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地龍のダンジョン奮闘記!  作者: よっしゃあっ!
第十章 魔王と三人の転生者

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27.獣たちの宴

活動報告更新しました



 フォード沙漠に爆音が鳴り響く。

 発生する巨大なキノコ雲。

 二千平方キロメートル近くあるフォード沙漠全域が、その爆発に巻き込まれた。

 皇獣アジルの放ったブレスの威力は、余りにも桁違いだった。

 唯一の救いは、ここが生物の殆ど居ない砂漠であったと言う事位か。

 もしここが森や、人の住む町だったら、そこに暮らす全ての生物が消炭になっていた事だろう。


「久々のブレスだけど……やはり加減が効かないな」


 その結果を悠然と眺めるアジル。

 自分が起こした事だと言うのに、どこか他人事のような雰囲気さえ漂っている。

 事実、彼にしてみれば、ただとりあえず撃ってみた位にしか考えていないのだから。

 だが、


「へぇ……」


 煙が晴れる。

 そこには巨大なクレーターが出来上がっていた。

 大きくえぐられた砂の大地。

 だが、その一部のみが不自然に切り取られている。


「生き残ったのか」


 不自然に切り取られた砂丘の先端。

 そこにはボロボロの青鎧を纏ったアンの姿があった。


『ハァッ……ハァッ……!』


 だが文字通りの虫の息。

 もはや立っているのもやっとの状態だった。

 他の蟻達の姿はない。

 今の攻撃で、地上に出ている蟻達は全て消し飛んでしまった。

 アジルの七つある首がアンの姿を捕える。


「……その剣と鎧、『青の戦士』のものか」


 首の一つが、呻り声を上げる。

 青の戦士。

 それはかつて彼と対峙した仇敵―――勇者カディアスの仲間の一人の通り名だ。


 白の聖女エリアル・カーラー。

 銀の魔術師ミラーク・エンデュミオン。

 槍使いノイマン・レイブン。

 そして、青の戦士カルラ・ハザン。


 彼らの事は、五百年経った今でも鮮明に覚えている。

 何せ自分達を追いつめ、封印した相手なのだから。

 

「……魔力を無効化する破魔石で造られた特殊な武装。この時代にも、使いこなせる者がいたとはね。それに……」


 どこか感慨深そうに、アジルはアンを見つめる。


「その力を使うのが……よりにもよって、君とはね……」


 ふぅーとアジルは溜息をつく。


「―――本当に、度し難い」


 ズン!!!とアジルから莫大な魔力と怒気が放出される。

 龍の首が口を開いた。

 再びブレスを放とうとしているのだろう。

 

 朦朧とする意識の中で、アンはそれを見つめる。

 次は防げない。肉体が限界だった。

 先程はなんとか攻撃を防ぎ、次世代の女王種達と子蟻達の何割かを転移させることには成功したが、その代わりに自分が逃げ遅れてしまった。

 更に悪い事にダンジョンのシステムにも異常が発生しているのか、転移門が開かない。

 深層への思念通話も……届かない。


(一体……どうすれば……)


 満身創痍。絶体絶命。

 もはや、アンに打つ手はなかった。

 そして、再びフォード沙漠に爆発が起こった。


 ―――――――。


 ――――。


 ―――。




◇◆◇◆◇



『……ん?』


 ゆっくりと、アンの意識は覚醒する。

 ここは……どこだ?

 そして気付く。

 ここは、空の上だ。

 何かが、自分を乗せて飛んでいる。


『―――目が覚めたか、アンよ』


 その声は自分の足元から聞こえた。

 黒い羽が見えた。そして、感じる良く知った魔力。


『…………まさか、ヘレブですか?』


『他の誰だというのだ?』


 アンはヘレブの背中に乗っていた。

 首を動かせば、視界の隅にフォード沙漠が見える。

 激しい砂埃と、爆炎が舞うこの世の地獄のような光景が広がっていた。


『……アナタが助けてくれたのですか?』


『我は貴様を助けた訳ではない。貴様の主と取引をしただけだ』


『取引……?』


『そうだ。あの穴蔵の小僧、向こう百年我らの一族に魔石を献上すると誓った。代わりに、今すぐフォード沙漠へ向かってくれ、とな。甚だ不本意だが、我は族長として一族の安寧を考慮せねばならん。故に、貴様の礼など不要だ』


