11.龍殺し緊急対策室
『や、やばい……。どうしようどうしようどうしよう』
目の前の映像を見ながら、俺は情けない位に動揺していた。
だって、目の前の映像に映っているのは、かつて俺のダンジョンを破壊した最悪と言っていい敵だ。
ヴァレッドと、何だったけ……確か、ベルディーだっけ?
アンと戦った神器“グングニル”持ちのSランク冒険者。
あと巨乳。
あ、何で知ってるかっていうのは、ウナに頼んで、あの後ギルドで情報収集してもらったからだ。
ウナとドスのランクが上がって、手に入る情報も多くなってきたからな。
なんで、Sランク二人が、セットでダンジョンに潜ってるんだよ?
要らねーよそんなセット。
当たりが出たら、もう一つ。やかましいわ。
はぁ、このタイミングで、こんな奴がやってくるんだ。
順調にダンジョンも発展してたと思ったのに。
つーか、やっぱり生きてたのか、コイツ。
あの時、トドメを刺そうとした俺の前に、いきなり現れた鬼族の老人が回収していったけど。
見た感じ、あの時の怪我は、全快してるっぽいし。
多分、龍魂消費で回復したんだろう。
あぁ、最悪だ。
俺は急いで思念通話を発信した。
もちろんダンジョン内にいる眷属全員に。
『ど、どうなされたのですか、アース様?』
お、返信が早いって……見れば、通路にアンの姿が見えた。
帰って来てたのか。
後ろには森の四長もいる。
おお、なんてタイミングの良いところに!
『アン!大変だ!実は―――』
アンに事情を説明する。
『なっ!?本当ですか、アース様!?龍殺し……それに、あの女まで来ていると!?』
アンは、ベルディーと直接戦ったから、その強さを身に染みて理解しているのだろう。
うん、人間怖い。
『本当だ!今、眷属達に呼びかけてる。皆、もうすぐ深層にやってくる筈だ』
『分かりました。微力ながらお力添え致します。急いで対策を練りましょう!』
『頼んだぞ』
『はい!』
こういう時のアンは、本当に頼りになるなぁ。
助かるわぁ。
不甲斐無い俺の代わりに頑張ってほしい。
………俺、闘いたくないし。
俺とアンは深層の大広間『深淵の間』へと向かった。
緊急会議である。
――――数分後、転移門を潜り、エリベルやウナ達を始め、主だった眷属全員が『深淵の間』に集結した。
ユグル大森林の四長や、砂漠や火口等、各エリアの部族長達もいる。
ウナやドス達は順調に配下の魔物を増やしている。
大所帯になったものだ。
お茶請けの魔石や果物足りるかしら?
見れば、蜘蛛の長チュランが一心不乱に魔石と果物を食べていた。
「うま、うまー」とか言ってる。
コイツもブレないな……。
『――――それでは、まずどうやって、こいつらを殺すかですね。以前の我々とは違います。ダンジョンの機能も、我々の地力も上がっています。我らの力を思い知らせて差し上げましょう!』
アンが口を開いた。
続いてウナが、発言する。
「そうですね。では、まず“疑似迷宮核”―――ギジーちゃんにゴーレムを大量に作って貰い、奴らを徹底的に弱体化させるべきでは?とりあえず、中層に移動したところで、転移門を塞いで、ダンジョンの一角に閉じ込めましょう。一週間も攻め続ければ、そこそこ弱らせる事が出来ると思います」
「待つんじゃ。それでは、時間が掛かりすぎるじゃろうて。弱らせるならば、毒がよかろう。幸い、深層の森のおかげで、毒草や毒虫等の材料は大量にある。これを使って、奴らを弱体化させるべきじゃ」
『徹底的に弱体化させ、その後に強力なゴーレムであるリザード型などを投入しましょう。移動できるトラップの類もすべて投入して――――』
「ぷぷぅぷー!」
「『それなら私も分裂して大量の分身体で部屋ごと埋め尽くしてやる』って言ってるよー。ぷるるの粘液なら簡単に骨ごと溶かすことが出来るって!」
トレスが、ぷるるの言ってることを翻訳する。
エグイ事考えるなぁ……。
「おぉ、それは頼もしいですね。是非ともお願いしたいです」
『どのポイントに誘導するかも重要ですね……。人間は熱に弱いと聞きます。火山環境のエリアに強制転移させるのはどうでしょうか?』
「しかし、それでは、ぷるるの粘液もすぐに蒸発してしまうじゃろう?最初は、こっちのエリアの方が―――」
『それでは、エリベル殿の考案した“移動式複合地雷”を、このエリアに配置しては?デッサン型で誘導して――――』
