14.ドス君のお話
タイトル通りドスのショートストーリーです。
フォード砂漠 sideドス
フォード砂漠。
ボルヘリック王国とハザン帝国の間にあり、両国を行き来する最大の障害となっている場所でもある。
両国を往来するルートは三つあり、一つはユグル大森林、二つ目はボルト山脈、そして三つ目がここフォード砂漠なのだ。
フォード砂漠は移動距離の長さと、その環境の厳しさ故に、他の二つのルートに比べ、滅多に人が通らない。
そのため、入口として設置しても殆ど旨味が無いとの事から、このエリアは地下にダンジョンのみが作られている。
その砂漠で、ドスはひたすらに、風魔術を使っていた。
風魔術で局地的な砂嵐を起こし、運ばれた砂を転移門でダンジョンへと運ぶのが彼の役目だ。
ダンジョン内での特殊環境『砂漠エリア』を作るために。
「………………頑張る」
ドスは一心不乱に風魔術を使い、砂を転移門へと運ぶ。
黙々と砂を運ぶその姿は、まさに職人だ。
本来彼は『風』と『土』の二重属性持ちだ。
なので、土魔術で、砂のゴーレムを作り、移動させた方が効率は良い。
だが、彼はあえて『風』を使って運ぶことで、微細な魔力のコントロールの修業もしようと考えたのだ。
実際彼は、回数をこなすうちに、風魔術の繊細なコントロールを身に着け、より効率よく、風を操り、砂を運べるようになっていた。
魔術の訓練とダンジョン製作が一緒に出来る。
まさに一石二鳥だ。
ただ、非常に地味だ。
ただ黙々と砂を運び、その繰り返し。
無口なため、絵面的にも、文章的にも非常に地味なのだが、そんな彼の地味な活躍で、ダンジョンは今日も拡張と強化を続けているのだ。
文句を言ってはいけない。
「…………ん?」
何かを感じ、ドスは作業をやめて、周囲を見る。
彼は周囲の感知にかけては、三人の中でもずば抜けている。
見れば、遠くの砂丘に人影が見える。
それだけじゃない。
その後ろに、数体の魔物の気配。
「…………ん」
ドスは気になって、見に行ってみる事にした。
そして、目の前には案の定、予想通りの光景が広がっていた。
砂の上に荷馬車をひっくり返し、狼狽える二人の商人。
更に、それを取り囲むように、サソリ型の魔物が四体、じりじりと忍び寄っている。
よく見ると、一匹のサソリの足元には血まみれの剣と肉片が散らばっている。
どうやら、護衛役の誰かは、既に彼らのお腹の中に入ってしまったらしい。
さて、どうするか?
ドスは考える。
ここにはダンジョンの入口もないため、人間や魔物を見つけた場合の判断は、現場に、つまりドスの裁量に委ねられている。
つまり、人間を助けるのも、見捨てるのも、魔物に加担するのも全てドスの自由に決めていいという事だ。
ドスは考える。
どういう選択をするのが、パパであるアースにとって都合がいいのか?
