2.酒の席でのことは大抵忘れてる
さて、ファンキーな冒険者達と初老の魔術師の一団は、順調に第一層を歩いてゆく。
まあ、一層にはトラップもゴーレムもないから順調なのは当たり前だけど。
うーむ、しかし、この映像………前世のウチのテレビより画質良いなぁ。
毎回思うけど、エリベルの技術って無駄にすげぇ。
ちなみにこの映像。
音声もきちんと拾うことが出来るのだ。
彼らの会話もばっちり聞こえるのである。
勿論、音量調節可能。
どんな会話をしているのかな?
ちょっと気になったので、彼らの音声が拾えるくらいまで、音量を上げてみた。
表層ダンジョン第一層にて―――――
『サブさん、本日は護衛を引き受けて下さり有難う御座いました。ですが、本当に良かったのですか?エンデュミオンに来たばかりなのでしょう?私が言うのもなんですが、こんな依頼を引き受けるよりも、町の中での依頼の方が、奥様も安心されるのでは?』
初老の魔術師バランは『黒ハイエナの牙』のリーダーサブに話しかける。
『はっ!くたばりぞこないのジジイが一丁前に心配なんかしてんじゃねーよ!おら、足元に気を付けやがれ!でっけー石が転がってんじゃねーか!躓いたらどーすんだよ、ア゛ァ゛!?』
『おやおや、確かに。すいませんねぇ、細かいところまで気を使って頂いて…』
『ヒャッハ!アンタは大人しく自分の心配だけしてれば良いんだよ!よいしょっと(石をどかしながら)』
『そうですか。皆さんのお噂はかねがね伺っております。では、周囲は皆さんに、お任せしますね』
『そうそう、そう言う素直な態度は嫌いじゃねーぜ、ヒヒヒッ……!』
『あ、兄貴ィ……どうやらそろそろ例の場所みたいっスよぉ……。オイラ先に行って、危険が無いかどうか見て来るっスね、ヘッヘッヘ』
『オウ!テメェラッ!このクソジジイが仕事終わらせるまで、邪魔ぁ入らねー様にしろッ!コイツには、生きて町まで戻って、たんまり金を貰わなきゃいけねーんだからよぉ……ヒャハハ!!!』
「「「「了解しやしたっ!」」」」
ダンジョン監視室にて――――
『何、こいつら……?』
どうやら彼ら―――『黒ハイエナの牙』と言うらしい―――は、魔術師の老人に護衛で雇われたらしい。
転移門がどこに通じているのか?
安全に潜れるのか?
それを調査しに来たようだ。
『黒ハイエナの牙』達は常に周囲を警戒しながら、時折魔術師の老人をいたわるような行動を見せている。
しばらく眺めていて分かった。
こいつら、すっげーまじめな奴らだった。
絶対、見た目と言動で損してる。
間違いない。
態度や言動が紛らわしすぎる。
いっそのこと、わざとやってるんじゃないか、と思えるくらいに紛らわしい。
「――――あら、ようやく転移門の解析に来たみたいね」
不意に後ろから声がした。
『あ、エリベル。中層から戻ってたのか?』
「ええ。トラップの改良は終わったわ。ドッスンや、トレスちゃんも戻って来てるわよ。そっちはダンジョンの監視……じゃないわね。大方暇つぶしでしょ?」
見抜かれていた。流石、賢者。
『そ、そうだよ……』
なんだよ?
怒るのか?
止めてよ、怖いから。
「そう身構えないでよ。別にどうこう言うつもりないから」
『あ、そうか……』
よかった。
鱗とか爪剥がされなくてよかった。
「今の連中、転移門の解析に来たみたいね。……私の予想よりもずいぶん遅いわね」
そう言いながらエリベルは映像を見る。
まあ、当初想定してた時期よりも、冒険者達が来るのがずっと遅かった。
『解析されても問題ないんだよな?』
「ええ。アレはあくまで移動用の転移門だからね。むしろ、さっさと解析して貰って、安全性や利便性を伝えて貰わないと」
『確かになー』
このダンジョンは安全に移動に使えますよって、商人とかに伝えて貰えれば、表層を利用する人間は飛躍的に増える。
最終的には、国の輸送経済に食い込めるくらいになれば、御の字だ。
そうなれば、ダンジョンを壊される心配は少なくなる。
「……それにしても、派手な連中ねー。あんなのがまだ残ってたなんて意外だわ」
『え?二百年前にも、ああいうやつらが居たのか?』
マジで?パンクファッションって、二百年前からこの世界に浸透してたのか?
