10.大切
それぞれの前振り回
各自の本格的な戦闘は次話からになります
なんか群集劇っぽい………
ダンジョン深層にて―――――
目の前にいる人間を改めて見る。
ものすごい派手な男だ。目に痛い。
突然起こった地割れ。それに次いで現れた謎の男。
…………マジでなんなん、この状況?
いや、落ち着け。
クールだ。冷静になるんだ俺!
とりあえずこの状況の把握が先だ。
えっと、えーっと……。
あ、考えがまとまらない。
どうしよう……。
「ちょっ!地龍!混乱してないで早く助けて!腕が!腕がそろそろ限界なの!痺れてきた!いや、神経ないんだけど、そろそろ、腕が限界なのー!なるはや!なるはやで助けて!」
そんな俺に必死に岩にしがみついているエリベルから救援要請が届く。
『お、おう』
なんか、意外と余裕あるなアイツ。
おかげでちょっと冷静に成れた。
とりあえず、早く助けないと。
「へぇ……アーク・スケルトンか。しかも喋るなんて……こんな奴まで居るなんてねぇ。でも僕が、それを見逃すとでも思うのかい?」
目の前の男が聖剣を構える。
ヤバい!
とりあえずエリベルを助けて、ダッシュで離脱だ!
とりあえず、一旦引いて態勢を立て直そう!
俺はそう思って、ズン!と一歩を踏み出す。
地盤が脆くなっていたのだろう。
その揺れで地面にひびが入り――――
「え」
「え?」
『へ?』
バキンと、エリベルのしがみ付いている岩場が崩れた。
「ちょっとおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
『エリベルウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!!!』
そのまま、エリベルは重力に従い、真っ逆さまに落ちて行った。
キラーンって効果音が付きそうな位きれいに落ちて行った………。
余りの予想外の出来事に、俺も目の前の男すら完全に固まってしまった。
『…………』
「………えっと」
目の前の男もさすがにこれは予想外だったのだろう。
何ともいえない空気が漂う。
…………………どうしよう?
だが、状況は待ってくれなかった。
「ま、まぁいいか!それじゃあ、闘おうかねぇ」
ヒュン、と言う風切り音。
派手な男は水平に剣を構え、地面を蹴って、こちらへ近づいてくる。
ゆっくりと、目の前にオレンジ色の聖剣が迫っていた。
ダンジョン中層にて―――――
「痛っ……」
トレスはダンジョンの中層、エリベルの遺跡にいた。
地龍が深層に行った後、彼女はこの中層でぷるると共に魔術の修業をしてたのだ。
そして、ようやく新術が完成しようとしていたその時、ダンジョンが突如として崩壊したのだ。
見れば、辺りは瓦礫の山と化していた。
「ふぅー、有難う、ぷるるー。おかげで助かったよー」
「ぷるぅ!」
トレスを落盤から救ったのはぷるるだった。
ぷるるは崩壊が起こると同時にその体を膨張させ、様々な箇所に自分の体を密着させ、トレスを落盤から防いだのだ。
「でも、一体何なんだろうね、これ?おっきい魂の波動が上と下に一つずつあるし。どうする、ぷるるー?」
「ぷるーぷーぷー」
ぷるるは更に自分の体を膨張させる。
そして、自らの体を岩の隙間へと潜り込ませる。
暫らくしてぷるるが触手を引き抜くと、岩と岩の隙間が埋まり、きっちりとコーティングがされた。
「……え、自分は粘液と硬質化で、ダンジョンの応急処置をするからここから動けないって?」
「ぷるーぷーぷー!」
「……だーりんの作ったダンジョンをこれ以上壊させないって?分かった!えーっと、じゃあ、私はどうしようかな?」
うーん、と悩むトレス。
そもそも、自分は考えることが苦手だ。のんびりと、気ままに行動するのが彼女のスタンスだ。
ある意味では、トレスは地龍の影響を最も強く受け継いでいるともいえる。
悩んでいる彼女に後ろから声が掛けられた。
「ならば……ハァ……ハァ……深層に向かうべきじゃ」
声のした方を見る。
六本腕の巨人。エリベルの眷属、ベルクがそこに居た。
崩落の影響を受けているのか、体中傷だらけだ。
「深層には……お主らの主人も、エリベル様もおられる……。儂は……ハァ…ハァ……あの御方を、お守りせねばならないのじゃ……」
ふらつきながらベルクは語る。
そもそも彼はトレスやぷるるとの戦闘を経て既に弱体化していた。
そこに来てこの崩落でさらにダメージを受けてしまったようだ。
「………おじさんにとってあの骨って、そんなに大切なのー?」
小首を傾げながらトレスは質問する。
「当たり前じゃ……。儂にとって……あの御方こそがすべてじゃ……」
「そっかー」
トレスは懐から魔石を取り出す。
地龍から分けてもらった超高純度の魔石だ。
残りは一つ。
トレスはそれを躊躇いなくベルクへと差し出す。
