2.パルディーのドキドキ☆悪夢のダンジョン探索記! その二
フラグってやつはさぁ……積み重ねるとさぁ……
エルド荒野とエルド鉱山の境界線は通称『死の境界』と呼ばれる。
荒れ果てた死の荒野と人間達が魔石を採掘する鉱山の境目であり、その境界はすぐにわかる。
「あ、監視用の砦が見えてきたわね」
パルディーは目の前に映る小さな砦を見る。
アクレト・クロウを監視するためだけに作られたといってもいい砦を。
そして、キラーアントの目撃情報を上げた砦だ。
パルディーはメガネを上げる。
「許可はもう貰ってるから、素通りしましょ」
「いいのか?」
質問したのはレイルだ。
「いいのよ。そもそも、この辺りの兵たちは私たち(王宮勤め)に、あまりいい印象を持ってないからね。さっさと素通りするのが、ある意味お互いのマナーみたいなもんなの」
そういうもんかと、レイルは呟く。
そして、特に何も起こることが無く、彼らはエルド荒野へと足を踏み入れた。
「さてと、無事に入れたな」
「何言ってるのよ?ここからが本番よ。はい、これ。他の皆も」
そう言ってパルディーは、『銀の烏』のメンバーに拳程の大きさの魔石を手渡す。
「これは?」
「“避魔石”って呼ばれる、魔物を遠ざける力を持つ魔石よ。特定の魔物の魔力のパターンを入力すれば、その魔物が嫌がる波長を出し続けるの。これには、アクレト・クロウの魔力の波長が入力されてるわ」
効果は持って一日ほどだけどね、と彼女は付け加える。
「へぇー、便利だな。こんなのがあるなんて、俺知らなかったぞ」
レイルは素直に驚いた。
他のメンバーも同様だ。
こんな便利な魔石があるならば、冒険者がこぞって買いに来るだろう。
それに、こんなものがあるなら、これを境界線の防衛に使えば、アクレト・クロウの被害はもっと減らせるのではないか。
それを見越してか、パルディーは苦い顔をする。
「まだ、試作品なのよ、これ。二百年くらい前に存在したエリベルって賢者の研究資料を基に、魔術都市の研究者が作り上げたんだけどね。効果範囲は狭いし、使い捨てで、コストがかさむし、量産が難しいんだって。それでいくつかの試作品をエクレウス様が寄付してくださったのよ」
その実証データも兼ねた調査ってわけ、とパルディーは付け加える。
「へえー、成程ね」
レイルは魔石を道具袋にしまう。
「あ、エリベルって人なら私も知ってるよー」
声を上げたのは、魔法使いで『銀の烏』紅一点のレレだ。
可愛らしいという言葉が似合う茶髪の少女だ。
淡い緑色のローブをまとい、長い髪を腰で束ね、捩じくれた杖を持つ姿は、いかにも魔術師という言葉がぴったりだ。
「現代魔術学の基礎を作り上げた希代の変人って言われてるわよねー」
「ええ、でも同時に、不出の天才とも言われているわ。当時の記録には、ある時期を境に、行方知れずになったって書いてあったわね」
「そうそう。あー、私もあと二百年早く生まれたかったなー。そうすれば、かの賢者さんに、いろいろ教えて貰えただろうしなー。ホント、パルディーが羨ましいわー」
「あのねぇ………、言っとくけど、殆ど事務仕事ばっかで、そんなのエクレウス様に聞いてる暇なんてないのよ?それに血縁って言っても直系じゃないしね」
「えー、でもでもー、いろいろ教えてほーしーいー」
まるで駄々っ子の様にレレは言う。
「へぇ、乳でもデカくする方法でも、教えてもらおうってか?」
冗談交じりに、レンジャーのバサックが言った。
そして、次の瞬間、彼は灰になった。
慈悲は無い。
エルド荒野に入って一時間ほどが経過した。
「んー、キラーアント見えないねー」
「確かに。土蟲の襲撃は二回ほどあったが、それだけだ」
「結構中の方まで来てんぞ?本当にキラーアントなんて居るのか?白飛龍なら何度も見たけどよ?」
銀の烏の面々は口々に言う。
パルディー自身もそう思っていたところだ。
ちなみに、パルディーは白飛龍を初めて見た。
内心はかなりビビッていたが、それを表に出さないよう必死だった。
だが、うわさ通りの大人しい魔物だったので、結局彼女たちの上空を通り過ぎて行っただけだったが。
「………そうね。とりあえず、もう少しだけ探索して、見つけられないようなら一旦戻りましょう。それでいい?」
皆は首を縦に振る。
決まりだ。
では、今度はあちら側を――――、と思ったところで、声が上がった。
「………おい、見つけたぜ」
言ったのは、パーティーの盾役のボルドロイだ。
彼は西側の岩場を指さす。
