9.聖剣と魔改造
前回のヴァレッドのダンジョン破壊を行った場所を、境界付近から、ダンジョン付近へと変更しました。
流石に境界付近から一瞬で地龍の元へ向かうのは無茶だったなと思い、ヴァレッドとベルディーの二人がエルド荒野に先行するという形に変更しました。
目の前に広がる渓谷。
それを見ながら、エクレウスはかつての会話を思い出していた。
それはかつてヴァレッドと交わした執務室での会話だ。
『ダンジョンを………攻略しない?』
『そ』
そもそもさ、とヴァレッドは黄緑色のお菓子をつまみながら、続ける。
『ダンジョンって脅威を手っ取り早く取り除くにはさ、ぶっ壊すのが一番なんだよねぇ』
こともなげにとんでもないことを、彼は言う。
『壊すだと?ダンジョンそのものを?馬鹿な、そんなことできる筈が無い。そもそもそんなことが出来るのならば、最初からしている』
だが、そんなことは不可能だと、エクレウスは思う。
仮に、だ。もし仮に、そんなことが可能ならば、それはおそらく人類の限界領域と言われる最上位、“霊王級”、もしくは魔物で言う“神災級”クラスの力を持つ者だけだ。
そして、歴史上その地点まで到達できたのは、伝説上の存在とされる勇者や魔王を除けば、彼の祖先であるエリベル・レーベンヘルツ、ただ一人だけ。
それ以外に、霊王級まで到達できたものなど、誰一人としていない。
そして、ダンジョンそのものを破壊できるという存在すらも。
エクレウスは続ける。
『確かに“ダンジョン喰らい”や“道外し”といった、例外的にダンジョンそのものに攻撃を仕掛けられる魔物は存在する。だが、そいつらにしたって、ダンジョンそのものを破壊することなど出来はしない』
エクレウスは断言するように言う。
ヴァレッドもそれを予想していたのだろう。
『うん。ま、多分できるのは僕位だろうけどねぇ』
そう言って彼は横に置いてあるオレンジ色の聖剣に手をやる。
『その聖剣………レヴァーティンの力か?その剣にはそれほどの力が込められているというのか?』
『まあね。数年前に僕の師匠、当時の所有者からこの剣を継承したんだけど……この聖剣面白い特性を持ってるんだよねぇ……。多分手にした者にしかわからないんだろうけど』
『面白い特性だと?』
それはなんだ、とエクレウスは訊ねる。
『“ダンジョン破壊”』
その一言にエクレウスは言葉を失った。
『“ダンジョン”に対してのみ発動する絶対的な破壊能力。ダンジョンと言う対象に対して、所有者の望む通りの破壊をもたらしてくれるっていう力さ』
その言葉にエクレウスは口を開く。
『………馬鹿な。その聖剣にそれほどの力が宿っているだと?』
『まあね。もっとも、これは元々この聖剣が持ってた能力じゃないんだ。この聖剣の本来の力は持ち主の力の増幅と、斬撃の属性付与、そして拡張。今言ったのとは一切関係のない力さ』
鞘からレヴァーティンを抜きながらヴァレッドは続ける。
『“聖剣の一撃は大陸を割る”なんて謳い文句があるけど、誇張もいいところだよ。僕だって、どんなに頑張ったって、大陸どころか、山だって割ることすら出来ない。師匠にだって不可能だった。聖剣の能力限界はせいぜい王級、許容限界を突破して使用しても法王級がいいところだろうねぇ。だから、この能力は明らかに、この聖剣の限界を逸脱しすぎた能力なんだよ……いや、それどころか、この世界そのものからも逸脱してしまう程の』
そのヴァレッドの口ぶりにエクレウスは思わず息を吞む。
―――――ではどうして、そんな能力が備わっている?
