1.暇人、ダンジョンを観察する
第五章はじまります
ダンジョンが完成してから一か月ほどが経過した。
何事もなく、経過した。
そう、何もなかったのだ。
クソみたいな龍殺しもやって来ないし、ダンジョンも破壊されないし、軍隊も来ないし、腕だって切られていない。
何事もなく一日が過ぎ、昼寝しても一日が過ぎ、魔石を食べて寝て過ごしても一日が過ぎ、ぼーっとしてても一日が過ぎる。
いやあ、平和って素晴らしい。
俺は新しくできたダンジョンで、久しぶりののんびりした空気を味わっていた。
昼寝しながら、魔石を食べてのんびり過ごす。
これほど素晴らしいものは無い。
元の生活が戻ってきたのだ。
『ふぁ~……。暇だな……』
暇、最高。
ちなみに、いま俺は一人だ。
アンはユグル大森林に、ウナとドスも周辺の町や村へ情報収集に向かっている。
トレスとぷるるは、ここ最近、アッド山脈で仲良くなった魔物達と戦闘訓練をしている。
俺はてっきり、トレスはウナやドスと一緒に町や村へ出ていくものかと思っていたが、トレス自身が行きたくないと言ったのだ。
これは正直意外だった。
どうにも、トレスはここ最近町や村へ行くのを意図的に避けているような気がする。
うーん……、戻ってきたら、ちょっと話でもしてみようかな。
もしかしたら、何か悩みでもあるのかもしれないし。
さてと、久々にゴーレムでも作るかな。
でもどんなゴーレムを作ろうか……。
あ、そう言えばあの素材があったな。
よし、今回はアレにしよう。
土をこねて、形にしてと。
こねこねこねこね。
うん、ばっちり。
そして、コレ。
“ジャイアント・リザード”の皮。
以前アンが狩った際に、エリベルが解体し、その皮の一部を俺も頂いていたのだ。
これを表面に張り付ける。
目には魔石を入れてと、牙も魔石を加工したものを使う。
………鱗の再現が難しいな。
まあ、適当でいいか。
本来の“ジャイアント・リザード”はティラノサウルスみたいな外見だけど、その通りには作らない。
ここから俺のアレンジが加わる。
首は……スーみたいに九頭にしてみるかな。
ヴェノム・ヒュドラに進化した蛇の長スーは普段の頭は一つだが、戦闘時には枝分かれして九頭になる特性を持っている。
このゴーレムも、九頭にしてみよう。
あとは、腕ももっとしっかりとした腕にしてと。
筋肉は大事だ。隆起の激しいがっしりした腕にする。
後尻尾もちょっと変えるか。
棘々一杯つけて、返しもつけてと。
それからしばらく時間が経った。
『おっし、出来た』
そこには全長二十メートルほどのドラゴンっぽいナニカが立っていた。
大きさは、本来のジャイアント・リザードよりもずっと小さいけど、これも中々の出来だろう。
ていうか、既にジャイアント・リザードの原型ないし。
もはや完全に別の生物だこれ。
ファンタジー映画に出てくる悪役っぽい。
後は心臓部に魔石を入れて魔力を注ぎ込む。
先ず失敗はしないと思うけど、この起動の瞬間だけは、未だに緊張するね。
やっぱ仕上げってのは大事だ。
やがて、ジャイアント・リザードもどきの瞳に光がともる。
「ヴゥオオオオオオオオオオ………」
ゴーレムはゆっくりと動き出した。
よし、成功したみたいだな。
作ったゴーレムは深層ダンジョンの防衛に回す。
この子には第一層を担当して貰おう。
思念通話で、転移門の事などを説明し、移動してもらう。
ジャイアント・リザードもどきゴーレム。
………長いな。
リザード・ゴーレムでいいか。
リザード・ゴーレムはこくりと頷いたのち、転移門を通って深層エリアの第一層へと向かった。
うん、やっぱりゴーレム作りは良い。
モノ作りって最高だ。
『さてと、誰かダンジョンに入ってきたかな……』
エリベルの仕掛けた魔石のおかげで、ダンジョン内は全て監視することが出来る。
専用のフロアが用意されており、極彩色の球体からリアルタイムでダンジョン内の映像を見ることが出来る。
これは見るのが、暇つぶしには最適なのだ。
え?そんなことしてる暇あったら、ダンジョンを強化しろって?