 やけに早口で、ヘレブは説明する。

 何も聞くな、疑問に思うな、質問するな。そう言っている様に聞こえた。

 その態度にアンは思わず苦笑してしまう。だが、助かった。


『そう、ですか……』


『安心するのはまだ早いぞ』


『え?』


 直後、ヘレブの横を光線が通り過ぎた。

 それはアン達の前方で大爆発を引き起こす。


『なっ!?』


 見れば、アジルの首の一つがこちらを向いていた。

 アリクイのような頭だ。その細い口から、次々に光線が放たれる。


『相手はあの“皇獣”だ。ひとえに引くと言っても、“アレ”が相手では、それも容易では無かろう』


 ヘレブは翼を大きくはためかせ加速する。

 ブォン!と大気の割れる音が響いた。

 光線が放たれる。

 躱す。

 躱す。

 躱す。

 音速を超える飛行にて、背後から迫る攻撃を紙一重で避けてゆくが、それでも完璧には躱しきれていなかった。

 このままではジリ貧だ。


『……ッ。このままでは埒が明かんな……。アンよ、少し持ち堪えろよ』


『え……?』


 ゴウッ!!と。

 アンの返答を待つ前に、ヘレブの全身が炎に包まれた。

 ―――『火具羅』。

 アクレト・クロウがもつ最終特攻形態。

 それは全身を炎に包み、攻撃力を飛躍的に上げる術式だが、これは同時に全身に纏った魔力によって速力も上昇するのだ。

 

『熱っ、熱い!』


『だから我慢しろと言っただろう!飛ばすぞ!』


 キィィィンと、ヘレブは更に速度を増す。

 そして、遂に彼らはアジルの追撃を振り切る事に成功した。



◇◆◇◆◇



「逃げられたか……」


 その後ろ姿をアジルは見つめていた。


「スプンタを下したというから、どの程度かと思ってみれば拍子抜けだったな……。いや、まだ力には目覚めてないのか……。しかし、青の鎧か……。偶然にしても、出来過ぎてるな」


 魔力反応から、既にスプンタがやられている事を、アジルは知っていた。

 それを倒したのが、あの黒蟻である事も。

 追撃を仕掛けようかとも思ったが、すぐにその興味は失せた。


「まあ、いいか。楽しみは、後に取っておこう。それに―――」


 見つめる視線の先。

 そこには巨大な魔力を纏った紅い龍が飛んでいた。


「先ずは、向こうを片付けるとしよう」


 さあ、五百年ぶりの再会だ。

 力を取り戻した皇獣アジルと、真の龍王種が一体聖龍ハルシャ・ルードが邂逅する。



◇◆◇◆◇



 中層第八エリアにて―――。


「ハァァァッ!」


 ラセツはヤムゥへと斬りかかる。

 高密度の魔力を込めた一撃。


「……ふん」


 ヤムゥはこれを避けなかった。

 ただ手を前に出し、掴んで止めた。


「―――っ!?」


「どうした?武器を素手で掴まれるのが、そんなに予想外だったか?」

 

