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地龍のダンジョン奮闘記!  作者: よっしゃあっ!
第三章 龍殺しと眷属との絆

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14.ハーブか何かやっておられる?

誰も地龍さんが戦う事信じてなくて泣いた……

 時間は少しさかのぼり、ダンジョン崩壊直後。

 ダンジョン深層にて―――――


 派手な男は水平に剣を構え、地面を蹴って、こちらへ近づいてくる。

 ゆっくりと、目の前にオレンジ色の聖剣が迫っていた。


 『ぬっ、ぬおおおおおおおおおおっ!』


 俺は必死になって身を捻る。

 だが、剣を避ける寸前、眩い光を剣が放った。

 知っている。

 これは聖剣レヴァーティンの特性、斬撃の巨大化だ。

 躱せなかった。

 ザクリと。

 頑丈なはずの俺の鱗があっさりと傷つけられ、痛みが走る。

 斬られた箇所は左腕だ。

 ぽたぽたと赤黒い血が流れている。

 そのまま俺は転がり、フロアの端にぶつかって止まる。


 『うぁ………』


 ―――痛い。

 痛い痛い痛い痛い。

 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!


 久しぶりに味わった。

 これが、痛みだ。

 あの時以来だ。ブレスをぶっ放して、その仕返しに白飛龍にブレスを撃たれた時以来。


 いや、違う。初めてだ。

 剣で切られるなんて、龍に生まれ変わってからも、前世でも一度も無かった。

 当たり前だ。前世でも平々凡々、最底辺の生活をしてきたんだから。

 物騒なことは悉く避けてきた俺だ。そんな経験ある筈がない。


 痛い、痛すぎる。


 「流石、龍王種と名高い地龍だねぇ。……速すぎる。なんだいそのスピード……今の一撃で首を跳ね飛ばすつもりだったのに……。それにその防御力、レヴァーティンの最大斬撃を受けてその程度で済むなんてねぇ……!」


 目の前の男が何か言っているが、頭に入ってこない。

 何だ、これ?

 斬られるってこんなに痛いのか?

 ジンジンとまるで焼けるような、それでいて、どこか寒気がするような、痛み。


 『う、うわあああああああああああああああああ!』


 俺はそのまま、這いずって男から距離をとった。

 でも、直ぐに男は距離を詰めてこちらへ向かってくる。


 「ちっ!速いねぇ!………て、反撃しないの!?」


 俺は必死になって逃げた。

 それはもう無様に、転げまわるように必死に。

 自分でもありえない様なスピードが出る。


 「お、おいおい!?龍が逃げるなんて聞いたことが無いよ!?ねぇ!ちょっとっ!?」


 それを見た男が何かを叫ぶが聞こえない。

 知ったことか!

 そもそも、俺は戦った事なんてないんだよ!


 平和にのんびり生きたいだけなんだよ!

 なんで、俺を狩りに来るわけ!?

 俺が何かした?……あ、素材でしたね、俺。しかも、極上の。

 でもさ、何で殺しに来るかな!?


 マジで、俺が何したよ?

 のんびり魔石食って、寝て、ゴーレム造って、だらだらしてただけだぞ!

 俺に罪はない……筈だ。

 いや、まあ、確かに自衛手段としてダンジョンは作ったけどさあ!

 それだって、マイホームの代わりになればと思って作ったんだ。


 なのに、いきなりダンジョン割って、攻めてくるっておかしいだろ!

 反則だ!過剰攻撃にも程があんぞ!

 びっくりだよ!この世界の人間、舐めてた!

 おかしいだろ、パワーバランスどうなってんの、この世界?

 あ、でもエリベルの資料に聖剣の一撃は大陸を割るとか書いてあった様な……。


 とにかく、俺は必死に逃げ回りつつ、どうすればこの状況を打開できるか考えていた。


 …………駄目だ!全然良い作戦が思いつかない。


 ていうか、痛い。斬られた腕が傷む。

 それに、お腹すいた。眠りたい。

 夢だといってよ、誰かぁ……。

 

 さっきから思念通話でアンやぷるるたちに、救援要請してるのに誰も返事してこない。

 なんで?

 どうして誰も来てくれないわけ?

 ていうか、返事すらくれないって……。


 ………もしかして、俺って嫌われてる?


 え、うそ………マジで?

 なんで、誰も助けに来てくれないの?

 誰か助けてくれ!なんで、どうして!?


 ――――ちなみに、アンはベルディーと戦っており、ぷるるは二次災害防止のためにダンジョンの修復及びゴーレム達の救援、トレスやベルクは千手と交戦、他のゴーレム達も、侵入者の撃退に必死と、とてもじゃないが、返信出来る状況じゃない事を地龍は知らない。



 俺は深層エリアを必死に駆け回る。

 くそぅ!深層を俺のプライベートルームにしようと、殆どのゴーレムやホムンクルス達を上のエリアに移動させたのが仇になった!

 後ろをちらっと見る。あ、振りきれてない。

 あの男追って来てやがる。

 うあーどうしよう、どうしよう、どうしよう。


 『――――と……』


 ん?

