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地龍のダンジョン奮闘記!  作者: よっしゃあっ!
第五章 貿易と防衛

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4.前に進まなきゃ



 ドスから昨日の夜あった出来事を聞いた。

 更に、思念通話と記憶送信で、昨日あった出来事そのものを見せてもらった。


 『そうか………トレスが……』


 驚く一方で、やっぱりか、とも思ってしまった。

 トレスのヤツ、ここ最近妙に町や村に行くのを避けてたしな。

 それに加えて、見知った冒険者のダンジョンへの侵入。

 いろいろ積もっていた感情が、爆発したって感じか。

 

 「…………どうするの?」


 問うてくるのはドスだ。

 

 ちなみに今この場にいるのは、俺、ドス、エリベル、ベルク、ぷるるの五人だ。

 アンはエルド荒野に、ウナは北にあるハルシャルード聖王国にそれぞれ出ている為、しばらくは戻らない。

 二人にはそれぞれやって貰う事があるからだ。


 問題のトレスは、部屋で眠っている。

 勿論、エリベルの配下のレイスが監視で憑いている。

 何かあれば、直ぐに知らせてくれるだろう。


 『うーん………』


 ぶっちゃけ………どうしよう?

 結果だけ見れば未遂に終わったとはいえ、今回の行動はダンジョンの意向を、無視した独断専行だ。

 でも、一方でその根底にあるのは“ダンジョンを守りたい”という思いである事も否定できない。

 

 「……アース、言っておくけど、トレスちゃんを処罰するとかそう言うのは無しよ?」


 発言したのはエリベルだ。

 

 「今回の一件は、トレスちゃんの行動を予測できなかったアンタの失態」


 ビシッと俺を指差して、エリベルは言う。


 「眷属にとって、ダンジョンの為に“人間を生かす事”と“人間を殺す事”はどちらも成り立つのよ。特に、きちんと“意志”と“心”を持ったヤツにはね。百人いれば、百通りの考え方がある。その事をきちんと自覚しなさい。アンちゃんにも言ったけど、眷属誰もが、アンタを肯定するイエスマンじゃないのよ。受け取り方も、考え方も、全員違うんだから」


 左右の骨の指を交差させながら、エリベルは言う。


 『そうだな……ホント、その通りだ』


 返す言葉もないな。

 きっと俺は心のどこかで、多分何とかなるだろうと、みんながみんな上手くやってくれるだろうと、そう思っていたんだろう。


 だから、トレスの抱えていた悩みに気付けなかった。

 そして、それが今回の暴走に繋がった。

 ドスのおかげで未遂に終わったけど、もしあのままトレスが冒険者達を殺していたら、どうなっていたか分からない。

 俺達のダンジョンも、トレス自身も。


 「あら、随分素直なのね……」


 俺の反応が意外だったのか、エリベルが少したじろいだ。


 「………ま、まあ、アンタだけ責めるのもお門違いなんだけどね。―――私達眷属にだって責任はあるわ。ずっと、一緒にいて誰もあの子の内心に気付けなかったんだからね」


 「ぷるー……」


 ぷるるも心なしか体内の気泡の数が少ない。

 ショックだったのだろう。

 きっとこの中の誰よりも、トレスと仲が良かったのは、ぷるるなのだから。

 ……らぶりー出来ない。


 「――――少し良いかの?」


 そこで、今まで沈黙を保っていた巨人。

 ベルクが口を開いた。


 「トレスの件じゃが、儂に任せてはもらえんか?」


 その意外な申し出に、全員が漏れなく目を丸くする。

 

 『え?』

 「………!?」

 「ぷる…?」

 「ちょっ!?アンタ、ふざけるんじゃないわよ!ベルク!!せっかく傷心に託けてトレスちゃんに合法的にセクハラ出来るチャンスなのに―――グホァッ!!!」


 エリベルが言い終える前に、ドスが思いっきりその頭を叩く。

 おお、思いっきり地面にめり込んでる。

 ナイス。

 

 「この中で、あのお嬢ちゃんが、人間を憎むきっかけとなった場にいたのは儂だけじゃ。少なくとも、この場の誰よりも、あの子の抱えるモノに関しては、詳しいじゃろう。儂に任せてはもらえんか?」


