1.それはちょっとしたケジメ
前話の前書きにも書きましたが、EX2.とある宰相の憂鬱の中身を多少書き直しました。すでに読んでた方はすいません。
見切り発車はするもんじゃないですね
低層に向かう前に、遺跡に戻ってきた。
雑然と置かれていた石版は全て食いつくされ残っているものは一枚もない。
ただ、魔王と勇者の話が描かれている壁画や地上絵は、食い散らかしたにもかかわらずきれいに修復されていた。
それだけではない。
ドームの中央には黄金の台座と極彩色の球体がその存在を誇示している。
どちらも丸ごと食ったにもかかわらず、だ。
………ホントに修復されてるよ。
俺は改めてその仕組みに驚かされる。
知識としては、取り込んでいて分かってはいたが、実際に見るとやっぱすごいわ。
アンに会う前に、俺はもう一度この遺跡を訪れていた。
あいつに渡す特殊な魔石を取りにな。
あ、魔石のことは後で説明すっから。
台座に近づき、もう一度球体に触れる。
『どうもー、みんな大好きエリベルちゃんだよーん。みんなの応援で華麗に復活!イエイ☆うぃーひっく。へへへ~、この映像見てるってことはぁ、貴方台座壊したわね~。でもダイジョーブ!この台座は再生機能付きなのでしたー!ひっく。』
と、非常にウザったいテンションで、エリベルが再びホログラムとして現れた。
………お前キャラ変わりすぎだろ。
思わず台座や球体を殴らなかった俺をほめてほしい。
よく見ると頬がほんのり赤い。
酒でも飲んでるのか?
よくそんな状態で収録しようと思ったな。
撮影役の眷属さんも苦労してんだろうな。
酔っ払い(エリベル)の解説はスルー。
どうにもこの遺跡自体に修復の魔術が罹っているらしく、遺跡の維持に必要な部分は時間をかけて修復される仕組みらしい。
魔力そのものが迷宮と遺跡とで循環しているらしく、どちらか片方が壊されれば、片方から魔力が供給される仕組みになるらしい。地味にすごい仕組みだ。
だが俺が食った石版などは、もともととの遺跡のギミックには含まれていなかったらしく修復はされなかった。
………ちょっと残念だな。あの石版相当に美味だったのにな。
と思ってるうちにエリベルが喋り終えていた。
ちなみにウザったいテンションだったのは、やっぱり酒のせいだったらしい。
喋っているうちに、酔いが醒めてきたらしく、最後にはなにやら『これが黒歴史…』とか訳の分からんことを言って落ち込んでいた。
知らんがな。
エリベルのホログラム映像は遺跡の解説役も兼ねているらしく、よく台座を見てみたらキーボードらしくモノもきちんとあった。
本来はこれでキーワードを打ち込み、それぞれの石板の中身を説明する仕組みになっていたらしい。
これ、俺喰わなくても知識得ることが出来たのか。
美味しかったからいいけど。
ん、でも台座の方は何回も修復するんだよな?
あ、喰い放題じゃん。
よっしゃ。
迷宮や遺跡の仕組みは知識としては頭に入ってはいるが、うまく噛み砕くにはやはり外部からきちんと言葉を通してもらった方が楽だしな。
さて、それでは来た目的を果たすとしますか。
台座をぼりぼりと食べながら、俺は遺跡の端に移動する。
勇者と魔王のエピソードが描かれた壁画だ。
俺はおもむろに、勇者と魔王のエピソードが描かれた壁画の隣にあるくぼみを三回ひねる。
ガコン、という音がして、壁が二つに割れる。
壁が開き中から隠し階段が現れる。
狭いな。
でも、何とかぎりぎり通れる。
前に食った時はこんな仕掛け気付かなかったし。
階段を降りた先には小さな部屋。
どちらかと言えば物置小屋という方がしっくりくるこじんまりとした部屋。
椅子とテーブル、それに本棚など必要最低限のものしか置かれていない。
そして、椅子には先客が座っていた。
それは白い骸骨だ。
ボロボロのローブを身にまとい、項垂れるようにして椅子に腰かけている。
この骸骨こそが、先のエリベル・レーベンヘルツだ。
しかし死ぬ時くらい椅子に座ったままでなくともいいと思うが、こいつなりのこだわりなんだろう。
多分。
軽く指でつつくと遺骸は音を立てて崩れた。
本来この世界では遺体は火葬しないとアンデット、不死族として甦ってしまうらしい。
そうならないということは、生前に自分に特殊な術式をかけてから、死んだのだろう。
………彼女はとことんこの世界が嫌いらしいな。
まあ、じゃなきゃあんなこと言わないか。
あの懺悔にも似た独白の後に収録されていた彼女の映像を思い出す。
『………あんたの残した遺産。俺が使わせてもらうよ』
ここに来たのはその一言を言うためだ。
言うのがずいぶん後になったけどな。
俺なりのけじめみたいなものだ。
この遺跡を通して、エリベルがこの世界をどう思っていたかよく分かったつもりだ。
だから、まあ、この世界の連中に良いように使われるよりも、俺みたいな余所者に使われた方があんたも嬉しいだろう?
あんた、この世界をえらく憎んでたもんな。
『魔術ってのは本来争いの道具ではなく、助け合い生活を豊かにするためにあると私は思うんだよ』だっけか?
よくあんなセリフが言えたもんだよ。
心にも思ってなかったくせしてさ。
まあ、そういう賢者で居なければいけなかったって言うのも分かるつもりだよ。
極彩色の球体を通して見たよ。あんたの過去のも。
そのうえで言わせてもらう。
この遺産は俺が使うよ。
だから、ごめんなさい。
俺は物言わぬ遺骸に頭を下げる。
風も吹かない洞窟の中のはずなのに、少しだけ遺骸のローブが揺れた気がした。
『好きにしなさいな』
そう言われているような気がした。
まあ、ここに来たのは俺のちょっとしたけじめだ。
さて、低層に戻るか。
ちょっとだけシリアスな主人公のお話でした。
色々と思うところがあったようです。
エリベル「これはつまり、私の過去編もやるっていう伏線ね!」
作者・主人公「「いや、それはねーよ」」
エリベル「(;ω;)」
需要は無さそうですしね。