 何か頭の中に、ノイズが走る。


 『――――ちょっと!――――りゅう――――』


 そのノイズは次第に大きくなってゆく。

 この声……もしかして?


 『――――ちょっと地龍!アンタなんで、逃げてんのよ!?戦えばいいでしょうが!あんたの、そのバカみたいな魔力量や身体能力じゃ、大抵の相手には勝てるでしょう!?そこに居る聖剣使い位、簡単に倒せるでしょっ!』


 混乱する俺に思念通話が届く。

 あれ、この声って……


 『エリベル!?生きてたのか?』


 『当たり前でしょうが!まあ、体はボロボロだし、現在修復中だけどね。しばらくそっちには戻れそうにないわ。ていうか、あんた後で一回ぶっ飛ばすからね!死ぬかと思ったんだから、割とマジで!』


 どうやら相当おかんむりの様だ。

 つーか、マジでこいつ余裕あるな。

 俺とは大違いだ。

 流石、二百年眠り続けたうっかり賢者(笑)は格が違う。


 『なんか馬鹿にされた気がするわね。まあ、いいわ!とにかく、さっさとそいつ倒してこっちを手伝ってよ!“ダンジョン破壊”機能が発動したんなら、そいつの持ってる剣は“ただの聖剣”に戻ってるはずだわ!初撃の“ダンジョン破壊”を備えた一撃だけが問題だったしね!今なら大した力は出せないし、問題なく倒せるでしょ!?』


 さらっと賢者さんは無茶な要求を言う。


 『それこそ、出来るわけないだろ!俺斬られたんだぞ!勝てるわけないだろ!』


 『はぁ!?斬られたって……ここからじゃ、魔力の波動でしかわからないけど、アンタ大した怪我してないでしょ!?ほとんど無傷じゃないの!嘘つくんじゃないわよ!』


 嘘なんかついてねーよ!


 『左腕斬られた!』


 『アホか!んなもん、アンタならすぐ治るでしょうが!子供か!その程度の怪我でいちいち騒いでんじゃないわよ!それでも雄か!このヘタれ!ダメ地龍!略して駄龍!クソ素材!』


 どうやら、崖から落とされたことが、相当頭に来ているようだ。

 悪口に容赦がない。ひどい。

 グサグサとエリベルの言葉が確実に俺の心に突き刺さる。

 やめて!体も痛いのに、心まで折れちゃうからやめて!


 そんな俺の動揺を察したのか、エリベルが物凄い深いため息をつく。


 『はぁ~、わかったわ!んじゃ、私があんたに勝つための知恵をあげるから、さっさと終わらせなさい!』


 『はぁ!?』


 『流石に、今あんたに死なれちゃ、私も困るしね。それに二百年前の“後始末”の一つが向こうから、来てくれたんですもの。ちょうどいいわ』


 ………後始末?


 『それってどういう………?』


 『いいから、黙って聞きなさい。アンタ、“背骨”はまだ残ってるの?』


 『はぁ!?背骨って……あんたのダンジョンから持ってきた“地龍の背骨”か?まだ大量に残ってるよ!さっき逃げてきたフロアに、粉末状にして残ってる!……はずだ』


 さっきの崩壊で潰れてなければ。


 『だったら、今すぐ戻って、それを舐めなさい!』


 『え!?どういう事だよ?』


 『“地龍の背骨”の効果はあらゆる呪い、呪術の解除だけどね、それを呪いのかかっていない“普通の生者”に使った場合は、ちょっと違う効果が出るのよ!』


 俺はエリベルの指示を聞きながら深層フロアを駆け巡る。

 さっきの部屋に戻るってなれば、ぐるっと回らなきゃいけないな。

 何とか追いつかれませんように!

 ヤバい、息が上がってきた。

 脇腹が痛い。左腕が痛い。


 『その効果は“精神の逆転”!呪いを解除するという、ある種の状態異常逆転作用が、生者に使った場合には精神の逆転という形で現れるのよ!』


 えっと?つまり、どういう事?


 『簡単に言えば、テンパってビビりまくってるアンタが飲めば、冷静に勇敢に戦うことが出来る様になるって事!分かった!?』


 マジか!すげぇっ!


 『あ……でも、やっぱ戦うのは怖いなぁ……』


 『アホたれ!そういう思いすらも、きちんと“反転”してくれるから!さっさと戻って舐めなさい!』


 『わ、わかった!』


 ………そうだよな。

 どのみち今の逃げ回る状況じゃ、そのうち詰みだ。

 なぜか、眷属の皆は駆けつけてくれないし、自分でなんとかするしかないんだよな……。

 うわぁー嫌だ……こえーよー……。


 ヒュン!と後ろから斬撃が飛んでくる。


 うぎゃあああああ!今度は頬をかすった!

 痛い痛い痛い!

 ちらっと後ろを見ると、あの派手な男が聖剣を振り回してる。

 やめてよ、もう!


