11.アースという魔物
今まで明確な描写が無かった、アースさんの現在の階級や魔力量についてのお話です
あの後、俺はエリベルと共に、表層ダンジョンの転移門を設置して回った。
転移門は移動用だけでもかなりの数になった。
まあ、表層は人間達にもそこそこ利用してもらうために、いろいろ便宜を図らなくちゃいけない。
このダンジョンは有用だと思わせるために。
その為、転移門の数も多い。
つーか、移動が地味に疲れる。
引き籠りに徒歩は辛い。
二度目からは転移門を使えばすぐに移動できるけど。
大量の転移門を設置して、深層へと帰ってきた。
あ、もう夜だ。
月明かりが綺麗。
『ふぅ……これで入口と表層ダンジョンの転移門はだいたい設置できたな』
「……………」
あくまで、現時点ではだけど。
今日一日で、百近くの転移門を設置した。
流石にちょっと疲れたな。
でも、中層以降はこの何十倍も転移門を設置しなきゃいけないんだよな。
さすがに気が遠くなる。
エリベルがトラップ用にデッサン型を改良するって言ってたのが今になって分かった。
これを俺とエリベルだけでこなすのはしんどいわ。
転移門設置用のデッサン型も作れないもんかね。
『流石にこんだけ設置するのは、疲れたな。まあ、俺は魔力提供しただけだし、術式とか組んだのは、エリベルだけどさ。お疲れ様ー』
「………」
『あれ?エリベル?』
「………」
『なあ、さっきからなんで黙ってるんだ?』
転移門を設置し終えた時から、エリベルはずっと無言だ。
いや、正確に言えば、転移門を設置してる最中からか。
二十個目くらいから、エリベルが無言になってた気がする。
何やら、ぶつぶつと「あり得ない……あり得ないわ……」とか呟いてるけど、どうしたんだろう?
ようやくエリベルがこっちの方を向いた。
よかった、無視されるとつらいんだよ。
だが、エリベルは何かしゃべるわけでもなく、じっと俺を見ている。
何よ?
「……アース、確認するけど、アンタ疲れてないのよね?」
『え?ああ、まあ流石に多少は疲れたけど……』
「………仮に、また転移門を設置するってなれば、後どれくらいイケる?」
『え、そうだな……』
俺は今の疲れ具合から逆算する。
「あと………多分、二百くらいで限界かな……」
流石にそれ以上は無理だ。
その発言に、エリベルの眼窩にある炎が大きく揺らめいた気がした。
「にひゃ……っ!?」
エリベルは深いため息をついた後、決心したかのように口を開いた。
「………アース、はっきり言うわ。アンタ、“魔力量”だけなら、既に生前の私以上になってるわ」
『……へ?それってすごいの?』
俺が事の重大さを察していないのか、呆れたようにエリベルが言う。
「凄いも何も、凄すぎるのよ……。生前の私以上、つまりあんたは魔力量だけなら、既に“神災級”に届いてるって事なんだから」
おお、マジか。
凄いなそれ。
ちょっと浮かれてもいいんじゃないか?
地龍って確か成体で災害種だろ。
それを二段階飛ばして最上級の神災級って、俺ってもしかして凄いの?
「ただ、その魔力量にアンタの体が付いていってない。まだ幼体だしね。身体能力そのものは、中級の魔物とそう変わらないわ」
あ、直ぐに釘を刺された。
中級………てことは、土蟲やオークとかとそう変わらないのか。
アンやウナ達がボコボコにしていた土蟲達を思い出す。
あれと同じくらいの身体能力か………うーん、果てしなく微妙。
「龍の幼体ならそんなもんよ。でも、それの身体能力の弱さを、莫大な魔力でカバーしてる。総合的な戦闘能力で言えば、現時点で王級下位程度ってところかしら。それでも、生まれてからの年数を考えれば脅威的としか言いようがないわね」
それにと、エリベルは言う。
「“武装化”をした場合の、アンタの戦闘力は更に跳ね上がるわ。おそらく、成体と同じく災害級並みにはなるでしょうね。もっとも、あの龍殺しが言ってたように、その能力に体が付いていけず、数分も戦えば自滅しちゃうけど」
あー、確かに。
あの時の戦い。
俺の傷は、結構自滅部分も多かったしな。
「普通なら、そんな魔力量をその程度の体で持っていれば、間違いなくパンクして死んじゃうんだけど、アンタの場合“暴食”が有る。それのおかげで、肉体以上に魔力を生成することが出来てるって感じね。ホント“地龍”って不思議な種族ね」
『へー、成程な』
「へーって、ア、アンタ……自分の体の事なのに、その程度なの?」
『いや、その………正直どうリアクション取っていいか、分かんない』
きちんと修行したわけでもないし、魔石食って寝てただけだしなぁ。
それで、とんでもない魔力量だ、とか言われても、いまいちピンとこないというか……。
「ふーん……。まあいいわ。アース、腕出してくれない?」
『へ?良いけど?』
はい、と俺は腕を出す。
「はい、ぶすー」
ブスッ、とドデカい針が刺さった。
『イギャアアアアアアアアアアアアアアア!!!』
痛い痛い痛い!!!!
