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地龍のダンジョン奮闘記!  作者: よっしゃあっ!
閑章 アンのダンジョン防衛記! その2

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9.宰相は動き、思惑は交錯する

宰相のお話になります。

それ以外の方たちも出てきますが。

第三章に向けての下ごしらえ的なお話になります。

 とある執務室。

 その日、宰相エクレウスはいつも通り、政務に励んでいた。

 

 「ん?」

 

 書類に目を通した、その時だった。

 彼が左腕にはめていた腕輪が、パキンと音を立てて砕けた。

 そして、彼はその意味を瞬時に理解した。


 「………そうか、パルディーは死んだのか」


 彼は特に感傷に浸る間もなく、腕輪にはめ込まれた魔石を取り出す。

 次に彼は、引き出しから、オルゴールの様な魔道具を取り出した。

 その先端部分には、小さな窪みがある。

 彼はそのくぼみに先ほどの魔石をはめ込む。


 すると、その魔道具にホログラムの様な映像が映し出された。

 それは腕輪をはめてから死ぬまでのパルディーの視覚を映像化したものだった。

 エクレウスが仕込んだ彼女に万が一、何かがあった時のための保険。

 出来れば、起きてほしくなかったが、こうなった以上、彼の予想を上回る事態が起こったという事だ。


 「…………」


 宰相はそれを黙って見つめる。

 やがて、映像は血飛沫と共に途切れた。


 「ふぅー………」


 深いため息。

 彼は椅子に深く腰掛け、こめかみに手を当てる。


 「ただのキラーアントの巣だと思ってみれば、これほどの事態になるとは………」


 嫌な勘とは当たるものだと、エクレウスは呟く。

 エクレウスは立ち上がり、本棚から一冊の本を取り出す。

 それはかつて彼の祖先が書き上げた魔物に関する情報が綴られた本だ。

 そして、ぱらぱらとページをめくる手がある項目で止まる。

 今しがた見た映像に該当する魔物。その魔物の正体に思わず彼は目を覆いたくなった。


 「………インペリアル・アント、か」


 四百年以上も前に絶滅した災害指定種。

 映像に映し出された魔物はその特徴と一致する。

 考えうる限り、最悪の魔物だった。


 「………四百年以上前に絶滅した魔物がなぜエルド荒野に?」


 しかも、それだけではない。

 あのバカげたゴーレム。

 いくらインペリアル・アントといえど、あれほどのゴーレムを作り上げることは出来ないだろう。

 つまり、製作者は別にいるという事だ。

 更に、あの身に着けていたマント。

 あれは、


 「地龍の皮………か……」


 それもまだ新しい。パルディーの剣に使われたものとは、全くと言っていいほど鮮度の違う一品。

 それに、荒野で地龍の脱皮した皮を運んでいたキラー・アント。

 更に同一の素材で作られたであろうマントを着るインペリアル・アント。

 それは、つまり一つの可能性を示している、


 「………生存する地龍の個体がいるかもしれない、という事か」


 同じく何百年も前に絶滅したとされる魔物。

 インペリアル・アントは別名『厄災の黒蟻』と評される。

 その圧倒的な数の暴力により、全てを飲み込む群の魔物。


 対して地龍は、『暴食の魔物』と言われている。

 その名の通り、ただひたすらに食べる種族なのだ。

 しかも、魔石や魔素濃度の濃いモノを好んで食べたと記録には残っている。

 地龍の素材は高価であることは周知の事実だ。だが、それ以上にその“食害”が人類に与える影響も甚大なため、次々と駆逐されていったという事はあまり知られていない。


 エクレウスは頭を抱えた。

 どうしてこうも厄介なことが重なるのだ。

 インペリアル・アント。

 常識外れのゴーレム。

 そして、地龍。

 

 どれか一つでも厄介だというのに、それがこうも重なるなんて。

 記録によれば、インペリアル・アントの繁殖力は通常のキラーアントのおよそ十倍。

 早期に何とかせねば、その群れはやがてボルヘリック王国を食いつぶす規模に膨れ上がるだろう。事実過去いくつもの国がインペリアルアントの大群によって食い潰されたと記録に書かれている。

 数を増やし、エルド荒野以外に資源を求める様になれば、その矛先は間違いなくエルド鉱山へ、そして我が国へと向けられる。そうなってしまっては遅い。

 ともかく軍の派遣は急務だ。

 たとえ、場所が魔境といわれるエルド荒野であっても関係ない。

 災害指定種とはそういう存在だ。


 地龍に関して言えば、まだあくまで可能性だ。

 それに、既に死亡している可能性だってある。決して楽観視するわけではないが、それでも、あのエルド荒野ならば生き残る可能性は低いだろう。

 他の魔物と共生でもしない限りは。


 「………流石に、インペリアル・アントやアクレト・クロウ、白飛龍と共生している……というのは、考えが飛躍しすぎだな……」


 どの魔物も共生する必要が無いほどに、種としてすぐれた魔物だ。

 共生とは弱い者同士が、生き延びるために行う手段なのだから。

 そもそも、王級以上の魔物が共生するなどエクレウスは聞いたことが無い。


 エクレウスは思考を切り替える。

 記録によれば、インペリアル・アントは爆発的に数を増やす個体だと記されている。

 対処は早い方がいい。時間との勝負だ。


 各国に応援を要請するか?

