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地龍のダンジョン奮闘記!  作者: よっしゃあっ!
第一章 地龍になりまして

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10.窓とか閉めてるのにあいつらどうやって入ってくるんだろうね?

 蟻だ。

 目の前には体長一メートルほどの大きな蟻がいた。

 入口に向かう道をふさぐように、真ん中に横たわってる。

 

 ただ、傷ついている。

 触覚は折れ曲がってるし、足の一部もちぎれている。

 何者かに襲われたのだろうか?

 

 さて、どうしようか?

 向こうもこちらに気づいたらしく、先ほどから金切音を鳴らして威嚇している。

 うーん、全然怖くない。

 これは俺が龍だろうからだろうか?

 先ほどから全く恐怖心が湧かない。

 

 あの飛龍や化け物カラスに対しては警戒心や恐怖を抱いたというのに、目の前の蟻にはこれっぽっちも警戒心というものが湧かなかった。

 多分この体になってから、強いもの、弱い者に対する本能が増しているのだろう。

 自分より強いものに鳴らす警鐘、警戒本能。

 それが増している。

 

 そしてこの蟻は俺より弱い。

 間違いなく弱い。

 それに加えて、こいつは死にかけだ。

 

 放っておいても、多分死ぬ。

 戦おうが多分勝てるだろう。

 嫌だけど。

 

 どうしようか?


 1見捨てる。

 2助ける。

 

 といっても助ける方法がわからない。

 俺は医者じゃないし、昆虫の専門家でもない。

 そもそも傷ついた虫を治すなんてことするわけない。

 誰だって放っておくだろう。


 そうだな。

 見捨てるしかないか。可哀そうだけど。 

 仕方がないことだしな。


 と言う訳で見捨てよう。



 でも、止めを刺すのも気が引けるしなー。

 出来れば俺のマイホームから出て行ってほしいんだが。

 自発的に。

 

 はたして言葉が通じるか?

 ……………通じないだろうな、確実に。


 「ギャアアアアアアアアウウウウウ?」

 訳:ここは私の家ですので出て行ってもらえませんか?と言っている


 久々に声出したな。

 裏返ってしまった。

 

 さて、相手の反応は?


 「キッシャアアアアアアアア!!!」

 

 うぉおおう……めっちゃ威嚇してるし。

 ですよね。

 言葉なんて通じませんよね。


 さて、会話による方法が不可能となった今とるべき手段はただ一つ。


 俺は口にエネルギーを集めた。

 向こうも俺がしようとしていることに気が付いたのだろう。

 警戒心を露わにしている。

 びりびりと壁が振動する。


 そう。ブレスです。

 竜の必殺技。

 ていうか、これしか知らん。


 まあ、多分これ食らわせればあいつは死ぬだろ。

 と言う訳で、発射――――――ってちょっと待てよ?

 この状況で撃ったら俺のマイホームまでぶっ壊れてしまうんじゃ……。

 

 待った!ストップ!ストップ!

 

 俺は寸前のところでブレスを収める。

 危ない危ない。もう少しで同じ過ちを犯すところだった。


 目の前の蟻を見ると呆然とした様子だ。

 驚いているのか?


 その時だ。さっきブレスを撃とうとした時の振動で、蟻のいるあたりの天井が緩んでいたのだろう。

 天井の岩がぐらつき、蟻の目の前に小さな岩が落ちたのだ。

 きらりと光る赤い光。

 

 あれは、ルビーの原石か。

 ここら辺の宝石はあらかた食い尽くしたかと思ったけど、まだあったか。

 それが蟻の目の前に落ちた。

 

 そして、蟻はそれを、喰った。


 え?

 蟻って石食えるの?

 知らんがな。

 だが、俺の驚きなどいざ知らず、蟻はぼりぼりと宝石を食っている。

 そして次の瞬間、驚くべきことが起こった。


 折れた触角が、曲り捻じれた脚が、傷ついた体が治っていくではないか。

 

 シュウシュウと奴の傷口から煙が上がっている。

 俺は思わず見入ってしまった。

 

 喰い終わった蟻の体は先ほどと比べて格段に良くなっていた。

 もちろん、まだ傷は多いが、それでも先ほどと比べてだいぶ良くなったように見える。

 

 なるほど、あの蟻は宝石を食えば傷が治るのか。

 俺は踵を返し、ホームの奥へと戻ってゆく。

 