だから、リザード・ゴーレム作ったじゃん。
さて、監視フロアに移動しよう。
俺は転移門を潜り、エリベルの研究所に移動した。
監視フロアはエリベルの研究所の内部にあるのだ。
到着。
室内には大小様々な極彩色の球体が浮かんでいる。
そこから3D映像の様に、ダンジョン内の映像が映し出されている。
ちなみに、この球体の消費魔力などは全て“疑似迷宮核”が補っている。
さて、今日はどんな具合かな?
俺は映し出された映像に目を向けた。
と言っても、中層以降は特に見ても意味が無い。
まだ、誰も中層以降に到達していないからだ。
見るのは、専ら表層と入口付近。
ここ最近は、冒険者の数も増えている。
その殆どが入口付近を少し偵察してさっさと帰ってゆく。
その繰り返しだ。
でも、商人などは山脈や大森林を超える為に、このダンジョンを使う者も多くなった。
さて、今日やってきたのは、どんな奴らだろうか?
お、冒険者だ。
そいつらはユグル大森林の入口から、入ってきた。
五人組の冒険者パーティーだ。
彼らは臆する事無く、どんどんと第一層を進んでゆく。
どうやら、今までの冒険者達とは一味違うらしい。
装備品だって、目に見えて良い品ばかりだ。
うーん、でも、もう少し手入れはした方がいいんじゃないかな?
先頭の戦士風の男が手に持った剣。
ちょっと刃こぼれしてるじゃんか。
駄目だよ、ちゃんと研がなきゃ。
それに、後衛の女冒険者の持つ杖。
魔力の純度をもう少し高めた方がいいと思う。
常時、杖の魔石に少しずつ魔力を流し込んでるみたいだけど、魔力の循環回路の流れが雑だ。
不必要な魔力回路は切っておかないと、魔力の無駄遣いだ。
俺もゴーレムを作る傍ら、“錬金”で武器も作ってるから良く分かるんだよね。
他のメンバーも強そうなんだけど、どこか装備が雑い。
手入れは大事だ。
最近は気持ちに余裕も出たせいか、そういう細かいところまで目が届くようになった。
彼らは臆する事無く、第一層を進んでゆく。
そして――――そのまま、別の入口から外へ出て行った。
『ダンジョン潜らねぇのかよっ!?』
予想外だよ。
…………どうやら、ダンジョンに挑みに来たわけではなく、ただ通路として利用しただけの様だ。
まあ、確かに、第一層は、通路だけなら、人間達もほぼマッピングを終えてるだろうしな。
上のユグル大森林を抜けるよりも、時間も遥かに短縮できるうえ、戦闘もないしな。
安全に目的地へ行きたいなら、ここを通り抜ける方がいい。
ちっ。
アイツら見た感じ、あのクソ龍殺しと違って、そこそこの強さの冒険者っぽかったし、表層ダンジョンに挑んでほしかったなー。
流石に誰も挑まないと、ダンジョンとしての性能が試せない。
いや、誰も来ないに越したことはないんだけどさ。
それでも、ちょっとくらいは。
ちょっとくらいなら、挑んでくれてもいいのよ?
罠やゴーレムの性能を見るテスターになってくれてもいいのよ?
魔石を喰いつつ、映像をぼーっと見てると、また次の冒険者達がやってきた。
さて、次はどんな奴らかな。
『………げ、何だこいつ等?』
俺は映像に移った奴らを見て、顔をしかめる。
今度やってきたのは、六人。
それも、やたらとガラの悪そうな冒険者達だ。
モヒカン頭に、刺青、サングラス、デブ、チビ。
全員もれなく袖の部分が破けた変な服装をしている。
そんな古い服着るより、新しい服買えばいいのに。
今の季節、体冷えるよ。
それに、あっちこっちに包帯を巻いてる。
怪我でもしてるのかな?
それに肩パッドに棘なんかつけて、歩きづらくないのかな?
ウナ達がよく、冒険者は汚らしいなんて口癖のように言ってるけど、その通りな見た目の奴らだ。
そんな男たちに交じって一人、初老の眼鏡をかけた男性も居た。
魔術師の様なローブを纏い、どちらかと言えば学者の様な男だ。
………すっげぇ違和感。
一人だけ浮きまくってるだろ。
もはや、おやじ狩りをしているヤンキーの構図にしか見えない。
ダンジョンなのに、浮きまくってる。
なんか、世界観そのものが違っている様にすら思えてくる。
なんというか、荒廃した街並みってのが似合いそうな男達だ。
でも、興味があるな。
よし、次は彼らの行動を見て見よう。
でも、なんかこいつ等どっかで見たことあるな……?
どこだったっけ?
まあ、いっか。
とりあえず俺は、目の前の映像を見続けた。
謎の世紀末集団……一体何ハイエナなんだ……?