「…………このエリア、内部の空気を抜いて真空にする。絶対、殺す」
「ぷーぷぷー」
「えーっと、第四中層エリアの一部を外と繋げて、水攻めにしてみたらって、言ってるよー」
「確か、男女ペアで通過すると、爆破するトラップも有りましたね―――」
『このエリアには、幻覚を見せる効果がありました。これを使って―――』
皆思い思いにヴァレッド達を殺す算段を話し合ってくれる。
うん、すごく頼もしいんだけど、なんか怖い。
殺す殺す連発してるし。
いや、別に殺すには良いんだけどさ、その殺気だった表情は止めてくれると有り難い。
怖いのさ。
俺もトラップとかいろいろダンジョンは改造したけど、それが惜しみなく発揮されてる感が凄い。
改めて聞くと、えげつない仕掛け満載だなぁ、俺のダンジョン………。
森の四長や各エリアの部族長なんて、ポカーンとした表情だ。
蜘蛛だけは、のんびり魔石食ってるけど。
「あー、ちょっといいかしら?」
そこで、今まで沈黙していたエリベルが手を挙げる。
「とりあえず、現状を確認しないかしら?」
『て、言うと?』
「こいつらが、ここに来た目的よ。流石に、アンタやアンちゃんを狙ってここに来たっていうのは、ちょっとあり得ないと思うのよね。何か、別の目的があるような気がするわ」
………確かに。
このダンジョンは以前のダンジョンとは違い、入口も、内装もエルド荒野のモノとは全然違う造りになっている。
まあ、エルド荒野からでも、入ることは出来るんだけど、わざわざあそこから入るモノ好きもいないし。
それに、アンの情報が、あの戦いの後、外部に漏れたって情報も入って来ていない。
念のため、ウナやドスに冒険者ギルドで討伐依頼や、インペリアル・アント、地龍などに関する情報を集めてもらったが、それらしい情報は無かった。
あの戦い以降、エルド荒野のダンジョン跡地も、結構静かだし。
「―――映像を見ましょう。こいつらが、ダンジョンから入って来てからの映像を全部」
そう言ってエリベルは指を鳴らす。
すると、テーブルの中心に極彩色の球体が出現した。
簡易的な転移門が設置してあるのか。
便利だな。
極彩色の球体から映像が投写される。
そこには入口からフードを目深に被った三人の冒険者が映し出されていた。
ヴァレッド達だ。
音声も最大にして、彼らの会話も聞く。
「“龍殺し”ヴァレッド・ノアード、それにこっちは“穿界”のベルディー・レイブンね。おっぱいデカいわねー。それで、もう一人が――――」
その映像を見ている内に、一人だけ、エリベルだけが何やら神妙な表情になった。
いや、骸骨だから表情無いんだけど、最近は眼窩の炎の揺らめき方とかで、どんな感じか分かるようになってきた。
ぷるるも、体内の気泡で感情がある程度分かるし。
「………嘘?コイツまで、来てるわけ?」
驚愕に彩られたような声。
その瞳は、ヴァレッドやベルディーと一緒にいる人物を見ていた。
こいつって確か、あの戦いの時、ヴァレッドを助けた鬼族の老人……だよな?
フードを被ってるから、確実とは言えないけど、声や喋り方が、あの時の老人に似ている。
『知ってるのか、エリベル?』
エリベルは頷く。
「―――――“銀鬼”リンウ。とんでもない奴が、一緒にいたものね……」
『エリベルさん、情報は共有すべきです。彼に関して、知っていることを教えて頂けますか?』
アンがエリベルの方を見ながら言う。
「勿論よ」
エリベルも頷く。
「“銀鬼”リンウ・ソウセイ。生きる伝説って言われる鬼族の男よ。かつて、たった一人で一国を落とした事もあるわ」
『国を―――ですか?』
アンが信じられないような声を上げる。
俺だって信じられない。
「事実よ。実際、私はこの目で見てるもの」
『え?実際って……、それいつの話だ?』
「二百年前ね。流石に当時は、もう少し見た目が若かったけど。鬼族は、絶対数が少ない代わりに、一人一人の寿命が長いの。それも、力に比例してその寿命も長くなる種族なの。力のある鬼族は、千年を生きる猛者だっているわ」
『成程な……』
鬼族か……、とんでもない存在だな。
俺もエリベルの知識だけは持ってるけど、実物を見れば、成程と思わされる。
本当になんで、そんな強いヤツがこのダンジョンに来たんだよ…。
俺は、映像を見る。鬼族の老人、“銀鬼”リンウを。
映像越しでもわかる圧倒的な魔りょ――――――……あれ?
