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地龍のダンジョン奮闘記!  作者: よっしゃあっ!
第十章 魔王と三人の転生者

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36.VS皇獣 絶望を破る音

お待たせしました


「なっ……!?」


 その光景に、さしものアジルも瞠目した。

 辺り一面を覆う霧の結界。

 肌で感じる程の濃密な魔力の渦。

 そして、敵の胃袋に入った様な言いようのない不快感を感じていることだろう。

 

「“大侵攻”だと……馬鹿な、彼は―――ジョーカーは死んだはず……どうして?」


 “大侵攻”。

 それは、かつてアジルやギブルと共に、星脈に生きた霧の魔物の切り札だった術式だ。

 星脈に仇なすモノを全て滅ぼすために、大陸を丸ごと包み込んだ神王級魔術。

 それが一体なぜ今、発動しているのか?

 そう思っているのだろう。


 アジル、お前は知らないだろう。

 俺の眷属である一人の少女。

 『道外し』と呼ばれる彼女が、その源流の魔物―――ジョーカーと同格の存在―――『夢霧』へと進化していたことを。

 

『流石に、これは予想外だったか?』


 雷を纏い、俺はアジルの話しかける。

 

「ああ、驚いたね。こんな切り札を隠していたなんて……」


 アジルが素直に驚いていた。

 その表情から、今までの余裕が消える。


『驚いてくれたなら何よりだよ。それじゃあ―――往くぜ!』


 刹那、少女の声が霧の中に響く。

 

『―――『改変』、三十五層幻惑空間・招来』


 『ダンジョン改変能力』。

 同時に現れたのは、アジルの半分ほどの大きさの巨大なゴーレムだ。

 それが、十体。


「ちっ」


 アジルはすぐに攻撃に出る。

 七つの首。

 それが一斉にブレスを放った。

 だが、それらはゴーレムを破壊する事無く通り過ぎてしまう。


「―――っ!幻覚か!」


『御名答』


 俺は既にあじるの首の一つに接近していた。

 それも、空中を駆けあがって。


「なにっ!?」


 地龍(俺)に翼は無い。

 ギブルの様な例外でない限り、空中を移動する事など出来ない。

 だが、今この状況下でなら、話は別だ。

 霧だ。

 黒い霧を、階段の様な足場へと変化させる。

 かつて帝都でジョーカーが黒の祭壇を作り上げたのと同じ原理だ。

 これで飛行手段を持たない俺でも、空中で自由に動き回る事が出来る。


『ふぅー……』


 息を吸う。

 バチチチチチチチッ!

 体がより一層激しい雷を放つ。

 魔力を込め、カディアスの力を解放する。


『ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!』


 口から放たれるのは雷槍のブレス。

 

「―――ちっ」


 アジルの防御術式は間に合わなかった。

 直撃する。

 俺のブレスは、大鷲の首の半分を吹き飛ばした。


『……全力で撃っても、半分かよ……スケールのデカさに泣けてくるね』


 だが、これで首の一つは潰した。

 あと、六つ。


「―――っ!やるじゃないか」


 空中でブレスを撃った反動を使い、そのまま距離を取ろうとする。

 だが、アジルがそれを逃す筈もない。

 他の首が追撃を仕掛けようとする。

 獅子の首、鹿の首、蛇の首が迫る。

 だが―――。


『―――『改変』、八十八層、九十二層、百八層、百二十層多重魔術障壁・招来』


 目の前に現れる無数の半透明の障壁。

 幾重にも折り重なった壁は、破壊された傍から新しい障壁が次々に展開され、アジルの接近を防いだ。

 更に―――


『―――『改変』、欠落トラップ大煉獄・招来』


 アジルの足元に魔術陣が浮かぶ。

 エリベルの考案したトラップ『リア充殺し』。

 その最上級版。

 威力が高すぎる故に、ダンジョンでは使えなかった欠陥品。

 だが、地上で使うならば、申し分ない破壊兵器となる。

 地獄の業火が、アジルの足を包み込む。

 更に、


『―――『改変』、欠落トラップ奈落・招来』


 もう一方の足元に現れる巨大な落とし穴。

 これも大きすぎて深すぎて中層に配置できなかったトラップだ。 


「ちっ」

 

 この二つによって、アジルの巨体がよろめいた。

 この隙を見逃す手はない!


『今だ!一斉掃射!』


 更に槍が、剣が、爆弾が、砲弾が、ブレスが。

 次々と、雨あられとアジルに降り注ぐ。

 ズドォォォオオオオオオオオオオン!!!