 ―――千手が自害したっていうあの時か。


 確かに、トレスと一緒にいたのは、ベルクとサイ型のゴンゾーだけだった。

 俺も、あの一件が落ち着いてから、ベルクに聞いたしな。

 ちなみにゴンゾーは猿の長モンに中層ダンジョンの森エリアに居る。


 『大丈夫なのか?』


 「確実なものなどないわい。じゃがまあ、やるだけやってみるとしよう」


 『………わかった』


 多分、今俺が話しかけてもトレスの心には響かないような気がする。

 トレス同様、千手を殺された悲しみや恨みはある。

 でもきっと、俺が感じているそれと、トレスが感じているそれは別物だ。

 俺が千手に感じている感情は、どちらかと言えば愛着のあるモノや武器が壊れたという感覚に近い。

 冷めていると言われるかもしれないが、俺にとって千手とはゴーレムの作品の一つにすぎないからだ。

 でも、おそらくトレスはウナやドス、アン同様千手を眷属かぞくの様に思っていたのだろう。

 その事に俺は気付けなかった。


 『すまん。任せたよ、ベルク』

 

 俺はベルクに素直に頭を下げた。

 こういう時、俺は頼むこと、頭を下げることしか出来ない。


 「…………僕からも、お願い」


 ドスも頭を下げる。

 コイツもコイツで、トレスの事が心配なんだろう。

 兄貴だしな。


 「任されたとしよう」


 ベルクは真剣な顔で頷いた。

 とりあえず、この一件はベルクに任せることで、この場はお開きとなった。

 あと、エリベルはそのまま埋めておいた。

 間違ってもトレスにセクハラしに行くんじゃねーぞ?




 『…………はぁ』


 深層を歩く俺の足取りは重い。

 話し合いを終えて、特に何をする気もなく、俺は深層をプラプラ歩いていた。


 そして―――気が付いたら、トレスの部屋の前まで来ていた。

 眷属達にはそれぞれ一室ずつ個室が与えられている。


 ベルクに一任するって言っちゃったけど、それでもなぁ……。


 『………俺が話したって、どうなるとも思えないんだけどなぁ……』


 部屋からはトレスの魔力しか感じられない。

 既に、ベルクは部屋から出て行ったのだろう。


 「………お父ーさん?」


 扉の向こうからトレスの声が聞こえた。

 まあ、この距離だしな。

 そりゃ、気付くか。


 『ああ。入っていいか?』


 「……………いいよ」


 ややあって、トレスから了承をもらう。

 扉を開け、狭い扉を何とか潜って、部屋の中に入る。

 うん。龍の体には普通の扉って入りにくいだけだよね。

 トレスは森の植物で作ったベットの上に座っていた。

 あれ、いいなぁ。

 フカフカで気持ちよさそう……て、今はそんなこと考えてる場合じゃないか。


 とりあえず、ベッドの前に座る。

 トレスは俯いたままこっちを見ようとしない。

 気まずい沈黙が続く。

 ベルクは何て言ったんだろうか?

 

 「…………さっきね、ベルクのオジサンが来たんだ」


 ぽつりとトレスは俯いたまま、口を開く。


 「千手と遊んだ事とか、楽しかった事とか、色々お話した」


 『ああ』


 「それでね、最後に言ったの。『一人で抱え込むな、何のための眷属かぞくなんだって』言われた」


 ドスお兄ーちゃんにも同じこと言われたと、トレスは言う。


 「お父ーさん……」


 『何だ?』


 「お願いがあるの」


 そう言って、トレスは懐から砕けた魔石を取り出した。

 これは………?


 「千手の“魔核”。あの時から、ずっと持ってた」


 ひびが入り砕けた錆色の魔核。

 でも、もう魔力のかけらも感じない、ただの石だ。

 ………いや、でもこれは―――?


 「お父―さん。これで、私に新しい武器を作ってほしい。絶対に負けない強い武器を」


 そこで初めてトレスは顔をあげた。

 その表情は、決意に満ちた強い表情だ。

 何かを抱え込んでいるような顔ではない。 

 幼いながらも、真剣な眼差しをしていた。


 『……負けないっていうのは、人間に対してって事か?』


 「うん。それもある。けど……私、絶対に負けたくないの、人間にも…………“自分”にも負けたくない。千手の分まで、頑張らなきゃいけないんだから。一人で抱え込まないで、皆と一緒に、お父―さんとダンジョンを、眷属かぞくを守ってみせる」


 そう言ったトレスの顔は、どこかすっきりした表情だった。

 ベルクとの会話の中で、何かしら変わったのだろうか?


