EX6.魔術都市エンデュミオンの冒険者ギルドでの会話
『黒ハイエナの牙』に同行していた魔術師バランさんのギルドでの報告になります。
魔術都市エンデュミオン所属の魔術師バランは、『黒ハイエナの牙』と別れた後、事の顛末をギルド長へと報告していた。
ユグル大森林に出来たダンジョン。その中に存在する転移門。その行先、その安全性及び魔術回路の安全性、更にその帰り道仮面を被った謎の少女の襲撃を受けた事。
初老の魔術師は、ありのまま、起こった出来事、全てを報告した。
「――――以上が、報告となります」
「ふむ……転移門の行先はアッド山脈それにグオル火山か……」
どちらの近隣に町や村があり、ギルドの支部も存在する。
転移した先では、そちらの支部でも調査が進んでいたらしい。
「はい。向こうに転移した際に、北にあるハルシャード聖王国の魔術師、東の倭の国の侍とも話をしました。様々な角度から検証しましたが、転移にかかる時間も安定性も極めて高いかと思われます」
説明するバランの手に握られているのは、それぞれのダンジョンでの転移門に関する報告書だ。
各ギルド支部での情報共有の為、お互いの持つ検証結果を精査し合ったのだ。
その事については、既に各支部長の間で了承が済んでいる。
「ふむ……成程な……むぐむぐ」
報告と目の前の書類を見ながら、魔術都市エンデュミオンの冒険者ギルド支部長ジェラルド・オーズウェルは紅茶を口にする。
羊皮紙の傍には、色とりどりの菓子も置かれていた。
顎ひげを蓄え、隆起した筋肉が服の上からでもはっきりとわかる巌の様な男が、紅茶を飲みながら、菓子を頬張る。
この男、この外見で相当な甘党なのだ。
何とも、ミスマッチングな光景だが、バランはそんなことはおくびにも出さない。
だって、口にしたら、間違いなくボコボコにされるだろうから。
「……もしこの転移門が、これからも活用可能ならば、各国の交易が飛躍的に伸びるな」
「そうですね。ダンジョンの奥には第二層へ続く階段もあり、『黒ハイエナの牙』の皆さんと共に調べてみました」
その結果、ゴーレムが数体うろついていた程度だった。
強さもそれ程ではなくせいぜい初級かその程度。
脅威の度合いとしては大したことは無い。
しかも、入口より一定以上の距離には近づいてこず、冒険者達が奥へ行けば攻撃を加える様になるとの事。
更に、いくつか宝箱の様なものが発見されており、中々値の張る魔石や武器も発見されているらしい。
「………そのゴーレム達が第一層へ上がってくるという事は考えられるか?」
「絶対とは言い切れませんが、まず無いと考えていいかと」
「根拠は?」
「ゴーレムに組み込まれていた術式を解析しました。彼らに組み込まれていた術式は“ダンジョン防衛”及び“一定範囲内への侵入者への攻撃”です。したがって、ちょっかいさえ出さなければ、問題は無いかと」
もし何かある様ならば、第二階層への階段に衛兵を設置すればよいと、バランは言う。
それを聞いて、ジェラルドは口を開く。
「北も東も、未だこのダンジョンの――正確には転移門の処遇を決めかねている。所詮はダンジョンだからな。危険が無いとは言い切れん。そんなものを、国益として重宝しているのは『ファーブニル』を有するハザン帝国位のものだ。わざわざダンジョンに“蓋”まで作る入れ込み具合だからな。あそこの皇帝は代々ダンジョン狂いだからな」
「問題発言ですよ?」
「ふん。この場には儂と君しかおるまい」
「まあ、そうですが」と、バランは薄い髪を掻く。
その姿はいかにも中間管理職と言った風体だ。
古ぼけたメガネが彼の心情を良く表している。
「ですが、支部長、もし仮にこの転移門を使えば……」
「……ああ、北・西・東の三国の間に強固な貿易ルートが出来上がる。各国の産業も飛躍的に発展するだろう。この転移門の存在は間違いなく、輸送革命を起こすだろうからな」
もっとも、と彼は言う。
「それを決めるのは、我々ではない。上が判断することだ。ともかく、報告御苦労、ゆっくりと休んでくれ。報告にあった“仮面の少女”についてはこちらでも調査をしてみる」
「はい」
あの後、バランと『黒ハイエナの牙』はエンデュミオン周辺の街道で、近くを通りかかった衛兵に発見された。
馬車の操舵主の位置には、大量の土が被さっており、何者かがゴーレムを使い、自分たちを運んでくれた事は予想出来た。
一体誰が自分たちをここまで運んでくれたのかは分からない。
だが、その知らない誰かにバランは心の中で感謝をささげた。
「それでは、支部長。私はこれで失礼しますね」
そう言ってバランは部屋を出ようとするが、その前に再びジェラルドから声を掛けられた。
「ああ、すまん。ちょっと待ってくれ」
「?なんでしょうか?」
「君が雇ったあの冒険者達……たしか『黒ハイエナの牙』だったか?」
「はい。そうですが?何か?」
何か気になる点でもあっただろうか?