 爆音、轟音、この世の地獄のような光景が展開される。


「くっ……ちょこざいな……!」


 爆撃の中、それでも攻撃を行おうとするアジル。

 

『今だ!ゴーレム部隊投下!』


 俺の掛け声と共に、アジルの頭上に転移の魔術陣が展開される。

 そこから降ってきたのは、無数のデッサン型ゴーレムだ。

 デッサン型達は、そのままアジルの身体へと降り立ち、思い思いに攻撃を始める。


 といっても、所詮はデッサン型。

 武装していても、巨大すぎるアジルに負わせられる傷などタカが知れている。

 それでも何千、何万と言うデッサン型に群がられるのは、相当な不快感だろう。


「ぐっ……この……ちょこざいな!」


 ぶるぶると体を震わせ、デッサン型を振り落そうとするアジル。

 すると、デッサン型達は互いに手を繋ぎ、振り落されまいと必死に耐える。

 そして、気が逸れた隙に追撃だ。

 首の一つに狙いを定める。


『ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』


 ブレスを放つ。


「―――っ」


 デッサン型に気を取られたアジルは反応が一瞬遅れた。

 直撃だ。

 狼の首が半壊する。

 よし、これで潰した頭は二つ、


 残るは、獅子、蛇、馬、鹿、そして龍の首だ。

 流石のアジルと言えど、首を全て落とされれば死ぬはず。

 デカすぎる以上、頭を狙って攻撃していくしかない。


 更に空中に展開した『リア充殺し・大煉獄』が発動。

 ズドォォォオオオオオオオン!!

 爆発が起こり、アジルを包み込んだ。


『ふぅー……』


 霧の階段を足場にしながら、アースは視線を前に向ける。

 アジルの魔力はまだ消えていない。

 今の攻撃でどれだけの手傷を負わせられただろうか?


「いやー、凄いねー。まさか、こんな切り札を用意してたなんてさ」


 すると、横から声がした。

 大剣を構えたレーナロイドが、近づいてくる。

 その姿はボロボロだった。

 服は千切れ、所々から血がにじんでいる。

 アジル相手にかなり苦戦していたのだろう。


『おお、ちゃんと生きてたか』


「失敬な。生きてるよ。……もっとも、首一つ相手にしただけでも精一杯だったけどねー」


 そういや、ずっと龍の首を相手にしてくれてたっけか?

 見れば、龍剣アスカロンにはかなりの亀裂が走っていた。

 相当ヤムゥの力を行使したのだろう。

 

『レーナ、あと何回天龍の力を行使できる?』


「……多分、二回かな。それ以上は無理だね。ヤムゥの封印が解けちゃう」


 あと二回。

 少ない……いや、あと二回も使えると考えるべきか?


『―――エリベル、ダンジョンのトラップと魔力の貯蔵は?』


 思念通話をダンジョンへ送る。

 “大侵攻”が発動した今、ダンジョンとの連絡手段も復活している。

 案の定、返答はすぐに返ってきた。


『―――トラップの残りは約六割ね。魔力は、あと七割程残ってるわ』

 

『そうか……』


 つまり今の攻防で、全体のおよそ三分の一を消費したという事だ。

 正直、かなり厳しい状況と言える。

 ツムギの“大侵攻”によって、地上でもダンジョンのトラップやゴーレム達が使えるようになったとはいえ、その数は有限だ。

 だが、出し惜しみは出来ない。

 戦力を惜しんで勝てる程甘い相手ではない事は、良く分かっている。


『こっちでも、トラップの効果が最大限発揮される様に、演算調整はしてるわ。“大侵攻”を維持する為の消費魔力も、極力省エネで回してる。それでも―――想定よりも、消費されるペースが遥かに速いわ』


『あと、どれくらい持つ?』


『おおよそ、一時間ほどね。それ以上は、ツムギんの体がもたないわ』


 あと、一時間。

 それが戦いのタイムリミット。

 その間にアジルを倒さなくてはならない。


「……作戦会議は終わったかい?」


 ―――爆炎の中から、アジルの姿が現れる。

 その体には、多少の傷がついていた。

 