 そしてもう片方の手で、ヤムゥはラセツの顔を思いっきりつかみ、壁に叩きつける。

 全身に激痛が走る。

 だが痛みに耐えながらも、その手を無理やり引き剥がす。


「―――フッ!!」


 足に魔力を込め、高速移動。

 更に特殊なステップを加え、幾つもの残像を生み出す。


「中々、速ぇじゃねぇか」


 だが、ヤムゥはこれを完全に見切っていた。

 超スピードの中、視線が合う。

 それでもラセツは剣を振るう。

 また掴まれた。

 何度も何度も剣を振るっても、ヤムゥはラセツの太刀を掴んでは離しを繰り返した。

 その行動に、どういう意味を持つのか。

 ぞわりと、ラセツの背中に寒気が走る。

 思わずラセツは距離を取ってしまった。


「どうした?来ないのか?ならこっちから行くぞ」


 とん、と。

 一歩で、ヤムゥはラセツに接近する。


「なっ!?」


 視えなかった。

 そして、至近距離でヤムゥは無造作に手を振った。


「―――“天爪”」


 刹那、発生した光の爪がラセツの体を切り裂く。


「ぐっ……ァァアアアアッ!」


 だがその痛みに耐えながらも、ラセツはカウンターを入れようとする。

 返す刃で一撃。

 タイミングは完璧だった。

 それでも、


「遅い」


 再び、刃を掴まれた。

 そのまま吹き飛ばされ地面を転がる。


「……ハァッ……ハァッ……」


 痛みに耐えながら、ラセツは歯噛みする。

 既に、この数手のやり取りで、嫌でも分かってしまった。


 ―――ヤムゥの力は自分よりも、遥かに上だと。


 先ほど戦った魔王軍の隊長格。

 アイツは厄災級の強さだった筈だ。

 情報によれば、天龍ヤムゥの実力は神災級。

 厄災級と神災級。

 格としては、一つしか違わない筈だ。


 だが、そのたった一つが、これ程までに遠いのか。

 その証拠にヤムゥはラセツの攻撃を避けようとしない。

 必ず刃を掴み止めようとする。

 絶対的な力量差を見せつけているのだ。


「弱ぇな」


「な……に……?」


「身体能力は高い。魔力量も申し分ねぇ。魂を昇華させるつう固有術式も持ってる。素養だけなら、十分すぎる程に上等な部類だ。順当に成長すりゃ、神災級でも上位に食い込むことが出来るだろうよ。見事なもんだよ、テメェは」


 白々しく聞こえるかもしれないが、これはヤムゥの素直な感想だった。

 彼が手放しで称賛する程に、ラセツの力は規格外だった。


「だが―――今はまだ、圧倒的に経験が足りてねぇ」


 ヤムゥは再び手を振るう。

 光の刃が発生する。


「自分よりはるか格上と戦った経験がねぇんだろ?」


 猛スピードで迫る光の刃。

 ラセツは躱しきれなかった。

 ビキッ!とラセツの鎧にひびが入った。


「―――ッ!お前ェェェェ!!」


 怒りと共に、ラセツの魔力が上昇する。


「ほう、まだ魔力が上がるか」


「許さない、ござる!!!」


 叫び。

 ラセツの肉体と魂が作りかえられてゆく。

 進化だ。ラセツの持つ固有術式。

 目の前の敵を倒すのにふさわしい姿に進化するのだ。

 だが―――。


「―――ぐ、ぅ……っ!?」


 突如、ラセツを凄まじい吐き気が襲った。

 更に全身から力が抜ける様な感覚と震え。

 これは……一体どういう事だ?


「力の使いすぎだ」


 ラセツの疑問に、ヤムゥが答える。


「知ってるぜ。テメェは俺と戦う前に、一回その力を使ってんだろ?アルマティ相手によ。だがな……ただでさえ“その力”は、莫大な魔力が必要になるんだ。まだ経験の浅いテメェがそう軽々しく連発できるような代物じゃねぇんだよ。それが分かってねぇから、こうして失敗する」


 力任せにヤムゥはラセツを放り投げる。

 ノーバウントで数十メートル以上投げ飛ばされ、ラセツは地面を転がる。


「さて、どうする?力の差は理解できただろ?まだやるか?」


 無造作にヤムゥはラセツへと接近する。

 その途中で、軽く何かを掃う様に腕を動かした。

 すると、彼の数メートル先で小さな爆発が起こった。

 

「……奇襲を仕掛けるなら、せめてもうちょいマシな術を撃つんだな」


 視線の先には、数体のスケルトンが居た。

 杖を持ってるところを見るとメイジ型か。

 功に走ったか、ラセツを助けようとしたのか。まあ、どっちでもいい。

 ヤムゥは軽く指を弾く。

 パチン、と。

 それだけで、スケルトン達は粉々に砕け散った。


「で、次はどう出る?」


「…………」


 ラセツは答えない。

 諦めたのか?

