8.失敗から学んでゴーレムを作る
ユグル大森林の魔物たちが進化したその日、俺は深層に帰って寝た。
なんか、もう疲れた。
俺って何回、同じ失敗繰り返せば気が済むんだろう……。
いや、結果的にはいい方向に転がってるんだけどさ。
そういえば、前世で俺の職場の上司が言ってたなぁ。
『失敗をすることは別にいいんだ。そこから学んで、次へ生かせばいい』と。
………………うん。生かせてない。
何だろうか、この何とも言えない感じは……?
あ、あと進化したやつらが名前を付けてほしいって言ってきた。
まあ、これからお世話になるし、名前が無いと不便だなという事で、名前をあげた。
蛇がスー。
猿がモン。
犬がフェル。
蜘蛛がテュラン。
と、それぞれ名付けた。
彼らもこれで正式の俺の眷属になった。
そのせいで魔力が一気に吸われて、だいぶ疲れた。
寝よう。
寝て、また明日から頑張ろう。
おやすみー。
そして、次の日。
おはよう。
昨日はだいぶやらかしてしまった。
反省しなくては。
失敗は生かさなければいけない。
なので、今日は普通にゴーレム作りに専念したいと思う。
とりあえず、昨日デッサン型ゴーレム達が作った型に、魔石を埋め込む。
埋め込まれたデッサン型は数秒してから動き出した。
デッサン型は作りがシンプルな所為か、仕上げ部分だけ、つまり魔石を埋め込む部分だけを、俺が行えばそれで機能する。
これで更に、作業の効率化が図れる。
魔石も、デッサン型や子蟻達がある程度掘り起こしておいてくれたので、それを使えばいい。
あっという間に、全てのデッサン型が動き出した。
『これは楽でいいな』
また、何十体かのデッサン型ゴーレムに型を作っておくように命じる。
あと、魔石を掘り起こしておくことも。
見れば、ダンジョンの修復も、まだ二日しか経ってないのに、かなり進んでいるようだ。
そりゃそうか。
人と違ってゴーレム達は疲れるという事を知らない。
二十四時間フル稼働だ。
その作業スピードは尋常ではないだろう。
ただ、デッサン型のゴーレムはゴーレム・ホムンクルスと違って、俺からの魔力供給を受けていないし、自分で魔力を取り込むこともできない。
なので、埋め込まれた魔石の魔力が切れれば、そこで機能を停止する。
言い方は酷いかもしれないが、彼らは使い捨てのゴーレムだ。
それでも、エリベルの見立てでは、最大一か月ほどは稼働するらしい。
廃棄になったデッサン型は再び砕いて、型にして魔石を埋め込めばまた動かすことが出来る。
うん、便利。
あとは、彼らが使う簡単な工具とかを作っておく。
魔石を使ってない、普通のツルハシやスコップ、ネコグルマとかだ。
魔石を使わない分、ゴーレムよりもはるかに早く作る事が出来る。
作った工具をデッサン型達に渡す。
これで良し、と。
後の作業は子蟻達と、デッサン型ゴーレムに任せ俺は転移門を潜って移動した。
今日、俺はウナが調査に来ている湿地帯にやってきた。
レーナ湿原と言うらしい。
位置的にはユグル大森林のほぼ隣。
見渡す限り、一面の湿原が広がっている。
なかなか穏やかな気候だ。
『うーん、良い景色。これで霧とかが出てれば、雰囲気最高だろうな』
転移門の場所は、湿地帯の中にある無数の岩場の中でも大きめのサイズの岩の上。
湿地帯故にダンジョンを作るには適さなかったため、転移門を作ったまま、放置していたそうだ。
まあ、泥だもんな。掘るには向かないか。
魔物の気配も少ない。
ウナに調べてもらったが、魔物は強くても中級程度の魔物しかいないという。
それと渡り鳥っぽいのが数体居たそうだ。
『さて、ウナはどこかな………?』
魔力感知を発動する。
あれ、結構近くにいるな。
周囲を見るが、それらしい人影はない。
ここは視界を遮るような障害物も少ないし。
…………ん?ああ、そうか水の中か。
潜ってるのか。
思念通話でウナに呼びかける。
『おーい、ウナ。すまんが、出てきてくれー!』
すると、俺が座っている岩場の直ぐそばの水がぼこぼこぼこと泡立った。
そこからウナが姿を現す。
「ぷはぁっ!……お父様!?いらしていたのですか?」
