん達に囲まれた。
これだけを聞くとかなり危険な香りがするが、決してそっちではない。
というよりも、むしろそれより悪い状況だ。
おっさん達は全員石を持っている。そしてそれを僕に向けて振りあげている。
どう考えてもまずい状況だ。
はっきり言ってしまえば、こんなことを考えている場合ではない。
命の危険が目の前に迫っている。
これは走馬灯のようなものだろうか。時間が長く感じる。
石が振り下ろされる。僕に当たるまで、あと5センチくらいだ。
このままでは確実に死ぬ。
いや、駄目だ。
「うおおおおぉおぉぉああああ!」
グチャ
残り1センチ。絶叫をあげながら身を捻り、文字通り死ぬ気でかわす。
後頭部のすぐ後ろでゴンッと鈍い音が鳴った。
間一髪だ。一瞬遅ければ、どうなっていたか。
僕はそのまま転がり続け、ある程度おっさんと距離をとる。
安全な距離をとったところで、勢いよく起き上がり、周りを確認する。すると、おっさん達があっけらかんとした表情でこちらを見ていた。
「…あっ!」
何かを思い出したような口調で声を漏らす。
そうだ、逃げなきゃ。
気をつけの姿勢から綺麗に回れ右して走り出す。
10メートルくらい走ったところで寝そべるようにこける。
立ち上がってまた走り出す。
それを3回ほど繰り返してようやく安定して走り出した。
その間、おっさん達は目を点にしながら微動だにしなかった。
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「なんだったんだ、あのおっさんは。」
おっさんから大分距離を置いたところで立ち止まり、壁に背をかけながらズルズルと地べたに座り込む。
取り敢えず、現状を確認しよう。
まず周りは洞窟だ。岩に囲まれた長いトンネルになっている。ただし、ものすごく分かれ道が多いため、迷路方が合っているかもしれない。
明かりもないのにちゃんと見えると思ったが、どうやら壁全体が薄く光っているようだ。
さっき、身体が全く動かなかった。真っ暗だと思っていたのは目をつぶっていたから。
あの声の正体はわからない。
何故こんなところにいるのもわからない。
はっきり言ってわからないことだらけだ。
ただ、さっきのおっさん。あいつら、今思うと見たことがあるような気がする。
「確か……ゴブリン。」
そう、あいつらゴブリンにそっくりだった。
そういう民族なのだろうか。でも、だとしたら何故僕を殺そうとした?
それに言葉持っていなかった。肌の色も緑。人間ではないだろう。
「まあ、わからないこと考えてもしょうがない。まずは身の安全を喜ぶべきだろう。」
取り敢えず、怪我が無くて良かった。
頭よーし。
体よーし。
左腕よーし。
右腕なーし。
左脚よーし。
右脚よーし。
よし、五体満足。
生きてて良かった。
…ん?
今気づいた。
右腕がねえ。
今日最大の謎だった。
「ぅお!へ?あっはぁあああ!」
パニック。それがぴったりだ。
腕が無い。にも関わらず痛く無い。血も出ていない。
よく見ると肌の色も悪い。
残った左手で胸に手を当てる。
動いていない。
僕は初めから死んでいたようだ。