10.罠と修行と不死の王
本格的にダンジョンを作り始めて一か月が経過した。
と言っても俺がやることはほとんど変わっていない。
朝起きて、魔石を食べて、デッサン型を作って、魔石を食べて寝て、各エリアでゴーレムを作って、魔石を食べて寝て、エリベルの手伝いをして、魔石を食べて寝るというサイクルだ。
なんて忙しい日々なんだ。
労働基準法完全無視じゃないか?
まあこの世界にそんなのあるわけないか。
でも、充実している。
ゴーレム作りも、ダンジョン作りも非常に楽しいのだ。
朝の日課のデッサン型の起動を終える。
デッサン型の数は、もはや何千体になったかもわからない。
既にその数は凄まじいものになっている。
数だけならばアンの子蟻達よりも多くなっている。
まあ、その分彼らの寿命は短い。
この間、ついに初期に作ったデッサン型の魔力が尽きて、その個体が深層へと運ばれてきた。
新しく作られたデッサン型が、廃棄されたデッサン型を砕いて土に戻してゆく。
それでまた新しいデッサン型へと作り直されるのだ。
他の起動したデッサン型は、転移門を潜り、入口や、中層以降のダンジョンの建設に向かう。
二十四時間フル稼働だから、凄まじい勢いでダンジョンが構築されてゆく。
入口に当たるアッド山脈、ユグル大森林、グオル火口付近のダンジョンは既に十層まで出来上がっている。
ただ、あくまで出来上がっているのはダンジョンだけで、“それ以外の部分”が追い付いていないのが現状だ。
さてと、今日はエリベルの転移門設置の手伝いをしなくてはいけない。
現在、エリベルの遺跡兼研究所は、深層に移送されている。
俺は深層の通路を移動する。
ここもあくまで仮で、深層の更に下、俺達の居住区が出来次第、そちらへ移される予定だ。
しばらく歩いた先にある、深層フロアの一角。
ここがエリベルの研究フロアだ。
ここだけ場違いな程に、異色な空間と化している。
なんというか、洞窟の中にいきなり手術室がある位の、ミスマッチ感が漂っている。
見たことの無い様な、様々な道具があちらこちらに散らばっている。
これらはすべてエリベルが“錬金”で一から作り上げた魔道具らしい。
更に四十個以上の極彩色の球体があちこちに浮いており、その上方に様々な景色を映し出している。
『これは………外の景色か?』
エルド荒野に、ユグル大森林、アッド山脈、それにアグールの町まで。
様々な景色が映し出されているが、総じて俯瞰風景が多い。
これは多分俺が作った鳥型が見ている外の景色だ。
鳥型の視界と、極彩色の球体をリンクさせて、映像の様に映し出しているのだろう。
俺も、前にウナ達で似たようなことをやってたし。
あ、アンや森の魔物達が映ってる。
プライバシーガン無視だな。
まあ、この世界にプライバシーなんて概念無いだろうけどさ。
おや、アンが剣を抜いてるな。
それに、蛇や犬も臨戦態勢のように見える。
『………何かと戦ってるのか?』
映像からはアン達しか見えないが、何かと戦ってる様だ。
まあ、見た感じ余裕っぽいし問題ないだろう。
機材に触れないように慎重に歩く。
体が大きくなったから、あちこち触れないようにするのも大変だ。
フライとかが使えたら楽なのになぁ。
あ、ベルク発見。
うわ、すっげぇ汚れてる。
それに、涎を垂らしながら、白目をむいているよ。
「ふぉふぉふぉ~……エリベル様ぁ……素材集めの方は終わりましたぞぉ~……ふぉふぉふぉ……」
…………今日で徹夜何十日目なんだろう?
うわ言を呟きながら、にやにやしているが、幻覚でも見ているんだろうか?
何もない空中に向かって、手を動かしている。
周辺には、何やら良く分からない植物や木の実、動物の死骸なんかが散乱してる。
多分、研究素材だと思うんだけど、見た感じ危ないホームレスのおっさんにしか見えない。
……そっとしておこう。
さて、エリベルはどこだ?
俺は辺りを見渡す。
あ、居た。
何やら地面に胡坐をかいて、何やら作っている。
………何を作ってるんだ?
