15.勇者と魔王の話ってテンプレだけど面白いよね
ショックから立ち直り、再び俺は食事を開始した。
うん、食べよう。
食べて忘れよう。
もぐもぐもぐ。
さてと、食べ進めて今度は俺のいる場所も分かった。
この遺跡がいつ造られたかは分かんないし、今も同じ名前で呼ばれてるかわからんけど、ここはエルド荒野っていうところらしい。
その北側にエルド鉱山があり、西には大森林が広がっている、らしい。
らしい、というのは地図がないからだ。
知識として、地名が出てきただけで、地形や場所は分からないんだもん。
とまあ、こんな感じで魔物や地域に対しての知識はかなり手に入った。
しかし、魔物や地名以外の知識がほしいな。
他の石版を見ると文字だけのものも結構ある。
イラストが描いてないから内容がわからないな。
それでも食った瞬間に知識が流れ込んでくるのだろう。
イラスト付きに石版もまだまだあるけど、ちょっと味を変えてみますか。
さて、これはどんなことが描かれているかな?
俺は魔物の石版の隣にあった、文字だけの石版を食べてみることにした。
すんすん。
い~香りだ。
さっきのイラスト付きの石版が肉料理なら、これから感じる香りはまるでフルーツ。
さわやかな感じだ。
味変えにはぴったりだね。
さて、頂きましょう。
文字だけの石版、その中でもひときわ大きな石版を齧る。
ぼりん。もぐもぐもぐ。
ごくん。
おっ、知識が流れ込んできた。
どれどれ………
聖剣:レヴァーティン
使用方法・封印場所・解放条件について
なんかすごいの来た!
その後も文字だけの石版を食べ続けた。
んで、出てきたのが………
聖剣レヴァーティン、神殺鑓グングニール、宝剣フツノミタマ、神盾スヴェル、雷槌ミョルニル、トリシュラ、タスラム等々……。
どうやら魔物図鑑の隣に置かれている石版たちは武器、それも神具や伝説上の武器っていうのに関する知識が描かれているらしい。
どうにも物騒な名前の武器ばっかだな。
神殺槍って………神殺してどないすんねん。
主に書かれていたのはその武器の使い方、封印されている場所、その封印の解除方法、威力、消費魔力等だ。
正直考えてたくもないほどの威力や効果が描かれていた。
次元を斬るってどういうこと?
一振りで海が割れるってどういうこと?
一発撃てば大陸が滅ぶって………
お、おふぅ………。
と、とりあえずこの世界には物騒な武器が大量にあるらしい。
まあ、物騒だからそのほとんどが封印されているんだろうけど。
そんな中で俺が気になったのが“魔力”というものだ。
そして“魔石”。
どの武器にもこの二つの単語が共通して出てきた。
どうやらこの世界には魔力と呼ばれるエネルギーがあるらしい。
前世で言うところの電力みたいなものだろうか。
魔力によってこの武器たちは様々な効果を発揮し、また魔物たちも力を行使している…………らしい。
うーん、改めて知るとファンタジーな世界だなここ。
くそぅ、こんなことなら新卒の花田に頼んでその手の漫画やアニメを借りとくんだった。
『先輩エルフとダークエルフを選べって言われたら、どっちかなんて言わず絶対サンドイッチで美味しく頂きますよねっ!』とかふざけたことを言ってたしな。
俺はその手の娯楽なんてほとんど知らずに働いてばっかいたからな。
ファンタジーなんてせいぜい映画ぐらいしか知らなかったし。
次に魔石だ。
これは、やはりというか、俺が食ってた宝石だった。
あれが魔石なんだそうな。
その名の通り、魔力を帯びた石。
どっかの芸能事務所の名前じゃない。
たとえるなら電池と言ったところか。
道具を稼働させるエネルギー源、いうなればバッテリー。
それが魔石だ。
また魔石自体を加工して、様々な魔道具なんかも作れるらしい。
より多く、質の良い魔力を帯びた魔石ほど効果的な魔道具が作られるそうだ。