『おいおい、あれだけのトラップや砲弾喰らっても、その程度のダメージかよ……』


 “大侵攻”は発動した。

 首も二つ潰した。

 だが、感じる魔力はいささかも衰えていない。


「むしろ誇っても良いんじゃないか?この僕にこれ程の手傷を負わせたんだ。尤も―――」


 ぞわりと、嫌な予感がする。

 アジルの龍の首。その額に埋め込まれてる宝石が光った。

 

「あっ、マズイ!」


 レーナロイドが焦る。

 即座に魔術を放とうとした。

 だが―――間に合わなかった。


 龍の首から放たれた光は、行動不能になった二つの首へと注がれる。

 その瞬間、驚くべき光景が起こった。


『なっ……!?』


 なんと、破壊したはずの二つの首が再生したのだ。


「忘れてないかい?僕が君たちと戦う前、一体誰と戦っていたのかを……」


『―――っ。聖龍ハルシャルードの回復の力か……!』


 取り込んだっていうのか……ハルシャの力を。

 俺の『暴食』みたいなことが、アジルにも可能なのか?

 いや、でも……。


「その通り。いかな傷とて、僕にとっては大した痛手にならない。全く、聖龍の回復力は凄まじいの一言だよ。もし彼が『聖域結界』で力を消耗していなかったら、僕でも勝てなかったかもしれないね」


 ……これは反則じゃないか?

 もともとアジルがもっていた莫大な魔力と、攻撃力。

 更に、ハルシャの持つ驚異的な回復能力。

 思いつく限り最悪の組み合わせだ。


 多分、今のアジルの力は、単騎でならウロヌスよりも上だ。


 マズイな……。

 これだけやっても、ようやく窮地が劣勢に変わった程度。

 皇獣アジルのスケールの大きさを改めて実感させられる。


「じゃあ、今度はこちらの番だ!」


 アジルの首が動く。

 獅子の首から咆哮が、蛇の首から炎が、鹿の首から光線が、龍の首からはブレスが地上全てを破壊せんと発射される。

 俺とレーナロイドはそれを必死になって躱す。


「いやぁー参ったねー」


『呑気に言ってる場合かよ。どうするんだ?このままじゃ、ヤバいぞ?』


「だよねぇー。んじゃあ、一つ、私に作戦があるんだけど」


『あるのか?』


「まあね。と言っても賭けの要素がかなり強い。君にも結構無茶して貰うよ」


『……望むところだ』


「いいね、じゃあ説明しよう」


 アジルからの攻撃をかわしつつ、霧で出来た道をレーナロイドと共に並走する。

 

「まず、最初に言っておく。今のアジルは全盛期以上の力を持っている。星脈の力、そしてハルシャの浄化の力だ。この二つを掛け合わせることで、彼自身の力は何倍にも膨れ上がってる。単純に、首の一本一本が神災級の能力を持っていると思って貰っていい」


『……だろうな』


 俺の全力のブレスさえ、直撃しても頭が半壊する程度だ。

 デカ過ぎる上に、硬すぎる。

 むしろ、ここまで善戦できてる事の方が奇跡に近い。


「でも、逆に言えば、その二つを取り除いてしまえば、アジルは大幅に弱体化するって事だ」


 簡単に言ってくれる。

 でも、


『そう言うからには、その方法があるんだろ?』


「勿論さ。使うのは、“コレ”だよ」


 そう言って彼女が指差したのは、手に持った大剣。

 龍剣アスカロンだ。


『ヤムゥの力を使うのか?』


「違うよ。いや、そっちも使うけど、重要なのは『もう一つの力』の方さ」


『もう一つの……?』


 アスカロンに備わっているのは地龍の『暴食』を模して造られた『人工龍殺し』だ。

 それ以外に備わってる力なんて―――あ。

 そう言われて俺は気付く。

 そうだ、龍剣アスカロンには、確かにもう一つ術式が込められていた。


「気付いたかい?」


 にやっとレーナロイドは笑う。


「そう―――“ダンジョン破壊術式”。こいつを使って、アジルの中にある、“星脈の力”を破壊するのさ」


『そう言う事か……!』


 アジルが体内に取り込んでいる星脈の力。

 その莫大な魔力はいわば、星脈のダンジョンの一部と言っても良い。

 エリベルの作った“ダンジョン破壊術式”は、ダンジョンに対し使用者の望む通りの破壊をもたらす。

 ならば、一部とはいえ、アジルの体内にある星脈の力に関しても、その効果を発揮するのではないか。

 ……試してみる価値は十分にある。


「ただし、チャンスは文字通り一回だけだよ」


『ああ、分かってる』


 “ダンジョン破壊術式”は一回使えば、次のチャージまでに百年のインターバルが必要になる。

 術式が込められた武器を、俺が喰らえばそれがリセットされてもう一度使う事は出来るが、そうなればアスカロンの封印が解けてヤムゥが解放される。

 

