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小田からの贈り物

カミサマ

作者: 小田虹里

 いつもと変わらない空。息を吐けば白くなる……そんな日々も過ぎ去っていった。青空がどこまでも続く。俺には、眩しすぎるほどの光が差し込んでいる。運動靴で地面をけりながらも、スクランブル交差点にたどり着き、青信号になるのを待つ。


 ザワザワ……。


 周りの人ごみの雑音が、耳うるさく鳴り響く。こんなにも落ち着かないものだっただろうか。耳にイヤホンをかけて音楽を聴くスタイルは、これもまたあまり好きではない。聴覚がやられてしまうような気がするからだ。五感は大切にしておきたい。


 人だかりが出来ている。何かと思えば、路上ミュージシャンが自らの歌を披露している。楽な道ではないのに、夢を諦めないものは、こんなにも眩しいと思えるものなのかと、はじめて肌で感じた。機材がそうそう良いものではない為、音割れはしているし、マイクだって良いものじゃない。それでも、ふたりの青年は、自分たちの夢を歌に託して声を届けていた。

 一曲が終わると、周囲からはパチパチと拍手がまだらながらに上がり、青年たちも満足げに汗をかいて、ペットボトルのお茶をごくりと飲んでは、続いての曲の準備がはじまる。


 俺と、そうは年が変わらなさそうな青年たちだ。


 それなのに、俺には何もないなんて……カミサマというものが居るとしたら、なかなかに意地悪なものだと、皮肉な笑みを浮かべた。


「そこのお兄さん、リクエストくれたら歌うよ!」


 どんな魔がさしたのか。まばらとはいえ、他にもお客は居るというのに、よりにもよって一番端でたまたま目にしただけの俺に声をかけてくるなんて、どういう神経をしているのだろうかと、目を細めてため息を吐いた。そこまでのあからさまな態度を見せられてもなお、路上ミュージシャンである青年ふたりは、ひるまず営業トークとでもいうのだろうか。この場の空気を食っていた。


 それがまた、面白くはない。


 会釈だけを返すと、俺はまた歩き出す。


 俺には、カミサマみたいな絶対的な存在はない。夢も希望もなくした、世捨て人だ。帰る家はあるけれども、そこに誰かがいる訳ではない。アパートにひとり暮らしをしていた。バイトは一応しているけれども、家賃を払ってくれているのは、一応の俺の保護者に当たる男。最近顔を合わせていないけれども、全うに生きている社会人だ。こんな風にひとりうろついている、ハグレの俺とは別世界で生きている。


 いや、別世界に居るのはいつだって、俺の方かもしれない。


 いつからこんなにも、俺の世界は静かになったのだろうか。味気なく、淡々と過ぎ去っていく日々。何も得られることはなく、時計の針だけが、チクタクとせわしなく時を刻んでいく。


 夢や希望を失ったら、こうもひとは堕落してしまうものなのかと、あざ笑うかのように俺はタバコを蒸かした。自らをより、堕落させていくかのように……。


 カミサマ。


 聞こえているのならば、なぜ俺に生きる道を与えているのですか。


 カミサマ。


 俺は死んでもきっと、無に帰るだけで、カミサマを信仰したりはしない。


 カミサマ。


 俺がどんな禁忌に手を出したとしても、あなたはそこに居るのですか。


 カミサマ……カミサマ。


 俺はふっと笑みを浮かべた。馬鹿らしいと思えてきたのだ。カミサマが居ようが居ないだろうが、俺が俺であることに、変わりはない。俺は何を期待していたのだろうか。どれだけ無宗派を語ってみても、宗教論に興味がなくとも、最後に行きついた先では、ひとは極限状態で、「カミサマ」を信仰してしまうものなのかもしれない。


 だからこそ、カミサマは具現化しない。見えない方が、それらしいのだ。そのひとの望む姿で、「カミサマ」が存在していられるから。


「俺のカミサマは、どこに居るんだろうね」


 俺はまた、街中を耳うるさそうにしながら、姿を消していった。


 カミサマなんて信じない。


 そんな戯言を思い浮かべながら、一歩一歩。着実に歩いていく。その先に、自らだけのカミサマが居ることを、まだ知らないままに歩んでいく。




 ひとは、絶望したときにカミサマを望む。


 ひとは、幸せをかんじたときに、カミサマに感謝する。




 都合よき、カミサマへ……。



 はじめまして、こんにちは。小田虹里と申します。カミサマを信じていない……ように見えます作品ですが、小田自身は割と、カミサマとか仏さまとか、なんやかんや、信じている方だと思います。ただ、小田の作品のひとつ。「不確かなものたち」の「久保田藍」という青年は、きっとこんな感じで街中を歩いていたのではないかと思い、その世界観で書いてみました。「俺」イコール「藍」だと思っていただければと思います。まだ、「秋」に出会っていない頃の、やさぐれている感じが大きい「藍」です。


 ひとは、都合よく「カミサマ」という存在をつくりあげます。物事がうまくいったときには、カミサマに感謝し、うまくいかなかったときには、カミサマへの信仰心が薄かった。あるいは、居ないと考えるのでしょう。


 日本は、神道ですね。無宗教というわけではないと、習いました。「神道」ときくと、「え、神様?」と思いがちですが、自然界の中にカミサマを見出してきた民族です。そんなこと、言われなくてもわかっていると仰る方ばかりかとは思いますが、補足までに……。そういう宗教論の授業は、とても面白く興味深かったことを、今でも覚えています。しかし、信仰心が薄かったのか、小田は結構忘れてしまいました。また、機会があれば自分で学びたいとも思っております。


 小田にとっての、絶対的存在……カミサマは、家族なんだと最近になって思いました。カミサマ(家族)あっての、人生だと思っております。誰かひとりでも欠けてしまったら、崩れてしまうとも。

 しかしながら、我が家にはもう、母がいません。それはきっと、大きな打撃となり、小田のこころを蝕んだと思います。

 この話も、「不確かなものたち」も、「カミサマ」もといい「愛情」に飢えている主人公たちが、描かれているのは、そういうところからなのではないかと、思っています。


 不確かなものたちも、もう少しで完結します。その続編なるものも、書いていきたいと思っております。そして、私が一番力を注ぎ、大切にしている「COMRADE」シリーズ。こちらも、諸々のストーリー展開をすべて回収して、完結させていけるように、努めていきたいと思います。


 自分にとってのカミサマを大切にしつつも、周りにとってのカミサマへの妨害などはせず、調和した世界で生きていけるよう、努めなければならないのかもしれませんね。


 長くなりましたが、ここまで読んでくださりありがとうございました。また、別の作品でもお逢い出来ると幸いです。これからも、一生懸命に頑張ります。


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