そう思ったエクレウスの疑問を感じたのだろう。
ヴァレッドは先んじて答えを言った。
『じゃあどうして、そんな力がこの聖剣に宿っているのか、だろ?決まってるよ。誰かこの聖剣を“改造”したんだよ。ダンジョンに対する“絶対兵器”としてね。おそらく、かなり昔にね。師匠がこの聖剣を手に入れたのは二百年くらい前だから、おそらくそれ以前にこの聖剣は何者かの手によって改造されたんだろうねぇ』
ま、誰がそんな事をしたかはこの際どうでもいいけど、と言って彼は薄い笑みを浮かべる。
『事実、師匠はこの力を使い、過去にダンジョンを一つ破壊している。全く無名のダンジョンだったからね。その力が世間に知られることはなかった。そして、その時に、師匠は神殺槍“グングニル”を手に入れた。ただ、僕や師匠には槍が使えなかったからね。ベルディーが弟子入りするまではずっと埃を被っていたけどねぇ』
その言葉にベルディーも頷く。
『もちろん欠点もある。この力は一回使えば、しばらく使えなくなるんだ』
『……どのくらいの間だ?』
『百年』
『なっ………!?』
驚くエクレウスに対しヴァレッドはさも当然のように言う。
『まあ、これだけの能力だからねぇ。そもそもダンジョンに対する常識そのものが変わる程の能力だ。それ位の代償は無いとね。一回使えばその後は、百年間ただの聖剣に戻る。ま、それでも強力な武器であることには変わりないんだけどねぇ』
『……それでも、“使う”というのか?この戦いに?そもそもリスクはないのか、使用者に対して?』
『もちろん。パルディーちゃんの敵討ちだからね。ま、リスクが全くない、とは言えないけどね。馬鹿みたいに魔力を食うから。ある意味、生涯でたった一度だけ使えるジョーカーって言ったところかな』
ヴァレッドは頷く。
『作戦自体はとってもシンプルだよ。僕が聖剣でダンジョンを縦に割る。全部ぶっ壊したら、そもそも魔物の生死も分からないからねぇ。万が一生きて、がれきの中を伝って生き延びられたらおじゃんだ。キラーアントは土の魔物だからねぇ。だから、最初に僕とベルディーが先行し、急ごしらえだけどマッピングをして、君に送信する。んで、僕らはそのまま頭を潰す。その後に、正規軍が魔物の残党を狩ればいい。空いた隙間から、フライで強襲をしかければダンジョンのメリットは殆どなくなるからねぇ』
『………そうなれば、あとは時間との勝負と言う訳か』
エクレウスが手に入れた避魔石。
これは一定時間決まった魔物を遠ざけるという効果がある。
効果範囲は狭いが、この所持者を一定間隔でダンジョンを囲むように持たせれば、即席だが二大王級に対する即席の結界が出来上がるだろう。
結界の効力が切れ、アクレト・クロウ、そして白飛龍が来るまでの間に勝負をつけ、エルド荒野から離脱する。
それが、今回の災害指定種インペリアル・アント討伐の概要だった。
「………しかし、改めて見ても、現実離れした光景だ」
まるでこの世の終わりを見るかのような光景に、エクレウスは息を吞む。
仮にほかの人間がこの作戦を提案したとしても、エクレウスは聞き入れなかっただろう。そんなバカなことが出来るはずないと。
付き合いも長く、ある意味絶対の信頼を置いているヴァレッドだからこそ、信用し、作戦決行に踏み切ったのだ。
エクレウスは左手にはめられた腕輪を見る。
この腕輪が砕けた時、ヴァレッドからのマップデータが転送される。
その時が、勝負だ。
それまでに軍の配置、冒険者への指示などを的確に済ませておく。
超大規模術式で疲労する体を引きずりながら、それでもエクレウスは各自へ指示を出した。
ダンジョン表層にて――――
アンは目の前で何が起こっているのか全く分からなかった。
『一体何が起こったっていうの……?』
表層にて子蟻達と共に戦闘訓練をしている最中、突如として地龍様の回線を介して送られた謎の女性の声。
そして、その直後に地割れが起き、ダンジョンが崩落した。
地震の影響か、アン達のいた場所は地中から地上へとややせりあがり、まるで切り立った崖の様になっていた。
ダンジョンの中から太陽の光が見える。
その異様をアンが見たのはこれで二度目だ。
一度目はアクレト・クロウの長、ヘレブの襲撃。
だが、あの時はヘレブがダンジョンの表層を風で吹き飛ばすという、ある意味ではまだ理解できる範疇での出来事だった。
だが、これは何だ?
これは完全に理解の範疇を超えていた。
そもそもこの地割れは一体どこまで続いている?
地龍様は無事なのか?