『ああ』
「す、すいません!本来ならこちらから出迎えなければいけませんでしたのに……」
謝罪の言葉を述べながら、ウナが近寄ってくる。
だが、俺の傍による前に自分の状態に気づいたのか、ぴたりと止まった。
今のウナは、ずぶ濡れの状態だ。
水の中に潜っていたせいで、アオザイの服が体のラインにぴっちりと張り付いている。
ウナは元々スタイルがいいから、濡れて服が張り付くと、尚更体の凹凸がはっきりと浮き出る。
下着もつけてないみたいだし。
肌に張りついた金髪の髪が、艶めかしい色香の様なものを漂わせている。
「あ……。お、お父様少々お待ちください。す、直ぐに服を乾かしますので……っ!」
そう言ってウナは、自身に浄化の魔術を掛ける。
更に、水属性の魔術で自分の服から水分を排出し乾かす。
気のせいか、その顔が少し赤い。
俺はその様子をじっと眺めていた。
水でぴっちりと張り付いて見えるウナのボディライン。
そんなのを見て、考える事なんて一つしかない。
うーん……、もう少しボディバランスをしっかり考えて作ればよかったなぁ。
腰から尻にかけてのラインや、頭身のバランスがまだまだ甘い。
当時は最高傑作だと思ったけど、今の俺ならもう少しうまく作れそうだ。
いや、別にウナ自身に不満があるわけじゃない。
愛着もあるし、今では大切な眷属だ。
なんだけど、どうしても今ならもっとうまく作れるぞって、思っちゃうんだよなぁ。
より良いものを、もっと上手く。ついそう考えてしまう。
そう考えているうちに、ウナは服を乾かし終えたようだ。
「すいませんお父様、お待たせしました」
『大丈夫だ。ところでなんで水の中に?』
「水深と、水棲生物の調査をしていました。この湿原は魔物の種類は少ないですが、昆虫や植物、微生物の類は相当な数が生息していますので」
『ああ、成程』
ウナは記憶送信で調べた生物や植物のデータを送ってくれた。
うわっ……とんでもない数だな。
あとでエリベルに渡しておこう。
「ところで、お父様はどうしてこちらに?エリベルさんの設計図が完成したんですか?」
『いや、設計図は明日出来るって言ってた。今日は別件だな』
「別件ですか?」
『ああ』
ちょっと試してみたいことがあったのだ。
これは俺一人ではできない。
ウナの力が必要なのだ。
『実はな、この湿原の“泥”でゴーレムを作れないかなと思ってな』
俺の発言にウナは首をかしげる。
「泥で、ですか?」
『そう』
レーナ湿原は魔物の数が少ない。
その為、ダンジョンに利用するのであれば、こちらで防衛用の戦力を用意しなければいけない。
だが、いきなりアンの子蟻達やダンジョンで作ったゴーレム達を配置しても意味が無い。
かえって目立ってしまい、逆に違和感が出てしまうだろう。
なので、俺はこの湿原の泥を使ってゴーレムを作れないかと考えたわけだ。
泥ならば不定形で普段は湿原の中に隠れていられるし、必要な時だけ出現するように出来るだろう。
この湿原にも違和感なく溶け込めると思ったのだ。
ただ、これは俺一人ではできない。
何せ俺には、泥を人型に留めて置く為の魔術が使えないのだ。
ここの泥は水分が多く、人型にしようとしても、直ぐに流れてしまう。
逆に固めようと水分を飛ばして作れば、稼働してから水に溶けてしまう。
泥のままで作る事が出来ないのだ。
そこで、水魔術が使えるウナに頼んで、その泥を水魔術で固定してもらおうと思ったのだ。
それをウナに説明する。
「わかりました。では私は、この泥を人型に押しとどめればいいのですね?」
『ああ、出来るか?』
「勿論です。泥でしたら、私の水魔術で操作可能です」
そう言ってウナは泥に魔力を込め、それを少しずつ人型にしていく。
その間、俺は思念通話でウナにゴーレムの形や、大きさを細かく指示。
ウナがその指示に従って泥を動かす。
それからしばらくして、大きさが約七メートル程のゴーレムが出来上がった。
『よし、あとは魔石を埋め込めば完成だ』
「無事に動きますかね?」
『多分、大丈夫だろ』
俺はエルド荒野で掘った超高純度の魔石を、ゴーレムの胸元目がけて投げる。