「問題はどうやって、どこに、その一撃をたたき込むかだけど……」


『狙うなら、ハルシャの力を取り込んだ龍の首だろうな。どう見たって、アレがハルシャの力を担ってるっぽいし』


「だね」


 狙いは決まった。

 あとはどうやって術式をたたき込むかだけど―――。


『エリベル、出来るか?』


 思念通話を送る。

 すると、


『当たり前でしょうが。私を誰だと思てんのよ』


 頼もしいお返事が返ってきた。


『でも、代わりにダンジョンに貯蔵する魔力をほぼ使いきる事になるわ。確実にあてなさいよ……クソ婆』


 その言葉を聞いて、レーナロイドがピクンと反応する。


「ふっ……ふふふ、エリちゃんにそこまで言われちゃあ仕方がないね!」


 やる気まんだ。

 流石エリベル。

 ボッチ魔女の扱い方を心得ている。


『つーわけだ。首までの道は、こっちで何とかする攻撃を当てる事だけに集中してくれ』


「りょーかい!」


 それじゃあ、往くか!

 俺とレーナロイドは、一気に反転し、アジルへと攻め込んだ。


「お、もう逃げないのかい?」


 アジルの首の内、三つがこちらへ向かって来る。


 獅子の首、鹿の首、蛇の首だ。

 

 すると、エリベルとツムギの声が響く。


『―――ツムギん!往くわよ!』


『はい!―――『改変』、地形操作、ゴーレム作成!』


 アジルの足元に砂が盛り上がり、巨大なゴーレムへと変形する。

 これは先ほどの幻とは違う。

 質量を持った本物のゴーレムだ。

 砂で作られた巨大なゴーレムが、全部で七体。

 それが一斉にアジルに襲い掛かる。

 

「ちっ!」


 アジルはそれらに向けてブレスを放つが、砂のゴーレムは意に介さず、アジルへと纏わりついてゆく。

 そして、砂ゴーレム同士が互いに結合し合い、砂の拘束となる。

 

「ぐっ……この……!」


 アジルも抵抗するが、中々思う様にはいかない。

 そりゃそうだ。

 あの砂ゴーレムには、俺達のダンジョンの残り魔力のほぼ全てを費やしているんだ。

 そう簡単に抜け出してもらっては困る。

 それでも、拘束を抜け出した首が一つ残っていた。


『お前の相手は俺だ!』


 拘束を抜け出した蛇の首に対し、俺は攻撃を仕掛ける。

 これで、首の動きは全て封じた。

 あとは―――。


『レーナロイド!』


「まかせんしゃい!」


 霧で出来た道を走り、レーナロイドは龍の首へと接近する。

 そして、手に持ったアスカロンを構えた。

 そして、ダンジョン破壊術式を解放したのか、その刀身が光り輝く。

 その光景にアジルもただならぬ雰囲気を感じたのか、必死に拘束を抜け出そうとする。


「~~~~ッッ!!させ……るかあああああああああああああああああ!」


 刹那、龍の首が砂の拘束から脱出する。

 マズイ!レーナロイドは既に攻撃態勢に入ってる。

 今、カウンターを決められたら―――。



「―――私を忘れて貰っては困ります」



 だが、その瞬間、女性の声が聞こえた。


「ブフォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」


 そして巨大な水牛が、猛スピードで龍の首へと突っ込んだ!

 ズドォォォオオオオオン!!と凄まじい衝撃音が響く。


『クシャスラ!!』


 思わず、俺は声を上げてしまった。

 “嚇牛”クシャスラ。

 ここへ来た時になぜか気絶していたけど、目を覚ましたのか。

 その上、気配を消して、状況に合わせて行動してくれるなんて。

 

「申し訳ありません、アース様。少々気を失っておりました……」


 いいんだ。謝らなくても良い。

 お前は最高にいい仕事をしたよ、クシャスラ!