 ヤムゥが手をかざすと、ラセツの体がドロリと溶けた。


「お」


 黒い墨の様に広がるラセツだったモノ。

 それはヤムゥに襲い掛かった。


「“影踏”か。影を操る固有魔術……ってぇ事はだ」


 無造作にヤムゥは影を振り払う。

 そして、その背後に現れる三体の魔物。

 ラセツ、そしてロブンとオーテルだ。

 援軍として駆けつけた彼らは即座に気配を消し、奇襲出来るように控えていたのだ。

 となると、先程のスケルトン達は、ラセツを入れ替えさせるために注意を引く命がけの囮か。


「今度こそ!」


 太刀が、熔岩が、影の刃がヤムゥに襲い掛かる。

 そのどれもが、必殺の威力を誇る一撃。

 だが、それでも。


「悪くない手だ」


 ヤムゥの余裕は崩れなかった。

 瞬時に彼の周囲に、水が発生する。

 濁流は一瞬にして、三人を飲み込み、そのまま壁に叩きつけた。


「……で、次はどうする?」


 叩きつけられ動かない三人を前に、彼は再び問う。

 返答はない。気絶しているのか?

 なら、これで終わり。

 なんてつまらない。


「……ふん」


 そう思い、手を振り上げた瞬間―――ズドン!!と。

 彼の真横から凄まじい衝撃が走った。

 

「なっ――――があああああああ!!?」


 吹き飛ばされ、フロアの壁を突き抜け、更に隣のフロアの壁にぶつかりようやく止まる。

 

「いてぇな……」


 瓦礫の中、ヤムゥが体を起こす。

 今までとは違う明確なダメージ。

 一体何だったのだ、今のは?

 目を凝らす。

 土煙の中から“ソレ”は現れた。


「――――ブォォォオオオオオオオオオオオ!!!!」


 咆哮と共に、放たれる魔力の奔流。

 それはヘラクレスカブトムシの様な巨大な角を持った、四足歩行型の獣だ。

 進化したサイ型ゴーレム・ホムンクルス・ゴンゾー。

 その姿を見て、ヤムゥは一瞬動きが止まる。


「……カラミティ・ベヒモス……だと……?」


 その声は僅かに震えていた。

 目の前の存在を信じたくないとでも言うかのように。


「……こんな奴まで産まれてたのか。七人目か、どうなってやがるッ!」


「ブゥォォオオオオオオオオ!!」


 雄叫びと共に、ゴンゾーはヤムゥに襲い掛かる。

 何の仕掛けも無い、ただの突進だ。

 だが、それはゴンゾーにとっての必殺の一撃。

 なぜならば、その突進はただひたすらに速く、硬く、重い。

 進化し、以前よりも更に巨大に、そしてより強大な魔力を纏った彼の突進を防げる者などそうそう居やしない。


「―――だが、まだ甘ぇ!!」


 両手を前に出し、ヤムゥは水と氷の障壁を作り出す。

 ゴンゾーとヤムゥの障壁が激突する。


「ブオオオオオオオッッッ!!」


「ぬぅぅぅ!」


 力は、互角だった。

 互いに一歩も譲らぬ接戦。

 そして、その均衡は破られる。


「隙だらけ、ござる!!」


「―――なにッ!?」


 その横から、斬撃を仕掛けるラセツの手によって。

 彼はヤムゥがゴンゾーに気を取られ、隙が出来るのを待っていたのだ。

 魔力を貯め、今度こそ必殺の一撃で仕留めるために。


 そして、それはラセツだけではない。

 反対からはロブンの熔岩が。

 更に背後からはオーテルの影の刃が。

 ヤムゥを取り囲む様に、三方向からの攻撃が仕掛けられた。

 そして、奇襲に気を取られたヤムゥの障壁が一瞬緩む。

 その瞬間―――ゴンゾーはあらんかぎりの力を込めて踏み込んだ!