「ええ。当時はもっと過激だったわよ。何せ、右腕がパイルバンカーのヤツだっていたんだから」
『マジかよ……。いくらファッションでも、それはやりすぎだろ』
「そうよねー。私も当時見た時は引いたわ……。良いとこ出のお坊ちゃんだったのに、何があったのかしらねぇ?」
『さあな』
盗んだバイクで走りだしたくなったんじゃないの?
「あ、帰るみたい。解析終わったようね」
『そうみたいだな』
そうこう言っている内に『黒ハイエナの牙』と魔術師の老人は調査を終えたらしい。
中央広間から出て行った。
これで、ダンジョンの噂は広まっていくだろう。
うまい方向に転がってくれることを祈るだけだ。
『さてと……そろそろ寝るかな』
映像を見てたら、すっかり夜だ。
久しぶりに面白い奴らが来たな。
良い時間つぶしになった。
「それじゃ、お休みなさい、アース」
『ああ、おやすみー』
エリベルはそのまま研究室へ向かった。
多分また何かの研究をするのだろう。
アンデッドだから睡眠不要だしな。
さてと、俺も寝床に戻るとしよう。
―――しかし、俺はこの時気が付かなかった。
監視室の外で、もう一人この映像を見ている者が居たことを………。
とある街道にて―――――
『黒ハイエナの牙』のリーダーサブは馬を走らせていた。
転移陣の解析が予想以上に長引いたため、すっかり夜になってしまった。
月明かりに照らされた街道には障害物は無く、このままいけば、後一時間ほどで魔術都市エンデュミオンに着くだろう。
そして、魔術師であるバラン氏をギルドまで届ければ、自分たちの依頼は終了だ。
後は報酬を受け取れば、今日の仕事は終わりになる予定だった。
後ろに座ったメンバーの一人がサブに話しかける。
「兄貴ィ、今日は飲まないんですかい?」
「わりぃなぁ。クソガキ共が待ってるからよぉ……よーく寝かしつけてやらねぇといけねぇんだよ……ククク」
そう、三歳になる息子と、一歳になる娘が自分の帰りを待っているのだ。
さっさと帰って、彼らを安心させてやらねばならない。
ただでさえ、ボルヘリック王国からエンデュミオンへの長旅で精神的に疲れているのだ。
少しは父親らしくしないと、嫁や子供に愛想を尽かされてしまう。
そう思い、馬のスピードを上げようとしたその時だ。
道の真ん中に人影が見えた。
「―――――ッ!?」
人影は避けることなく、真ん中にずっと立ち尽くしている。
仕方なくサブは、馬車を停車させた。
「チッ!おいおい、どこのどいつだぁ!?命知らずの馬鹿野郎はよぉ?夜中に馬車の音が聞こえたら、横に反れんのは常識だろうがぁ!?怪我じゃすまねぇんだぞ、ア゛ァ゛!?」
悪態をつきつつ、サブは目の前の人影を見る。
雲が晴れ、ゆっくりと月明かりが目の前の人影を照らしてゆく。
果たして、それは少女だった。
顔をのっぺりとした仮面で覆い、アオザイと呼ばれる民族衣装を身に纏っている。
東雲色の髪が月光に照らされて、まるで闇になびく炎の様だ。
珍しい衣装だが、それよりも、こんな夜更けに、少女が一人で歩いている事の方が、サブには気になった。
迷子か、それともどこからか逃げてきた難民か?
いずれにしても、こんなところに、年端の無い少女を一人になどしていられない。
「おいおい、お嬢ちゃんよぉ……?こんなところで何いてんだぁ?夜道は危ねぇぜぇ……?道に迷ったっていうんなら馬車に乗せてやってもいいぜぇ?行先は、この先にある魔術都市エンデュミオンだ。クククッ……」
「…………やっぱり、あの時のオジサン達だ」
「………あぁ?」
目の前の少女はこちらに近づいてくる。
そして、同時に湧き起こる――――かすかな怖気。
「―――――っ!?」
妙な冷や汗がサブの背中を伝う。
何だ?
なぜ自分は、こんな小さな少女を前に、こんなにも緊張しているのだ?
分からない。
分からないが、なぜか頭の中の何かが必死に警鐘を鳴らしている。
見れば後ろのメンバーも、バラン氏も緊張しているようだ。
皆一様に冷や汗をかいている。
「―――ねえ、オジサン達」
「………あ、あぁ、なんだ?」
「――――――ファーリーって女の冒険者の事、知らない?」
底冷えするような静かな声音で、目の前の少女は―――トレスは―――彼らに訊ねた。
『黒ハイエナの牙』の皆さんは、ボルヘリック王国の経済事情から、魔術都市エンデュミオンに引っ越しました。
この辺りの事情はいずれ説明します。
パイルバンカーの詳細は「EX4.アンタがモテないのは、どう考えてもアンタが悪い」にて




