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地龍のダンジョン奮闘記!  作者: よっしゃあっ!
第五章 貿易と防衛

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8.理解は出来ても納得できない事だってある

 

 “元人間”。

 エリベルは俺を指差してそう言った。

 あー、そう言えば言ってなかったけ。

 別に隠してるつもりもなかったんだけど、なんか言うタイミング逃しちゃって、ずるずる言わずにいたなぁ。

 ぽりぽりと頭を掻いていると、何を思ったのかエリベルは、より真剣な表情になって話を続ける。

 距離もさっきよりも近い。


 「………今まで、アンタが自分が人間だって隠したがっていたのは……分かってる。周りはみんな魔物ばっかりだったからね。でも、もうそろそろ皆に打ち明けてもいいんじゃないかしら?だって、アンタが元人間だからって、離れていくヤツは、ダンジョンにはもういないわ」


 そう言ってエリベルは俺の方に近づいてくる。


 「ぷぅー……」


 心なしかぷるるも触手を俺に絡めている。

 空気がなんか重い。

 あれ?何このシリアスな雰囲気。

 別に俺隠してたつもりないのよ?


 「アンちゃんだって、ウナちゃんだって、ドッスンだって、トレスちゃんだって、他の奴らだって、アンタの事をその程度で拒絶する奴なんていない。もちろん私や、その子だって」


 どんっと蜥蜴人姿の俺の胸に、エリベルは拳を当てる。


 「だから、アース。一人で抱え込むのは止めなさい」


 眩しいくらいの笑顔でエリベルは、にかっと笑う。

 えー……。


 「ここに来た理由は、私の昔話をするため。でも、それ以上にアンタ自身の考えを聞きたかった。眷属達の誰もいないこの場所で。あんた自身の言葉で。――――アンタが、人間だったって事に悩んでいるんじゃないかって」


 え、えーっと……。

 いや、その別に悩んでたり苦しんでなんていないんですけど……。

 ただ、言うタイミングが無かっただけで……。

 別に俺今の地龍の生活に十分満足してるし、元の人間に戻りたいとも思ってないし。


 『…………………』


 い、言いづらい。

 すっげー言いづらい。

 なにこれ?なんでこうなってるの?

 なんで、俺が人間だったことに悩んで、一人でその事を胸の内に抱え込んでいたみたいな感じになってるの?

 だらだらと汗を流しながら―――いやこの体ゴーレムだから汗は出ないんだけど、なんか本体の方が凄い汗かいてる気がする……。

 恐る恐る顔を上げると、エリベルが見えた。

 笑ってる。

 眩しいくらいに笑ってらっしゃる。

 何その「一人で抱え込まなくていいんだよ?」的な表情。

 慈しみに満ちた聖女の様な表情だ。

 お前そんなキャラだったっけ?

 違うでしょ?

 にっこり笑いながら、相手の皮とか鱗とか笑顔で剥ぎ取る追剥みたいな悪女でしょ?

 なにちょっといい人みたいな感じに成っちゃってるの?

 騙されませんよ?

 どうせ、そう言って皮とか剥ぐんでしょ?


 ぷるるも、ものすごい数の触手を俺に絡めてきている。

 というか、ごめん、ぷるる。

 実をいうと、これ結構痛いんだ。

 そろそろ解いてくれないかな?

 血液が鬱血してきている。

 憑代のこの体でその痛みを感じるってことは、多分本体の方もがんじがらめになってる気がする。


 「良いアース?一度しか言わないから良く聞きなさい。アンタがたとえどんな奴であっても、私たちが眷属で居るという事は変わらない。その事を、忘れるんじゃないわよ?」


 あ……うぅ……あぁ……。

 ………言うのか?

 言えばいいのか?

 このタイミングで?

 このくっそ重い空気の中で?


 いや、逆に考えるんだ。

 このなんか重たい雰囲気を打開するには、返って開き直った方がいい筈だ。

 よし、開き直ろう。

 すーはーと呼吸を整える。

 よし。いける。

 努めて明るい口調で俺は言う。


 『あー、そう言えば言ってなかったっけ。うん、確かに俺も、元人間だったわ。ははは……』

 

 あははーと、あっさりと、ポリポリと頭を掻きながら俺はエリベルに答える。

 いや、だって隠してたつもりないし。

 聞かれなかっただけで。

 本当だよ?


 「………………………………は?」


 その余りの気負いの無さに、エリベルはポカーンとした表情でこちらを見ている。

 ハニワみたいになってる。

 え、何その顔?


 『いや、まあ言うタイミングが無かったけど、うん。俺、確かに元人間だよ』

 

 「え?いや、え、ちょっと………えぇっ!?」


 何やら愉快なリアクションの賢者さん。

 そんなに、驚く事かな。

 いや、まあ、俺も最近は人間だったって事ちょくちょく忘れるけどさ。

 なんていうんだろうな。

 人間だった時の生活があまりに薄すぎて、大して未練が無かったからかな。

 だから、あっさり地龍としての今も受け入れられたわけだし。


 「ぷぅ?」


 ぷるるは『なになにどういうことー?』みたいな感じで、こちらを見て来る。

 可愛い。

 でも、そろそろ触手を離してくれないかな。

 ぎりぎり締め付けられて、そろそろ出ちゃいけないモノが出そうなんだ。


 『正確に言うなら、人間だったころの記憶を持って、地龍に転生したって感じかな?というか、別に隠してるつもりもなかったんだけどな』


 「はぁっ!?」


 目が物凄い見開いてる。

 今のエリベルは見た目生前の美女の姿だ。

 それなのに、ものすごい残念な表情になってる。

 百年の恋も冷めるくらいの顔だ。

 逆に面白い。


 「アンタ………そんな大事な事、なんで今まで黙ってたのよっ!?て、転生!?なにそれちょっと詳しく――じゃなくて、私がどれだけ覚悟して、アンタに質問したと思って―――いや、そういう事じゃなくて!」