 「だからお父ーさん、お願いします。この魔石で私に武器を造って下さい」


 慣れない敬語を使いながら、トレスは俺に頭を下げる。

 はぁ、まいったな。

 ホント、俺がでしゃばる必要なんてなかったじゃないか。

 砕かれた魔核を見る。


 ――――答えは決まってる。

 

 『わかった』


 俺はトレスから砕けた魔核を受けとる。


 『任せとけ。絶対に、俺の最高の一品を作ってみせるよ』


 エリベルの知識も素材も使った最高傑作だ。

 トレスの為なら、エリベルも素材や知識の提供も拒まないだろう。


 「――――うん!」


 そう言ってトレスは笑った。

 そして、タイミングを見計らったかのように、あの声が聞こえた。


 「ぷるーぷるー!」


 「あ、ぷるる!」


 見れば、扉の脇にぷるるが居た。

 ぷるるもトレスの事が心配だったのだろう。

 ぴょんぴょんと器用に飛び跳ねて、トレスの胸元に飛び込んだ。


 「ぷるーぷーぷぷー!」


 「うん……うん。そうだね。ごめんね、ぷるる。私、眷属かぞくが大事だって言ってたくせに、色んなものが見えてなかった」

 

 「ぷぷぷぅ!ぷーぷー」


 「うん……うん。分かってるよぷるる」


 ぎゅっと、トレスはぷるるを抱え込むように抱く。

 うん。

 何を言っているのか分からないが、きっとぷるるもいいことを言っているの違いない。

 何言ってるのかとか、突っ込んだらいけない。

 雰囲気的に。


 「ぷーぷぷぷー」


 「うん、有難う、ぷるる。これからは、一杯頼らせてね。それで、私の事も一杯頼ってね」


 「ぷう!」


 元気になったトレスを見て、ぷるるも嬉しそうだ。

 やっぱり、トレスはこうでなくっちゃな。

 らぶりー。

 癒されるわ。


 それにしても、ふさぎ込んでたトレスをここまで変えるなんて、ベルクはどんな説得をしたのだろうか?

 後で聞いてみよう。


 「………それでね、お父ーさん」


 『ん?どうした?』


 「もうひとつお願いがあるんだけど………その、今日一緒に寝てもらってもいい?ぷるるも一緒に」


 ちょっと頬を赤くしながら、トレスはもじもじと聞いてくる。

 何だそんな事か。


 『ああ、いいぞ。今日は久々に三人で寝ようか』


 「ぷぅ!」


 「やったー!」


 新しいダンジョンになってから、一緒に寝たのは初めてだな。

 その日は、三人でぐっすりと眠った。

 



 そして、さらに数日後―――。


 『トレス、出来たぞ』


 俺は完成した武器をトレスに渡す。


 「わぁ……」


 千手の持っていた武器の一つをモチーフに作り上げた三鈷杵だ。

 遠距離特化のトレス専用に作り上げた武器で、本人の術式の底上げや、演算処理のサポートを行ってくれる。

 エリベルも多大に協力し、ギミック満載の自信作だ。

 性能的には、以前に渡した劣化版聖剣レヴァーティンを遥かに上回る出来になった筈だ。

 トレスはそれをぎゅっと抱きしめる。


 「有難う!お父ーさん!」


 花が咲くほどの明るい笑顔で、トレスは笑った。


 『…………あれ?』


 ふと――――気のせいだろうか?

 トレスが三鈷杵を受け取った瞬間、彼女の後ろに千手が見えたような気がした。

 壊れて、もういないはずのゴーレムが。

 トレスをやさしく見守るような姿で。


 もう一度目を凝らしたら、もう見えなかったが。

 でも、その表情はいつもと同じ能面のような顔だったのに、何故か笑っているように見えた。




 

 

 ―――――頑張ッテ。


 





 一方その頃―――


 エリベル「ベルクのヤツ、一体どうやって、トレスちゃんを説得したのかしら……?――ハッ!?まさか、トレスちゃんの体に直接説得をッ!?イヤらしいわ!エロ同人みたいグハァッ!!」

 ドス  「………少し、頭冷やそうか?」

 エリベル「……ま、まさか、私の魔力障壁を突破するなんて……腕を上げたわね……ガク」

 ドス  「………悪は滅んだ」


 



 

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