 しかし、その結果はどうなる?

 間違いなく連合国はこちらの足元を見てくるだろう。

 軍を派遣する代わりに、一体どれだけの要求をされるか分かったものではない。

 ただでさえ、この国の財政は厳しい状況下にあるのだ。

 その上で、各国に救援を求めるのは、もはや国と言うパンを他国に切り分けてもらう行為に等しい。

 

 そもそも、自国内だけで片を付けられるなら、それが一番だ。

 だが、果たしてそれが出来るだろうか?

 過去連合国が数十年をかけて駆逐したといわれる魔物を相手に?

 万全を期すならば、やはり各国に応援を求めるべきだろう。

 代償を払い、各国に助けを求めるか。

 国民を犠牲にしてでも、自国だけで片を付けるか。

 エクレウスはため息をつく。そして、決断する。


 「…………考えるまでもないな」


 彼は書状を書き、それを封書に入れ蜜蝋を押す。

 その後に、手元にあった鈴を鳴らした。

 するとすぐに、パルディーとは違う、別の秘書の女性が彼の執務室に入ってくる。

 宰相である彼は常に数人の秘書を雇っている。彼女もその一人だ。

 

 「リアス、この書状を各国に通達してくれ。軍を派遣するための嘆願書だ。」


 「宜しいのですか?」


 秘書の女は少しだけ、驚いた表情を浮かべる。


 「構わない。責任はすべて私がとる」


 恭しく書状を受け取り、秘書の女は退室した。

 

 そう、最初から答えなど決まっている。

 

 国とは民あってのものだ。

 では、その民を助けるのに、他国に救援を求めることの何を躊躇する必要があるのか?

 そもそも、放っておけば国が滅びるかもしれないのだ。そうなっては、元も子もない。

 仮に責任問題になった時は、全てが終わった後に、自分一人に責任が来るようにすればいい。そして、自分一人で責任を負えば、最悪の事態は回避できる。

 それに各国も事の災害指定種の発生などと言う事の重大さは分かってくれるはずだ。


 「最初のキラーアントの目撃証言から逆算しても、おそらくまだ次世代の女王種は生まれていないはず……叩くならば今しかない」


 少なくとも、あと三か月。その間に準備を整え、エルド荒野へと進軍する。

 それが彼の出した結論だった。




 宰相の執務室から少し離れた廊下にて――――


 書状を受け取った秘書の女、リアスはそれを部署に届けるため、廊下を歩いていた。

 その表情は笑っていた。

 それは先ほど執務室で見せた無表情とは程遠い、猫を思わせるような笑みだ。

 そのまま人気のない場所へと移動し、周囲を見渡し、誰もいないことを確認する。

 ふんふふ~んと鼻歌を歌いながら、彼女は懐から宰相に渡された封書を取り出す。

 

 そして何の躊躇もなく、びりびりと封書を破り、中の書状を確認する。


 「ふむふむ、要するにインペリアル・アントと地龍がいるかもしれないから、皆さん助けてくださーい、みたいな感じね、成程成程」


 どの国に通達する書類も似たような内容だった。


 一通り読み終わった後、リアスは書類を燃やした。


 「ばっかじゃないのかな、うちの宰相ちゃんは。そもそも、サイズからしてこの地龍はまだ幼体でしょー?なら“親”がいる可能性をどうして思いつかないかなー?そもそも、タイミングが良すぎるんだよ。こいつ等、共生してるって考える方が自然だろうが」


 まあ、常識と勘に囚われたお坊ちゃんならそれが限界か、と彼女は思う。

 事実王級以上の魔物の共生は確認されていない。あくまでも“記録上”は、そういう事になっている。

 ごそごそと、彼女は懐から別の封書を取り出した。

 きちんと“宰相”の蜜蝋が押された封書を。

 彼女が作り上げた偽の書状を。


 「ま、悪いけど、この件にはボルヘリック王国だけで、対処してもらおうかな。じゃないと、いろいろ都合が悪いし」


 それに、と彼女は付け足す。


 「“あの二人”にも、声を掛けてるんだ。そういうところは抜け目ないね、うちの宰相ちゃんは。とりあえずはそれで、何とかしてもらいましょーかね。じゃあ、頑張ってね、頭でっかちの宰相ちゃん♪」


 からからと笑いながら、彼女は廊下を歩いて行った。

 これから起こることが楽しくて仕方が無い。

 そう思いながら、それを表情には出さず、騎士とすれ違う時にはいつもの無表情に戻っていた。




 