見れば小さな魔石の様な物体に、少しずつ魔術印の様なものが刻まれてゆく。
エリベルは集中しているらしく、こっちに気付いてない。
『おーい、エリベルー!来たぞー!』
思念通話を飛ばす。
あ、気付いてくれない。
その後、七回くらい思念通話を送ってようやくこっちの方を見た。
「あら、アース。ようやく来たのね。待ちくたびれたわよ」
いや、それ俺のセリフ。
流石にちょっと泣きそうになったよ。
『何を作ってたんだ?』
「ん、これの事?」
そう言ってエリベルは、先ほどいじっていた魔石を見る。
「デッサン型に新たに組み込む魔石よ。この魔石を埋め込めば、限定的だけどデッサン型も魔術を使うことが出来るわ」
『へぇ……そんな事が可能なのか?』
かなり便利じゃんか。
『でも、デッサン型は戦闘には向かないぞ?』
あいつ等、超弱いし。
寿命一か月の疲れない普通の人間程度の力しか無い。
「まあね、戦闘用じゃないわ。決められたこと以外は出来ないし、これは中層以降のトラップ作りに使おうと思ってね」
『ああ、成程な』
今回のダンジョンは、原始的な落とし穴や、落石のほかにも魔術的な罠も仕掛ける予定だ。
だが、俺たちの中で、本格的な魔術が使えるのは、エリベル、ベルク、ウナ、ドス、トレスの五人だけ。
作るダンジョンに対して圧倒的に人手が足りない。
それを補うための、デッサン型の強化という訳だ。
「この魔石に組んだ術式を使えば、アンちゃんの提案した“串焼きルーム”と“獄炎床”や、ウナちゃんが考えた“粉砕壁”、“水糸沼”辺りなら、デッサン型でも作る事が出来るわ。量産は難しいけど、今よりかは、トラップを作るスピードが上がると思うわよ」
そりゃ、助かるわ。
ダンジョンそのものは、デッサン型や、アンの子蟻達が増えてる甲斐もあって、順調にその規模を拡張させている。
だが、肝心のトラップや特殊環境が、その進行に追いついていないのだ。
ちなみに特殊環境とは、ダンジョンの中に疑似的な森や岩場を作る事を指す。
今のところ、岩場、沼地、雪原、熔岩地帯の四つは中層以降のダンジョンに作る事に成功している。
沼ゴーレムや雪ゴーレム、熔岩ゴーレム達を作っていたのが功を奏した。
彼らをそのまま、中層ダンジョンへと移動させ、そのまま肉体を増やしてもらったのだ。
もちろんそれぞれのエリアは離して作ってある。
特に熔岩地帯は熱や温度の関係で維持や周辺フロアへの影響が凄まじいのだ。
この辺りも、調整が必要かね。
考え事をしていたら、エリベルは二個目の魔石の調整にかかっていた。
「後は、私の考えたトラップもこいつらに作らせましょうかね……」
『お前の考えたヤツって言うとアレか?』
「そうそう、アレ」
男女の冒険者が一定距離にいた場合にのみ、爆発するっていうヤツ。
俺は個人的にこのトラップを『リア充殺し』と呼んでいる。
この他にも、エリベルの考えたトラップは、特定条件下で発動するタイプの奴が多い。
ただ、その条件が“男女”というのが非常に多い。
何コイツ、生前カップルに恨みでもあったのか?
「ふふふ、苦痛に悶えるバカ共の顔が目に浮かぶわぁ……」
うわぁ……。
すっげぇ楽しそう。
めっちゃ私怨入ってるなこれ……。
若干俺が引いていると、がちゃがちゃと音がした。
何かと思って見て見れば、奥から何やらスケルトンの集団がやってきた。
多いな。三十体くらいか?
『エリベル、アレは?』
「ああ、もう来たのね。丁度よかったわ」
スケルトン達は俺達の前に来ると一糸乱れぬ動きで立ち止まった。
その姿はまるで軍隊だ。
何体かは背負子を背負ってる。
アンの子蟻達並みに統率されているな。
「………戻ってきたのは、百体中三十二体か。まずまずの成果ね」
エリベルはそのスケルトンたちを満足そうに眺める。
あれ、このスケルトン達……?
