第八話 荒野の用心棒
2ヶ月近く空きました。
読んで下さっている方々には申し訳ありません。
「てめぇ!」
何故か怒り心頭の国見が、只野の腕を振り払い、前に出ようとした。
「待てっ!」
その国見のお腹に只野が腕を回し、またも制する。
「何でだよ!」
国見は只野の方を振り向き、怒鳴る。
『まだだ、まだ可那は何も言ってない。何も答えていない』
只野は可那が助けを求めるまで待つつもりだった。
「何を待つんだ、馬鹿!」
国見は只野を引きずりながらも一歩一歩、晃と可那の方へ歩こうとした。
「もしかして只野さん、まだ佐藤の胸揉んでなかった?俺が最初?」
ニヤニヤ笑いながらそう言うと更に晃は可那の胸を右手の指で揉み始めた。
「やば、癖になるよ」
「んっ」
下を向いて声を出さず可那は耐えていた。
「絶対殺す!只野離せ!お前と可那ちゃんがどういうつもりでいるかは知らないが、俺はコイツに頭に来てる!殺す!絶対殺す!離せ!」
国見はそう言うと只野を引きずりながら歩く。
「待て、まだ可那が、カナブンが、何も言ってない」
引きずられながら只野が言った。
「怖くて声が出ないんだろう。そんなの待つ事無い。助けて貰いたいに決まってる!」
国見は少しづつ、晃との距離を詰めて行った。
「全く困ったよ」
その国見と晃の間に、金属バットを持った相馬剛が横から入って来て言った。
「いいぞ相馬、大学生なんてぶん殴っちまえ!」
そう言うと晃は胸を揉んでいた手を離し、下を向いて苦悶の表情で堪えている可那の顔を掴み、上を向かせ、再び強引にキスをした。
「んんっ」
そしてまた、右手を胸に戻して揉み出す。
「全く、これじゃ犯罪者だ」
相馬が言った。
腕が頭を押さえていないので、可那は顔を横にずらして、キスから逃げようとしながら口を開けた。
「んん、あ、た、助けて」
小さな、しかし、只野に届く位の声で、可那は言った。
その瞬間。
ゴン!
鈍い音が夜の公園に響き渡る。
「いってええええ~~~」
晃が可那を掴む手を離し、自分の膝を抱えて倒れ、悶絶していた。
「痛い痛い痛い」
相馬が振り返り、晃の膝を金属バットで、叩いたのだ。
可那の声で、只野から解き放たれた国見は直ぐに晃の上に馬乗りになり、数発殴った。
「カナブン」
只野はそう言いながら可那の元に走り駆け寄った。
相馬はそれらを立って眺めていた。
「お前このままじゃ犯罪者になっちまうだろ。俺友達だから、そんなの嫌じゃん。」
そう言いながら、相馬は晃に馬乗りになった国見の方に金属バットを向けた。
「なんだ、やるのか?」
国見が言う。
「もういいだろ、十分殴ったろ。もう許してやってくれよ。こいつ、あんた達の大学の学生に彼女最近取られたんだ。こいつも可哀想なんだよ」
「俺らの大学?俺の知ってる奴じゃないよな。そうか・・・」
国見は晃の顔をじっと眺めてから、降りた。
「本当なの?信じていいの?」
「ああ、格好付けただけ、俺、カナブン好きだから。信じて。大体嫌いなら毎日一緒にいないよ。もっと一杯カナブンと、本や映画や、音楽の話をしたい。俺を分かって貰いたいし、可那を分かりたい」
可那の言葉に只野は言った。
そして可那はそっと唇を前に出した。
導かれるように只野は可那の唇に唇を重ね、キスをした。そしてギュッと抱きしめた。
可那は只野の中に舌を入れて来た。
晃は相馬の金属バットに捕まり、立ち上がった。
「なんだ、あいつ普通に喋れるじゃん」
可那と只野の方を見ながら晃は言った。
「可那ちゃんは只野とだけは普通に話せるんだ。俺達と話すときはやっぱり小さい声に戻っちまう」
まだ側に立っていた国見が言った。
「もう、あの子の事はいいだろ。帰ろうぜ。長居するとまた殴られるぞ」
可那の方を眺めている晃に、相馬が言った。
「賢明だな」
国見が言った。
「チッ、佐藤は最初俺の事好きだったんだぞ。沙織も俺と付き合ってたんだ。何で俺ばっかり・・・」
「ぼやくな。いい時もまたあるさ」
相馬はそう言いながら、晃の背中を金属バットの先でツンツン押して、前を歩かせた。
「それはお前が悪役だからだ」
誰にも聞こえない声で、国見が言った。
晃と相馬はトボトボと歩いて公園を去って行った。
国見は自分の車に戻った。
ライトは点けたままで、ライトの奥に照らし出された、抱きしめ合いキスする二人を眺めていた。
満足した顔で。
つづく
それでも読んで下さる方々、本当に有難うございます。