 そして、死の境界にて――――


 「ん、ん、ん~?こ~の気配は………」


 エルド荒野とエルド山脈の境界線。

 通称『死の境界デッド・ライン』。

 その境界線ぎりぎりに、その男は座っていた。


 派手な奇妙な装いをした男だった。

 青色の髪に、赤色の瞳、耳には大量のピアスを付け、服はまるでパレットの絵の具を全てぶちまけたかのような統一感のない色合い。

 もともとの顔立ちは整っているのに、それら全てを台無しにするかのような格好だ。

 右手には酒瓶を、左手にはオレンジ色の剣を持っていた。


 その猛禽類を思わせる瞳は真っ直ぐに、エルド荒野を見つめていた。

 

 「………そっか、そっか。パルディーちゃん、死んじゃったのか。それに『銀の烏』のみんなも………」


 「………わかるのか?」


 質問したのは隣に立っていた女だ。

 銀髪で左目を眼帯で隠し、手には紅い槍を持っている。

 片方しかないその瞳には、なにかやりきれないような感情が浮かんでいた。


 「うん。念のため僕も“目”は付けて置いたからね。と言っても役には立たなかったねぇ………」


 「くそっ……もう少し早く、この国に戻っていれば、結果は変わったやもしれぬのに」


 「意味ないよ。そんな、たられば」


 男は酒瓶のエルド荒野へと投げる。

 地面に叩きつけられた酒瓶は砕け、中身が地面にぶちまかる。

 度数の高い酒の香りが男の鼻を擽った。


 「あ~あ~残念だねぇ、エロい体つきしてたのに。女の幸せってやつをつかむ前に死んじゃうなんてねぇ。ああ~、世の中ってのは上手くできてないねぇ~」


 男は小さく、ほんの少しだけ口を開いて、馬鹿野郎が、とつぶやく。


 「………お前は人の妹をそんな目で見てたのか?」


 ぞわりと、隣にいる女性から殺気が漏れる。

 それだけで、周辺の石にヒビが入った。

 おお、こわいと男は肩をすくめる。


 「そりゃあ、君の妹だからね。君がそんなだからね。その分、彼女には幸せになってほしかったねぇ」


 叶わなかったみたいだけどね、と付け加える。

 その言葉に隻眼の女は少しばかりばつの悪そうな顔を浮かべた。


 すっと、立ち上がる。

 後ろを見る。

 人がいた。

 フードを目部下に被っており、男か女かもわからない。

 隻眼の女も後ろを見る。


 「どうも、“連絡係”さん」


 「………宰相エクレウス様のご命令により、貴方達に王宮へ共に来て頂きたく存じます」


「………随分手回しが早いね。予想してたのかい?」

 

 何がとは言わなかった。

 

 「あくまで予想です。エクレウス様はあらゆる可能性を考えておりましたから」


 「へぇ………」


 そこで男の目が細められる。

 猛禽類を思わせるその目にはわずかな興味が浮かんでいる。

 パルディーは強い。『銀の烏』のメンバーも。

 それは彼も認めていた。

 何せ自分は彼女よりも強い“S”ランクの冒険者なのだから。


 「その予想のために、貴様らは人の妹の記憶を漁る術式を仕込んでいたというのか?」

 

 ぴくり、と連絡係は肩を揺らす。

 なぜ知っている?そう言いたげだ。


 「あー、どうして知ってるかって?僕も彼女にはきちんと“目”を付けておいたんだよね。宰相君とは別にさ。ま、間に合わなかったけどね」

 

 つまりは、そういう事と男はこともなげに言う。

 眼帯の女性の槍を握る手に力がこもる。


 「………パルディー様にも事前に説明済みです」


 「貴様――――っ!」


 言うに事欠いて、そう誤魔化すかと彼女は怒鳴る。

 槍を振ろうとした彼女を男がとめた。

 

 「それで、僕らに何の用なんだい?僕らこれから、パルディーちゃんと『銀の烏』の敵討ちに行きたいんだよね。つまらない要件なら御免だよ?」


 「今回の件、エクレウス様も本格的に動くとのことです」


 連絡係はただ淡々と告げる。

 感情が無い、動く人形の様に。

 その言葉に、二人の表情がわずかに動く。


 「だからこそ、貴方達にも力を貸して頂きたいのです」


 連絡係は二人の前に跪く。


 「聖剣レヴァーティンに認められし大英雄、『龍殺し』のヴァレッド・ノアード様、そして神殺槍グングニルの使い手、『穿界』のベルディー・レイブン様」



 風が吹いた。

 

 障害物の少ないエルド荒野から送られてくる風はどこまでも爽やかだった。


 惰眠をむさぼる地龍を中心に、多くの思惑が絡み合おうとしていた。



 閑章『アンのダンジョン防衛記! その2』 了

 次章 第三章『龍殺しと眷属との絆』編へ続く



 と言う訳で、これにて閑章終了となります。

 閑章のくせに今までで一番文字数多かった……

 今回の閑話の補足や今後については活動報告の方へ載せておきます

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[気になる点] 化け物みたいな姉を持つ人間を使い捨てにする宰相さん、とても正気とは思えないです
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