俺は魔力感知を発動させる。
やっぱりそうだ。
こいつ等、普通のスケルトンじゃない。
けっこう魔力が強い。
これって……?
「ソルジャー・スケルトン。中級の魔物ね。転移門使って、私のダンジョンに修行に行かせてたのよ」
『修行……?』
「そう。私のダンジョンには、アンデッドが中心の階層もあるからね。そこで、瘴気や魂をたっぷり吸収してきてもらったわけ。半分以上はやられちゃったけど。まあ後で“作り直せば”いいしね。あ、それとコイツも紹介しておくわ」
そう言ってエリベルが指を鳴らすと、魔法陣が出現する。
そこから、三メートル近くある巨大な青い火の玉が現れた。
うひゃぁ!デカいお化け!怖っ!
俺は一気に後ずさる。
「だから、なんで地龍がアンデッドにビビるのよ………」
若干呆れ顔のエリベル。
いや、だって怖いものは怖いんですよ。
「ナイトメア・ミスト。階級は上級。こないだのレイス達の強化版ってところね」
『強化版?でも、進化の魔石はもうないだろ?もしかして、また作ったのか?』
「いいえ。レイスには他の魔物と違って、てっとり早い強化方法ってのがあるのよ。魔石は、ダンジョンに使う分や、ユグル大森林の奴らに食わせる分で余裕が無いしね。だから、独自の強化方法をとったわ」
『どんな?』
「“共食い”よ。あのままじゃ、役に立ちそうになかったからね。百体くらいずつ共食いさせて、コイツに強制進化させたわけ。全部で六十体位はいるわ。数の上では減ったけど、戦力としてはむしろこっちの方が上。残りの個体は、外に他のレイス達を喰いに行ってるわ。あと死体の収集も頼んでるし」
うおぉう……。
なんか、凄いなアンデッド系の魔物って。
凄い殺伐としてる。
よく見れば奥の方に、腐りかけの死体とかが転がってる。
あれが新しいスケルトンとレイスになるのか………。
『………さっき言ってた、もう一回作るっていうのはあの死体の事か?』
「ああ、その事?違うわよ。アレは新規参入用。作り直すってのはコッチ。見てなさいな」
エリベルはスケルトン達に指示を出す。
すると背負子を持ったスケルトン達が、その中身を出した。
それは骨だった。
あっという間に骨の山が出来る。
そして、エリベルはその骨の山に何やら呟きながら魔力を流し込んだ。
すると、その骨の山は少しずつ、形を成し、五十体近いスケルトン達が出来上がる。
成程、骨さえあればもう一回スケルトンを作る事が出来るのか。
「私はアーク・スケルトンだからね。こういった、死霊系統の魔術は得意中の得意なのよ」
進化したソルジャー・スケルトン三十二体と、復活したスケルトン達は再び踵を返し、ダンジョンの奥へと消えて行った。
また、修行をしに、エリベルのダンジョンへと向かったのか。
多分エリベルが望む階級に上り詰めるまで、あいつ等これを繰り返すんだろうな……。
軍隊も真っ青の極悪訓練だな。
「こうして命令しておけば、勝手に強くなってくれるのよね。本当、死霊系の魔物達って便利でいいわー。使い勝手がいいし」
死霊系の魔物はアンや森の魔物以上に、上位種に絶対服従する種族だ。
彼らには、エリベルに逆らうという選択肢は存在しないのだろう。
こいつ俺以上に容赦ねぇな……。
そして、この数か月後。
エリベルを頂点とした、不死の軍勢が完成することになる。
「さてと、それじゃあ転移門の設置に行きましょうか」
あ、そうだった。
アンデッドのインパクトが強すぎて、本来の目的を忘れるところだった。
ちなみに修行中のスケルトン達の様子
スケルトンA「俺もう疲れた……骨なのに」
スケルトンB「頑張れ!死にたくないだろう!……もう死んでるけど」
スケルトンC「俺この修行が終わったら結婚するんだ……する前に死んだけど」
スケルトンD「御主人は血も涙もないなぁ……あるわけないか骨だし」