彼らの仕事ぶりにはバランも満足のいくものだった。
あれで未だにCランクだというから驚きだ。
戦闘能力も加味すれば、もっと上位でも問題ないと思えるのに。
「彼らも、ボルヘリック王国から来たのか?」
そこの事か、とバランは思った。
半ば予想していた質問だったからだ。
「………ええ。今、この大陸で最も荒れているのは、あの国でしょうからね。彼らも、生活の為に、この国に移ってきたようです」
エルド荒野大規模討伐作戦以降、ボルへルック王国は衰退の一途をたどっていた。
魔石の産出も枯渇し、その財政は目に見えて悪くなっていく一方だ。
かの国より魔石を輸入していた魔術都市エンデュミオンも、少なくない被害を被っている。
なにより、そこから生じた難民がかなりこちらにも流れてきた。
「そうか……やはりエクレウスの存在は大きかったようだな」
エクレウス・レーベンヘルツ。
ボルヘリック王国の宰相だった者の名前だ。
あのエルド荒野大規模模討伐作戦の際に戦死したと、公表されている。
「ギルド長はかの国の宰相とも懇意に?」
「ああ。魔石の輸入や、魔道具の運搬など全て、ヤツが仕切っていたからな。あれほど優秀な男は見たことが無かった。後継者の育成にも熱心だったのだがな……」
残念そうに、ジェラルドは菓子を口に放り込む。
それに、と彼は続ける。
「“龍殺し”や“穿界”の件も含めて、儂は未だにあの国の決定に納得したわけではない」
「ギルド長……。公の場で、そのような事を言うべきでは……」
「この部屋の内部では、何を言おうが問題ない。それは君も知っているだろう」
「は、はぁ……」
この部屋に張ってある結界は、エンデュミオンの技術が存分に使われた強固な結界だ。
音も気配も、匂いもあらゆるものを外部から遮断することが出来る。
だが、小心者のバランはついつい周囲に人がいないかどうかを警戒してしまう。
冷や汗をハンカチでぬぐう姿は、何とも様になっている。
「バラン、君も心しておけ。おそらく、あの国は、あと数年と経たずに崩壊するぞ?」
「なっ……!?」
その発言に今度こそバランは目を丸くした。
「今あの国を取り仕切っているのは、あの“レイノルズの魔女”だ。あの女は昔から得体がしれんからな。傀儡となっている王族にも期待は出来ん。もしもの際の準備をしておく必要がある。上の連中―――理事会の方も、既に対策を練っているとの事だ」
「わ、分かりました」
「ああ、それと、もう一つだけ……どうしても確認しておきたいことがあるのだが」
そこで、ジェラルドは改めてバランを見た。
その余りにもまじめな表情に、バランも思わず生唾を飲む。
「な、何でしょうか?」
一体どんなことを聞かれるのか?
内心冷や汗をかきながら、バランはジェラルドの言葉を待った。
「―――君と同行した『黒ハイエナの牙』なのだが………何故、彼らはあのような奇抜な装いをしているのだね?」
「…………………えーっと……」
今度こそ、バランは完全に返答に詰まった。
バラン氏がギルドにて返答に困っていたその頃―――
『黒ハイエナの牙』のメンバー五人はと言うと、
リーダーのモヒカン、サブは新居で妻と子供二人と共に食事を
刺青は老いた母親の介護を
チビとデブは街の清掃を
グラサンは空から落ちてきた謎の美少女と共に裏路地を疾走しながら謎の黒服たちと戦闘を
それぞれ、していたそうな。




