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地龍のダンジョン奮闘記!  作者: よっしゃあっ!
第三章 龍殺しと眷属との絆

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18.戦いの終わり

 ………長かった

 

 ダンジョン深層にて――――


 「それじゃあ、アンちゃんやトレスちゃんたちも所定の位置にお願いね。下手すれば、巻添え喰っちゃうから、気を付けてよ?」


 『わかりました』

 「うん」

 「エリベル様、それでは儂も行って参ります」


 魔石により回復したアンやトレスたちは、所定の位置についてもらうため移動を開始した。

 ベルクもエリベルから指示を受けている。

 三人の仕事は各階層での現場指揮及びエリベルのサポートだ。

 回復したばかりで大丈夫かとアン達に聞いたが、問題ないと普通に返してきた。

 ホントすごい。


 「あ、アンちゃん、トレスちゃん。“例の件”もきちんと考えておいてね?」


 『わ、わかりました』

 「うん!頑張って考えるよ!」


 そう言ってアン達は上の階層へと、戻って行った。


 『なぁ、エリベル?』


 「なによ?」


 『さっきアン達と別れる前、随分三人で盛り上がって話してたみたいだけど、何を話してたんだ?』


 エリベルはアン達と別れる前に、俺から離れて何やら三人で盛り上がって話をしていた。

 思念通話でのやり取りだったみたいだが、なにやら随分と白熱しているように見えたのだ。

 作戦内容はあらかじめ話してあるし、他に何か伝えるべき事があったのだろうか?

 アンへの自己紹介はさっき済ませてたみたいだし、何を話していたんだろう?


 「あー、そのこと?全部終わってから話すわよ。きちんと、皆のいるところでね。今は関係ない事だから、問題ないわよ」


 『んあ、そうか?』


 ならいいけど、何だったんだろう?

 そして、深層には俺とエリベルだけが残った。


 それじゃあ始めるか。

 そう思いエリベルの方を見る。


 「あ、そうだ地龍。作戦前に頼みたいことがあるんだけど?」


 『ん、何だ?』


 「私にも“名前”を貰えないかしら?」


 『は、名前?』


 いきなり何を言い出すんだ?

 名前なら、もうあるだろう?

 俺の疑問を察したエリベルが、俺が口にする前に応えてくれる。


 「別に今まで通り、エリベルで構わないんだけど、アンタが私に名前を付けるって行為が、アンタの眷属になる正式な儀式みたいなもんなのよ。そうすれば私とアンタとの間には、きちんとした魔力の回廊が繋がる。アンタからの魔力の供給も行える。流石の私も正式に眷属にならないと、他の子たちに指示だすの大変なのよねー」


 成程な。そういう事か。


 『わかった。でもいいのか?』


 「何がよ?」


 『今更なんだけど、俺達って魔物だぞ?お前って元人間だろ?なのに、なんで魔物側おれたちに、こんなに協力的なんだ?』


 俺が言うのもなんだけど、エリベルだって、もともと人間だ。

 なのに、エリベルは復活直後から、不自然なくらいに俺達に協力的だ。

 いくら俺達に興味を持ったとはいえ、もともと人間だった彼女にはかなり抵抗があるんじゃないのか?

 普段の俺もエリベルにアドバイザーとしての協力は求めていたが、眷属にするほどの事は求めていなかったし。


 「あー、なんだ……そんな事?別に大した理由じゃないんだけどね……」


 そこで、エリベルはぼりぼりと髪の無い真っ白な頭を掻く。

 そして、ぽつりと、蚊の鳴くような小さな声で言う。


 「………私ね、復活する前ずっと夢を見てたのよねー。不死化できない間ずっと、ね」


 『夢?』


 俺がオウム返しに聞くと、エリベルは急にはっとなったように俺の方を見た。


 「そう……これが碌でもない夢でね。ずっと覚めない上に、気分最悪でね。でもある時突然アンタが出てきて………っ!」


 そこでエリベルは、なにやらはっとした表情になってこっちを見た。

 どうしたん?