「…………うん」
僅か数瞬の思考の後、ドスは動き出す。
ドスは行動が早い。
反射的に動いている訳ではなく、ただ状況判断と取捨択一がとにかく速いのだ。
決して、イラついて殺そうとか、面倒くさいからさっさと終わらせようとか、そう言う判断で動いているのとは訳が違う。
すぐさま懐から、白い仮面を取り出し、装着。
地面を蹴る。
瞬時にドスは、サソリ型との距離を詰め、一体の背中に『風掌』を叩き込む。
サソリ型の魔物は一瞬でその身を四散させる。
仲間が一瞬の内に爆発した事に気を取られている内に、さらにもう一体。
横っ腹に『風掌』を当て、その体を四散させる。
これで、残りは二体。
ここで、ようやくサソリ型も、ドスの存在に気が付いたのだろう。
迎撃に入ろうとする。
だが、その速度は圧倒的に遅い。
まるで、コマ送りの様だ。
ひたすら地道な風魔術の訓練が、ドスの感覚と魔力のコントロールの精度を格段にあげていた。
おそらくこの魔物は、中級程度だろう。
感じる魔力は土蟲と同程度だ。
なのに、遅い。
圧倒的に遅く感じる。
相手に攻撃を一切許すことなく、ドスは残り二体のサソリを駆逐する。
その光景を商人の二人は、ただ茫然と見ていた。
びちゃびちゃとサソリだったものの肉片が飛び散る。
緑色の体液にまみれ、ドスは二人の商人にゆっくりと近づく。
「ひっ……」
商人の一人が反射的に、悲鳴を上げる。
だが、ドスはお構いなしに二人に近づき、ある物を渡す。
「……………これ」
「は……?」
それは一枚の羊皮紙だった。
そこにはフォール砂漠の詳細な地図と、ボルヘリック王国とハザン帝国の尤も効率のいいルートが描かれていた。
商人たちも羊皮紙に描かれたものが、どういったモノか察したのだろう。
その表情が驚きに変わってゆく。
「…………それ有れば、帰れる。あと、これも」
そう言って、ドスはもう一枚の羊皮紙を取り出す。
それは、ユグル大森林を通過する場合のルートが描かれた地図だった。
更に、ご丁寧にダンジョンの入り口部分にマーカーが施されている。
「…………次からは、こっちを使って」
有無を言わさぬ眼光。
二人の商人は、ただコクコクと頷くだけだ。
「…………あ」
ふと、何かお思い出したかのように、ドスは壊れた荷馬車に近づいた。
これなら何とかなりそうだ。
ついでに“錬金”で荷馬車の壊れた部分も直しておいた。
ラクダの気配が近くにあったので、これで積荷も問題なく運べるだろう。
商人の二人は、それをぽかーんとした様子で見ていた。
「……………じゃ」
そう言って、ドスはサソリの魔石を回収した後、その場を去った。
二人に渡した地図には、ドスの魔力が染みついている。
少なくとも、この砂漠を渡りきる間の魔物避けにはなるだろう。
二人から十分な距離を取った後、ドスは懐からもう一枚の羊皮紙を取り出す。
そこには、ボルヘリック王国とハザン帝国を拠点とする商会のロゴマークが記されていた。
これは以前アグールの町に行った際、ドスが独自に手に入れたものだ。
これはコピーで、原本はエリベルに渡してある。
同じように、ウナ達にもコピーを渡してある。
そのマークの一つをもう一度見る。
「……………やっぱり」
鷲を象ったシンボルマーク。
それは、ハザン帝国内でも有数の大手商会のモノだ。
そして先ほどドスが助けた商人たちの荷台に描かれていたマークと同じモノだ。
彼らを生かしておけば、地図を見て、今後移動ルートにダンジョンを使う可能性は非常に高い。
例え自分のような怪しげなものであっても、命を助けられたという事実と、これから検証する地図の実用性を鑑みれば、彼らはその価値に気付く筈だ。
なので、ドスは彼らを助けたのだ。
サソリよりも彼らを助けた方が、後々お得だから。
パパの、ダンジョンの為になるから。
あの一瞬で、ドスはそう判断した。
「…………約束守って、ちゃんとダンジョン使ってね」
ぽつりと呟いて、ドスは再び砂を運ぶ作業に戻った。
眩しい太陽の光が照らす蜃気楼のように、ドスは砂漠の景色に溶け込むように地味な作業へと没頭していった。
余談だが、二人の商人は無事に帝国へと帰還を果たしたそうだ。
二人は当時の事をこう語る。
―――――無口な砂漠の精霊が助けてくれた、と。
後に彼らがその地図の価値に気付くのは、もう少し先の話である。
今回はあまりスポットの当たらない二人のお話にしました。
人物紹介にも書きましたが、三人の中では、ドスが一番人間に理解ある性格をしています。あくまで利用価値などに関してですが。
なので、三人の中で唯一、話せばわかるタイプの人です。
四章も、もう少しで終わりになります。




