1.アンの子育て奮闘記!
五つ目のレビューを頂きました。ありがとうございます!
そして、更新が遅れがちですいません……
最終章に入る前に、閑話を投稿します。
第一弾はアンさんです
ダンジョン深層にある訓練場。
そこでアンは次世代の女王種達と共に、訓練に明け暮れていた。
『踏み込みが甘い!!』
女王種の攻撃が甘くなると、即座にアンの激が飛ぶ。
ちなみに状況的には、武装した次世代女王種四匹VSアン(魔剣リディルではなく、普通の劣化版聖剣レヴァーティン)で、アンが圧倒している。
女王種達のコンビネーションも見事なものだが、それでもアンには及ばず、おもしろいように地面に転がされている。
肉体的なスペックを見れば、アンと次世代女王種達の間にそれ程大きな差はない。
ただアースの眷属筆頭としてアースから供給される魔力量、そして今までの地獄の様な戦闘から得た経験がアンの力を大幅に底上げしているのだ。
ちなみにアースは自分の魔力が眷属達に日々供給されている事に気付いていない。
アースの魔力量からすれば微々たる量だからだ。
「キシッ!!」
女王種の一体が劣化版聖剣レヴァーティンの斬撃拡張を行う。
が、アンはそれを軽々躱し、カウンターを決めた。
峰打ちされた女王種が地面に転がる。
『また判断を間違えましたね!今の場合、斬撃を拡張させるのではなく、酸弾を飛ばし相手の動きを制限する方が効果的だと何度言えば分るのですか!それに連携も遅い!移動速度がバラバラで、直ぐに陣形が乱れているでしょう!』
怒気を含ませて、アンはぐったりと倒れる女王種達を叱る。
以前は次世代の女王種達に対し、アースへの独占欲から一定の距離を持って接していたアンだが、ジャイアントリザードとの死闘や里帰りを経た事で、彼女達に対する認識が変わり、一転して教育スパルタママへと変貌したのである。
その訓練は受ける者はもちろん見る者すら怯えさせ、ダンジョンの魔物―――特に日々エリベルに酷使されてるスケルトン軍団は、次世代女王種達にシンパシーを感じずにはいられない程だ。
一体、また一体と女王種達は倒れ、ついに最後の一体が倒れ込む。
魔力切れの疲労困憊。触覚すら満足に動かせない女王種達。
『まだまだですね。これではダンジョンの防衛なんてとても勤まりません。ましてや女王種として独り立ちなんて夢のまた夢です』
『『『『…………』』』』
返事がない。
ただの屍の様だ。
『聞いているのですか!返事!』
『『『『……………』』』』
返事がない。
ただの屍の様だ。
あ、僅かに彼女たちの首が動いた。
どうやら、最後の力を振り絞って僅かに頷いたらしい。
『はぁ……、全く嘆かわしい。今日はここまでにします。動ける様になったら、各自移動しなさい』
そう言って、アンは訓練場を後にした。
残された女王種達は、スケルトン軍団によって手厚く治療を施された。
◇◆◇◆◇
訓練場を後にし、女王種達と離れる。
そして、周囲に誰もいない事を確認して、アンは溜息をついた。
『……す、少し厳しくし過ぎたでしょうか……?』
先程との凛々しい姿とは一変し、オロオロとした表情を浮かべるアン。
実のところ、アンは未だに娘たちとの距離感が掴めずにいた。
今の今まで碌に会話もしてこなかった娘たちである。
しかもその理由が自分のコンプレックス―――アースの興味が自分から娘達に移る―――から来ているのだから、負い目も半端ない。
どういう風に接すればいいのか?
どんな言葉をかければいいのか?
アンは明確な答えを出せずにいた。
『……貴女たちには強く育ってほしいのです。かつての私みたいに惨めな思いをすることも無い強い女王種に……』
かつてキラー・アントだった頃のアンはこれでもかという程のグータラなごく潰し生活を送っていた。日々巣に引き籠り、ただ兵隊アリの食料を喰らい、寝るだけの日々。
その結果、母に放り出され、死に物狂いで生き延びなければならない羽目になった。
ある意味自業自得である。
でも……あんな惨めな思いは、娘達には味あわせたくないのだ。
弱かった自分。怠惰だった自分。後悔や失敗ばかりだった。
そんな思いは親である自分だけで十分だ。
娘達には幸せになって貰いたい。強くなって貰いたい。
立派な女王として群れを率いて貰いたい。
そんな風に考えるのは、親のエゴだろうか?違うと思いたい。
『……もう少し、会話があっても良いと思うのですよね……』
強くなって貰いたい。その一心から、ついつい“張りきし過ぎて”あのような地獄の訓練を行ってしまう。
しかも訓練中は、母親ではなく教官のような口調になってしまうのだ。
その方が的確に指示を飛ばせるし、私情を挟まない方がより効率的に訓練を行えるのも事実だ。
―――だが、それ以外に会話が無い。
訓練が終われば、それっきり。
何も会話が無い。
これではいけない。
このままでは、娘たちとの距離は開く一方だ。
どうすればもっと娘達との距離を縮める事が出来るのだろうか?