「……あー、タンマタンマ、今の無し。いいから、早く私に名前をつけてくれないかしら?私こういう、湿っぽい、まじめな空気って反吐が出るのよ!ほら、さっさとしてくれないかしら?」


 『お、おう。それじゃあ改めて……よろしくな、“エリベル”』


 「ええ、こちらこそよろしくね、名無しの地龍さん」


 次の瞬間、俺から大量の魔力が流れていくような感覚がした。

 エリベルが正式に俺の眷属になった証だ。

 ………ちなみに、普段の俺は、この現象を他の奴との慣れない会話で疲れた反動だと思っていたみたいだ……。

 ないわー。

 

 『そんじゃ、改めて作戦開始よ!他の皆もいいかしら!?作戦を始めるわよ!』


 エリベルが思念通話を飛ばす。

 一斉に返事が返ってくる。


 「よし!それじゃあ、始めるわよ!」


 『ああ』


 といっても、俺は準備が整うまで魔石を食うだけだ。

 俺の頭に手を乗せ、エリベルは指示を飛ばす。


 『第二階層、蟻さん第二部隊そこで三メルド後退――

 『第三・第四は第一階層まで移動、八階層猿と蛇はそのまま敵の部隊を引きつけて――

 『ネズミたちはそのまま前進。鳥はあと三十メルド前進したら崩れた穴が開いてるからそこから上の階層へ移動

 『そう、つかず離れずに騎士たちを引っ張って―――

 『サイはそのまま突進。獅子と騎士のゴーレムは――――

 『戦闘に関係のない者たちは直ぐに移動を開始して―――

 『移動と一緒に、負傷してる者のサポートも――――


 すごいの一言だった。

 エリベルは、思念通話を複数使って、各層に同時に指示を出している。

 

 『ベルク!その階層で止まらないで!もう一つ上の階層まで移動―――

 『ぷるるちゃんは指定した部分の修復だけに集中して十、十二、十三階層は-――

 『蟻さん第七と第九部隊は外縁部まで移動を開始。じゃないと巻き込まれるから―――


 正直、賢者の力ってものを舐めてた。

 凄すぎる。

 ………これ、俺要らないんじゃないか?


 先ほどまで劣勢だったゴーレムや蟻達はエリベルの的確な指示で見る見るうちに戦局を盛り返してゆく。

 エリベルは俺から受けたマップや、それぞれの階層にいる眷属から罠の状態や騎士達の大まかな位置取りなどを聞き、その全てを一瞬で理解してしまった。


 『アンです!中層第八層につきました!これから―――』

 『トレスだよ!こっちはゴンゾーと一緒に移動中―――』

 『エリベル様!儂じゃ。第十七層地割れ付近に新たな敵影を確認―――』

 『ぷるーぷるー!』(指示通り、指定した箇所を崩落させました、と言っている)


 アン達も次々戦線へと加わってゆく。

ゴーレムや蟻部隊の活躍、それにトラップやぷるるによる意図的な落盤によって、騎士たちは道を失い、次々に中央に集められてゆく。

 あっという間に、騎士たちを指定のポイントまで誘導することに成功している。


 『……なあ、エリベル。正直このまま盛り返してるなら、“アレ”は使わなくてもいいんじゃないか?』


 指示の最中で悪いが、聞かずにはいられなかった。

 なぜなら、騎士たちは面白い様にエリベルの誘導通りに動いている。

 このままいけば、“アレ”をしなくても勝てるんじゃないかと言うくらいに。


 「さっきも、言ったでしょう?確かに、それでも“撃退”は出来るかもしれない。でも、“撃退”するだけでは足りないのよ。ただ相手に、普通に負けたと思わせるだけでは意味が無いわ」

 『アンちゃんはそのまま表層へ―――

 『トレスちゃんとサイは次の角を右に曲がって―――

 『ベルクは人数を確認後トラップのある部屋へ誘導―――


 エリベルは思念通話で指示を飛ばし、口頭で俺と会話するという離れ業を行っている。


 「私たちに必要なのは相手を、“ただの敗北”に追い込むことではなく、“理解不能な状況”で敗北に追い込むこと。そうでなければ、敵は直ぐに部隊を再編成して、またやってくるわよ。“ああすればよかった”、“こうすれば勝てたんじゃないか”って勝手に考察してね」


