11.ヒロインに人外を求めるのは間違っているだろうか
今日の更新はここまでです。
ストックがあっという間に消費されてゆく………
さてと、帰るか。
俺は体を翻し、奥へ戻ろうとする。
『ああ、待ってくださいぃぃぃ!』
後ろからなんか声が聞こえる。
気のせいだろう。
第一蟻がしゃべるわけない。
いや、喋るかもしれないな、ここ異世界だし。
ははは、初めて喋った相手が蟻か。
寂しいことこの上ないな。
何が悲しゅうて、虫に話しかけられなきゃあかんねん。
帰ろう(家の中だけど)。
んで宝石でも食べて石像でも作るか。
そうしよう。
『待ってくださいぃぃぃぃぃ!』
ああもう、うるせえ!
ついてくんな!
『そう言わずにどうか話だけでも聞いてください!』
あー、もうなんなんだこの蟻、ってあれ?
俺今声出してないよな?
出したとしても「ギギャアアアア!」とか「グガアアアアアア」とかだよな?
なんで今この蟻と会話できてるんだ?
『それは私が貴方様に思念通話で直接話しかけているからです』
そう思ったら、蟻が疑問に答えてくれた。
『いえいえ、とんでも御座いません』
て、ええええええええええええええええ!?
何だ、それ?
必死にスルーしてようとしたのに。
『するー、とはなんですか?』
話を適当に聞き流すことでってそういうことを言ってるんじゃない!
てことはあれか?
この声はお前で、お前は俺の頭に直接話しかけているということか?
『まあ、そういうことですね』
テレパシーみたいなもんか。
『てれぱしー?』
ああ、いいんだこっちの話。
んで?何?
もういいや、会話するよ。
面倒くさいけど。
つーかお前なんでついてきてるの?
傷も治ったなんだろ?さっさと出てけ。
『何を仰っているんですか?私はあなたの眷属にして頂けたのでは?』
はぁ?何言ってんだこいつ?
『傷つき命朽ち果てようとしていた私にあれほどの魔石を与えてくださったではないですか?』
マセキ?
何のことだ?
どこぞの芸能事務所か?
『ですから魔石です。先ほどお与えになったではありませんか?』
与えた?さっき?
ていうと、あの宝石か?
あれってただの石だろ?
石つーか鉱石か。
『ですからそれが魔石です』
………マセキって何?
『御存知ないのですか!?』
蟻はひどく驚いた表情を浮かべた、と思う。
実際には顔の変化なんてわからんけど。
『マセキとは魔力を帯びた石のことです。先ほどのような高純度の魔石は私も初めて味わいました』
ふーん、そうなのか。
よくわからんが。
まあ、深層から奮発して持ってきたからね。
俺のおやつ。
『先ほどの魔石のおかげで、傷が治るどころか種としてもより高みへと上り詰めることができました。そのおかげでこうして貴方様と念話も出来る様になったのです!』
蟻は嬉々として語る。
うーん。
さっさと出て行ってほしくて、傷を治したのに完全に裏目に出てしまった。
やっぱり殺そうか。ブレスで。
『止めてください!』
蟻が必死な?表情で縋り付いてきた。
場所は変わって地下三階の一室。
ここは応接室用に作った部屋だ。
誰を呼ぶわけでもないけど作ってしまった。
まあ、まさか最初に使うのが蟻用とは思わなかったけど。
結局あの後根負けして、こいつをここに連れてきてしまった。
石のテーブル越しに腰かける?というかむき出しの石の椅子に張り付く蟻を見据える。
対しておれは、長いソファー(の石)に猫のように体を丸めて座る。
うん、中々いい出来じゃないか。
緩衝剤代わりの泥が中々良いクッション代わりになっている。
蟻を見ると、何が珍しいのかしげしげと辺りを見渡している。
なにさ。人ん家に文句でもあるん?
『こ、ここは全て貴方様がお作りに?』
ああ、そうだよ。
『な、なんと…………』
そういうと蟻は再び周りをせわしなく見渡す。
そして、しばらく俯いた後震えだした。
何?どうしたん?
そしたらいきなりがばっと顔をあげた。
『す、すごいです!これほどの精巧なダンジョンをお持ちとは!』
興奮冷めやらぬ表情?を浮かべる蟻。
こいつ蟻のくせにずいぶん感情表現豊かだな。
というか、ダンジョン?