魔石は見事ゴーレムの胸元に命中し、そのまま、ずぶずぶと中へ入ってゆく。
そして、魔力を込める。
数秒の後、ゴーレムが動き出した。
『よし、成功だ』
「やりましたね、お父様!」
自分も頑張ったせいか、ウナの声も弾んでいる。
『よし、それじゃあ、泥ゴーレム!お前の仕事はこの湿原の防衛だ!敵意をもった冒険者や魔物がこの湿原に現れた際には、そいつらを撃退してくれ!あ、それと普段は湿原と同化して目立たない様にな!』
ゴーレムはゆっくりと頷いたのち、その体を湿原へと同化させてゆく。
『さてと、一体だけじゃ戦力としては不十分だし、もう少し作るか』
「はい!」
こうして、俺とウナは夜が更けるまで、泥ゴーレム作りに励んだ。
その結果、この日一日で十三体の泥ゴーレムを作る事が出来た。
ウナも勝手が分かってきたらしく、最後の方は俺がアシストしなくても、自分で泥ゴーレムを作れるようになっていた。
『ウナ、それじゃあ明日からもここの防衛用のゴーレム製作を頼んだぞ』
「はい!お任せください、お父様!」
ウナは元気よく返事をする。
さて、それじゃあ、明日は別の場所に行くか。
今回のヤツを応用すれば色々なゴーレムが作れるな。
雪山の頂上付近なら雪ゴーレムが作れるし、火山の火口付近なら熔岩ゴーレムが作れる。
せっかくだ。明日もいろいろ作ろう。
雪は何とかなりそうだけど、熔岩はトレスの協力が必要だな。
「ところでお父様」
『どうした?』
「ふと、思ったのですが、最初にお父様の錬金で鋳型を作って、そこに泥を流し込んでも良かったのではないですか?」
あ。
そして、次の日。
俺は朝から晩まで、さまざまなゴーレムを作り続けた。
いやぁ、やっぱゴーレム作りは楽しい。
夢中になれるものがあるのはいい。
気分転換に最高だ。
そうして、夜遅くにエルド荒野へ戻ると、深層にエリベルがいた。
その隣には、ボロボロになったベルク。
「あら、遅かったわね」
『ああ、防衛用のゴーレムを造ってた』
「へぇ、そりゃいいわね。さて、アース。良いお知らせよ。ダンジョンの設計図が完成したわ!」
『おおっ!』
その言葉に俺は思わず胸が高鳴る。
俺の反応が良かったのか、エリベルはにやりと笑う。
「見なさい!これがアンタの新しいダンジョンよ!」
そう言ってエリベルは、手に持った極彩色の球体を掲げる。
極彩色の球体が光り輝く。
アレって確か、遺跡にあった映像を映し出す球だったっけ?
その極彩色の球体から3D映像の様に映し出されるダンジョンの見取り図。
そこには俺のイメージ通りのダンジョンが描かれていた。
『凄いな……、細部まで正確に描かれてる。これならゴーレム達への指示もずっと楽になる』
「ふふん、当たり前よ。何といっても、天才であるこの私がデザインしたんだからね。素晴らしい出来栄えになるのは当然よ!」
『ああ、凄い。流石、賢者。超天才!ニクいね、この!』
「はっはっは、もっと褒めなさい!もっと褒めなさい!」
上機嫌でハイタッチを交わす俺とエリベル。
二人とも夜中でテンションがおかしくなっていた。
よし。それじゃあ、明日からは、本格的な階層作りに入るか!
魔石を食べて、期待に胸を膨らませながら俺は眠りについた。
泥ゴーレム
レーナ湿原の泥によって作られたゴーレム。
体長は七メートルと巨体だが、他の泥ゴーレムと合体し、さらに巨大化することも出来る(合体制限数無し)。
普段は湿原と同化している為、近づかなければ気づかないし、害も加えない。
肉体が泥で出来てるため、殴られたり斬られても直ぐに再生する。
核である魔石を砕かない限り、何度でも再生可能。
ただし、魔石は体内を常に流動的に動いているため、狙いをつけるのは困難(これはベルクの戦闘形態を参考にした模様)。
アースからの魔力供給が無くとも、レーナ湿原の魔力を吸収している為、半永久的に活動が可能。意外と低燃費なエコゴーレム。
アースは他にも熔岩や雪でも同じタイプのゴーレムを作り、各エリアに配置した。
レーナ湿原の泥ゴーレムは、現地の生物からは守り神として受けが宜しいらしい




