EX1.とあるマッチポンプと彼女の忠誠
どうしても書きたかった、こういうテンプレ
実際書いてて楽しかった
私はアン。
キラーアントの女王種だ。
私は今から数か月前、私の母、つまりキラーアントの女王様に独り立ちするように言われた。
キラーアントは蟻の特性を持つ魔物だ。
その為女王は一定の周期で女王種を生み、生まれた子供も成体が近くなると数匹の兵隊アリを従え独り立ちし、自らのコミュニティを作り上げる。
そうやって数を増やし、種を存続させてきた社会的な魔物だ。
ただ、私は正直それが面倒くさかった。
その頃の私は今のような知識や感情はあまりなかった。
だが今ならわかる。
あの時私は面倒くさい、外に出たくないと思っていたのだ。
だってそうだろう。
一日ゴロゴロしていても誰にも咎められず、下級の兵隊蟻が持ってくる食料を好きなだけ食べていいという状況。
最高じゃないか。
しかし、そんな状況も長くは続かなかった。
なにせ同期に生まれた女王種の皆はすでにコロニーを離れ独り立ちしてしまっている。
残っているのは私と、私より後に生まれた女王種だけだ。
ひそひそと私より年下の女王種たちが私を指さして何か言っていたけど私はそんなの気にしなかった。
行き遅れだとか、年増だとか、なんとか言われていたけど気にしなかった。
ぐすん。
でも私は気にしない。
ゴロゴロ暮らしだ。
そう思った。
と思ってたら、母もそんな私にしびれを切らしたのか、叩き出すようにコロニーから出された。
ぐすん。
右も左もわからず、私の当てのない旅が始まった。
通常は何体か護衛として兵隊アリたちを連れて行くことが出来るのだが、ただの穀潰しであった私は、文字通りのたった一体で野に放たれたのだ。
泣きたい。しくしく。
それから何日経ったのか。
私は西へ東へと歩いた。
人間に見つからないように、慎重に隠れながら。
私たちキラーアントは弱い。
一体一体の強さは、おそらく野生の獣と同じか、やや下位程度の力しか持たないだろう。
私たちは群れることで初めて強さを発揮できる種なのだ。
それなのに一人でほっぽりだすって……ぐすん。
いや、まあ確かにいつまでも引き籠っていた私が悪いんですけどね。
森の中で狐やウサギを狩りながら私は歩き続けた。
途中でクマに襲われた時は流石に焦った。
自分でもあり得ないくらい素早く動けた。
コロニーでごろごろしていた私でも結構動けるんだと思った。
そして私は荒野のような場所についた。
人族もほとんどおらず、静かで心地良い場所だ。
上空には龍や、なにやらでかいカラスが飛んでいるが、まあ別に大丈夫だろう。
私の体色は他の蟻と違ってやや白っぽい。
場所によっては保護色になって見つかりにくいはずだ。
幸い他のキラーアントもいないようだし、ここに巣を作ろうと思った。
しかし私は分かっていなかったのだ。
なぜ同種のキラーアントがここに巣を作っていないのか。
なぜ魔物の気配が極端に少ないのかを……。
ここはエルド荒野。
アクレト・クロウと白飛龍の二大王級魔物が君臨する魔物にとっても人族にとっても魔境と呼ばれる死の大地であったのだ。
きっと私はのんびり引き籠って生活していたため、他の魔物に関する警戒心が薄れていたのだ。
それは多少外に出た程度では、取り戻せていなかった。
だから私はエルド荒野に巣を作ろうなんて思ったのだ。
もし他のキラーアントがいれば間違いなくこう忠告しただろう。
『死ぬ気か?』と。
だが私は一人だ。
忠告をくれる相手も、まして話をする者も誰もいないのだから。
こうして、私のエルド荒野での生活が始まった。
そして始まって一日で私はこの世の地獄を味わった。
巣を作って一日目。
巣が何者かの攻撃によって破壊された。
幸いにも直撃は免れたが一歩間違えれば確実に死んでいた。
一体何が?