マイホームなんだけど。
『それにそちらに飾られている石像。あれはゴーレムですね。武器まで持っているということはガーゴイルクラスの力を持っているのですか?』
蟻は前足を器用に突き出して、隅に飾ってある石像を指さす。
ふふ、蟻のくせにずいぶんと見る目があるじゃないか。
少しは褒めてやってもいい。
そう、この石像は俺の作品の中でもトップ3に入るほどの出来栄えと言っていい。
昔龍(俺)が敵役で登場する映画の主役であった騎士をイメージして作ったものだ。
鎧の装飾や剣の柄、瞳などにふんだんに宝石をあしらい、製作にかなりの日数を費やしたまさに至高の一品。
………じゃなくて!
お前さっきから何訳の分かんないこと言ってるんだ?
じろりと蟻を一睨み。
途端に蟻は体を竦める。
『す、すいません。私、他の方のダンジョンに入ったのは初めてでして、その興奮してしまいました。』
ぺこりと素直に頭を下げる蟻。
うーん、素直すぎてやりずれぇな。
いや、まあいいや。
んで?人の家を見てダンジョンとはどういうことだ?
ダンジョンって迷宮ってやつだろ?確か。
『魔物の作った住処は全てダンジョンに分類されますよ?』
そうなのか?
『はい。私も元々はお母さんの住むダンジョンに住んでいたんですが、成長期を終え独り立ちするようにお母さんに言われて。それでいいダンジョン(巣)を作れる場所を探しているうちに、その………飛龍に襲われてしまいまして』
あー、あの化け物か。
つーかお前よく生きてたな。
おれでも死に掛けたのに。
『あ、はい。襲われたというより巻き込まれた、と言った方が正しいでしょうか。実は数か月前にこのあたりに巣を構えようとしたら、突然大きな爆発がありまして』
ほう、爆発か。
てことは飛龍がブレスでもぶっ放したのか?
物騒だねまったく。
こっちは平穏静かに暮らしたいのに。
『そうですね。私も油断していました。飛龍は地上の魔物等にほとんど無関心なのですが、なぜかその日はまるで怒り狂ったかのように地上にブレスを乱射いたしまして』
…………ほ、ほう。
ブレスを乱射、ねぇ………。
数か月前か。時期的に俺が飛龍に襲われて引き籠ろうとしてた辺りかな。
偶然だね。うん。
『はい、その爆発で作ったばかりの巣が吹き飛ばされてしまいまして』
………それはまた災難だったな。
『せっかく作ったのですが、仕方がありません。命には代えられないですから』
お、おう。
『それで何とか命からがら、逃げ出すことはできたのですが、その後運悪くアクレト・クロウに遭遇してしまい……』
アクレト・クロウ?
『大きな黒い鳥です。運よく逃げることが出来ましたが、この近辺では飛龍と双璧をなす強大な魔物で、繁殖期で気が立っていたのでしょうか?かなりの殺気を放っていました。』
そりゃ、怖いな。
『はい。多分ほかの魔物に卵が食べられたことが関係していたんだと思います。アクレト・クロウはわざと卵を割って自分の雛に餌として食べさせると母から聞きました。おそらく、今思えば、あの怒り様は割った卵をほかの魔物に掻っ攫われたんだとしか思えません』
………………へ、へぇ~。
そりゃ、災難だったね…………。
『ええ、何か別の魔物と交戦中でしたが、その余波を受けてしまい、私はボロボロになってしまいまして』
お、おう。あれ?
もしかして、こいつが怪我して死に掛けたのって、だいたい俺の所為?
違うよね?
たまたま、タイミングが重なっただけだよね?
うん、そうだよね。そうに違いない。
なのになぜか背中から嫌な汗が出ている。
『その後もボロボロになりながらも私は生き延びることが出来ました。しかし、傷をいやすことが出来ない私は少しずつ移動し、この洞窟へとたどり着きました。本当に良かったです。あれほどの命の危機に瀕していながら、再びこうして生を謳歌できるなんて。それもこれも全て貴方様のおかげです、龍様。感謝の言葉もありません』
やめてぇぇぇ!
それ以上おれの良心を苛めないで!
そんなキラキラした目を俺に向けないで!
善意百パーセントな気持ちを俺に向けないで!
思わず俺は目をそらす。
い、いや別に気にしなくても………良インダヨ?
『なんと……なんと慈悲深い御方か………』
蟻は再び決心したかのように頭を下げた。
『お願いします!地龍様!どうか!どうかこの私を貴方様の配下としてこのダンジョンに存在する許可を!貴方様に救われたこの命!どうか貴方様のために使わせていただきたいのです!』
………お、おう。
もうなんも言えねぇ
こうして俺のダンジョン(マイホーム)に配下(自宅警備兵)が出来た。
ちなみに主人公の起こした事件から出会いまで数か月のずれがありますが、その間蟻さんはボロボロの状態で必死に生き延びました。ちなみに主人公が助けるのが後数分遅ければマジで死んでた位に重傷でした