パルディーやほかのメンバーも見る。
――――――居た。
そこには二匹のキラーアントがいた。
何かを運んでいる。
「あいつら、何を運んでんだ?」
「獲物でしょー?て、あれ?この荒野にキラーアントが狩れるような獲物っていたっけ?」
「………いや、ありゃ獲物じゃねえぞ?なんかの皮だ」
そういったのは、レンジャーのバサックだ。
彼はこの中の誰よりも目がいい。
その視力は、キラーアント達が運んでいるモノの正体をきちんと見分けていた。
「つーか、ずいぶんでけーな……あいつら。普通のキラーアントよりも一回り以上はデカいぜ。……それに、あんな皮、見たことねえな。あ、もしかして、白飛龍の脱皮した皮か?」
「いえ、それは無いわ」
即座に否定したのは、パルディーだ。
「白飛龍は脱皮をしない龍よ。成長の際に、古くなった皮は、そのまま新しい皮に養分として吸収されるの」
「へぇー、そうなのか」
知らなかったとバサックは言う。
「んじゃよ、ありゃ一体何の皮だ?アクレト・クロウって線はもっとありえねーだろ?土蟲にしたって、もっと歪でグロイ筈だしな」
「…………」
パルディーは何も言わない。
だが、彼女は半ばその正体を予想していた。
そう考えられたのは、彼女自身が、その素材を元にした武器を使っているからだ。
無意識のうちに、腰の剣に手をやる。
『地龍の剣』
現存する数少ない、地龍の鱗から作られた超一級品。
あのキラーアント達が運んでいるのは、その素材に酷似している………しすぎている。
それにあの素材は余りにも新しい。
鮮度がよすぎる。
だが、パルディーは首を振る。
馬鹿な。
地龍は何百年以上も前に絶滅した種族だ。
この現代にいる筈が無い。
この剣に使われている素材とて、ギルドに百年以上保管されていた貴重品なのだ。
だが、それを否定するかのように、キラーアント達はそれを運んでいる。
「………追いましょう」
無言で皆が頷いた。
そして、パルディー達はキラーアント達に気づかれぬよう、ゆっくりと後をつけた。
そして、それからしばらくして、彼女たちは穴の前に立っていた。
三メルド程の穴が開いていた。
「………ここが、巣ですかね?」
「まあ、間違いねーだろうな」
レイルが肯定する。
「どうするのー?入るー?」
「キラーアントの巣位なら問題はねーんじゃねーの?」
レレとバザックが言う。
レイルがパルディーの方を見る。
「どうするパルディー、今回はお前の依頼だ。俺達はお前の指示に従おう」
パルディーは半ば予感していた。
おそらくこの先に、エクレウス様が警戒するナニカがある、と。
それと同時に何やら、得体のしれない怖気がはしる。
ゆっくりと深呼吸したのち、パルディーは口を開いた。
「…………入りましょう」
「おっしゃ、決まりだな」
「れっつごー」
「ふむ、行くとするか」
全員賛成で決まった。
皆巣の中に入って行く。
だが、入る前、パルディーはレイルに肩を掴まれた。
「ん?どうしたの、レイル?」
「あー、その、なんだ。えーっと、だな」
パルディーは眉を寄せる。普段のきはきしたレイルらしくない仕草だ。
「………いや、戻ってからでいいや。パルディー、町に戻ったら、飲みにいかねーか?」
「え?良いけど、どうしたの急に?」
「……実はお前に伝えたいことが……いや、なんでもねーよ、久々にお前と酒のみてーなって、思っただけだ」
「……くすっ。なによ、おかしな人ね」
そうだな、と言ってレイルも笑う。
じーっとそれを見ていた他のメンバーはだいたい察しがついていた。
「ヘタれ」
「鈍いねー」
「だから童貞なんだよ」
「うるせぇ!お前ら少しは空気読めよ!」
どっ、とみんなが笑い出した。
一頻り笑い終わったところで、レイルが言う。
「さて、そんじゃあ、改めて行くか!」
「おう!」
「ええ」
「ほーい」
「ああ!」
パルディー達はキラーアントの巣の中へと入っていた。
確実に、一歩ずつ。
――――そして、彼女たちはゆっくりと悪夢へと足を踏み入れる。
二度と醒めることのないダンジョンの悪夢へと。
一方その頃
子蟻A「女王様ー、地龍様の皮拾ったですー」
アン 「あら、偉いですね。ほら、ご褒美の魔石です」
子蟻A「わーい」
子蟻B「女王様―」
アン 「どうしたんですか?」
子蟻B「侵入者がきたー」
アン 「……………そうですか。じゃあ、行きましょうか(ニッコリ)」
子蟻達「「はーい」」
地龍「………Zzz……いや……違う……網タイツは食えないんだ……違うんだ……zzz」