もうもうと立ち込める煙の中、私は見たのだ。
空高く上空を旋回する白飛龍の姿を。
アイツだ。
間違いない。あいつが私の巣を爆撃したのだ。
その証拠に、その後も白飛龍はブレスを放ち続け、周囲一帯を焼け野原に変えた。
生きていたのは幸運と言う他ない。
もっとも体はボロボロだ。
何か食べないと。
これだけボロボロだと普通のウサギやネズミなんかじゃ足りない。
もっと魔素を多く含んだ獲物が必要だ。
そうやってどれだけ彷徨っただろうか。
私は次なる悪夢に出会った。
アクレト・クロウだ。
あの馬鹿でかいカラスが巣の周囲で怒り狂っているのだ。
怖い怖い怖い。
やばいやばいやばい。
死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ。
見つかったら確実に殺される。
よく見ると周囲には割れた空の卵がいくつもあった。
きっと別の魔物に卵を食べられたに違いない。
それであいつは怒り狂ってるんだ。
私は気づかれないようにそーっとその場を逃げ出そうとした。
だが、次の瞬間さらなる絶望が目の前に現れた。
白飛龍だ。
目の前に私の巣を壊した張本人、白飛龍がいた。
だが、不幸中の幸いか、白飛龍は私なんぞには目もくれず、アクレト・クロウに向かっていった。
二匹の強大な魔物同士の闘争の余波で私の体は更に傷ついた。
もうぼろぼろだ。
このままでは死んでしまう。
もはやどこをどう歩いたのかもわからない。
でも死にたくない。
その一心で私は何日も何日も歩き続けた。
私はこの時、ようやくこの荒野の事を思い出していた。
母の話をまじめに聞いていなかった、その時の私を噛み殺してやりたくなった。
気づけば私は、どこか知らない洞窟の入り口にいた。
私は吸い込まれるように、その洞窟に入っていった。
そして、そこに最後の絶望が待っていた。
地龍。
伝説上の存在がそこにいた。
母からの話でしか聞いたことが無い伝説上の魔物。
四種の龍王種の中でもかつて頂点に君臨していた力の象徴。
今では存在すら疑わしいといわれるほどの超希少種。
白飛龍やアクレト・クロウに匹敵する絶望が姿を現した。
食べられる。
そう思った。
地龍は雑食だと聞く。きっと私の事なんぞ、つまみ程度にしか見えていないのだろう。
地龍が吠える。
「ギャアアアアアアアアウウウウウ」
その瞬間私は悟った。
ああ、私はここで死ぬんだと。
でも死にたくなかった。死にたくなかったのだ。
せめてもの抵抗に必死に声を上げる。
助けてください。見逃してください、と。
でもそんなの地龍が聞く筈が無い。
地龍の口に魔力がこもっていくのを感じた。
ブレスだ。
死ぬ。
あれを食らえば私は肉片も残らずにこの世を去るだろうと。
でも私は死ななかった。
何を思ったのか地龍は直前でブレスをやめた。
次の瞬間だ。
私の頭上から魔石が落ちてきたのだ。
助かった。これを食べれば少しは体を回復できる。
私が魔石を食べる間、地龍は私を攻撃しなかった。
そこで私は思った。
………もしかして、わざと攻撃しなかったのか?
いや、もしかして先ほどブレスを放とうとしたのは、私の頭上にある魔石を落とすためだったのか?
そんな疑問が私の中に湧き起こる。
そして、私は確信を得た。
地龍は奥へ引っ込み、戻ってきたのだ。
大量の魔石を持って。
地龍は私にさらに多くの魔石を与えた。
私は魔石を食べて力を得た。
高い知能と理性を得ることが出来た。
思念通話も使えるようになった。
だから私は疑問に思った。
どうしてと?
どうしてあなたは私を殺さなかったのと?
思念通話で尋ねても、地龍は何も言わない。
ただ踵を返し、巣穴へと戻ってゆこうとする。
だが、その背中はこう語っていたような気がする。
“ついて来いと”
そうか、私はこの方の眷属にしていただけたのだ。
私はそう確信した。
なにやら多少の行き違いはあったが、結果的に私はこの方の眷属になった。
そして私は名を与えられた。
アン
それが私の名前だ。
唯一にして無二の私だけの名前だ。
そして、あの方は仰られた。
“上(ダンジョンの上層部分)のことは任せると”
私は歓喜に震えた。
傷を治して頂けただけではなく、更なる力を与えてくれた。
その上、任せるといったのだ。
自分の存在するこのダンジョンを!
今ならわかる。なぜ兵隊アリたちがあれ程までに母に尽くしていたのかを。
なぜ嬉々として働いていたのかを。
必要とされることの嬉しさ、幸福。
私は思った。
この方に報いなければと。
この名に相応しい功績をあげなければ。
手始めに私は手駒となる兵を生むことにした。
通常のキラーアントは生殖行為が必要だが、地龍様にお力を頂いたおかげで、この体は単為生殖での増殖が可能となった。
これは有り難いと思った。
………いくら兵を増やすすためとはいえ、地龍様以外の雄に触れられるのは抵抗があるし……。
卵が孵り、生まれてくる我が子たち。
その数はどんどん増えてゆくだろう。
さあ、我が子たちよ!
あのお方に報いるのだ!
地龍様!
私が、いいえ、私とこの子たちが身命を賭して貴方をお守りいたします。
それが貴方の眷属たる私の使命なのですから。
主人公「なんか、上がうっせーなぁ……ま、いっか」




