6.VSアクレト・クロウ その身、剣と成りて黒翼に挑む
………引きニートお嬢様のアンさんがこうなるとは作者も思わなかった
表層に上がったアンはその光景に驚いた。
理由は簡単だ。
眩しかったからだ。
日の光が差し込んでいるのだ。
今アンがいるところは、ダンジョンの二階。
現在の地龍のダンジョンの規模から行けば、比較的浅い地層ではあるが、 それでも日の光が入るような場所ではない。
では、なぜ日の光が差し込んでいるのか。
結論。
ダンジョンが抉れていた。
スコップで地面を掬ったかのように、ダンジョンの一部が不自然なまでに抉れていたのだ。
それも、地下二階まで届くほどの規模で。
『これは………?』
惨状と言う他なかった。
子蟻たちは至る所でその屍をさらし、砕かれたゴーレム達があちらこちらに散らばっていた。
そして、それを引き起こしたであろう魔物が、切り立った岩の上に留まっていた。
『――――ふむ。我が宿敵の気配がしたと思って来てみれば、ハズレか』
声がした。
思念通話だ。
渋い、威圧感のある声がアンの頭の中に響いた。
アクレト・クロウ?
この思念通話はアクレト・クロウが発しているのか?
アンは日の光に晒された、その巨体を見る。
デカい。
通常のアクレト・クロウよりもさらに二回りは大きい。
感じる魔力も、アンが以前襲われた個体よりもはるかに強い。
更に左目にはまるで亀裂が走ったかのような傷跡が残っている。
明らかにほかの個体とは一線を画していた。
こいつは一体……?
アンがアクレト・クロウを凝視していると、向こうもこちらに気が付いたようだ。
『む?貴様はこの穴蔵の主か?いや、済まぬな。壊すつもりなどなかったのだが、あまりにも脆いものでな。つい、壊れてしまったようだ。許すがいい』
その一言を聞いて、アンは意を決して、思念通話を発した。
『貴方は、いえ、貴様はなぜここに来た!答えよ、アクレト・クロウ!』
『………ん、何だ、今の声は?』
アクレト・クロウは答えなかった。
ただ、何かに驚いたように、辺りをきょろきょろと見渡すだけだ。
その態度がアンを苛立たせた。
『答えろと言っているのです!』
剣を向け、二度目の発信。
それで、ようやくアクレト・クロウは目の前の蟻が思念通話を発していることに気が付いたようだった。
『ぬ?もしやこの声は、お主か、黒蟻よ?』
『いかにも。では、こちらの質問に答えてもらいたい。なぜ、私たちのダンジョンを破壊した?』
それにアクレト・クロウはひどく驚いた様子だった。
大きなくちばしを開き、愉快そうに声を上げる。
『ほお、これは驚いた。黒蟻ごときが思念通話を使えるとは。良かろう、質問に答えよう。我はある気配を追って、この地に来た』
『ある気配?』
『そう。その気配が、この地中より感じたのでな。その際、我が少し羽ばたいたというだけの話よ。壊した、という言い方は些か誤解がある。我が羽ばたいたら、勝手に地面がめくれ上がった。それだけのことだ』
『なんだと……!?』
その余りにも、上から目線の物言いに思わず心がざわつく。
『さあ、質問には答えたのだ。次はこちらの質問に答えてもらおう、黒蟻よ。貴様、紅い槍を持った、隻眼の女の冒険者を見なかったか?』
何のことだ?
