3.小っちゃくないよ!
びちゃびちゃと、肉の雨が降り注ぐ。
爆散した巨人の肉片だ。
うへぇ、ばっちぃ。
その肉片を嗅ぎ分けて魔石を探す。
あった。
正八面体の青いクリスタルのような魔石。
これが巨人の核だろう。
見れば周辺にいくつか散らばっている。
『トレス、ぷるる、集めるの手伝ってくれ』
「はーい」
「ぷるー」
確かこの核を同時に砕かないといけないんだったよな。
合計で十二個か。
……一つ足りない。
説明には確か魔石は十三個と書かれていた。
でも、どこを探してももう一つは見つけられなかった
それでも、とりあえず砕いてみるか。
いや、ちょっと待てよ……。
『…………』
しげしげと魔石を眺め、そのうちの一つを俺は手に取る。
ひょいぱく。
ぼりぼりぼり……………ッッッ!!!!!!!!!!!!
マズッ!なんだこれ、くっそまずい!
俺は口に含んだ魔石を思わず吐き出した。
うわー、魔石がまずいって初めての体験だわ。
興味本位で食ってみて損した。
うん、残りはもう砕いてしまおう。
バキィィィンッ!!
魔石は簡単に砕けた。
あ、俺魔石壊すしか仕事してねぇや。
部下の倒した魔石を壊すだけの簡単なお仕事です。
しばらく辺りを見渡す。
…………巨人は再び現れなかった。
あれ?復活しないのかな?
説明書通りなら、魔石が一つでも残ってれば、直ぐに再生するんじゃなかったのか?
そう思ったら、後ろから気配がした。
「ぐぁっはっはっは、まさか人間とスライムごときに、この身が滅ぼされるとは思わなかったわ」
声が聞こえた。
渋いダンディーな叔父様ボイスだ。
声のした方を向く。
そこには先ほどと同じ姿の巨人がいた。
いや、巨人………か?
サイズが………
「ちっさいねー」
「ぷるー」
トレスとぷるるもそいつを見る。
そう、目の前の巨人は見た目は同じだがサイズが圧倒的に小さかった。
さっきは十メートル近くあった身長も今はその半分もない。
もはや、巨人ではなく普通の人間ほどのサイズだ。
巨人はこっちを見つめる。
そして、ゆっくりとその口を開いた。
「ふん。貴様らが我の核を砕いたからじゃろうが」
あ、喋れるんですね。
ちょっと驚いた。
「喋った」
「ぷる」
トレスとぷるるも驚いている。
驚いている表情が可愛い。
らぶりー。
「あの戦闘状態だと喋れんのじゃが、今の状態の儂は普通に会話が可能なのじゃよ」
「ふーん、じゃあまだやる気なのー?」
「ぷるるー!」
トレスとぷるるは再び身構える。
「まあ、そう身構えるな。わしは負けた。お主等とはもう戦わんわい」
元巨人のおっさんは六つの腕を上げて降参のポーズだ。
おっさんは俺たちの前までやってきてドカッと座る。
一応トレスとぷるるは警戒していたが、俺にはこいつがこれ以上戦おうという気には見えなかった。
おっさんは手で俺達にも座るように促す。
とりあえず四人で円を描くように座った。
といっても俺のサイズだけちょっとデカいから、俺だけ少しはみ出てるけど。
「しかし、油断したわい。魔力の質や量から見て、一番厄介な地龍を常に警戒しておったのに、まさかそっちの二匹も、それ程までの力を持っているとはのぅ。二百年の月日の中で儂の勘も鈍ったか。いやはや年は取りたくないないのぅ」
『あんたゴーレムだろ?歳とか関係ねーじゃん』
俺は念話をおっさんに飛ばす。
するとおっさんは驚いたような顔をした。
「なんじゃお主知らんのか?ゴーレムも摩耗するんじゃぞ?まあ、人間とは作りが違うからの。どちらかと言えば経年劣化と言った方が正しいかの。というか、地龍よ、お主喋れるのか。ますますもって化け物じゃな」
腕六本の巨人に化け物と言われたくねーよ。
てか、そりゃ喋れるよ。
え、喋れない方が普通なのか?