「ブオオオオオオオオオオオオオ!!」


 障壁が砕け、破壊の塊がヤムゥに直撃する。

 そして、凄まじい轟音がダンジョンに響き渡る。

 ビキビキと音を立て壁や床は崩壊し、四階層以上が吹き抜けとなった。

 地上部分も吹き飛び、ダンジョンに光が差し込む。

 完璧に攻撃が決まった。

 それでも、



「―――悪くはない攻撃だった」



 ヤムゥは立っていた。

 あれだけの攻撃を受けてなお、ヤムゥは死ななかった。

 無論、無傷ではない。

 あちこちに傷があった。

 だがそこまで。

 仕留めるには、まだ足りなかったのだ。


「……」


 周囲を見る。 

 ラセツが居た。

 オーテルが居た。

 ロブンが居た。

 ゴンゾーが居た。

 彼らの視線と殺気は、未だヤムゥを捉えて離さない。

 明らかな戦闘継続の意志。

 圧倒的な天龍の力を前にしても、誰一人として、未だその心は折れてはいない。

 故に、ヤムゥは嗤う。


「本当に……殺すには惜しい奴らばかりだ」


 つい、本音が漏れてしまう。

 出来るならば、その成長を見て見たいとも思ってしまった。

 だがそれは出来ない。

 だからこそ、ヤムゥは決めた。


「本命が来るまでの暇つぶしのつもりだったが、気が変わった」


 ヤムゥの魔力が膨れ上がる。

 背中からは白い翼が生え、体の表面を青い龍の鱗が覆ってゆく。

 更にその周囲には何本もの光の刃が浮いていた。

 ―――“龍装変化”。

 エルジャが使ったのと同じ、人の姿に龍の力を圧縮した戦闘形態。

 ヤムゥは彼らを認め、“敵”と認識したからこそ、この力を使う事に決めた。

 龍装変化を使うと同時に、それまでの与えた傷も回復してゆく。

 圧倒的なプレッシャーが、ラセツ達の肌を刺す。


「―――ッ」


「さあ、続きだ。簡単には死んでくれるなよ?」


 第八エリアの戦いはさらに激しさを増してゆく―――。



◇◆◇◆◇



 深層監視室にて―――。


『……これで全員、移動は完了したな』


「ええ、それぞれのエリアの再配置は終わったわ。解析も終わったしね。それと、ヘレブの方からも、アンちゃんを無事救出できたって連絡があったわよ」


『そうか、良かった……』


 本当に間一髪だった。

 ダンジョンの転移機能が使えなかった以上、救助には直接その場に行かねばならなかった。

 ヘレブの速力が無かったら、絶対に間に合わなかっただろう。

 でも失った代償もデカい。

 子蟻達の被害はおよそ十万。

 四分の一が、アジルのブレスで消し飛んだ計算になる。

 おまけにフォード沙漠のダンジョンはほぼ壊滅状態。

 アンが助かったとはいえ、この犠牲は大きい。

 だが、だからこそ、その犠牲を無駄にしてはいけない。


『それじゃあ、俺も出るとするか』


 ラセツ達も頑張ってくれてる以上、俺もそろそろ動かなければいけない。

 幸いにも、地龍型ゴーレムの修理も間に合ったしな。


「……どうしても行くの?」


 エリベルが不安げに訊ねてくる。


『ああ、どうしても“あいつ”だけは、俺に任せてほしい。話さなきゃならない事もあるんだ』

 

 ヤムゥが第八エリアに現れたのとほぼ同時刻。

 もう一つのエリアにも、魔力反応があった。

 上手く魔力と気配を隠してはいたが、俺だけは“そいつ”の接近に気付く事が出来た。


『“雷斬り”キリシマ・アオバ……』


 前世の俺と同じ顔、同じ名前を持つ謎の男。

 アイツだけは俺が何とかしなきゃいけない。


「はぁー……」


 ぼりぼりと長い銀髪を掻きながらエリベルは俺の方を見た。


「まあ、色々馬鹿やった私に、アンタを止める資格なんて無いけどさ。それでも、無茶はしないでよ?…………アンタは一応、私達の主なんだから」


『ああ、分かってるよ』


「そ。ならいいわ。それじゃ―――気を付けていってらっしゃい、アース」


『ああ、行ってくる』


 決着を着けよう。

 俺の過去に、もう一人の転生者に。

 地龍型ゴーレムを起動させ、俺は転移門をくぐった。




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