ちなみに俺が作っていた石像。
あれも魔道具になるらしい。
名称はゴーレム。
まんまやん。
ゴーレムも使っている石の材質や魔石に応じてその性能が決まってくるらしい。
ああ、そういえばアンがそんなことを言ってた気がするな。
聞き流してたな、所詮、蟻だし。
さてさて、そんなわけでこの辺りは魔道具に関する知識が描かれていた。
かなりためになったな。
次にほかの場所の石版を食べようかね。
と言う訳で少し移動。
ドームの中を反時計回りに進んでいく。
ようやくドーム全体の半分くらいか。やっぱでけーなここ。
次の場所には、石版ではなく壁画や地面そのものに文字が彫られていた。
壁画の方には神官風の人が描かれていた。
その人物が剣を手に何やら得体のしれないものと戦っている絵だ。
地面に彫られているのは、まるでナスカの地上絵を思わせるような壮大な一枚絵。
描かれているのは龍だ。
六枚の翼を広げ、三つの首を持ち、胴体はまるで蛇のように長い龍。
壁画に書かれている化け物に似てるな。
もしかしてこの壁画はこの化け物に関してのことが描かれているのかな。
では頂きましょうか。
うぐっ、やっぱ壁だと喰いづらいな。
壁の端っこをちょっと削って、そこからこそげとるように食べないと。
ではあーん。
むぐむぐむぐ。
ほう、石版と打って変わってビターな味わいだな。
ブラックチョコレートみたいだ。
大人の味だね。
嫌いではない。
ごくん。
お、流れてきた流れてきた、知識が一杯………
『魔王アジルと勇者カディアスについて』
へー、勇者と魔王の物語か。
どれどれ、どんなお話なのかな
流れ込んできた知識はこの世界における魔王と勇者の戦いの歴史だった。
神聖歴5年
この世界の人間達は、この大陸“ファウード”はある脅威にさらされていた。
それは魔族。
魔物を総べる者達。
高い知能、高度な魔法技術、そして底なしの欲望。
彼らは人間達を奴隷として扱おうと、ファウード全てを相手にとった戦争を始めたのだ。
そして、そこに現れたのが一人の勇者―――
長いんで割愛。
魔族を総べるものが魔王と呼ばれ、人間側の最強の存在が勇者となって魔王に立ち向かうというお話。
長い。
この話とにかく長い。
本にすればきっと百万字は軽く超えるな。
と言う訳でスルー。
こんな長い話いちいち全部把握し切れるかってーの。
知識としては役に立ったけど、後で精査するのが大変そうだ。
時間があるときにでも記憶の引き出しから出して読んでおこう。
暇つぶしにちょうど良さそうだ。
まあ、この世界の成り立ちや、人と魔族の歴史について一通り理解できたのは幸いだったな。
さらに、歴史の流れから自分が今いる大陸や地形、おおよその場所まで把握することが出来た。
魔族に関する知識もだ。
強さや特性、そして“どこに”居るのか。
そのおおよそを知ることが出来た。
ここまで来て一つの疑問が浮かぶ。
この石版、というか遺跡を残したのは一体誰なんだろうな?
ある程度知識が埋まってきたら、そんなことを思った。
多分この遺跡は人の、それも多分少数ないし単独に人間の手によって人工的に作られたものだ。
これまで食べてきた知識や、知識の視点から俺はそう判断した。
まあ、作った奴の思惑なんて関係ないけどね。
ありがたいとは思うけど。こうしてこんなに知識を得ることが出来たし。
魔物の知識、魔石と武器、勇者と魔王の歴史とここまでで、おおよそ半分と言ったところか。
このドームは広いなと改めて思った。
ふぅ………、お腹もいっぱいになったし眠くなってきたな。
今日はこの位にして、休むか。
そんじゃ、お休みなさーい。
俺は魔王アジルが描かれた地上絵の上に、勇者の石版を布団代わりにして眠りについた。
感想欄のアンさんの人気って………