 

 混乱の極みにある賢者さん。

 よし、重い雰囲気は拡散した。

 これでイケる。

 俺はとりあえず地龍になった経緯を話した。

 話し合いは大事。

 


 

 ―――――そして、説明を終えて、ようやくエリベルは落ち着きを取り戻した。


 俺はとりあえず全部話した。

 文字通り全部だ。

 地龍に生まれる前の自分。

 生まれ育った場所、地球について、日本について、そして目が覚めたら地龍になっていたことも、全て話した。

 まあ、日本についてとか話してたらだいぶ長くなっちゃったな。

 天蓋から見える太陽がだいぶ傾いている。


 「はぁ………常識外れだとは思ってたけど―――――ここまでだったとは流石に予想外だったわ」


 なにやら疲れた表情のエリベルさん。

 気のせいか陰りが見える。


 「前世の記憶ね……、それも異世界。輪廻転生ね。そんなものが、本当にあるだなんてね……。しかも何、地球?日本?さらりーまん?おかしな国に生まれたのねアンタも」


 行ってみたいわ、とエリベルは呟く。

 いや、こっちの世界の人にそう言われたくはないんだけどな。

 太陽が二つもあるって時点で、俺からしたらあり得ないんだし。

 その上、でっかい飛龍やでっかいカラスまでいたんだし。


 「ぷぅー……?」


 ぷるるは「わけがわからないよ」的な感じで体を震わせている。

 どうやら、俺の説明はぷるるの理解の許容範囲を超えていたらしい。

 体を震わせながら、体内の気泡がごぽぽぽと泡立っている。

 この状態は混乱している時だ。

 でも悩んで混乱してるぷるるも可愛いよ。

 らぶりー。

 だから、そろそろ触手を解いてくれると嬉しいな。


 『まあ、信じる信じないは別だけどさ。俺がそう思い込んでるだけかもしれないし』


 本当は前世なんてなくて、俺が勝手にそう思い込んでいるだけなのかもしれない。

 もしくは、いま俺が見ているこの現実が現実ではなく、ただ日本に住んでる俺が見ている夢なのかもしれない。

 胡蝶の夢っていうんだっけ?

 夢なのか現実なのか、今の姿はホントなのか、それともただの妄想なのか。

 もしかしたら、次の瞬間には俺は夢から覚めて、あの汚いぼろアパートに戻っているのかもしれない。

 

 まあ、そんなの意味ないけど。

 大事なのは今だ。

 いま、俺はここにいて、こうして地龍として生きている。


 それだけで、良いと思う。

 少なくとも、俺はそう思っている。

 働きたくないし。


 「―――――信じるわよ」


 予想以上にあっさりと、エリベルはすんなり俺の言葉を受け入れた。


 「てっきり、何らかの理由で――それこそ、呪いや魔術実験の類で地龍に変えられた人間かとも思ったけど、そっちの方が色々すんなり筋が通るわ。いろいろ疑問に思ってたことも納得できたしね」


 『そ、そうか』


 理解力有りすぎだろ賢者。

 妄想の戯言だって言っても不思議じゃない内容なのに。

 前世だとか、異世界とか、そう言うのも全てすんなりと受け入れる、エリベルの器量のデカさに改めて驚かされた。

 ホントこれで性格がアレじゃなかったら完璧だったのにな。

 もし、これで性格もまともだったら、前世の俺なら即堕ちる。

 無いけどさ。

 エリベルは俺の方を見る。


 「アンタが龍、いえ、そもそも、まともな魔物だとは最初の頃から信じられなかったしね」


 『へ、そうなのか?』


 「当たり前でしょ?アンタみたいに龍らしくない龍なんて、この世にいやしないわよ。知性を持った龍や魔物は何体も見てきたけど、アンタはどう見ても“異質”だったからね。まあ、流石に異世界人だったっていうのは予想外だったけど」


 『まあ、俺もすんなりこんな話を信じてもらえるとは思わなかったよ』


 「でも、一つだけ。どうしても納得がいかないことがあるんだけど。いえ、というかどうしても信じられない事が一つあるのだけれど……」


 顎に手をやり、ぐむむと唸りながらエリベルは頭を捻る。


 『何だ?』


 今の話でも、すんなり受け入れたこいつが信じられない事なんてあるのか?


 「アンタはその、日本?っていう国で、“働いてた”って言ったわよね?」


 『ああ、言ったな』


 しがない窓際族だったけど。


 「…………なんで、アンタみたいな性格のヤツが働けたの?」


 ものすごくまじめな顔エリベルは聞いてくる。

 信じられないモノを見るような目で、冷や汗までかいている。


 ――――ありえない。お前が働くなんてあり得ない。


 その表所は言外にそう語っていた。


 えっ!?信じられないポイントってそこっ!?


 もっといろいろあるだろうに、何でそこだけ信じられないんだよ!






 働いてたよ?

 ホントダヨ?

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