第4話 悪魔が来たりて笛を吹く
前回の6話に名前だけ出て来た晃の話です。
東北中堅都市、某商業高校。
6月も中頃の夕方。
陸上部の練習を眺めながらトラックの脇を歩いて帰る男子高校生2人。
「いいなぁ、また走りたいなー」
飯野晃、3年生。元陸上部。春の大会、県大会出場ならず、そのまま部活を引退。今は結構暇している男だ。
「お前ホントに走るの好きだよな。結果が付いて来ないけど」
相馬剛。同じく3年、元陸上部。晃の悪友だ。
「あーあ、面白い事無いかなー。部活続けてれば良かった」
晃は部活を辞めてから暇を持て余していた。
「駄目だよ。部室行ってみ。無視されるから。この時期行く3年は嫌われるぞー下級生に。やーっと3年いなくなったって喜んでんだから」
剛が言う。
「そうなの?」
「お前も俺も2年の時そうだったじゃん。忘れたの?」
笑いながら剛が言う。
「忘れた」
晃はそっけない声で答えた。
陸上部のトラックの脇の登下校の道には両脇に銀杏の木が立ち並ぶ。
銀杏の木を抜けると校門にたどり着く。
校門の所には昨日まで良く、晃の恋人沙織が立っていた。
しかし今日はいない。
「沙織最近いないんじゃね?」
剛が尋ねる。
「昨日別れた。ってか振られた。ってか連れてかれた」
「はー、なにそれ?意味分んねー」
晃の答えに剛は困惑した。
「どーゆー事?最後の連れて行かれたって何よ?」
剛が更に尋ねる。
晃が顔色一つ変えずに無表情で答える。
「部活辞めてから沙織の態度がおかしかったんだ。別れたがってるみたいで。そんで昨日も夜ファミレスで沙織から別れ話みたいなのされてて、俺は別れたくなかったから粘ってたんだけど」
「うん」
「沙織の奴、時計チラチラ見てたんだけど、9時頃かな。大学生が入って来て。そんで沙織連れて行っちまった」
「えー!」
思わず剛は声を上げた。
「まじかー。何、大学生に取られたの?沙織乗り換えたのかー」
「多分、そういうこと」
晃は顔色一つ変えずに言った。
「まったく部活もなくなって、これから暇になるって時にさ」
「大学生、最近ウチの女子良く持ってくよなー」
「まじ、ムカつく」
剛の言葉に、晃は表情を固くして言った。
学校からの緩い坂道を下りると住宅地に出る。
下校中の生徒がまばらに晃と剛の前に見え始めた。
先程から硬い表情で黙っていた晃が口を開く。
「あれ、佐藤じゃないか?」
「え、佐藤?誰?」
剛がキョロキョロしながら晃の視線の先を探す。
「あーやっぱり、佐藤だ」
「だから誰?」
今もって誰なのか見つからない剛が強い口調で尋ねる。
「あーお前は知らないよ。沙織と付き合うより前、2年の時、あの子は1年だった。突然コクられた」
何かを思い出した様に晃はニヤニヤして言った。
「大人しそーな感じの子だったから、俺陸上に夢中だったし。振った」
相変わらず剛は探していた。
「まじか。まーあの頃は部活燃えてたもんなー。ん、大人しそうな子って、あの子か?」
話しながらそれらしい子を見つけ剛は小さく指差す。
そうだと言うように晃がコクリと頷く。
「えー、普通に可愛いんじゃね」
後ろ姿からの判断で剛が言う。
「結構女子は高校から急に可愛くなる子とかいるからな。よし、彼女でいいや。付き合う」
「は、お前昔振った子なんだろ?それに今はもう彼氏いるかも知れないし」
「そんなことは関係ない。俺の事を好きだった女だぞ。俺から行けば一発だろ?決めた、絶対付き合って、色々やって楽しい3年生を送るんだ」
そう言う晃の目がキラキラしていた。
「色々って」
「色々だよ。沙織とは部活辞めてこれからってとこ取られちゃったからな。あの子とはやりまくる」
「お前露骨だよ。部活辞めて欲求不満なんじゃねーの」
「何とでも言え。俺は決めたんだ」
そんな事を言っている間に前の方を歩くその女の子が道路の角を右に曲がる時、一瞬顔が見えた。
「あれ、俺あの子見たよ、この前」
剛が言う。
「そうなの?」
「ああ、ブックドムで。大学生数人と一緒にいた子だ。確か可那って呼ばれてた。駄目だよ。大学生と付き合ってんじゃね」
剛の話を聞いて晃の表情が変わった。
「駄目じゃない。面白い」
そう言うと剛の方を向き晃は更に続けた。
「いいか、徹底的に佐藤可那の周辺調べ上げるぞ。確実にモノにする」
つづく
読んで頂き有難うございます。
次回は第5話を掲載予定です。