「が……ぐぅっ!」


 クシャスラの突撃を受けた龍の首は脳震盪でも起こしたのか、フラフラと碌に動けなくなっていた。

 これで―――。


「いっけえええええええええええええ!!」


 レーナロイドが叫ぶ。

 

「やめろおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 アジルも絶叫する。

 アスカロンの切先が額の宝石を穿つ。

 その瞬間、“ダンジョン破壊術式”が発動する。


 ビキビキビキビキィ!と、アジルの体に亀裂が走る。


「ぐあっ……ぁぁあああああああああああああああああああああああ!!」


 亀裂から光が漏れる。

 星脈の魔力だ。

 “ダンジョン破壊術式”によって、乱された星脈の魔力がアジルの中で暴れ回っているのだ。

 そして―――それが限界を迎え、破裂する!


 アジルが吠える。

 光が、アジルの巨体を斬り裂いた。

 バラバラと砕けた肉片が、地上に落ちる。

 鳴動。

 地響き。

 大地が震えるかのような錯覚が起こる。

 

『終わった……のか?』


「ハァ……ハァ……。ああ、終わったよ」


 そう答えるレーナロイドは肩で息をしていた。

 相当な魔力を消費したのだろう。

 だが、それもこれで終わったのだ。

 やっと……。

 俺はすぐにエリベルに思念通話を送る。


『エリベル、そっちもお疲れさん』


『―――』


 だが、エリベルからの返信は無かった。

 どうしたんだ。

 

『おーい、エリベル?どうしたんだー?』


『―――いう事?』


『は?』


『―――なんで?どういう……事よ?』


 その声は震えていた。


『お、おい。どうしたんだよ、エリベ―――』


 そう言いかけた瞬間―――どくん、と。

 後ろで何かが脈打つ音が聞こえた。

 寒気がした。

 そして胸を鷲掴みにされるような圧迫感。

 これは―――。



『……アジルの魔力反応が……消えてないわ』



 そして、俺は信じられないものを見た。

 肉片が。

 バラバラに散ったはずアジルの肉片が、浮かび上ってる。

 それは徐々に一箇所に集まり、形を成してゆく。


『なん……で……?』


 “ダンジョン破壊術式”は発動した筈だ。

 体内に取り込んでいた星脈の魔力の暴走によって、アジルの肉体はバラバラに弾けた筈だ。

 なのに―――なんで!?


「嘘だろ……?」


 隣に居るレーナロイドも、驚いている。

 時間にして数秒。

 そこには、傷一つない皇獣アジルの姿があった。

 圧倒的な巨体が俺達を見下ろす。

 龍の首が口を開いた。

 

「攻撃としては見事だったよ。けど―――甘い」


『―――』


 言葉が出なかった。

 ただ茫然と、アジルの声が耳に入ってくる。


「レーナ、君にも話していなかったね、僕の真の力を。固有術式の名を」


「え……?」


「僕の固有術式―――それは、『不死』だ」


『なん……だと……?』


「僕は死なない。たとえどれだけの傷を受けても、死ぬことはない。これはギブルや星脈の眷属達すら知らない能力だ」


 アジルが話した内容に、俺達は愕然とした。

 死なない。

 そんな固有術式があるなんて……。


『……だ、だったら!どうして、ハルシャの力を!?』


 そんな能力があるなら、ハルシャの回復なんて必要はない筈だ。


「不死である事と、回復する能力は別物だ。バラバラになっても、生きていられるとはいえ、そこから元に戻るには、ハルシャの力が必要だった」


『そんな……』


 ズン!!とアジルが大地を揺らす。

 その動作だけで、俺は恐怖を感じてしまった。


 如何すれば良い?

 どうすれば―――コイツに勝てる?

 レーナロイドも、クシャスラすらも愕然としていた。

 

「さあ、まだ戦うかい?僕の力を知り、それでもまた抗うというのなら―――相手になろう」


 沈黙。

 絶望が込み上げてくる。

 無理なのか?

 もう……諦めるしかないのか?


 ―――。

 

 だが、そんな絶望が支配する空間に、ある“音”が聞こえた。

 

「え?」


 それは誰の発した言葉だったろう?

 だってその音は、おそらくこの場に最もふさわしくない音だったからだ。

 俺も聞き間違いかと思った。

 でも、その音はもう一度響いた。


 ―――ぐぎゅるるるる……と。


 分かりやすく言えばそれは、腹の音だった。

 そして、


『……ふぁぁ~……腹減った……』


 視界の隅に映るのは一体の地龍。


 空気を読まない相棒が、目を覚ました。






カディアース『……ぶっちゃけ、忘れてた』

レーナロイド「……私も」


次回で決着かな。

アースさんが主人公する予定

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