育児において、母親の誰もがぶつかる壁にアンも直面していた。
子供との距離の取り方は、親にとっては永遠の課題なのである。
◇◆◇◆◇
「―――んで、私の所に相談に来たわけか……」
ティーカップを片手に、エリベルは頬杖を突きアンを見る。
『……はい』
こくりと、アンは頷く。
お茶請け様に用意された魔石にも手を付けず、背中を丸めながらため息をつく。
まさしく子育てに悩む母親のそれだった。
そんな姿のアンを見て、エリベルはふっと微笑んだ。
「娘との距離感の縮め方か……。アンちゃん、とりあえず結論を言おうかしら」
『はい』
ティーカップを置き、そしてエリベルはすぅっと息を吸い込み、
「そんなの私が知るわけないでしょうがあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
ビリビリ!!と部屋が震え、壁に亀裂が走る。
もっともな叫びであった。
そもそも彼女はエリベルである。
娘なんて持ったことも無ければ、娘を作る為の行為すら行った事も無い生粋の喪女。
星の数ほどお見合いを繰り返し、その全てを台無しにし、挙句の果てにお見合い相手の右手をパイルバンカーに魔改造するキ◯ガイである。
そんな彼女に子育てに関する悩みを解決する術があるだろうか?
いや、無い。あるわけない。
『そ、そう言えばそうでした……!』
そしてその事実に今更ながら気付くアン。
どうやら、そんな単純な事も分からない程に思い悩んでいたらしい。
そしてその態度はエリベル(喪)の神経を非常に逆なでする。
「おい、テメェ、いまなんつった?」
もはや普段の口調すら崩壊していた。
ゆらりと、エリベルは幽鬼のように立ち上がる。
どす黒い負のオーラがにじみ出ていた。
『あ、その……エリベルさん……?』
恐る恐るアンが話しかける。
エリベルはとても清々しい笑みを浮かべていた。
あ、もしかして意外と怒ってない?
「―――天地乖離す明星の理、七夜の果て十二の神々は国を興す――」
そんな事は無かった。
詠唱。
紡がれる術式の名は『聖域干渉』。
その瞳はどす黒く濁っていた。
私は間違っていない間違っているのは世界の方だリア充だらけの腐った世の中が全て悪いならば壊そうこの世界をリア充を一匹残らずこの世から葬り去ろうそうしようだから死ねリア充は死ね―――って感じの想いをひしひしと感じる。
『―――っ!し、失礼します!』
逃げた。
もうなりふり構わずアンは逃げた。
相談する相手を間違えた。
アンは己の行動の浅はかさを痛感した。
ちなみに後日、ボコボコになったベルクとロブンが深層で発見されたらしい。
どうやら八つ当たりされたようだ。合掌。
◇◆◇◆◇
研究所を後にし、アンは再び考える。
今度はきちんと相談する相手を見極めよう。
『ですが、誰に相談すればいいのでしょうか?』
アンはダンジョンの眷属達を思い浮かべる。
ウナはどうだろうか?
いや、駄目だ。
彼女の姿を思い浮かべて、すぐに首を振る。
あの子はああ見えて意外とポンコツなのだ。
この手の問題を解決できるとは思えない。
ではトレスやぷるるは?
お子ちゃまだから論外。
エルジャはどうだろうか?
あの子はここへ来る前は、番い候補の龍が何匹もいたという。
意外と恋愛経験は豊富そうだ。
だが、出産、育児となるとどうだろうか?
『こ、こここここ子供ですか!?そ、それって、つまりワタクシとアース様の子供!?ぶふぉ!素晴らしい!素晴らしいですわ!そうと決まれば今すぐアース様の元へ―――』
うん。そんな感じで暴走する彼女を、自分が止める姿が簡単に目に浮かぶ。
なんてこった。
考えてみれば、このダンジョンには自分以外に子供を育てた経験がある魔物が居ないではないか。
となれば、後はダンジョンの外。
『……お母さんに相談出来たらな……』
子育ての事を相談するには、やはり経験者に聞くのが一番だ。
アンの母親、キラーアントの女王に。
と言ってもそれは出来ない話だ。
現在、あの森はダンジョンの中層エリアとして、エリベルがひゃっはーな大改造を行い、さらにアースの魔力及び趣味のガーデニングによって、魔物がはびこる一大生息地として生まれ変わっている。
その中でアンの母親は、その魔物達の中の一大勢力となっているのだ。
進化こそしていないものの、アースに出会った事で彼女の一族も強くなったのである。
立場もあり、多忙な身の上。お気軽には会いに行けないのだ。
ちなみに、アンが助けたゴブリンや拾った子犬(正確には灰色狼)もそこに混じって生活している。
特に子犬は成長が目覚ましいそうだ。また会う日が楽しみである。
そんな訳で、母にも相談できない。
本当に、どうしたものだろうか?