 「ちっ!外したか!でも次は外さないよ!」


 外してください!お願いします!

 内心ガタブルになりながら、俺は先ほどのフロアへ向かった。

 痛い!今度は尻尾に当たった!

 ヒィィィィィィイイイイイイイイッ!

 


 そして、何とか逃げ切ってたどり着いた先ほどのフロア。

 ふぅーふぅー……疲れた……。あんなに走ったの久しぶりだわ。


 ………粉末………あの背骨の粉末は……どこだ……あの白い粉は、どこだ?

 俺はフロアを見渡す。

 ………あった。

 フロアの片隅。

 ダッシュで向かう。

 トレスが削ってくれた“地龍の背骨”の粉末は、そのまますり鉢の中に残っていた。


 よかった、まだ残っていて……。


 『エリベルゥ……よかった、残ってたぁ……』


 『………情けない声出してないで、さっさと舐めなさい。ほら、向こうさんも追いついたみたいよ。良い、くれぐれも一口以上は舐めちゃだめよ?下手したら性格まで変わっちゃうとんでもない秘薬なんだから』


 あ、そうだ。急がないと。

 俺は言われた通り“地龍の背骨”を食べる。

 ………ちょっと怖いんで少しだけ。

 

 ぺろぺろ…………ごくん。


 ……あらやだ、美味しいじゃないのこれ。

 すげぇ……ハッカみたいな味がする。

 もうちょっと舐めよう。ぺろぺろ。

 うまー、ぺろぺろぺろ。

 …………うん。

 ていうか、同族食いだよな、これ………?

 いや、そんなことも言ってられないか。


 あ、頭がひんやりしてきた。

 それと同時に思考がクリアになってゆく。

 さっそく効果が出てきて………。


 『……………………』


 「ここは……さっきのフロアに戻ってきたのか?どうしたんだい?ようやく、相手してくれる気になったのかねぇ」


 ……うざったいな。

 さっきから非常に腹立たしい声が後ろから聞こえてくる。


 これは………怒り、か?

 俺は振り返り、後ろにいる男を睨み付ける。


 「――――――っ!?」


 なんか男は距離をとって剣を構えてる。

 何だよ、警戒してんじゃねーよ。


 ………ああ、成るほど、確かにこれは、すごい効果だ。

 さっきまで、なんも考えられなかったのに、今では驚くくらい冷静に物事を考えられる。

 理性の鎖も―――外れる。

 そして、どうしようもない程の解放感と、怒りが沸き起こってくる。


 ……そうだよな。

 よく考えたら、理不尽だよな。

 俺はただのんびり暮らしてただけなのに、それなのに……ダンジョン壊されて……腕斬られて……こうして殺されかけて……。


 俺は改めて、目の前の男を見る。

 こいつだ。

 こいつが元凶だ。

 こいつの所為で……こいつの所為で……。


 「なるほどねぇ、ようやく戦う気に……」


 『………るさい』


 「ん?」


 男はきょろきょろと周囲を見渡す。


 『………うるさい……にしてくれてんだ?』


 「ん?なんだ、これは?………念話?―――――ッ!!」


 男の顔がなにやら驚きに変わっていく。

 知ったことか。

 そうだよな。こいつだよ。こいつが悪いんだよ。

 こいつが俺のダンジョンを……俺の……


 『うるさいんだよ、お前!!!俺が……俺が散々苦労して作ったマイホームに何してくれてんだあああああああああああああ!!!』


 ビリビリビリビリと。

 咆哮がダンジョン内に響き渡った。

 壁にいくつもの亀裂が走り、俺の居た場所を中心に地面がバキバキとへこんでいく。


 『ちょっ!地龍!抑えて!あんたが全力で“咆哮”なんてしたらダンジョンが―――』


 『エリベル……ごめん。ちょっと、待っててくれ………』


 そうだ。

 こいつは俺の一年の努力の結晶を台無しにした。

 俺の夢にまで見たマイホームを、数々の情熱を注いだゴーレム達を台無しにしやがった。

 俺の仲間を……眷属たちを傷つけやがった。

 今ならわかる。

 アンやぷるるの、魔力の波動が伝わってくる。

 アイツらも戦ってたんだ。必死になって……傷ついて……。


 ぜっっっっったいに許さない!


 『ぶっ殺してやる!』


 


 ――――――地龍が、キレた。


 お薬をキメて。




 「……ヤバい………効きすぎたかしら……?……あいつどんだけ、ビビってたのよ……?」


 深層よりさらに深い闇の底で、エリベルは体を治しながら、冷や汗をかいていた。






 地龍の背骨の粉末(俗にいう白い粉)

 効果:あらゆる呪い・呪術の解除。ただし生者に使用した場合、その精神・性格が反転する。要するにビビればビビる程勇敢になる。少量ならば特に問題ないが、大量に服用すると後々精神性に異常をきたすため、服用の際は用法用量をきちんと守って下さい。


 ――――エリベル製薬より抜粋



 マジでこれくらいしないと戦えないくらい地龍さんは豆腐メンタルです

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