この状況でアンが真っ先に考えたことは主である地龍の安否だ。
眷属であるアンには地龍様が生きているかどうかの確認はすぐにわかる。
自分には地龍の魔力が常に流れているのだから。
そして、魔力の供給は今も続いている。
―――――地龍様は生きておられる。
それが分かっただけでも安心だ。
次にアンは子蟻とゴーレム達のネットワークを介し、ダンジョンの現状把握に努める。
子蟻やゴーレムから送られてくる信号を取捨選択。
必要な情報のみをくみ取る。
『これは……』
そして、結果は思った以上に最悪だった。
いたるところで落盤や、崩落が相次ぎ、巻き込まれた子蟻やゴーレムの数も相当なものだ。
『くっ、早くしなければ!』
ここまでにかかった時間は僅かに三十秒。
驚異的なスピードと言える。
しかし、その三十秒の停止がいけなかった。
アンは、地割れが起こった直後に動くべきだったのだ。
アンが子蟻達へ指示を出そうとする。
次の瞬間だった。
アンは寒気に襲われた。
――――――何かが来る!
アンは本能に従い、体を逸らした。
しかして、その判断は正しかった。
ヒュンッ!とアンの横を紅い閃光が貫いた。
その光に貫かれて、アンの横にいた子蟻が十匹以上消し飛ぶ。
『なっ!?』
かろうじてその光を目で追い、アンは後ろを向いた。
そこには、一人の人間が居た。
長い銀髪をなびかせ、左目に眼帯をした女性の冒険者だ。
そして、その手に握られているのは紅い槍。
アンはその槍に見覚えがあった。
いや、正確にはその知識を与えられたというべきだが。
『…………まさか、神殺鑓“グングニール”?』
その声は、女の冒険者にも届いたようだ。
「成るほど、この槍を知っているのか……。やはり、普通の魔物ではないらしいな」
その槍から魔力が溢れだす。
マズい。どう考えても、これは異常事態だ。
以前地龍様から頂いた記録によれば、神器はその全てがあり得ない性能を有している。
それ故にさまざまな場所に厳重に封印されているのだと。
アンは歯噛みした。
早く地龍様の元へ向かわなければならない。
だが、この敵を放っておくわけにもいかない!
地龍様は生きている。それは分かる。
だが、そのすぐそばにもう一つ、あり得ない程の馬鹿でかい魂の気配がする。
おそらくはこの異常事態を引き起こした何者かが……あの御方のすぐそばにいる。
早くあの御方のもとへ向かわなければ。
アンの頭の中にあるのはそれだけだ。
『――――邪魔をするな!』
アンはとっさに剣を抜き構える。
劣化版聖剣レヴァーティン、そして地龍の剣。
そして、その剣を見た瞬間、女の冒険者の顔が変わった。
「その剣……っ!?やはり、貴様が……ッ!!貴様が……貴様がその剣を使うなああああああああああああああああ!!」
殺気が溢れだす。
その剣を見た瞬間、隻眼の冒険者ベルディーは確信した。
間違いない。目の前にいるのは、妹パルディーを殺したインペリアル・アントだ。
ベルディーはその感情のままに、アンに突撃を仕掛けた。
災害指定種インペリアル・アントの女王種と神器持ちのSランカーの激闘が始まった。
そして、エルド荒野南端にて――――
「本当に私が介入しなくていいのか?」
「ええ。今回の件はあの子にとってもいい教訓になるでしょう。いい加減あの子も現実を見なければいけませんからね。正直此処までだらけるとは思っていませんでしたから」
「そのために“ダンジョン破壊”を許したと?相変わらずとんでもないな貴方は」
「褒め言葉として受け取っておきます。そもそもあの子のダンジョンが“完成”していたら、こんな事態にはならなかったのですから」
「なるほどな、分かった。私は今回は静観しよう。だが、向こうは分からぬぞ?貴方はあちらとは縁が無いのだろう?」
「それ位なら構いませんよ。それに彼が入れ込んでいるのは、どちらかと言えばあの子ではなく、その眷属の方ですから」
「ふ、確かにそうかもしれないな。だが勝算はあるのか?」
「大丈夫ですよ。あの子は勝ちます。それに……」
「それに?」
「あの子には……眷属がいますから」
「……貴女がそれを言うと皮肉にしか聞こえないが?」
「ふふ、かも知れませんね。ああ、そういえば……」
「なんだ?」
「あの子には――――――まだ、“名前”がないのですね」
全部は補足できなかったけど、後々説明が入ると思います、多分。
え、ダンジョン破壊するのって駄目なの?て感想欄見るまで普通に思ってました。
ノリノリで書いてたんだけどなぁ………