『どうしたのですか、アース様?何か気になる映像でも―――え?』
俺につられて、アンも映像にくぎ付けになる。
他のものも、次々に映し出された映像を見る。
鬼族の老人リンウは、ヴァレッド達と別れ、第一層に残っている。
なのだが………。
『なあ、エリベル?その……“銀鬼”リンウって、アレで間違いないよな?』
「…………間違いないわね」
俺は映し出された映像を指差す。
そこには、真っ裸の角を生やした老人が、モヒカンの男に絡んでる映像が映し出されていた。
ダンジョン表層第一階層中央広間にて――――
『―――じゃから、もう一回じゃと言っておるじゃろうが!次じゃ!次こそは、勝ってみせる!』
『じーさん、もうやめといた方が良いぜぇ……。賭けられるものなんて、もう無いじゃねーか。ほら、金と衣服は返してやるから、もう帰んな。ヒヒヒ』
『そうだぜぇ……。なんなら、帰りの馬代くらいなら、出してやるぜぇ、ククク!』
『朝は冷えるからよぉ……。ほら、スープでも飲みなぁ』
老人は素直に、頂いたスープを飲みほす。
飲むのかよ!?
『ぷはぁ!勝ち逃げなんぞ、許さんぞい!ほら、もう一回じゃ!次に儂が負けたら、ベルディーの胸でも何でも、いくらでも揉ませてやるわい!さあ、勝負じゃ!』
『えぇー……、じーさんよぉ……?俺ぁ、家にガキが待ってんだがよぉ。いい加減、止めにしねぇか?それに、弟子とはいえ、女を賭けの対象にするのは頂けねぇなぁ……』
『そうだぜぇ!それに、俺らにはきちんと、自分の女が居るんだ!余所の女に手ぇ出す真似なんざ出来るわけねぇーだろうが!ヒャハハハっ!』
『なっ!?グラサン、テメェいつの間に、女つくってやがったっ!?』
『まだじゃ!まだ、終わらんぞ!ほれ、貴様ら、さっさと準備せんかい!』
困惑する男どもをよそに、鬼族の老人は―――リンウはカードを配ってゆく。
『…………エリベル、俺にはどう見ても、賭けで身ぐるみ剥がされた老人が、最低の駄々をこねてる様にしか見えないんだが……?』
「……奇遇ね、私もそう思ってたわ」
身内(胸)を売ってたし。
ていうか、この相手してる男達って『黒ハイエナの牙』じゃねーか!
アイツら、何ダンジョン内に、勝手に賭場作ってんだよ!
いや、まあ、お金返してあげてたし、比較的健全な賭場なんだろうけど!
『ですが、この老人、隙がありません。確かに、相当な手練れであることは間違いないかと』
アンが冷静に突っ込む。
うん、隙が無いっていうか、服が無いしね。
これ、リンウの方は普通に帰って貰えるんじゃないかなぁ……。
なんとなく、そう思ってしまった。
「ま、まあ、とりあえず“銀鬼”の方は、しばらく放っておいても大丈夫でしょうね。それじゃあ、ダンジョンの防衛しましょうか」
気負いのない口調で、エリベルは言う。
うん……、何と言うか、確かにやる気を削がれる映像だった。
あ、また負けてるし。賭け事、弱いなコイツ……。
とりあえず、打ち合わせに戻る。
結局、あいつらの会話からじゃ、目的は分からないままだが、まず防衛だ。
殺すにしろ、追い払うにしろ。
その為の詳細を詰めてゆく。
そして、だいたいの方向性が決まった。
そこで、俺はふと思った。
『――――でも、指揮は誰がとるんだ?エリベルか?』
俺はエリベルの方を見る。
「いえ、私よりも、もっと適任が居るわ」
え、誰だ?
エリベルは、すっとそいつを指差す。
「―――アンちゃん、私が作戦立てるから、ゴーレム達の指揮をお願いね」
『わ、私ですか?』
意外そうにアンは言う。
「ええ、多分、現場指揮に関しては、私よりもアンちゃんの方が上だと思うし。それに――」
魔力の波動を感じた。
多分エリベルが思念通話で、何らかの信号をアンに送ったのだろう。
でも、この思念通話は俺には聞こえない。
プライベートチャンネルみたいなもんだ。
信号を送っている間、アンは随分あたふたしていた。
何を話してるんだ?
「―――――どう?」
そして、しばらくして、エリベルが普通にアンに問いかける。
『わ、分かりました!やりましょう!やって見せます!アース様、見ていて下さい!』
『お、おう。頑張れよ……』
アンがすっげー張り切ってる。
何を言ったんだ?
ともかく、新しいダンジョンの初めての防衛戦が始まった。
覚悟しろよ、龍殺し。
ようやく、師匠の名前が出せた。
次回は、ようやく、まともな防衛戦になる………筈?
そして、ちょくちょく登場する『黒ハイエナの牙』……。