 だから、とエリベルは言う。


 「相手に理解をさせないことが、私たちにとっての本当の勝利なの。“一体どうなっているんだ?”、“訳が分からない”、“どうやって対策を立てればいい?”、ていう具合に、相手にこちらを攻め込ませない様に、思考の袋小路に追い込ませなきゃいけないの。そうじゃないと、この戦いが終わった後に十分な時間稼ぎが出来ないのよ」

 『蟻さん第九・十三部隊はその場で待機―――

 『第十二層にいるゴーレム部隊は次のフロアへ移動を――

 『トレスちゃんはトラップ発動させて―――


 つまり、相手の心を徹底的に折らないといけないって事か。

 戦後処理も兼て。


 『だから、“ダンジョン破壊”で全部ぶっ壊すって事に繋がるわけか』


 「そう。それも、出来るだけ多くの騎士を巻き込んで、ね」

 

 そう、作戦とはいたってシンプル。

 こちらも“ダンジョン破壊”を使って、ダンジョン内にいる敵を掃討する。

 それだけだ。


 でも、相手に与える心理的な印象は凄まじいだろう。

 何せ突然訳も分からずに、殆どの騎士が全滅するのだから。


 ………これって、大量虐殺だよな。俺精神戻った時大丈夫かなぁ……。


 「だいぶ騎士たちも冒険者も中央に集まってきたわね………。他のみんなも外縁部への移動もほぼ完了。それじゃあ、地龍。仕上げよ」


 『わかった』


 既にダンジョン内のゴーレムと蟻達は外縁部に避難している。

 中央部分にいるのは侵入してきた騎士たちだけだ。


 俺は口に魔力を集中する。

 思えば、ブレスを全力で撃つのは久しぶりだな。いや、撃つこと自体久しぶりか。

 地上でブレスぶっ放して以来だしな。

 

 『よし………いくぞ』


 聖剣の能力を発動させる。

 ブレス威力拡張……魔力増強……攻撃力拡張……そして、“ダンジョン破壊能力”付与。


 「範囲規模と演算はコッチでやるわ。あんたはただ全力でブレスを撃つことだけに集中しなさい」


 『ああ、分かった』


 「じゃあ、接続するわよ」


 エリベルは再び俺の頭に手を置く。

 同時にすさまじい情報量が現れては流れてゆく。

 エリベルはダンジョン破壊の能力改変に集中する。


 『眷属エリベルより魔力回廊接続を申請………完了』

 『ブレス威力拡張範囲…修正………追加……修正……』

 『“ダンジョン破壊”能力による破壊箇所を特定……完了』

 『稼働時間修正………追加………他眷属より魔力回廊拡張……修正………修正……』


 ぶつぶつと、エリベルの思念通話が頭の中に響く。

 すさまじい情報が頭の中を流れてゆく感覚。

 薬が効いている今の俺じゃなければ、確実にぶっ壊れているであろう情報量。

 “ダンジョン破壊”の能力は確かに反則的だが、どういう風に破壊するかっていうのを細かく決めることが困難だ。というか、ほぼ不可能と言ってもいい。

 普通であれば。

 だが、エリベルは聖剣の柄を介してその能力に介入し、細かい誤差や効果範囲の修正を行っているのだ。“能力の改変”を行いながら。

 味方を巻き込まず、それでいて敵に最大の被害をぶつけられるように。

賢者すげぇ。



 『範囲固定……完了』

 『強度修正………完了』

 『衝突位置特定…固定……完了』

 『被害項目修正………完了』

 『眷属へのブレスによる被害算出……ゼロ』

 『ダンジョン内に存在する掃討対象への被害算出……約八割三分』

 『追加項目修正………破壊による落盤範囲修正………完了』

 『二次被害による掃討対象への被害追加………一割二分追加修正』


 そして、エリベルは息を思いっきり吐き出す。


 「ふぅー……準備………完了よ。地龍………」


 『おう』


 「――――思いっきりぶっ放しなさいッッ!!」



 俺は思いっきり息を吸った。

 そして――――――



 「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!」



 咆哮と共に、全力でブレスをぶっ放した。

 体内の魔力が一気に枯渇してゆく。


 放たれたブレスは光の渦となってダンジョンを包み込んだ。

 

 ズドオオオオオオオオオオオオオオオオオンッッッッッッッ!!!!!!!!!