それに、ゴーレムの経年劣化って、リース商品かよ……。
「劣化を防ぐためにエリベル様、ああ、わしの創造主様なんじゃが、その御方は核となる魔石を複数に増やし、魔力の循環通路を増やしたのじゃ。一本の通路が傷めば、別の通路を代用し、その間に本線を修復するといった具合にの。まあ、それでも完璧にはいかなかったようじゃがの」
『へぇ、つまりあんたは本来の力ではなかったと?』
「ああ、作っていただいた当初のおよそ二十分の一程度じゃろうな。せいぜい将級くらいの力しか無かったじゃろうて」
あれで二十分の一かよ………。
それでも将級クラス。
でも、同時にやっぱりか、とも思った。
最初は見た目と、恐怖で正確に観察できなかったが、冷静になって魔力を感じ取ってみたら、説明に書いてあった程の魔力量ではなかったのだ。
多分、トレスとぷるるは最初からそれに気づいていたのだろう。
目の前の巨人が、それ程の脅威ではないことに。
だから、あんな躊躇なく向かっていったのだ。
考えてみれば、トレスは外に出た際、王級であるアクレト・クロウの魔力を感じた際には戦闘は避けていた。
にも関わらず、今回災害指定種である巨人に躊躇なく向かっていたのは、その魔力がアクレト・クロウよりも低かったのを冷静に感じ取っていたからだろう。
テンパってた俺が情けくなるくらいに優秀な二人だ。
「おじさんすごい強かったんだねー」
「ぷるるるー」
「まあの。はぁ……しかし果てる前に、最後に戦うことが出来てよかったわい。生まれて二百二十年、あの御方の命を受け、ダンジョンを拡張し続けたが、ここまで来た者は誰一人としていなかったからのぅ。メンテナンスもろくに出来んかったし、出来ていればもう少しは戦えたんじゃがのう」
おっさんは残念そうに頭を振る。
やめてよ。
多分本来の強さだったら、こんな事になってなかっただろうし。
そしてしばし俯いた後、決意した様にこちらを見つめた。
「さて、お主等、わしに止めを刺せ」
『え?』
「へ?」
「ぷ?」
同時に疑問符を上げる。
「何を驚いておる?わしはこのダンジョンの最終守護者じゃ。わしを倒さねば、かの聖地にはたどり着けんのじゃぞ。なぁに、気にするでない。わしは最後にお主等と戦えて満足じゃ。さあ、止めを」
おっさんは満足そうに首をこちらに差し出す。
「わしには十三の“魔核”がある。そのうち十二個が先ほどの姿の時に、そして最後の一つがこの状態になった際に、それぞれ埋め込まれておる。今の儂は先ほどよりもさらに弱い。貴様らなら簡単に滅ぼせるはずじゃ」
そう言って巨人のおっさんはずいっと首を差し出してくる。
えーっと。
なんだろう、すごく言いにくい。
そもそも俺らダンジョンなんて攻略してないんだよね。
だが、おっさんは満ち足りた、爽やかな表情を浮かべている。
「………エリベルよ、このベルク、今お主のもとに向かおう。………待たせて悪かったな」
ほら!そう言うこと言わない!
すげー言い出しづらいじゃないか!
『………あー、おっさん。驚かないで聞いてほしいんだけどさ、俺たちダンジョンからここに来たわけじゃないんだよ?』
「はぁ!?何をバカなことを?ダンジョンを通って来なければどうやってここに………て、待て。そういえばお主等が来た転移門、アレはわしの前方じゃなく後方から現れたような気が………まさか……?」
どうやら、おっさんも気付いたらしい。
勘がいいな。
「ああ、俺らはエリベルの遺跡からこっちに来たんだ」
「はぁああああぁぁぁぁぁああああッッッ!!??」
おっさんはスゲー驚いた表情を浮かべた。
リアクションすごいなー。
俺は場違いな感想を抱いた。
その後、俺はこのおっさんに一通りの事情を話した。
俺が遺跡の上にダンジョンを作ったこと。
そこから掘り進んでいるうちに、偶然遺跡にたどり着いたこと。
そこでエリベルの知識と研究資料の全てを手に入れたこと。
そして、彼女が本当は何を思っていたかもすべて話した。
結構長い話になったが、おっさんは黙って俺の話を聞いていた。
聞き終わった後に、一言、
「……………そうか」
と言った。
なにやら思うところがあるのだろう。
その表情はずいぶんとくたびれて見えた。
しぃんと、静寂が大広間を支配した。
誰も声を上げなかった。
それほど、おっさんの出す雰囲気はさびしく見えた。
どれくらい経っただろうか。
ゆっくりと、ほんとうにゆっくりとおっさんは口を開いた。
「………まさかエリベル様の仰っておった事が本当になるとはのう。いやはや、今日は驚かされてばかりじゃな」
『エリベルの言ってたこと?』
俺が質問する。
その瞬間、おっさんはカッと目を見開く。
「様をつけんか!」
怖っ!