『本当に、子育てというものは大変ですね……』
悩みながらアンは、娘達と話すための何かいい方法はないモノかと思う。
『あ、そうです!次の訓練の時に、あの子達が上手く出来たら食事に誘ってみるのはどうでしょうか?で、でもいきなり誘うのは不自然でしょうか?いや、でも深層の森に食料調達の果物を取りに行くという名目にすればなんとか……いや、しかし……』
その後もブツブツと独り言をつぶやくアン。
そこにはアースの眷属筆頭としての魔物の姿はなく、どこにでもいる普通の悩める母親としての姿があった。
◇◆◇◆◇
私はインペリアル・アントの女王種です。
名前はサンと申します。
先日、お母様が仕えるダンジョンの主地龍アース様に着けて頂いた名前です。
名前を貰った時は凄く嬉しかったです。
同じく名前を貰った他の妹たちも、凄く喜んでいました。
それぞれ、ナン、ラン、ヤンと名前を付けられました。
なんだか語感が、お母様に似てるからという理由だそうです。
どういう事でしょうか?
ですが、名前を頂いた事で、私達にも地龍様の魔力が流れ込んでくるようになり、一層強くなることが出来ました。
嬉しいです。
これで、より一層お母様やダンジョンの為に役立つ事が出来ます。
そう、お母様。
私を生んでくれた偉大な女王蟻。
生まれた時の事は今でも覚えています。
殻を破り、最初に目にしたあの偉大な御姿。
同種とは思えぬほどの膨大な魔力に、幾戦の激闘を潜り抜けてきたであろう強者の風格。
私を生んでくれたお母様は偉大なる魔物だったのです。
……とまあ、そんなお母様自慢はこの辺りにして、実は私には……正確には私達姉妹には一つの悩みがあります。
悩みというよりは、願望と言った方が良いかもしれません。
―――それは、お母様ともっと会話がしたいと言う事です。
生まれてから今日にいたるまで、私達はお母様とまともに会話をしたことがありません。
無論、私達が未熟だからだという事は、理解しているつもりです。
弱いから、未熟だから、お母様は私達の事を見て下さらぬのだと。
だから私達は訓練に励むのです。
お母様は訓練の時は饒舌になります。
いえ正確には、未熟私達を鼓舞し、より高みへと導くために指導して下さっているのです。
『―――踏み込みが甘い!』
今日もお母様の声が訓練所に響き渡ります。
怒鳴られたのはヤン。
ああ、あの子ったらこの間も同じことで注意されていたでしょうに。
全く、出来の悪い妹ですね。
そんな彼女をカバーすべく、私は即座に劣化版聖剣レヴァーティンの斬撃拡張能力を使います。
というか、この剣ホントに凄いですよね。
聞けば、地龍アース様が作られた剣だそうです。二時間位でパパッと。
……お母様以上に化け物ですよね、あの御方は。
と、いけない。考え事しないで、目の前の事に集中しなきゃ。
駄目な妹をカバーすべく、お母様に斬りかかろうとして―――。
『また判断を間違えましたね!今の場合、斬撃を拡張させるのではなく、酸弾を飛ばし相手の動きを制限する方が効果的だと何度言えば分るのですか!それに連携も遅い!移動速度がバラバラで、直ぐに陣形が乱れているでしょう!』
めっちゃ怒られました。
そうでした!
こういう状況では、チャージに時間のかかる聖剣よりも、酸弾の方が効率がいいんでした!
うぅ、剣の性能に囚われて、判断を鈍らせてしまいました。
その後も、いつものように姉妹揃ってボコボコにされ、地面に倒れ込みました。
ああ、強いなぁお母様は……。
訓練を終えると、いつも颯爽と去るその背中はまさしく女王の貫録。
娘の贔屓目になってしまうかもしれないが、やはりお母様は地龍様の眷属の中でも別格だと思います。
あの妙に処女臭いアークスケルトン様や、年中発情してる聖龍様何かとは比べるべくもありません。品性が違います。品性が。
私達のお母様は、やっぱりすごい方なのです。
でも、だからこそ、思ってしまうのです。
それが過ぎた望みだとしても―――。
『……もう少しお母様と会話がしたいなぁ……』
そんな風に考えてしまうのです。
『そうだ。今度、修行が上手く行ったら、お母様にアプローチしてみましょうか?』
魔石を一緒に掘りに行ったりとか、深層の森にある果物を食べに行ったりとか。
畏れ多いでしょうか?で、でも親子なんだし……大丈夫ですよね?
うん、考えたらちょっとわくわくしてきました。
妹たちも私の提案に目を輝かせています。
夢が膨らみます。頑張ります。頑張りますとも!
もっともっと強くなって、立派な女王種になるんです!
そしてお母様と普通の会話するんです。
お母様、待っていて下さい!
私達は必ず貴女に追いついて見せます!
このあと無茶苦茶特訓した。
次世代女王種達。
サン 長女。しっかり者。でもどこか間が抜けてる。お母さん大好き
ナン 次女。のんびり者。戦闘能力は姉妹の中で一番。お母さん大好き。
ヤン 三女。臆病者。戦闘よりも他人を指揮する方が得意。お母さん大好き。
ラン 四女。おこりんぼ。姉妹の中で一番元気が良い。お母さん大好き。
次回はエリベルか、ダンジョンの外のお話になる予定