 自分を殺そうとした奴が何もせずに、奥に引っ込んだのが不可解だったのだろう。

 蟻は小首をかしげていた。

 

 数分後。

 おれはあるものを大量に持って戻ってきた。

 

 そして持ってきたそれらを蟻にぞんざいに放り投げる。

 バラバラと散らばる色とりどりの宝石。

 

 そう、俺は深層に戻って宝石を取りに行ってたのだ。

 

 目の前の蟻は、何が何だかわからないといった様子だ。 

 そりゃそうだろう。

 自分を殺そうとした相手がいきなり、宝石を渡そうとしたんだから。

 

 蟻は俺と宝石を交互に見詰める。

 これ食べていいの?と言っているようだった。

 俺が顎で食えと伝えると、蟻は少し戸惑いつつ宝石を口にした。

 

 思った通り、蟻の体はどんどん治ってゆく。

 持ってきた宝石の半分を食べる頃には、完全に治っていた。

 いや、多分これ治る前よりよくなっているんじゃないだろうか?

 テカテカと甲殻は光って、見るからに元気いっぱいですといったご様子だ。

 

 宝石を持ってきた理由は単純明快。

 怪我が治ればこいつはここから出ていくだろうと思ったからだ。


 こいつはおそらく何者かに襲撃されて、命からがらここに逃げ込んできたのだろう。

 知ったことじゃないが、俺としてはさっさとここから出て行ってほしい。

 ここは我が愛しのマイホーム。

 蟻なんかが入っていい領域じゃないんだよ。

 前世でも俺の家は古く、しょっちゅう蟻の被害に悩まされていた。

 マジであいつらどこから湧いてくるんだといわんばかりに台所にちょくちょく姿を現してはうっとおしいことこの上なかった。


 え?

 それなのになんでこの蟻を殺さないのかって?

 

 まあそうだね。

 実際最初はブレスで殺そうと思たよ。

 でも、よく考えてみればそれしちゃったら、俺の家壊れるじゃん。

 蟻一匹殺すのに家ごと爆破するってどんなバカだよ。

 いや、俺ですけどね。

 

 冷静になってみたら、そもそも俺ブレスの手加減って多分できない。

 撃てばどんなに力を抑えても、確実に大爆発がおこるくらいのヤツが発射される。

 そうなれば後は崩れて我が家はボンボヤージュ。はい、さよなら、だ。

 

 爪や牙で殺そうとも思ったが、それもNG。

 だって気持ち悪い。

 だって小さな蟻んことかならまだしも、こいつすげーデカいんだぞ?

 そんなのに触るなんて御免こうむる。

 口の中に入れるのなんて論外だ。ばっちい。

 

 と言う訳で、平和的かつ自発的にお引き取り願おうと思ったわけだ。

 

 さて、そうこう考えているうちに宝石は食い終わったようだな。

 それではさっさと出て行ってくれ。

 ここは俺の家だ。

 虫さんはお断りだよ。


 しかし、蟻はこちらをじーっと眺めている。

 一向に動こうとしない。

 あん、なんでや?

 

 怪我も治ったし、はよ出ていきんしゃいよ? 

 ブレス撃っちゃうよ?

 いいの?撃たんけど。

 

 にらみ合いはしばらく続き、やがて蟻は一歩こちらに近づいた。

 

 あん?

 なに、やるんですか?

 か、かかってきなさいよ!?

 別に人様サイズの蟻なんて別に怖くなんてないんだからね。

 生理的な嫌悪感があるだけなんだからね!

 と、思った次の瞬間


 『ぢうh会う意l食いsflIUJFががRもんSうscぎういううが』


 痛っ!

 何だ、今の?

 

 頭の中に大音量の音を直接ぶつけられたかのような衝撃が走った。

 

 こめかみを押さえて、目の前の蟻を見る。

 もしかして今のこいつがやったのか?

  

 『…………………こ………れで……………』


 ん?

 また、頭の中に音が響く。

 しかも、先ほどよりもノイズが少ない。

 

 『これで………通じましたか?』


 今度はよりはっきりと、よりくっきりと聞こえる。

 

 『地龍様、私を助けていただき有難う御座いました』

 

 そういって目の前の蟻は静かに頭を下げた。

 

 

 ……………………………はい?



ブックマーク件数が100件を超えました。

ありえねーだろ!と思うと同時にすごく嬉しかったです。

みなさんありがとうございます

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