なにこれっ!?
よく見ればそれは、デカい注射器の様な道具だ。
いつの間に持っていたんだ?
「じっとしてなさい。すぐ、終わるわ」
そう言って暫らくした後、エリベルは注射針を俺の腕から抜く。
あー、痛かった……。
「血液サンプルよ。貰っておくわ」
そう言ってエリベルは、手にした注射器を大事そうにしまう。
『刺すなら刺すって、最初に言ってくれよ……』
「言ったら、絶対いやがったでしょ?」
うん、まあ、否定できないな。
前世の頃から俺注射苦手だったし。
「…………本格的に、アンタの事調べて見たくなったわ。アース、解剖に付き合ってくれるなら、いつでも大歓迎よ?」
『嫌だよ!全力で断るよ!』
「あら、残念ね。まあ、いくつかの実験には協力して貰うわよ」
『………安全な奴だよな?』
「勿論。それじゃあ、今日は、ここまでにしましょうか。それじゃあ、お休みアース」
片手を振りながら、エリベルは通路の闇へと消えて行った。
見れば、すっかり暗くなっている。
『俺も寝るかな………』
月明かりが照らす中、俺もゆっくりと眠りについた。
ちなみに、次の日になると、俺はまた脱皮をしていた。
今度は、エリベルに取られないようにしよう。
深層エリベルの研究所にて―――――
エリベルは神妙な顔で機材をいじっていた。
小さなスライドガラスの様な板の上には、先ほど採取したアースの血液が数滴垂らされている。
その周囲には複雑な魔術陣が光のエフェクトの様に輝いている。
「…………やっぱり、思った通りだわ」
「エリベル様、何が思った通りなのですかな?」
後ろに控えたベルクが質問する。
ちなみにその手には栄養ドリンクの様なポーションが握られている。
「……これを見なさい」
エリベルは、その結果をまとめた記録をベルクに見せる。
「…………これはっ!?」
その結果に、ベルクも目を見開く。
「アースの血液の魔力濃度を計測してみたんだけどね……。驚くべきことに、この血液、現在進行形で“魔力が増えて”いるのよ」
「なんと……っ!?」
ベルクは信じられないモノを見る様に、その血液を見る。
「通常、血液に限らず、肉体の欠損した部位や鱗なんかは、本体から離れれば、その時点で魔力の回廊は切断される。それ自体に魔力が多少残る事はあっても、そこから“更に増える”なんてことはあり得ないわ。絶対に」
だが、採取したアースの血液は、肉体から離れ、魔力回廊が切断された後であっても魔力は弱まるどこか、逆に今も“増えて”いるのだ。
血液そのものが“成長”していると言ってもいい。
異常なまでの異常現象。
それがどれ程までにあり得ない事か。
その結果にエリベルは息を吞む。
「でも、この間アイツから貰った皮や鱗にはこの現象は見られなかった。成長した事でこうなったのか、それとも血液だけが特殊なのか……それはまだわからないわ。どちらにしても、生まれて一年ちょっとの個体でこれは………あまりに異常だわ」
果たして地龍の持つ“暴食”だけで、このような結果が生まれるだろうか?
サンプルが少ないため、明確な結論を出すことは叶わない。
もともと、龍王種は、どの種族も絶対的に資料が不足しているのだ、
「最上級の素材とされる地龍………もしかしたら、アースはその中でも特に“異質”の個体なのかもしれないわね」
手に入れた血液をゆっくりと眺める。
「…………かつての龍王種の頂点、か」
龍王種。
たった四種族しかいない、龍族の頂点。
くすりと、ほんの僅かにエリベルは笑う。
「本当にとんでもない奴の眷属になっちゃったわね……」
言葉とは裏腹に、彼女の声音には確かな歓喜と好奇心が含まれていた。
それに呼応するように眼窩の炎が楽しげに揺らめいた。
ちなみに、現時点での総合戦闘能力的には
アース(武装化+白い粉)≧ヴァレッド(龍人形態+聖剣)>ヘレブ>ベルディー(武装時)>アン(武装時)>ぷるる>ウナ・ドス・トレス(武装時)≧森の四長>アース(通常時)>ベルク(通常時)
だいたいこんな感じです。
あくまで、現時点での目安ですし、状況次第でいくらでも変化します。
例えばベルクは全盛期に戻れば、アース(武装化+白い粉)以上に強くなります。
エリベルさんは、色々アレなので番外