『ご、ごめんなさい!』
俺は頭を下げる。
なんか、逆らえなかった。
「………いや、いいか。すまん、わしが悪かった。様は不要じゃ。思い出したのじゃよ。あの御方の言葉をな……」
『あの御方ってエリベル………さまのことか?』
「ふっ、じゃから様は不要じゃよ。お主にはその資格があるのじゃからな。そうじゃ、あの方はこう言っておったんじゃよ、ダンジョンが完成した時にな」
そこでベルクは言葉を区切る。
「“もし私の遺産を手にする奴がいるとしたら、そいつはきっと私やお前が予想もしない方法で遺産を手に入れるだろうな。例えばダンジョンを攻略しなかったり、とか”と言っておられたのじゃよ」
なんだそりゃ。
あ、そうか。俺の事か。
確かに、俺はダンジョンに挑まずに、偶然遺跡にたどり着いた。
そして、このダンジョンの核、エリベルの遺跡を手に入れた。
ダンジョンの攻略はしてないけど、ある意味ダンジョンを攻略したって事になるのかな?
でもそれってどうなんだ?作った当人としては?
それってある意味、作ったダンジョンそのものを否定されてるようなもんじゃんか。
八十八層からなる超難易度のダンジョン。
かかった時間も金も、設備もそれこそ、とんでもないことになったんじゃないのか?
俺は自分のダンジョンはただで作ったけど。主に食事として。
「ふふ、わしも聞いた当時は主と同じ表情を浮かべたわい。………でも、今にしてみれば、エリベル様はそれを見越して、いや期待しておられたのかもしれんのぅ。あの方は面倒事やイレギュラーと言った事態をこの上なく愛されていたからの」
うへぇ、何だよその性格。
マゾじゃねぇの?絶対合わないわ。
あ、でもそう言ってもいられないか。
これからすることを考えれば。
「その人へーん」
「ぷぅう」
トレスとぷるるも同意のようだ。
「ははは!それについてはわしも同意じゃ。あの時代において、あの人以上の変人奇人は存在しなかったじゃろうて!本人すら認めておったしな!ははははは!」
ばんばんと膝を叩いて笑うおっさん。
良いのかそれで?
「はぁ~、しかし、喋っておると懐かしくなってくるわい。あの方は色んな所で抜けておったからのう。おい、お主、遺跡にたどり着いたという事は、あの映像も見たんじゃろ?」
『あの映像?』
「アレじゃよアレ。エリベル様が“まいくてすとーまいくてすとー”とか言いながら叫んでおったアレじゃ!あんなものを後世まで残す変人は、あの方しかおるまいて!ははははは!」
そういっておっさんは再び豪快に笑う。
あ、思い出した。
あの映像か。
確か―――
『あーあーマイクテスト、マイクテスト………あれ?これもう録画始まってるのか?あーちょっとタンマ!今のなし!やり直しやり直し!――――あ、ちょっと、ベルク!今あんた笑ったでしょ!眷属の分際で!』
『あーもう、メイクもしてない――――ちょっとベルク!今からでもやり直しきかないわけ!?』
確かに、ものすごい美人さんなのにすごい残念な映像だったから、よく覚えてる。
撮影してた人もカメラ越しに随分怒鳴られて…………ん?
『ベルク!今あんた笑ったでしょ!』
『ちょっとベルク!今からでも―――――』
『エリベルよ、このベルク、今お主のもとに向かおう―――』
あ。
そこで俺はようやく気づいた。
「もしかして、あんたが……?」
そこでおっさんはにかっと笑う。
ようやく気づいたか、そういっているようだった。
「そうじゃ。儂こそが、エリベル様の最初の眷属にして、現代まで残る最後の眷属、タイラント・ゴーレムのベルク・レーベンヘルツじゃ」
おっさんは、にかっと笑った。
………その笑顔が妙に気まずい。
うーん、どうしよう、やっぱり言い出しづらいなぁ………。
俺がこのダンジョンに“何を”手に入れに来たかを。
…………絶対に怒るよなぁ……。
俺がこのダンジョンに来た目的。
それは“地龍の背骨”を手に入れることだ。
俺、つまり地龍は素材ごとにその効果が異なる。
そして、背骨の効果はあらゆる呪術や魔術の解除。
その効果は最上級。
でも、流石に自分の背骨は使うことが出来ないからな。
自分じゃ絶対手に入らない。
だから、エリベルのダンジョンに来たのだ。
そして、俺はそれを使って、彼女に掛けられたあの術式を解除する。
あの小部屋にあった骨。
エリベルの遺骸に掛けられた“不死化防止”の術式を。
そう―――――俺の目的は、賢者エリベルの復活だ。
地龍視点だと話すすまねぇなぁ……
と、思ったけど、次回は宰相サイドのお話です。
基本的に地龍(主人公)のいないところで話が進んでる気がする……気のせいですね