「私もねー、お父さんが大好き。ウナお姉ーちゃんや、ドスお兄ーちゃんも、アンさんも子蟻達もゴーレムの皆も大好き。だから、おじさんの気持ちすごくよくわかる」
「…………お主」
「ぷぅー!」
そこでぷるるが声を上げる。
ちょっとー私入ってないよーと抗議しているようだ。
「あはは!もちろん、ぷるるも大切に決まってるよー。一番の仲良しだし!」
「ぷるー!」
ぷるるは嬉しそうに体を震わせる。
にっこりと笑って、トレスはベルクの方を見る。
「だから、おじさん。元気になって、一緒にいこー?」
「……………ふっ、当たり前じゃ!」
ベルクはがりがりと受け取った魔石を食べる。
見る見るうちに傷はふさがってゆく。
全開時には程遠いが、それでもある程度活動する分には申し分ない。
「では、往くとするか!」
「うん!」
こうして二体は深層へと向かう。
自分たちの主を、“大切”を守るために。
その時だった。
「おい!見ろよ、この魔石!とんでもねー純度だぜ!やっぱ騎士団出し抜いて先に来て正解だったな!」
「すげー、これだけでひと財産だぜ!」
「おい、さっさとかき集めて戻るぞ!早くしろ!」
数人の、下卑た汚らしい笑い声が、トレスとベルクの耳に響いた。
死の境界付近の森にて―――
そして、彼女たちも同じく“大切”を守るために、森の中を駆け抜けていた。
ウナとドスだ。
二人はアンに貰った冒険者の衣装ではなく、地龍の皮を使ったアオザイ風の衣装に身を包んでいた。
どこに隠し持っていたのか?
答えは簡単だ。
二人は、この服を自らの皮膚と同化させて、その上に冒険者の衣装を纏っていたのだ。
もともと地龍の皮から作られた彼女達ゴーレム・ホムンクルスは、同じく地龍の皮で作られたこの服との親和性は非常に高い。
そのため、装備を解除し、自らに皮膚と一時的に同化させることが出来るのだ。
ただし、その場合、この服は装備品としての本来の性能を発揮することは出来ない。
地龍の素材とは、加工して初めてその真価が発揮されるため、皮膚と同化した状態では、衣装ではなく肉体の一部と認識されてしまい、その性能を発揮することが出来なかった。
地力の底上げにはなるが、それでもやはり、衣装として使った方がその性能は格段に違うのだ。
外で万が一、何かがあった時の為にと進言してくれたアンに、ウナは心からの感謝を送る。
もし、この装備を持たずに外に出ていたら、戻るまでに何倍も時間がかかってしまうだろう。
更に二人はアンから渡されたもう一つのアイテムを装着する。
真っ白な仮面だ。
外で行動する故、もし不測の事態が起き、この服、地龍の装備品を使わなければならなかったとき、身元がばれない様にと二人はアンにアドバイスをもらったのだ。
本当に頭が上がらない。
地龍との通信が途絶えた直後、ウナとドスはエルド荒野で起こっている異常事態を察し、すぐさま行動を起こしたのだ。
「このペースで行けば、少なくともあと二十分程でしょうか………ペースを上げますよ。ついてこれますか、ドス?」
その質問にドスは答えない。
というか、仮面のせいで表情も分からない。
ただ、ドスはこくりと頷いた。
ウナもその返答に満足する。
「それでは―――――――飛ばしますよ!」
大量の魔力を地龍の衣装へと注ぎ込む。
早く、一刻も早く、お父様の元へ向かわなければ!
飛躍的に性能を上げた服の効果もあって、二人は一陣の風のように森の中をさらに加速しようとする。
そこに、不意に声が掛けられた。
「あーそこの二人ー、止まってくださーい」
前方から声がした。
二人は反射的に止まってしまった。
「………誰ですか?」
急いでいるウナは殺気を隠そうともせず、目の前の人物を見る。
そこに居たのは女性だ。
秘書の様なぴっちりとした礼装を着こなした、二十代前半ほどの見た目の女性。
彼女は、二人の風体にも殺気にも、まるで意に反さぬように口を開いた。
「リアスと言います。ボルヘリック王国宰相エクレウス様の秘書をしております」
リアスと名乗った女性は、にっこりと、どこか猫を思わせる様に笑った。
ダンジョン表層にて――――
互いの“大切”の為に対峙する者たちがここにもいた。
アンとベルディー。
アンはベルディーの初撃を躱した後、再び一定の距離をとって睨み合っていた。
無論対峙している間も、アンは地龍の剣とマントに魔力を注ぎ、その能力を向上させている。
アンは焦っていた。
余りの不測の事態に。
一刻も早く地龍様の元へ駆けつけなければいけない。
だが、この敵をこのままにも出来ない。
女の冒険者の一挙手一動に気を配りながらも、アンは子蟻達へと信号を送る。
こう着状態を破ったのはベルディーだ。
彼女は再び槍を構え、アンへ仕掛けた。
彼女の持つ槍“神殺槍グングニル”がひときわ大きく輝いた。
さて、最初の戦闘はやっぱアンさんからかな
ちなみに現時点でぷるるの言葉を完ぺきに理解できているのはアンとトレスだけです