アンには全く分からなかった。
一瞬、先ほどの冒険者たちが思い浮かんだが、今言った外見に該当するものは一人もいない。
『………いいや、知りませんが?』
これには正直に答えた。
そもそも、何のことか本当に知らないのだ。
嘘をつく理由もない。
『ふむ、あの者と魂の気配が似ていたが、別人だったか。……もしや、家族か?いや、本人でないならば、どうでもよいか。邪魔をしたな、黒蟻よ』
そう言って、アクレト・クロウは飛び立とうとする。
『待ちなさい!アクレト・クロウ!』
翼を広げたアクレト・クロウをアンは呼び止める。
向こうも呼び止められるとは思っていなかったのだろう。
驚いた表情を浮かべている。
『なんだ?我はもうこの地に用はない。巣へと戻りたいのだが?』
あくまで上から目線。
そもそも、この鳥はこのダンジョンを破壊したという認識すら持っていない。
本当に、道端にある石コロを蹴とばしたくらいにしか思っていなのだろう。
『例え貴様にその気がなくとも、私の子を………いえ、我が主のダンジョンを壊した貴様を!この私が、ただで返すと思っているのか!?』
叫びながら、アンの内心は震えていた。
それはそうだ。
相手はかつてのトラウマ。
その戦闘の余波だけで、死に掛けてしまったほどの相手なのだから。
向こうから引いてくれるのだ。
本当なら、さっさとお帰り願う場面だろう。
でも、それでも。
愛する我が子を、そして何より敬愛する主君のダンジョンを破壊し、蹂躙した相手をこのまま返すことは、アンにはどうしても許せなかった。
なにより、自ら立てた誓いを反故にすることは、アンにはどうしても我慢できなかった。
私は、あの御方の剣となると決めた。
私は、あの御方の盾となると決めた。
それなのに、どうしてここで背を向けられようか?
どうして、あの御方のダンジョンを破壊した相手を見過ごすことが出来ようか?
そして、これは、いずれ乗り越えなければならない壁だ。
遅かれ早かれこうなることは予想できた。
地龍様のダンジョンが大きくなればなるほど、発せされる魔力は巨大になるのだから。
そうなれば、いずれこのアクレト・クロウも超える相手が、このダンジョンに引き寄せられることになるだろう。
その莫大な魔力にひかれて。
その時にも相手がすごすごと、引いてくれることを願うのか?
そんなわけがあるか!
だから、アンは乗り越えなければならない。
守るために。
あの御方の平穏を維持するために!
『我らがダンジョンを荒らした罪、償ってもらおう!』
その感情をアクレト・クロウも感じ取ったのだろう。
先ほどとは一転、驚くほどの怒気を発した。
轟ッ!とアクレト・クロウから大量の魔力が放出される。
それは風となり、嵐となりアンの体へと直撃する。
すさまじい魔力量。
先ほどの冒険者たちなど、この魔力の奔流に比べれば、小枝もいいところだ。
これが王級。
これがアクレト・クロウ。
これがこのエルド荒野の頂点に君臨する魔物。
その桁違いの魔力をアンは肌で感じた。
『貴様………!』
アクレト・クロウの声音は、明らかな怒りを含んでいた。
本来、怒りをむけられる筈のない相手から、怒りを向けられたことに対する怒り。
身の程を弁えぬ愚か者に対する怒り。
圧倒的強者ゆえのプライド。
それを踏みにじられたことへの怒り。
『虫けら風情が………。我に牙をむけることの意味を分かっているのか?』
再びの魔力の奔流。
だが、アンはそれを正面から受け止める。
引かない、絶対に引くわけにはいかない。
そんな心(弱さ)など、とうの昔に捨て去ったのだから。
あの御方の為に!
こいつは今ここで、排除する!
『その蟻の一噛みを、その身に喰らってみるか、カラス風情が!』
『ほざけ、虫けらが!』
アンが地を蹴る。
アクレト・クロウが吠える。
激闘が始まった。
どうでもいい補足
地龍の見ていた夢のあらすじ
時は戦国群雄割拠の時代。
世は鯖味噌網タイツ派のゴブリンと、カニみそニーソックス派のオークが激しい闘争を繰り返していた。そんな中、下町の小さな焼き鳥屋のせがれとして生を受けた地龍(主人公)。『そもそも、龍が焼き鳥なんて焼けるわけないじゃないか!』という至極まっとうな理由から、腕を磨かずずるずると不貞腐れた毎日を過ぎしていた。
そんなある日、求人募集のチラシを持った、黒髪の美少女(蟻)のアンが地龍の店を訪れる。
「問おう、貴方が私の店長か?」
それが、あらゆる食材を型崩れせずに美味しく焼くことが出来る伝説の焼き串『エクシカリバー』を持つ美少女(蟻)とつくねしかこねれない地龍の出会いだった………
ノリノリであらすじを書いた後、ふと我に返り『俺、疲れてるのかな?』と本気で悩みました。
多分疲れてる