 けたたましい轟音がダンジョンに響く。

 同時にすさまじい土煙が舞い、視界が覆われる。

 “ダンジョン破壊”能力を付与された俺のブレスは凄まじい勢いで階層の壁を突き破り地上に到達する。

 だが、それ以上、上昇する事無く渦のようにその場に留まり続ける。


 その様子は、光の渦と言っていいだろう。


 “ダンジョン破壊”は文字通りダンジョンにしか効果が無い。

 それはブレスでも同じだ。

 その後の二次災害による被害は別だが、俺の撃つブレスそのものには、騎士たちへの殺傷能力はない………本来は。

 だが、エリベルはその能力を改変し、ダンジョン破壊+本来のブレスの威力によるダメージも負わせられる様に能力を改竄した。

 俺のブレスがダンジョンの中央部分と、そこに居た騎士たちだけを巻き込み破壊を続ける。


 簡単に言えば、“ダンジョン限定で使える超都合のいいブレス”だ。


 “ダンジョン破壊”は聖剣状態ではあと百年使えないようだが、その能力を取り込んだ俺なら、その状態はリセットされ、真っ新な状態で使うことが出来る。


 百年に一度しか撃てない、限定ブレス。

 じっくり味わってくれ。


 中央にいた騎士たちの魔力の気配が次々に消失してゆく。


 『………さて』


 俺はフロアを見渡し、トレスの作ったすり鉢を見つける。

 …………もう一回、白い粉舐めておこうかな。

 決して味が良かったとか、そういう理由じゃない。


 捨て身の戦闘に、ブレスによる大量虐殺、マイホーム崩壊と俺のストレスがマッハ過ぎて怖い。

 今はまだ平静を保っていられるけど……。

 正直反動が怖すぎて、戻りたくない。


 俺これ戻ったら精神の過負荷で、死ぬんじゃないか?

 割と本気で、俺はそう思った。



 そして、しばらくしてようやく視界がはっきりしてくる。

 俺のブレスは実に数分間、ダンジョンと騎士たちを飲み込み続けた。

 

 「おおー眩しいわねー」


 『………そうだな』


 俺の頭上には、巨大な陥没穴が出来上がっていた。

 中央付近だけとはいえ、その直径は数百メートル以上はあるだろう。

 真上にはっきりと二つの太陽が見える。

 眩しい。

 

 『各層、状況を報告してー…………うん………うん……分かったわ……次に……』


 しばらく、エリベルの応答する声だけが深層に響く。

 でも、結果は聞くまでもないだろう。

 僅かに残っていた、騎士たちの気配は次々に減ってゆく。

 ほんの僅かではあるが、生き残りはいた。

 だが、次々にダンジョンから散り散りに撤退しているのだろう。

 それに地上の方も間違いなく恐慌状態になっている筈だ。

 何せ向こうにしてみたら、突然光の渦が目の前に現れたのだから。

 

 『アン、軍が撤退したかどうか地上の方を確認してくれ。多分大丈夫だとは思うがな』


 『畏まりました』



 しばらくして、アンからの報告が送られてきた。


 『地龍様。子蟻達からの報告です。地上にいる敵軍も撤退開始したとのことです』


 『そ、そうか………良かった。アン達もお疲れ様、みんな有難うな』


 『い、いえ勿体ない御言葉です!それでは監視用の子蟻達を地上に残したのち、そちらへ向かいます』


 他の眷属たちからも、信号が送られてくる。

 なんとかなった。


 『ふぅー……』


 俺は深いため息をつく。

 エリベルが魔石を差し出してくる。


 「お疲れさん」


 『ああ』



 戦いが終わった。




 後始末が山の様に残っていますが、とりあえず戦争終了です。

 次回はエピローグです。カラスさんも出てきます

 

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[良い点] あとがきで思い出した!!!! カラスさん巻き込まれてないか!?!? エリベル眷属になってくれたのは嬉しいです!!!ホッとしました! [一言] 感想送りまくって申し訳ありません……… め…
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